第三章 41話
2014/7/10の投稿です。次回は7/14になります
翌日
俺は村の壁に空いた穴を土魔法で埋めて修復と補強して、残った建物の解体作業をしていた。
壁を修復したのはアンデッドを供養した後には他の魔獣が入ってくるかもしれないので、安全地帯を確保するため。建物を解体しているのは隠れているアンデッドを見逃さないためだ。
どの家ももはや修理も不可能な程にボロボロの廃屋なので柱を2,3本斬ればすぐに崩れるし、そのままにしておいてもアンデッドの溜まり場になるだけなので家も燃やしてしまう事にした。
手順はまず家の中を調べてアンデッドを供養。初めに手をつけた区画は小さな家が密集している地区だったので家を数十軒毎に纏めて解体、その後ホーリーフレイムカーペットで残骸を焼き払い浄化していく。最終的には村全体を浄化しようと思っている。
なお、その間襲ってくるアンデッドの相手は殆どグレイブスライム、キングスカベンジャースライム、ライトスライム達に任せ、俺はアーススライムやウインドスライムを補佐にして解体作業を進めている。
1人で全部をやるには広いが、スライム達の助けがあれば数日で終わるだろう。
黙々と作業を続けていると当然ながら魔力を多量に使って魔力切れが近くなる。適度に休憩を挟みつつ作業をしていると、夕方になって日が暮れ始めた。
「今日はこのぐらいにしておこうか……そうだ!」
俺はおもむろにアイテムボックスの中から長く使ってなかったギターを取り出し、演奏と歌と同時に無詠唱で闇魔法を放つ準備をする。暗くなってきたので解体作業は終わりにするが、少し前に休憩を挟んだため魔力に若干の余裕があったので、前に偶然習得していた呪歌の練習を少しだけする事にした。
なぜこんな時にそんな事をするかと言うと……この呪歌という魔法は使い勝手が悪く、殆ど練習をしていなかったからだ。習得した頃には色々試して効果を調べたが、それっきりかもしれない。
この魔法のメリットとデメリットは魔法の効果が届く範囲の広さである。
音を聞けば効果が出るから広範囲に攻撃ができる、ただし
「対象を選べない。つまり無差別攻撃なんだよなぁ……」
幸いスライムには聴覚が無いし、リムールバード達は風魔法で音を遮断して対抗出来るので効果が無い。
しかし下手な場所で使うと通りすがりの人に攻撃してしまう可能性があり、特に必要があって習得した訳でもないので練習を後回しにしていた。練習で無差別攻撃をどうにか出来るのかは分からないが、せめて範囲を絞れる様になりたい。人の居ないここでなら遠慮なく練習できる。
俺は一度集中してからギターを弾き、前世で一時期話題になったアニメの主題歌を歌い始めた。
が、すぐに辞めた。
「何だ!?」
俺が呪歌を使い始めてすぐ、今までは無関心だったアンデッドが急に俺に向かって来たからだ。急いでスライム達に戦闘態勢を取らせ、俺も刀を引き抜くが……
「……来ない?」
俺が呪歌を歌うのをやめると殆どのアンデッドは俺から興味を失った様に散って行く。
「まさか……」
俺が再度ギターを弾きながら呪歌を歌うと、再びアンデッド達が一斉に俺に向かってくる。そして辞めると散っていく。普通にギターを弾いて、歌っても近寄って来ない。つまり……
「呪歌はグレイブスライムの死霊誘引みたいにアンデッドを引き寄せるのか」
俺は思わぬ所で呪歌の思わぬ効果を発見した。新発見は良いが、これじゃここでも練習出来ないじゃないか……
「帰ってから廃坑の中で練習するしか無いな……まぁ、ギムルに帰ったら当分は旅もしないだろうし、ゆっくりやれば良いか」
アンデッドがよってくるハプニングのせいか、何だか疲れたので夕食を食べて早めに休む事にしよう。
作業2日目
昨日に引き続きアンデッドと家の供養を行う。小さな家が多く集まった地区は何とか午前中に終える事が出来、昼食を済ませてから比較的大きな建物の解体に取り掛かる。倉庫や工房が多いな。
工房には地縛霊の様なアンデッドが多く居る。例えば元鍛治職人だと思われるスケルトンは火の入ってない炉の前に屈み、錆びた金槌を錆びた金床へ振り下ろすという行動を続けていた。彼らは俺が工房に入っても目もくれずに何らかの作業をする様に動いていたので常に物音がしており、見つけやすかった。
その後大きい家にも立ち入ると、大きい家には2種類ある事が分かった。
片方はアパートや宿屋の様な集合住宅で、至る所に武器や鎧だった物が転がっている所を見ると村の守りを固め狩りに出る、戦える人の住居だと思われる。ここにはそこそこ武器を使うのが上手いアンデッドも居たのでまず間違い無い。
もう片方は村の権力者か何かの家だ。こちらは他に比べて物が多く、一部のアンデッドは椅子に深く腰掛けて戦え、守れと何か命令をブツブツと呟いていた。
尤もその言葉に従って他のアンデッドが襲いかかってくる訳でもなく、もはや誰も従う者が居ないのにひたすら命令を出し続けるアンデッドは少しだけ滑稽で、同時に見ていて虚しさを感じる。
数軒の建物を解体した後、魔力切れが近くなったので休憩を挟む。その際、祖父の遺産の中にあった武器を何本か素振りをしてみた。
まず手にとったのは光の加減で全体が淡い青色に輝くミスリル製の槍。軽くて強度も中々だが、特筆すべきは魔力をよく通すので魔闘術が格段に使いやすくなる。
更にこの槍に魔力を通してファイヤーボールを撃ってみると、心持ち魔力の消費が少なくなった。これは槍の筈だが、ミスリル自体に魔力の消費を抑える効果があるのかもしれない。
次は刀身が薄い黒色をしたアダマンタイト製のレイピア。見た目は細いが、材質がアダマンタイトだからか見た目より大分重みがある。
俺はレイピアの使い方を良く知らないが、基本は突きだという事だけは知っているので、まだ解体していない家の柱に向けて突いてみる。するとレイピアはすんなりと木の柱を貫通した。
その後もしばらく木の柱や気を全力で纏わせた状態でレンガの壁を突いてみたが、レイピアは曲がる事も刃こぼれする事も無かった。更に木の柱に向かってレイピアを横薙ぎに振るうと、力技だったが柱を叩き切れた。勿論曲がる事も刃こぼれも無い。……レイピアってこんな風に柱を叩き切れる武器だったのか?
最後にアダマンタイト製の刀。これは普段使っているアイアンスライムの刀より頑丈で切れ味が良い。間違い無く名刀だろう。ただし、材質の問題でかなり重い。気功を使えば問題なく振るえるだろうけど、長期戦になると重さとそれによる疲労が少々不安要素だな。今後肉体の成長を待ってから無理ない程度にトレーニングで筋力を付けていこう。
3日目
午前中に村人の供養が殆ど終わり、休憩を兼ねた散歩がてら村の付近を探検してみると様々な薬草が手に入った。その中でも嬉しかったのは香辛料としても使える胡椒だ。
胡椒を見つけた時はつい声を上げてしまう程嬉しかった。街で胡椒を買おうと思えば買えるし実際に何度か買って使った事もあるけど、やはり高価で日常的には使っていない。
胡椒は街の店で買うと食費が普段の数倍になる事があるから、たまに使う時は贅沢している気分になる。今では胡椒の無い料理が当たり前になってきるし、俺ももうこの世界で生活して4年だからこの世界の常識が染み付いてきてるな……
でも俺の場合は前世で普通に使っていたから胡椒を使う事自体はそこまで贅沢と思っていない。店で買うと小瓶1本分で小金貨が必要になり、前世の感覚で使うと一食で1日の生活費の数倍の金を使ってしまうのが贅沢に感じている。儲けているけれど、貧乏性が抜けていない様だ。まぁ浪費家になるよりはマシだろう。
「定期的にここまで取りに来れば一生胡椒には困らないかもしれないし、良い場所を見つけたな」
山菜などを採取する時には取り過ぎると次から自生してこないので根こそぎ採取しないという注意をよく聞く。この注意はこの世界でもよく言われ、薬草採取をする新人冒険者はギルドの受付で事前に注意される事も多い。
よって俺も初めは胡椒を採り過ぎない様にと思っていたが、群生地を見つけて考えを変えた。根こそぎ採らなくてもほんの一部で十分だと思ってしまう量があったからだ。おそらく今回採取した量だけでも、俺1人なら今年1年分には十分だろう。
ちなみにこの群生地、村の外壁の傍にあったので昔は村人が胡椒を栽培していたのかもしれない。村人が居なくなったため採取もされなくなり、こんなに増えたのだろうか? 今となってはそれを知る人は居ないので謎だ。
なお、今日の夕飯は早速胡椒を錬金術で乾燥させて砕き、アンデッドスネークの肉を塩胡椒で頂いた。ピリッとした辛味と香りによって、美味しい肉が更に美味しくなっている。これからは俺の食生活が豊かになるな。
4日目
スライムと魔法の力により、何とかコルミ村の浄化を完了させた。もう村の中にアンデッドの姿は無く、周辺に陰鬱な雰囲気も無い。昨日からは村を守る門や壁の外に魔獣の姿を確認した。やっぱり事前に壁を修理しておいて良かった。
今のコルミ村は祖父母の家を除く建物を俺が解体して焼き払ったため、殆ど更地になっている。もう廃村になっているので、元コルミ村、と呼んだ方が良いだろうか……まぁ、どっちでも良いか。
とにかくここでやる事は終わった。ギムルの街に帰るとしよう。
俺は用意を整え、街の外に出て土魔法で門を塞ぐ。そしてディメンションホームの中からミミックスライムを出し、テイクオーストリッチに擬態させる。
「頼むぞ」
「……クケッ!」
俺が声をかけると、テイクオーストリッチに擬態したミミックスライムが一声鳴いた。ミミックスライムは生物に擬態するとその体の作りまで再現するようで、擬態した対象と同じ五感を得る。そのため、たまに俺の指示に従ってから次はどうする? と聞くように鳴くので癒される。
閑話休題
俺はミミックスライムの準備が整った事を確認し、背中に跨る。……しがみつくと言った方が正しいかもしれない。
この3日間、やっていたのは村人の供養と村の浄化だけではない。魔力切れになった後の休憩時間にはミミックスライムの生態について調べ、擬態したミミックスライムに乗る訓練もしていた。薬草採取の時もミミックスライムに乗って行ったな。
きっかけはミミックスライムがテイクオーストリッチに擬態して走り回っていたのを見て、乗れないか? と考えた事だ。実際に試してみたらテイクオーストリッチの脚力は俺が思っていたよりも強く、俺を乗せて走る事が可能だった。その場合少々速度が落ちるが、十分速いので問題は無い。
思っていたよりもテイクオーストリッチの羽は柔らかくて、乗っていても衝撃が少ない。更に肥大化のスキルで乗りやすい大きさに調節もできるので割と乗り心地が良い。ミミックスライムは他のスライムと違って肉体的疲労があるようなので、無理をさせない様に気をつけなければならないが、これで帰り道は大分楽になるだろう。
「さぁ、出発だ!」
「クケーッ!」
俺の言葉に反応したミミックスライムは強く地面を蹴って急加速し、鬱蒼とした密林の中なのに平原を疾走する馬の如く駆け抜けていく
……早いが、ギムルに戻ったら馬の鞍みたいな物を用意しないとな。振り落とされたら拙い。これが馬だったら道中の街か何処かで買い求めても良いが、テイクオーストリッチ用の鞍があるかは分からない。もし見つけたら買うとしよう。
そして出発してから1時間程経った頃。
たまに襲ってきた魔獣も俺のパラライズミストで麻痺させミミックスライムの速度で撒くというコンビネーションにより、ここまでほぼノンストップで走り続けていた。ここらでミミックスライムが少し疲れてきたので、ディメンションホームの中で休ませる事にする。
まさか俺を乗せたまま1時間近くあのペースを維持して走り続けられるとは思っていなかった。どうやら俺はテイクオーストリッチの脚力を舐めていたらしい。瞬発力だけではなく持久力もかなりあるようだ。
行きはアンデッドが居なくても4時間はかかる道程だったが、ミミックスライムのおかげでもう少し歩くだけで湖にたどり着けそうだ。
そんな事を考えながら歩いて行くと、湖に近づくにつれて物音と荒々しい気配に気づく。どうやら湖のほとりで何かが暴れているようだ。俺はハイドの魔法で気配を隠し、様子を伺う。
目についたのは2頭のキャノンボールライノス。1頭は体高2m、体長は4m近く、キャノンボールライノスの平均を大きく上回る体格を持っている。そんな1頭と相対しているのは体高も体長も1m程で、まだ子供だと思われる小さなキャノンボールライノスだ。
……戦いになっていない。大きい方のキャノンボールライノスはあまり動かないが、小さいほうがしつこく戦いを挑んで容赦なく角で弾き飛ばされては再度立ち向かっている。体格が違いすぎてこのままだと小さい方に勝ち目はないな。
しかし、何であの小さい方のキャノンボールライノスは大きい方に喧嘩を売り続けるんだろうか? もう満身創痍という感じがするが、それでも必死に大きい方に突進している……むっ!
俺がキャノンボールライノス同士の様子を見ていると、突如俺の頭目掛けて後方から何かが飛来する。それを察知した俺は上体を反らして飛来物を躱す。
飛んで来たのは先端に鋭い矢じりの様な物が付いた舌だった。飛んできた方向には1本の木がありその幹から舌が生えている様に見える。
俺は刀を抜いて舌が生えている場所の少し上を斬りつける。すると、木の一部から血が吹き出し、ボタボタと音を立てて地面に落ちていく。飛来物の正体はアンカーカメレオンの舌、俺がキャノンボールライノスを見ている所を好機だと思って狙ったんだろう。
そこでキャノンボールライノスの事を思い出してそちらを見ると……
「「…………」」
「あっ」
目が合った。どうやら今のアンカーカメレオンを仕留めた時の音で気づかれたようだ……俺から見ると湖を背景にして斜め右から大きい方、斜め左から小さい方のキャノンボールライノスが俺に顔を向けている。
……俺は敵じゃないよー。
「クオォオオォオ!!!!!!」
「なっ!?」
数秒の硬直の後、先程までの様子とは打って変わって大きい方が突然雄叫びを上げ、俺に向かって突進してきた!
拙い!
俺は咄嗟に姿を隠していた木々の間から飛び出し、突進を躱す。すると大きい方は鼻元に生えていた角を前に突き出したまま俺の居た場所を走り抜け、勢い余ってその先にあった木に衝突して動きが止まる。
衝突された木は大きく傾き、角が刺さった場所から亀裂が広がって行き、自重に耐え切れずメキメキと音を立てて折れ、地面を揺らした。
「直撃は絶対に避けよう……ってうおっ!?」
危なっ!?
大きい方は躱したけど、小さい方まで襲ってきた! 2頭同時に相手しなきゃならないのか……と、思っていたら視界の端に更に2頭のキャノンボールライノスが横たわっている事に気づいた。
一瞬まだ仲間が居たのかと思って警戒したが、すぐにその2頭が息絶えている事に気づいた。そして、小さい方が大きい方に喧嘩を売っていたのも理解できた気がした。
あの2頭は小さい方の親なのかもしれない。
そう考えた所で大きい方が俺の方に向き直り、またしても雄叫びを上げて突進してきた。俺はそれを横に避け、斬りかかるが――
「!? 思ってたより大分硬いな」
胴体を切りつけた感触はその一言に尽きる。肉体は頑丈だと聞いていたが、俺が気を纏わせた一太刀が通用しなかった。体を覆う体毛を切り裂いて皮に浅い傷を付けただけで、一滴も血が出ていない。この世界に来てからこんな事は初めてだったので俺は内心驚愕した。
動きが直線的で走り始める直前に魔力を放出するのを感じるから躱すことは問題ないが、攻撃が効かないんじゃジリ貧だ……アイテムボックスに祖父の打ったアダマンタイト製の刀があるが、使ってみようか?
いや、手に馴染んでいない武器をろくに練習もせずに使ってみるのは危ないな。相手がラプター位ならむしろ良い練習台になっただろうけど……
それにしても、この皮膚の硬さは何なんだ? キャノンボールライノスは無属性魔法を使うと聞いてたが、強化だけじゃなくて硬化を使う奴も居るのか? それともこれが普通のキャノンボールライノスの体なのか?
俺は頭の中で対処法を考えつつ、2頭のキャノンボールライノスの動きに気を配る。




