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第三章 終話

2014/7/14の投稿です。次回は7/17になります。

「ちょっと自分の実力を過信してたか? いや、それよりこの状況どうしようか……体に刺さらないんじゃブラッディースライム入りの槍も通用しないし、目や口の中を狙うにはあいつの前かその付近に立つ必要がある。そうなるとあの突進の危険が……おっと」


 大きい方の対処に考えを巡らせていたら、小さい方も襲いかかってきた。正直、事情を把握したら小さい方とは戦う気が失せたんだが……


 そんな事を考えていると、また大きい方が俺に向かって突進してきた。躱すとまた小さいのが……って、何で俺を集中的に狙ってくるんだ? せめてどっちか……そうだ、小さい方ならなんとかなるか?


「はぁあああっ……」


 刀を鞘に収め、湖を背にして全身に気を全力で巡らせ、小さいキャノンボールライノスの前に立ちはだかる。


 そんな俺に容赦なく角を突き立てようとしてくるキャノンボールライノス。俺は体を半回転させて角先を躱し、首を掴んで尻を地面に付け、キャノンボールライノスの真下に入り込む。そして足をキャノンボールライノスの胴体に接触させ、気で強化された脚力で思い切り跳ね上げる!


「お前はちょっと離れとけ!」

「キュオーン!?」


 重かったが、跳ね上げられたキャノンボールライノスは弧を描いて湖の中心に着水した。キャノンボールライノス同士の戦いでは角で投げられた、または倒された方が負けを認める事があるらしい。これで小さい方がこれ以上襲ってこない事を願う。


 しかし足で跳ね上げて良かった。投げた時の重量感からすると、腕だけでは持ち上げられてもあそこまで投げられなかったと思う。この湖は大きな水たまりみたいで浅そうだから溺れはしないだろうし……それよりも、問題は大きい方だ。


 俺はすぐさま起き上がる。大きい方の追撃が来ると思っていたが、先程まで興奮して俺を襲ってきていた大きいキャノンボールライノスは何故か動かない……と思ったその数秒後、また雄叫びを上げて突進してきた。


 突進を躱しつつあの小さい方から距離を取ろう。そう考えて俺は魔法を放って大きいキャノンボールライノスの気を引く。それと同時に鞘から刀を抜いて右手だけで持ち、左手で腰から鞘を抜く。


 続いて刀と鞘になって貰っているビッグアイアンスライムとビッグメタルスライムに指示を出し変形させる。刀と鞘は溶けるように形を崩して液状の体で俺の手から肩までを包み込み、腕の側面に滑らかな曲線のある金属板がウロコの様に着いた銀と鈍色の手袋に変わった。


 刃物系の武器はあの皮に阻まれて効果が低そうなので打撃で戦う。打撃武器だとエルダートレント相手に使った鎖付き鉄球もあるが、あれは重くて動きが鈍る上に密林の中に入られると使いづらい。その点このガントレット状態は刀状態より少し重いが行動を阻害する程ではなく、使い易い。


「リーチは狭いけ、ど!」

「オッ!?」

「……」


 俺に迫ってきたキャノンボールライノスを躱してその横っ腹に左の拳を叩き込む。刀で斬り付けた時よりは効いたのか、若干の声を出したがまだそれほど大きな効果ではない。


 頑丈さもあるが、突進の勢いに流されて力の向きがズレた。狙ってやった訳ではないと思うが、少し受け流された感覚だ。動きが止まった時に叩き込むべきか……




 俺はキャノンボールライノスを密林の中に誘い込む。あの巨体なら森の中の方が戦いづらいだろう……と思っていたが、キャノンボールライノスは木々に衝突するのにも構わず、無理矢理突進してくる。


 木々が大きな音と振動を起こしながら倒れるか傾いて行くが、同時にキャノンボールライノスの動きも止まる事も多くなった。俺はそこを狙って両の拳を叩き込んでいく。


 それをしばらく続けたが、キャノンボールライノスは一向に倒れる気配を見せない。


「ふぅ……腕力にスライムの重さ、そして気功による強化まで加わえて、人間相手だったら一撃で頭蓋骨陥没させられる威力があると思うんだが……自信無くなるな、これ……あと、自然破壊が気になる」


 それにしてもコイツ、痛みを感じていないのか? 何度殴っても木にぶつかっても平気なようだし、魔法も何度か打ち込んだけど火、雷、氷の魔法じゃ体毛を少し焦がしたり凍らせるだけで効果が無い。


 土魔法で落とし穴を作ったり、アースウォールに突っ込ませたりもしたが、落とし穴は大きさと深さが足りずにアースウォールはぶち抜かれ、時間稼ぎ程度にしかならなかった。


 闇魔法は効いたけど、同時に暴れ方が滅茶苦茶になって攻撃が読み辛くなるし……本当にどうしよう、これ。足止めと時間稼ぎは出来るが、攻撃が効かないんじゃ倒しきれないぞ。


「グォオオ!!」

「ふっ!」


 そうして何度目か分からない拳を叩き込んだ直後、妙な点に気がついた。この大きいキャノンボールライノス、何故か時々急に動きが止まる。攻撃をすると反撃してくるが隙だらけで、戦う気がないのかと思いきや執拗に俺を追い回してくる。木に頭をぶつけて脳震盪でも起こしているなら良いのだけれど、そうではない様だし……


「クオォオオォオ!!!!!!」


 ああ、また来た! 


「しつこい! 目を血走らせ……!!」


 ここでキャノンボールライノスの白目の部分が異様に充血している事に気づく。そこで注意して観察してみると雄叫びを上げた口内に鮮やかなすみれ色の斑点が見え、俺はようやくコイツの行動の理由を理解した。それと同時に自分の顔が引き攣ったのも感じる。


「ドーピングビーの毒か!」


 異様に充血した目とすみれ色の斑点はドーピングビーに刺された魔獣に現れる特徴。それにドーピングビーの毒が効きすぎた場合、魔獣の肉体はより強くなるが魔獣の意識の混濁や放心状態を引き起こし、凶暴化と交互に繰り返すらしい。その間隔は決まっていないそうだ。


 我ながら思い出すのが遅い……事前に調べても肝心な時に思い出せないんじゃ意味がない、後で反省すべきだな。


 それはそうと、こいつが暴れる理由となんでこんなに強いのかは理解できたと思う。


「魔法だけの強化じゃなかった訳だ。元々Aランク相当の防御力が更に強化されてるとすると…………理由が分かっても状況は変わらないな」


 汗が額から滴るのを感じるが、のんびり足を止めてはいられない。キャノンボールライノスの攻撃を躱しつつ何とか対処法を考える。そうしていると、俺が最初に付けた刀傷が目に付き、1つ思いついた事があったので試す。


 まず角を突き立てに来たキャノンボールライノスを躱し、木に突っ込ませて動きを止める。ここまでは今までと同じだ。


「『バインドアイビー』!」

「グオン!」


 ここで俺が木魔法を使うと、周囲の木々に絡まっていた蔦がキャノンボールライノスに絡みつく。


 キャノンボールライノスは蔦に気を取られるが、体を大きく前後左右に動かしただけで蔦が徐々に引きちぎられ始める。そして一度大きく地面を踏みしめ、力を込めて前に進むとキャノンボールライノスは完全に蔦の束縛から解放された。


「数秒だけなら足止めになるな。やってみるか! 失敗したら全力で逃げる!」


 俺はまたキャノンボールライノスを誘導しながらここまで来た道を逆走し、湖へと向かった。





 行きに木々を倒したせいでだいぶ見通しが良く、帰りはほぼノンストップで駆け抜ける事になったので、行きより早く湖のほとりに着いた。あの小さいのは……離れた位置にある親の死体の前で座り込んでるな……離れているなら問題ないか。


「――――!!」

「喰らうか!」


 後ろからの突進を避けると、キャノンボールライノスは勢い余って今度は湖へと突っ込んだ。その際高い水しぶきが上がり突進の威力を再認識させられる。しかし俺に足を止めている暇は無い。作戦を実行するために湖と密林の境目に立つ。


 湖に突っ込んだキャノンボールライノスは、俺の方を向いて湖から上がり突進してくる。


「威力は凄いが、単調すぎる! 『バインドアイビー』!」


 俺は突進を避けてからバインドアイビーを使い、木に突っ込んで動きが止まったキャノンボールライノスの体を絡め取る。


 次に俺は気功で強化した体でキャノンボールライノスの上に飛び乗り、動きを阻害するための蔦に掴まってキャノンボールライノスの首元にしがみつく。


 蔦がまた引きちぎられそうになっているが、そうはさせない!


「『マッドプール』!」

「グォア!?」


 俺が魔法を発動すると地面と湖の水が混ざり、泥沼に変わってキャノンボールライノスは足を取られた。蔦がギシギシと悲鳴を上げているがキャノンボールライノスは突如現れた泥沼のせいで踏ん張りが利かなくなっており、引きちぎるだけの力を出せていない様だ。




 マッドプールは水属性と土属性を合わせた魔法で、効果は地面を泥沼に変えるという分かりやすい魔法だ。この魔法はギムルの街で顔を合わせたら挨拶して、軽く雑談する程度に親しくなった冒険者から聞き、練習して習得した魔法だ。


 その時は難易度が微妙に高く、下手をすると敵の足場だけでなく仲間の足場まで悪くする魔法なので近接戦闘を行う冒険者には逃げる時以外使い辛いという話だったのだが、魔獣の上に飛び乗ってしまえば関係ない!


「『エクスチェンジ』!」


 俺は何とか逃げ出そうともがくキャノンボールライノスに振り落とされないように首元で体を安定させ、エクスチェンジでアダマンタイト製のレイピアを取り出す。そして気を纏わせ、先端を首筋から頭に向けて斜めに突き立てる。


 しかし、レイピアは皮に軽く刺さった程度だ。まぁこれだけで簡単に貫く事が出来ないのは予想していた。そこで俺は足掻くキャノンボールライノスの動きに耐えながら体勢を整え――


「はぁっ!!」


 右の掌底で思い切りレイピアの柄を打ち付けた。


「グォオオオ!?」


 今の一撃により皮膚に刺さっていた突起の先端が更に深くまで食い込み、キャノンボールライノスは声を上げ、一層動きが激しくなった。


「もういち、ど!」


 再度掌底を叩き込む。


 作戦と言えるかどうかは分からないが、俺が考えたのは今やっている通り、キャノンボールライノスの動きを止めて急所に刃を突き立てて仕留める事だ。最初の一太刀は浅く傷を付ける程度ではあったが、とりあえず皮膚を傷つけるだけの威力はあった。だから一点に集中して攻撃すれば攻撃を通せる可能性はあると考えた。


 そこで頑丈さに定評のあるアダマンタイト製のレイピアを使ったが、これならこの硬い皮膚を何とか貫けそうだ。レイピアの使い方としては滅茶苦茶だと思うが、効果があれば何でも良い!


 更に二度、掌底を打ち込むと手応えが変わる。どうやら皮膚を貫けた様だ。そこで俺はもう一度強く掌底を打ち込んでレイピアを深く突き刺し、更にもうひと押し。


 魔闘術で全身とレイピアを雷属性の魔力を纏い、先端から魔法を放つ。


「『サンダーボルト』」


 雷属性中級魔法『サンダーボルト』その名の通り、雷を発生させて対象を攻撃する魔法だ。


 先程まではそれほど効果は無かった様だが、流石に体内で直接放たれた場合は効いたらしく、暴れていたキャノンボールライノスは動きが止まり、その場に崩れ落ちた。


 その際にキャノンボールライノスを縛り付けていた蔦が切れ、キャノンボールライノスと上に乗っていた俺は泥沼に落ちる。すぐさま飛び起きて泥沼から脱出、様子を伺うと息絶えているのが分かった。




 …………結構ギリギリだったな。勝てて良かった~!!


「こいつがドーピングビーの毒で強化されてたと言っても、この分だとまだ俺1人でAランクやSランクの魔獣に挑むのは早そうだ……挑む予定も無いし、そもそもB以上はパーティーを組んで集団で戦うのが前提らしいけど」


 倒したキャノンボールライノスの巨体を眺めながらそんな独り言を呟いていたら、後ろから小さいのが近づいて来ていた。


「おーい……俺はお前と戦う気は――ん?」


 まだ戦う気なのかと思って後ろを振り向くと、小さいキャノンボールライノスが2本の前足を持ち上げ後ろ足2本だけで立った。確かこれって……


「えっ、これ確かキャノンボールライノスの服従のポーズじゃなかったっけ?」


 事前に情報を集めた時、体を大きく見せる威嚇じゃないのかと思ったのを覚えているから間違えてないと思うけど……何で? 本来キャノンボールライノス同士のぶつかり合いで負けた奴がやる行動の筈……あ、俺が一度ぶん投げたからか? それともこの大きいのを倒したからか?


 そんな事を考えていたら、小さいキャノンボールライノスの足がプルプルしだした様に見えた。子供といってもそれなりの体重がある。2本足で体を支えるのは辛いんだろう。


「疑問は置いておいて、この際契約するか。いくらBランクの魔獣でも子共だけじゃ生き残れないかもしれないし……」


 目の前のこいつが受け入れるならば……と考えて、俺は従魔術の従魔契約を使った。するとあっさりと契約に成功し、この小さなキャノンボールライノスは俺の従魔になり、俺がライと名付けた。


 その後、俺はヒールスライムと共にライの傷を治療する。その間にグレイブスライムには大きなキャノンボールライノスとライの親だと思われる2頭の死体を回収して貰った。


 なお、治療中のライは治癒魔法による治療を受けながら、静かに回収作業を眺めていた。暴れるかと思ったが、魔獣も野生の生き物だから弱肉強食という事を理解しているのだろう。


 親2頭から取れる素材は無駄にすまいとすぐにディメンションホームの中で解体して皮、角、骨を回収する。肉は筋肉質で人間の食用には向かないがスライムの餌には十分なので、肉を昼食としてスライム達に与えた所、ミミックスライムがキャノンボールライノスに擬態を始めてしまった。


 擬態を辞める様に指示を出そうとしたが、ライがミミックスライムの様子を伺い、寄り添い始めたのを見て辞めた。代わりにミミックスライムにはしばらくその姿でいる様に指示を出した。


 ……これがライのために良いのかは分からんが、今はそっとしておいてやろう。




 俺は念のためにライに暴れないようにと言いつけ、ディメンションホームから出てシュルス大樹海を出るために移動を再開する。なお、それから30分後、あの大きなキャノンボールライノスを凶暴化させた元凶だと思われるドーピングビーの巣を偶然発見した。


 巣はドラム缶程の大きさで大木の枝と幹にしっかりとへばりついて居たので、俺はスティッキースライムを50匹程出して木に貼り付いて登って貰い、巣を包み込ませた。


 当然スライム達は巣の外と中からドーピングビーに襲われるが、ドーピングビーを吸収せず、毒針を核まで届かせなければスティッキースライムに害は無い。


 スティッキースライムを襲ったドーピングビーは続々とスティッキースライムの体に張り付いて包まれ、窒息死していく。


 巣の中に居たドーピングビーも同様で、念には念を入れて空気穴を塞いだ状態で30分程放置したら抵抗無く巣を回収する事が出来た。勿論スティッキースライムに取り込まれたドーピングビーの死体も回収済みだ。




 さて……予定外の事もあったが、改めてギムルへ帰ろう。治療、店の事、その他やるべき事がある。成り行きで契約したけど、ライの今後についても考えなきゃな……

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[一言] >「・・・そんな俺に容赦なく角を突き立てようとしてくるキャノンボールライノス。俺は体を半回転させて角先を躱し、首を掴んで尻を地面に付け、キャノンボールライノスの真下に入り込む。そして足をキャ…
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