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第一章 7話

 竜馬が成り行きで行ったお嬢様の護衛は、宿に行くからとセバスがエリアリアを呼びに来るまで続いた。今は宿のロビーで予約の確認をしているのだが……


「アイタタタタ……」

「大丈夫ですか……? お嬢様」

「ええ……走り回ったので、足が疲れただけですわ。あと、馬車でお尻が……リョウマさんは大丈夫ですの?」

「問題ないです」


 苦痛耐性スキルには所持している者が感じる苦痛を和らげる効果があるので、馬車の揺れによる尻の痛み程度ならば、苦痛耐性Lv8を持つ竜馬には何もないのと変わらないのだ


「初めはそんな物ですわ、お嬢様」

「アローネ」

「何度も乗っているうちにだんだんと慣れていきますわ。所でリョウマ様は平気そうですが、馬車には乗られた経験がお有りなのですか?」

「今回……初めてです」

「そうなのですか? 平気そうでしたので、てっきり乗った事があるのかと」

「乗った事は無い……横を走ったり、曳いた事はありますけど……」


 実は竜馬は学生時代、日課のランニング中に時折人力車と併走し、追い越すことがあったため、人力車を引くバイトをしていた事がある。その事を思い出して懐 かしみ、口をついて出た言葉なのだが、そんなことを知らないエリアリアとアローネは竜馬が馬代わりにされて酷使されていたのだと勘違いをしてしまった。


 そのせいで会話が止まりなんとなく重苦しい雰囲気になるのだが、無意識の発言だったため竜馬には自分の言葉が原因だという自覚がない。竜馬にとっては突然 アローネとエリアリアが悲痛な顔をしだした事に困惑するしかない。そして40年以上コミュ障だった竜馬にはこの状況を打開する話術など持ち合わせている筈もなく、無言の時間が過ぎていく。


 そんな状況を打開したのは護衛と明日の予定を話し合ってから戻ってきたラインハルトだった。


「今日も一日お疲れ様、エリアリア、今日は野宿じゃないからしっかり休んでおきなさい」

「はい、お父様」

「で……リョウマ君なんだが、私たちと同じ部屋は取れなくてね……申し訳ないが、宿泊客の従者用に用意されている部屋があるからそちらに泊まって貰いたい」

「十分です」

「大部屋だけど、セバスが手続きをしているからゼフ達と同じ部屋になれるはずだ。少しでも顔見知りの方が楽だろう」

「ありがたいです」


 こうして礼を言った後、竜馬は手続きを終えて戻ってきたセバスに、お嬢様は両親と共にそれぞれの部屋へ移った。



 ~公爵一家の部屋~


 ジャミール公爵家の4人は宿の部屋でゆったりと寛いでいた。そこにラインハルトがエリアリアに問いかける。


「エリア、さっきロビーでリョウマ君と何を話していたんだい? 雰囲気がおかしかったけど」


 その言葉にエリアリアはビクリと体を震えさせた

「じ、実は少し、リョウマさんの過去に触れてしまったようで……」

「そうなのか?」

「はい。私、馬車でお尻が痛かったのですが、リョウマさんは平気そうでしたの。だから馬車に乗り慣れているのかと思ったと言ったら……その……馬車に乗ったのは今日が初めてだと。昔は、乗る事は無かったけれど、並んで走るか馬車を曳く事はあったと言っていまして……」


「なるほどな……だが、彼はあまり気にしていないようだ。あのあとも普通だったしね。だからエリアもあまり気にし過ぎてはいけないよ」

「楽に楽に、よ。宿まではリョウマ君を引っ張り回してたじゃない。あのくらい気楽に接しなさい」

「あれは……い、今思えば恥ずかしいですわ……はしゃぎ過ぎました」

「そうねぇ、ちょっとだけ、はしたなかったわねぇ」

「あうぅ……」


「ほっほ、元気なのはいい事じゃて。まだまだエリアも子供、あれぐらいなら愛嬌じゃよ。じゃが、無用心なのはいかんな。あれでは破落戸に狙ってくれと言っているような物じゃったぞ?自分で気をつけるようにな」

「はい……」

「じゃあ、今日はお風呂に入ってもう寝なさい、明日も移動だ。それに野宿だぞ?」

「分かりましたわ、おやすみなさいませ、お母様、お父様、御祖父様」


 エリアリアはそう言って風呂に入るために部屋を出ていった。それを確認して残された三人は話を変える。


「ふぅ…………して、リョウマ君の事、どう思う?」

「エリアには気にするなと言ったが、正直私自身気になる事が多い」

「でも、悪い子じゃないわ」

「それには儂も異論は無い。じゃが、一体どんな生活をすればああなるのかのぅ? 盗賊をポイズンスライムの毒で仕留めたと言っておったが、それだけではあるまいよ。彼自身、相当強いと思うぞぃ。エリアに連れ回されながらも、さりげなくエリアを守っておったしのぅ」

「しかし、彼の街に来てからの反応はやはり、芳しくないな」

「そうね、エリア程とは言わないけれど、子供ならもう少しはしゃいでも良いと思うのに……」

「街の大きさにも人の多さにも驚かず、まるで路傍の石を見るような目をしておった。」


 ラインバッハの意見はある意味間違いではないのだが、竜馬と大きく解釈が異なっている。


 確かに竜馬は人ごみを路傍の石のように見ていたが、それは日本の東京という人口の多い場所に住み、日々を人混みの中で過ごしたせいだ。昔はこの街以上の人ごみを日常的に見ていたためこの街程度の人ごみでは驚くに値せず、また、いちいち驚いていられなかった。それゆえの路傍の石を見るような目なのだが、それを知らない3人にはただ目が死んでいるように見えたのだ。


「前途ある若者がああいった目をしておるのを見ると、やるせないのぅ……」









 ~使用人部屋~


 竜馬はセバスにつれられて今日泊まる部屋についた。


「失礼します」

「おじゃまします」


 挨拶して中に入ると、そこにはジル、ゼフ、カミル、ヒューズの4人が居た。


「おう、来やがったな!」

「よく来たね」

「一晩だが、よろしくな」

「そっちの端のベッドが空いてやすぜ」

「よろしくお願いします」

「そういやお前、普段何やってんだ?」

「?」

「俺らは街に住んでっから夜は飯食いに行ったり酒飲みに行くがよ、おめぇは森の中だろ?」

「ああ……基本的にスライムの研究か……魔法の訓練をしてます。あとは、体を鍛えます」

「……それだけか?」

「はい」

「つまらなくないか?」

「魔法とスライムの研究……楽しいです」

「研究が楽しいとは、リョウマには学者の気質があるようだな」

「俺にゃ絶対無理だぜ」

「そういえばリョウマ様は時折高度な知識や丁寧な言葉を使われますし、何処かで勉学に励んだことがおありで?」


「祖母に習いました。勉強と礼儀……あれば困らないと」

「リョウマ様のおばあ様は素晴らしい方だったのですな」

「武器で戦う事以外、何でも出来る人でした」

「ほー、じゃあ爺さんはどんな人だったんだ?」

「祖母とは逆で……武器で戦う事しか出来ない人。……でも武器の扱いはとても上手かった。作る武器も……1級品だった。僕は敵わない……戦闘も、鍛冶仕事も」

「え、君鍛冶もできるの?」


「手伝いしてたから……基礎は大丈夫です。でも、しっかり習った訳じゃありませんし……もう3年以上手をつけてない。今やってもナマクラしか打てません」

「確かにあの森の中じゃ、材料も道具も手に入りやせんでしょうねぇ」

「せっかく森から出たんだ、必要なものは買い込んでいけば良い。それより君は何かしたい事は無いのか? 夕食までなら出歩く事も可能だぞ?」


 そこで竜馬がこう言う。


「それなら教会、どこですか?」

「教会? 残念だけど、教会はこの時間だと閉まってるよ」

「この街は栄えていますが、その分治安も悪いため暗くなると早いうちに門を閉めてしまうのですよ。この街には創世教と神光教の2つの教会がありますが、どちらを信仰なさっているのですか?」

「創世教です」


「それでは、残念ながら今日は教会には入れないでしょう。神光教の教会ならば多めの寄付金を見せれば開けて貰えるのですが……」

「そうなんですか?」

「神光教は規模が大きいけど、その分内部が腐っててね、寄付金次第で何でもする生臭坊主が多いんだよ」


「信徒の中にも神は信じるが司祭、助祭は信用できないって奴が大勢いやすね。寄付金目当ての連中は全部神光教に行っちまいやすから、逆に創世教は敬虔な司祭が多いって話ですぜ?」

「崇める神が違うだけで教義そのものに大きな違いは無いため、規模の大きさか、教徒の人柄かで入信する教会を決める者も多いな」


「知りませんでした……ありがとうございます」

「これくらい構わないさ。しかし、行きたい所と聞かれて真っ先に教会とは随分敬虔な教徒なんだな?」

「そうですか?」

「多くの者は週に一度礼拝に行けば良い方だ。月に1度しか礼拝をしない者も居る。かく言う私も創世教の教徒だが、教会に行く事は月に1度あるかないか、ほぼ無宗教に近い。旅先や着いた街でまで礼拝には行かん」


「リョウマ君は森に住む前、教会によく行ってたの?」

「生まれてから一度も行った事……ありません……家にあった石像に向かって祈ってました。……森の家にも土魔法で作った石像を作って祈ってました」

「それならば石材を買い石像を作ってはいかがですか? この宿は高級宿ですし、時折毎晩神の彫刻を彫る敬虔な方もいらっしゃいますので、神像作りの為の石材ならば用意があるはずです」


 そうセバスに言われたので、竜馬は3本のレンガ大の石材を購入した。しかし竜馬が購入した石材は高級宿で取り扱われるだけあるかなりの高級石材で、3本で小金貨1枚と意外と高くついた。


 その後土魔法で石材を削り出した直後、出来上がった像の精巧さにカミルが大騒ぎし、セバスから彫刻作りで食っていけると太鼓判を押されることになる。


 ちなみに石像が精巧だったのは単に竜馬が1度実際に神と会ったからイメージが確りと出来ていた事、竜馬の持つ魔力操作スキルのおかげで土魔法の精密な制御が出来ていた事、そして竜馬が前世では趣味と実益を兼ねたフィギュア作りをしていたため、こういった物の造形に慣れていたからである。


 そんなこんながありながら3体の石像を作り上げ、竜馬が祈っていると夕食の時間になり、食事を終えた竜馬達は明日に備えて就寝した。



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