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第四章 4話 ギムルへの旅路(後編)

今回は2話同時更新しました。この話は2話目です。

 竜馬の戦いとは言えない一方的な蹂躙を目にする者達は盗賊やオーガ以外にも6名。幌馬車に乗って来たエリア達が居た。


「凄いね。ボクは武術とかよくわからないけど、リョウマくんが強いのはよく分かったよ」

「その一言で済ませて良いんすかね? アレ」

「それ以外に言える事も無いと思うで?」


 彼女達の目から見ると、今の竜馬の戦い方はまるで演武の様だった。


 右手に片手剣を持って竜馬に斬りかかろうとする盗賊の頭上を、オーガに殴り飛ばされた盗賊が追い越して竜馬に飛来する。竜馬はその盗賊を捕まえてぐるりと一回転し、盗賊で盗賊を殴り付けようとした。


 それを寸での所で右に跳ぶ事で避けた片手剣の盗賊の隙を突き、捕まえていた盗賊を捨てて左手で剣を持つ右手を払いながら懐に入り、右肘で顎を打ち昏倒させる。


 そこを狙って竜馬を刺しに来た盗賊の剣先を右手で逸らし、そのまま手首と腕を取って引き込み、首筋に手刀を入れて2人目を昏倒させた。


 更に2人目を倒すとほぼ同時に竜馬に背後から襲いかかる盗賊が大剣を振り下ろす。竜馬はたった今昏倒させた盗賊を突き飛ばし、自分は体を回転させながら大剣の一閃を躱すと同時に裏拳で盗賊の顎を狙う。


 盗賊は後ろに下がる事で辛うじて裏拳を躱した。そこで竜馬は間髪入れずに左足を一歩踏み出し、右足で縦蹴りを放つ。放たれた蹴りは盗賊の持っていた手を蹴り上げ、盗賊の手から剣が離れ、盗賊の顔を掠める。


 更に、それとほぼ同時に盗賊の腹を打ちつける物がある。竜馬は蹴りと同時に土魔法のアースニードルを無詠唱で、盗賊からは足の影に隠れて見えない位置から放っていた。


 鎧に阻まれ突き刺さりはしなかったものの、石の柱が叩きつけられた衝撃は通る。それに盗賊が気を取られた一瞬の隙に竜馬は足を引き戻し、拳を盗賊の額へと叩き込んで3人目の盗賊を昏倒させた。




 時間にして僅か数秒。その短時間の中で3人を行動不能にした竜馬の無駄のない動きは、ここが闘技場であれば綿密に打ち合わせされた八百長という誤解を受けたかもしれない。それほど一方的であざやかな戦いぶりだ。しかしここでエリア達は盗賊の様子に首を捻っていた。


「掃除屋だ! 逃げろぉ!!」

「捕まってたまるか! ちくしょう!!」

「もう人を襲ったりしねぇから逃がしてくれ!!」


 何故か竜馬の相手をする盗賊達が皆、半狂乱になっている。襲いかかる者は皆、竜馬が精神攻撃魔法を使っている訳でもないのに精神的に追い詰められているのだ。




 そんな彼らもあっさりと倒され、全て終わると残党の有無の確認および息のある盗賊と死体の回収作業が行われる。その間エリア達はその場で馬車を止め休憩をする事になったが、その際エリアはセバスにこう聞いた。


「セバス、あの人達はどうしてあれほどリョウマさんを恐れているの?」

「それにリョウマ君はちょっと悲しそうな顔をしてたっす」

「事の子細は長くなるので省かせて頂きますが……事の発端はリョウマ様が旅の途中、とある盗賊を退治した事でございます」


 その後セバスから説明された内容はこうだ。


 竜馬は昔、偶然遭遇した盗賊を10人程討伐した事がある。


 その盗賊達は闇ギルドに所属するそこそこ規模の大きい盗賊団の末端と末端の力量を把握し指示を出しに行っていた幹部であった。


 幹部を捕まえられた盗賊団が報復のために竜馬の家を襲うがあっけなく返り討ちにされ、盗賊は全員捕まり殆どが竜馬が作った薬の実験台になるなどして始末された。


 それ以外の盗賊はまた報復に来られても面倒だと考えた竜馬が、盗賊の潜伏場所と仲間の有無を確認するためにわざと隙を作って逃がされた。しかし、逃げた盗賊を追跡して見つけたのは潜伏場所ではなく闇ギルドの支部だった。


 これは個人で手を出すのは拙いと考えた竜馬は公爵家に連絡をとり後の事を公爵家に任せたが、連絡が来て闇ギルドの支部を潰すまでの数日の間に竜馬が行った事に尾ひれが付き、盗賊の間に竜馬に捕まると耐え難い苦痛を与えられ、時に治療もされながらジワジワとなぶり殺しにされるという噂が広まっていた。


「それであれほど盗賊が怯えていたのですね」

「はい。事実とは異なる噂が流れております」


 リョウマは今も盗賊を捕まえると薬の実験台にしているが、リョウマは毒薬を除いてまず人より先にゴブリンで強い副作用の有無を確認し、ある程度安全が確保された薬しか人間に対して使用しない。


 そのため捕まって実験台にされたとしても、死ぬ事は殆ど無い。衣食住も最低限は保証され、不要な暴力を振るう事も無く、実験後は健康な状態でギムルの衛兵に引き渡すため、命を狙ってきた盗賊相手には十分に人道的な対応をしているのだが、噂とは尾ひれが付く物だ。


「リョウマ様のおかげか一時期ギムル近辺の盗賊の出没報告が例年より減り、闘技場完成前の予想よりギムルに禁制品を持ち込もうとする者が少なくこちらは大助かりですが、リョウマ様は怯える盗賊の姿を見ると内心複雑なご様子です」

「自分を見てあそこまで怯えられたら、仕方ないと思うっす」


 ここでミシェルがリエラに一言。


「所でリエラ、昨日リョウマ君に試合を申し込んでいたけれど、どうするんだい?」


 その言葉にリエラは一瞬だけ困った顔をしたが、すぐに気を取り直して毅然とした態度で答える。


「う……いや、問題ない。勝ち負けではなく自分の実力を試すために試合をするんだ」

「その意気でございます。1対1であれば私もリョウマ様には敵いませんので、勝利よりも何かを学び取る事を心がけると良いでしょう」


 それを聞いたカナンがセバスに聞く。


「セバスさん、リョウマ君って一体何者ですか? 今の戦いぶりとセバスさんの話を合わせると、Cランク冒険者って話が嘘に聞こえるっす」


 そう言われてセバスはこう答えた。


「リョウマ様がCランクの冒険者である事は嘘ではありません。しかしそれはリョウマ様が2年間他の仕事や勉学に時間を費やし、慈善事業にまで手を出されたために冒険者としての仕事を受ける頻度が少なくなったからでございます。実力的にはAランクの冒険者と比べても遜色ありません」


 それを聞いてエリア以外の4人がそれぞれ驚きつつ竜馬への認識を改めている間に、竜馬が盗賊の回収を終え、1人の老人男性を連れて戻ってきた。


「作業終わりました。それから紹介します、こちら従魔術師のハロルドさんです」

「ハロルドです。この度は旅の邪魔をして申し訳ない」


 そう言ってハロルドと名乗った老人は頭を下げた。


「ハロルド爺さんはAランクの冒険者で、低ランク冒険者や冒険者志望の子供、それからうちの店の警備員に戦い方を教えている方です。今日は訓練生の中でも優秀な人達にハロルド爺さんを含めた教官達の下で盗賊の討伐経験を積ませていて、先程まで戦っていた盗賊は訓練生の包囲から逃げた奴らだったそうです」

「そうでしたか。邪魔なんてとんでもありませんわ。ハロルドさん達のお陰で私達は安全に旅が出来ますもの。お仕事お疲れ様でした」

「そう言って頂けるとありがたい。それでは、儂は仲間と合流しますのでこの辺で。それからリョウマ、あの小童共はまだまだ甘い。もう少し扱く必要があるぞ」

「焦る必要も無いので、安心して送り出せるようになるまでお願いします。手伝いが必要なら声をかけて下さい」


 竜馬がそう言うとハロルドは任されたと言って、3匹のオーガと共に木々の向こうへ去っていった。そこにセバスが飲み物の入ったコップとタオルを竜馬に差し出す。


「どうぞ」

「ありがとうございます、セバスさん」


 竜馬が受け取ったタオルでうっすらとかいた汗を拭き、飲み物を飲んで一息ついた所でエリアが話しかける。


「リョウマさん、最後に話していたのは何の事ですの?」

「言ってませんでした? 去年からギムルで人材の育成に力を入れ始めたので、僕も教官役をする事があるんです……所で、あの4人はどうしたんですか?」

「竜馬さんの戦いぶりを見て、常識と非常識の間で葛藤しているだけなので問題ありませんわ」

「怖がられてないのなら、良いでしょう」


 竜馬の視線の先には考え事をしているリエラ達4人が居たが、竜馬は彼女達をスルーして休息と軽食を取った。




 事前にある程度竜馬の話を聞いていたからか、休憩を終える時には4人も心の整理が出来ており、盗賊が出る前の様に雑談をしながら旅を再開した。


 そして山を下り続けて夕方、日が暮れる少し前には無事にギムルの西門にたどり着き、今は西門を抜けるため列を作っている馬車の最後尾に並んでいる。


「ようやく着いたけど、長い列っすね」

「揃いの馬車が多いから、どこかの商隊に時間がかかっているんだろうね」

「……積荷を検めてるみたいや。もう暫く時間がかかると思うで」

「待つのは構わないが、今日は宿を取れるだろうか? 昨日と同じような時間だと思うが……」


 リエラの言葉に、竜馬が答える。


「観光客用の宿が多いので、宿は取れますよ。問題があるとしたら部屋の質ですね」

「オススメの宿はあるかい?」

「そうですね…………新しく出来た2番街よりも今から入る1番街の宿が良いと思います。2番街も警備は居ますが、やはり人が多いと騒がしくてスリなども多くなりますから。夜に出歩くのは控えた方が無難ですが、1番街は静かで安全です」

「何かギムルの街で気をつける事ある?」

「特別な事は無いと……あ、1つあります。2番街の門の傍に従魔術師のための宿と従魔の待機場所があるんですが、その付近にはあまり近寄らない方が良いです。そこに居る従魔術師や召喚術師はガラ悪い奴が多いので」


 竜馬は言葉を続ける。


「街作りの仕事が増えて働き手も増えたのは良かったんですが、働きに来た人達の中にテイマーギルドで素行不良と言われてる人が結構混ざっていて、酒を飲んで暴れたり従魔を連れ歩いて力を誇示して街の人を怖がらせたり、酷い時には街中で魔獣を使った喧嘩を始めた奴らも居ましたから」

「そこまでなのか?」

「本当に酷い奴はどんどん捕まりましたけど、ガラが悪い連中がさっき話した宿屋に溜まってるんですよ。工事のために新しく街に来た従魔術師の中には良い人も大勢居るのですが、どうしてもガラの悪い人の方が目に付きやすく、お陰で一時期は街の人から従魔術師に対する視線が厳しくなって大変で……っと失礼、愚痴になってしまいました」


 竜馬が謝ると、5人からは気にするなとの返事が帰ってきた。


「リョウマはんもキツかったんやろ? 愚痴を吐く位ええやん」

「遠慮しなくて良いっすよ。気にせずぶちまけてスッキリするといいっす」

「ありがとうございます」


 と、ここで馬車の列が大きく進み始める。


「あ、前に居た商隊の馬車が通れたみたいですね。……あれ……どこまで話してた? ……まぁ、街の人から信用を得たら問題も無くなりましたし。大した事では無いので良いでしょう。僕だけじゃなくてハロルド爺さんとか他所から来た従魔術師でも、まともな人はそれなりに信用されてますから。それより、街に入る用意をしておきましょう」


 竜馬がそう言うとそれぞれ懐やカバンの中から身分証明書になる物を取り出す。そして全員が取り出し終わると街に入ってからの事が話の題材となり、宿の部屋を取った後5人はそのまま休む事に決まる。旅行に来て体調を崩しては勿体無いからという事で、彼女達は明日からの観光に向けて体を休める事にしたのだ。


 そこでようやく竜馬達の番になる。身分証を提示して街に入った彼女達とセバスは竜馬に案内され、部屋は豪華ではないが清潔で食事は値段の割に美味しいと評判の宿屋で部屋を取った。


 そして竜馬はその後、明日の街の案内を買って出てから彼女達と別れ、自分の家である廃鉱山へと帰った。

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