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終息

博也は、その日一晩中泣いていた。

意外だったのは、それにずっと付き合って、ただ黙って側にいてくれたのは、嘉韻であったことだった。

嘉韻は龍の常であろうが、いつも不機嫌に、そして強い力から上の方から見ているだけのような印象だったのだが、実はそうではなかった。明人が親しみやすく話し掛けてくれるので、明人ばかりを親切なように思っていた博也は、自分を恥じた。神達は、黙っていても皆とても優しい気質なのだ…。

博也は自分もそんな神であることに、誇りを持とうと思った。

父で王の碧から、母が亡くなった事に対する悔やみと、今後の身の振り方に対する問い合わせの書状が届いた。

博也は、人の父の博が亡くなるまで、月の宮で仕える事を碧に伝えた。博はもう、50歳ぐらい。神の50年などあっという間だと聞く。碧は快く了承し、博也は碧の皇子として世に公表され、月の宮へは留学生という表向きの形で滞在することとなったのだった。


明人と嘉韻は、明維の帰還についてまた西の砦へと戻っていた。

明人は嘉韻から見ても驚くほど意識が向上し、さらに軍神らしく成長した。その明人すら驚いたのは明維で、あれほどに傍若無人で歯に衣着せぬ物言いであったのが、落ち着いて思慮深くなった。時に、さすがは龍王の血筋であると皆が感心するほどで、晃維も黙って従う事が多くなった。

ただ、女嫌いは相変わらずで、侍女達はまだ安心して明維の側に寄る事は出来なかったが、それでも、暴言を吐く事は少なくなった。

それでも明維は、たまにフッと懐かしむように龍の宮の方角を見る。明人にはその気持ちは分からなかったが、明維の変化が将維とのあの諍いで起こったことであることは分かった。

晃維は何も言わなかったが、何かを知っているようだ。嘉韻は時にそんな明維をじっと見ているが、何を思っているのか分からない。嘉韻は明維に通ずる所があるので、何かを感じ取っているのかと思ったが、嘉韻に関しては分からなかった。

明人は、嘉韻と二人で任務を終えて部屋で休んでいる時、ふと、聞いてみた。

「なあ、嘉韻、やっぱり嘉韻は結婚とか考えてないのか?」

嘉韻は、驚いたように明人を見た。

「なんだ、急に。ここへ来る前にも言うたの。我のことは気にするでない。主が誰かと婚姻するなら止めぬし、祝福する。」

明人は手を振った。

「そうじゃねぇよ。オレだって当分は御免だ。お祖父様に聞いて、オレは困った生まれらしいしよ。絶対にこれって女でなきゃ嫁にはもらわねぇつもりだ。オレが心配してるのは、嘉韻、お前の女嫌いってちょっと度が過ぎてると思うんだよなー…何か、嫌なことでもあったのか?」

嘉韻は、眉をしかめた。

「知っておるであろうが。散々忍んで来られて迷惑しておる。」

明人ははあ?という顔をした。

「そんなのオレだって慎吾だってそうだったじゃねぇか。確かに嘉韻は多かったけどよ。それだけでっておかしいだろう。」

嘉韻はため息を付いた。

「…塵も積もればと申すであろう?我はの、月の宮へ来てからずっと女というものに追い回されておる。鳥の宮ではまあ、無い事も無かったが、我は龍であるし、王の炎翔に嫌われておったゆえにここまでではなかった。どこへ行っても視界に女が入って、我に寄って来てはやれ菓子だ酒だと持ってきよって、夜は結界があると見えておるのに何度も結界に触れて我の眠りは浅くなるし、それがずっとであるぞ?この西の砦へ来て、どれだけホッとしておるか。明維様のおかげで全く夜起こされることが無うなった。確かに昼間はあちこちで声を掛けられたりするが、無視すれば済むしの。明人、確かに主に問うが、真実心の底から愛おしいと思うような性質の女に会ったことはあるか?」

明人はそう言われて考え込んだ。紅雪は確かに好きだったが、心底と言われたらどうだろう。結婚しても少しもショックではなかったし、愛情というと違う気がする…。

「…無いかな。」

嘉韻は頷いた。

「そうであろうが。我に至っては、共に話しても良いと思う女すら居なかった。同じ神として向き合って話そうとすら思わぬのだ。だが、いつか出逢うかもしれぬであろう?ゆえ、それまではどんな女でも妥協せず傍には寄らせぬと心に決めた。別に一生誰も居らぬでも我は良いしの。心配せずとも、そんな女が出来たら言うゆえに。あくまでも、出来たら、であるがな。」

明人は椅子に沈んで月を見上げた。

「まあなあ…。確かに面倒だろうよ。ずっとだもんな。でもさあ嘉韻、それだけ恵まれてるのに、女嫌いってもったいない。」

嘉韻はまたため息を付いた。

「恵まれてるとはなんだ。我はただただ迷惑よ。こんな風に生まれたいと思うて生まれた訳ではないわ。だいたいの、金髪など鳥の中では珍しゅうなかったのだぞ。龍であるから珍しがられるだけで。黒髪に染めようかのう…。」

明人は首を振った。

「やめておけ。嘉韻は黒髪でも金髪でも似合う。どっちにしても女は寄って来るだろうよ。」

嘉韻は明人を睨んだ。

「他人事だと思うて。我は放って置いて欲しいわ。」と、伸びをした。「なんでも、龍の宮なら忍んで行くこと自体が嗜みが無いと言われておるらしく、下等な女と見られるため忍んで行く者は格段に少ないと聞いておる。我は、龍の宮のほうが向いておるのかもしれぬ。」

明人は月を見上げたまま言った。

「じゃあ、オレが将来戻る時、一緒に行くか?」

嘉韻は眉を上げた。

「戻る?やはり将来的には戻るのか?」

明人は頷いた。

「お祖父様を見ちまったからなー…。親父が跡取りで、しかも結構序列が高くてさ。オレがその跡取りだから、放って置く訳にもいかねぇだろう。龍の宮に戻って、向こうの軍神として月の宮に駐屯するかもしれねぇな。慎吾だって次席軍神の息子で、跡取りだから、絶対戻らなきゃならねぇだろうし、嘉韻、一人になるぞ。」

嘉韻は真剣な顔をした。

「…そうだな。その時に考えるが、だがの、王を守って行きたいという気持ちもあるのだ。我が辛い時に拾って下さったかたであるから。それを教育してくださり、こうしてここでの道を開いてくださった。月の宮を離れることは、さすがに出来ぬかもしれぬ。」

明人は、それには複雑な想いだった。自分も同じだったからだ。王のお傍に居て、助けて差し上げたいと思う。月の宮は、とても過ごしやすい所だ。出来れば月の宮に居たいが、しかしそうも行かないのが長男の長男という位置なのだ。

「オレだって同じ思いだよ。だが、自分の希望だけでどうにかなる訳でもないしな。」と、困ったように笑った。「オレの責務ってのが、何なのかまだ探してる最中だからさ。嘉韻は、見つかったか?」

嘉韻はそれを聞いて明人を見た。

「明人…主も責務を探しているのか。我もまだ、分からぬ。だが、どうもそれは月の宮にあるような気がする…何の確信もないがの。ただの勘ぞ。」

明人は笑った。

「オレにはそんな勘も働かねぇよ。もっとアンテナ張らなきゃなあ。」

嘉韻は眉を寄せた。

「アンテナとはなんだ?」

明人はしまったと思いながら、また説明を始めた。


月の宮へは、来月帰る。一年は本当に短かったなと、明人は思った…月の宮へ帰ったら、必ず何かの役に立たなくては。王は何を望まれているだろう。


その数か月後、蒼が、思ってもいない事態から、ひっそりと宮を抜け出すことになるなど、誰も知る由もなかった。


ありがとうございました。いろいろなお話しを平行して書いていたので、頭の中で混乱してなかなかに先へ進めず、やっとここで終わらせた感じです。本当は書きたかったことがあったのですが、長くなるので、次のお話で書いて行きたいと思っています。次回からはまた、月の宮なのは変わりませんが、明人と嘉韻、慎吾を出していけたらなあと思っております。でも、蒼が中心になりそうな予感もする…。次回新・迷ったら月に聞け4~心に秘めたものです。よろしくお願いします。6/8

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