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対決

維心は、明麗がかんざしを手にした時事態を悟って維月に見えないように胸に抱いていた。明麗の気が抜け去って行くのを見て、内心維心はホッとした。自分が手を下した訳ではないし、維月もこれで何も言わないであろう。

維月はとういと、何が起こったのか見ることは出来なかったものの、後ろの部屋の音の様子でどうなったのかはわかった。

「…維心様…ここから離れとうございます。」

維月が小声でソッと言うと、維心は黙って頷いて、蒼と十六夜を残してそこを飛び立って、宮のほうへ戻った。

そして、蒼と十六夜が戻って来るのを待ったのだった。


一方、明人はいたたまれない気持ちだった。

明麗は、碧がここへ訪ねて来て事態が発覚するまで、とても明るく楽しそうに生活していた。確かに性格的には問題を抱えていたのかもしれないが、あの出来事がなければそれが露見することもなく、抑えられたまま平和に過ごして行けたのではないのか。

そう考えると、複雑だった。だがしかし、確かに博也が皇子だったことを考えると、長く放置しておくわけには行かない問題であった。碧もずっと明麗を引きずっていたようだったし、こうして全てが分かったことで、収まるべき所に収まった者も居る。

明麗は暴走してしまったのは、依存しなければ生きていけない神の世の女のシステムが間違っているからのように思えてならなかった。

人の世のように、人権とかそんなものはないのだろうか。男女平等なんて、神の世では通用しない。力が全てであるので、確かに力の強い女は居て、それはとても地位も高いが…。

明麗を塚に葬りながら、明人はそんなことを考えていた。


将維は、明麗の屋敷を出て浮き上がると、後ろから明維がついて来ているのを感じた。

「兄上。」明維の声が言う。「今、お話をしたいのですが。」

将維は振り返った。どうしても、我と話しを付けたいようだな。

「…いいだろう。湖のほうへ参ろう。傍に森があるゆえ。あの辺りを散策でもしようぞ。」

明維は黙って頷いて、将維の後について飛んだ。

湖は、午後の穏やかな光を受けて輝いていた。湖の向こう側にある墓所の方では、明人が軍神数人と飛んで来て何やら作業を始めている。将維は、森のほうへと歩いた。

木漏れ日を受けながら先に歩いて行く将維の背を、明維は追った。

思えば、いつもこうやって追って来たように思う…兄は何事にも自分より優れ、そして忍耐強く厳しく、その強大な気に父の面影を継いで、次の龍王と誰もが疑わないほどの威厳を備えている。

自分はどんなに努力しても、兄を越えることは出来なかった。一年しか違わない歳も、反って明維には辛くのしかかった。たった一年のことであるのに、兄に追い付けないからだ。

そんな兄と同じものを欲して来た明維は、事あるごとに兄と静かに争った。他のことでは譲ることが多かった兄も、これだけは絶対に譲ることはなかった…母、維月のことだった。

母でありながら血が繋がらないと聞いた時、明維も心が躍った。だが、この兄の前には、絶対に手に出来ない。強大な父が手にしている母を、同じく強大な気を持つ兄が望み、そして月に阻まれ、明維には到底表立って望むことなど出来ない状況であったのだ。

しかし、手を出せないのは兄も同じこと。明維はそう思って堪えていた。

だが、ある日を境に兄の様子が変わった。そして、時に話している時、母を名で呼ぶことがあった。すぐに母上と戻すが、明維にはそれが気になって仕方がなかった。

「この辺りで良いの。」将維が立ち止まって、明維はハッとして兄を見た。「で、何用ぞ。」

明維は言った。

「兄上は、なぜに時に母上のことを名で呼ばれる。」明維はいきなり言った。「すぐに戻されるが、それでもそう呼ぶことは事実。母上はそれを許されておるのか。」

将維は明維を見下ろすように見た。そしてしばらく黙った後、言った。

「…主はまだ母上を望んでおるのか。諦めよと申したはず。到底主の手には入らぬ。早よう母離れして、誰か妃を娶るが良いぞ。」

明維は声を荒げた。

「話しを逸らすでない。」明維は言った。「なぜに母上は…、」

将維は手を上げた。明維は黙った。

「…主は昔からそうやって我に突っかかって来る…母上のこととなるとの。何度も言わせるでない。維月は我がものでもあるのだ。しかし、主のものには成り得ない。諦めよ。」

明維は刀に手を掛けた。

「…意味が分からぬ!なぜに兄上のものと決めつけておる!」

将維がフッと笑った。しかし、目は青白く薄っすら光った。

「言葉のままよ。」回りに気が渦巻いて湧き上る。「我に抗う気か。」

明維の気も湧きあがって渦を巻いた。

「どうしても譲れぬものがあるのだ!」

将維はフワッと浮き上がった。

「我とて同じこと。来るが良い。」

明維も浮き上がり、二人の気は森から打ち上がって激しく輝いた。

「うわ!なんだ?!」

埋葬を済ませた明人は、いきなり湧きあがった闘気に驚いた。凄まじい気…龍だ。しかも、王族レベルだ。ということは、将維様と、明維様?

「駄目だ!行くな!」様子を見ようと行き掛けた部下達を、明人は止めた。「これは龍王様でなければ止められない!」

明人は慌てて宮へと飛んだ。なんてこった…龍は兄弟喧嘩もスケールが違う!


維心が、顔を上げた。

「…久しぶりだの。」

維月も感じ取って、慌てて立ち上がった。

「まあ維心様!何を落ち着いていらっしゃるの?これは将維と明維でしょう!ここは月の宮なのに、皆に迷惑を掛けてしまうわ!」

維心がため息を付いた。

「ほんにあれらも変わらぬのう。昔からそうよ。将維もあれにだけは我慢がならぬようであるな。」

十六夜が椅子にそっくり返って座って言う。

「維月、行って来いや。オレらはここで話の続きしてるからよ。あいつらはお前に叱られなきゃ喧嘩を止めないじゃねぇか。昔っからそうだ。」

維月は窓辺へ走った。

「言われなくても行って来るわよ!何よ、落ち着いちゃって!」

維月は窓から飛び立った。維心はそれを見送りながら、言った。

「…それにしても、まだ将維と明維は争っておるのか。子供の頃からあやつらだけは諍いを起こして困ったものであったが、大きゅうなって落ち着いたのだとばかり思うておったのに。明維は退かねばの。将維が次代の王であるから。」

十六夜が苦笑した。

「ま、あいつらは維月が平等に育てたから、普通の神とは意識が違うんだろうよ。」

維心はまたため息を付いた。我に兄弟が居なくてよかった…我もああなっていた所だった。

維心はもう一度ため息を付くと、十六夜と蒼に向かい合って話を続けた。


「訳が分からぬ!兄上だけなぜに母上の側に!」

将維はふんと鼻を鳴らした。

「我と主とは違う!既に我がもの。足掻いても無駄ぞ!」

明維は気を放とうとした。

「信じられぬわ!」

それを受けようとして、将維はふと、止まった。

「…確かにそうだと分かれば、主、諦めると約すか?」

明維は動きを止めた。

「…そのようなこと、あるはずはない。」

そう、父が許すはずはないのだ。しかし将維は言った。

「見ておれば良い。気を隠していよ。」

浮き上がっていた将維は、地上に降りた。明維がスッと気を隠して横に身を伏せると、そこに母が飛んで来た。将維が一人で立っているのを見ると、あら?という顔をして、キョロキョロと辺りを見回した。

「将維?明維は…」

将維は首を振った。

「あれは戻った。」

維月は眉を寄せた。

「ダメよ?また喧嘩していたでしょう?回りに迷惑を掛けるのだから、話し合いで解決して。ね?」

将維は手を差し伸べた。

「我慢出来る事と出来ぬ事があるのだ。維月、こちらへ。」

将維に抱き寄せられて、維月は落ち着かぬように回りを見た。

「将維…誰かに見られたら…」

将維は頬を寄せた。

「では部屋へ参るか?」

維月は首を振った。

今日(・・)はダメよ。父上が居るし、そうそうお許し頂けないわよ?無理を言わないで。」

将維は微笑んだ。

「今日は…では、これで我慢しようほどに。」

将維は維月に口付けた。維月は慣れたようにそれを受けて、困ったような顔をした。

「将維…月の宮に来ると、あなたはいつもそうなのだから…。」

将維はフッと笑った。

「仕方があるまい。父に、主を初めて許された場であるのだからの。」

「将維…。」

将維はまた深く維月に口付けた。維月も抵抗するわけでもなく、その唇を受けている。そして将維がその首筋に唇を寄せると、維月は困ったように言った。

「将維…今日はダメ。父上が良いと言わないと…。」

「今日は…」将維は維月を見つめた。「ならば次はいつか?待ちかねる…。」

「将維ったら…。」維月は身を退いた。「さあ、私はもう戻るわ。」

将維は維月を離さなかった。

「では、我を想うておると言うてみよ。さすれば解放しようほどに。」

維月は赤くなった。

「まあ将維、それは…知っているでしょう?」

将維は微笑した。

「何度でも聞きたいものよ。」

維月は迷ったように下を向いたが、顔を上げて言った。

「愛しているわ。」

将維は嬉しそうに維月を抱き締めた。

「我もよ。」そして、手を離した。「行くが良い。」

維月はためらいがちに将維の腕から離れると、フワッと飛び上がって去って行った。

将維はそれを見送りながら、言った。

「…わかったであろう?」

明維は、脇の草むらから出て来た。将維はそちらを振り返り、眉をひそめた…明維が、涙を浮かべて立っていたのだ。

「なぜに、兄上だけ。」明維は、絞り出すように言った。「父上も、兄上にだけ母上を許されたなど。次代の王であられるからか。我は…臣に下るゆえ。」

将維は、視線を落とした。

「我とて、平坦な道ではなかった。」将維は言った。「我が他に妃を迎えると約して、やっとのことであった。それに生涯我がものにはならぬ。父は死する時母も連れて参るゆえに。全ての希望を絶たれた上でのことであるのだ。何も幸福なことばかりではない。他を想うことが出来るのであれば、そのほうがよっぽど幸福であるだろうて。明維よ、主はもう、忘れることぞ。今ならばまだ引き返すことも出来よう。我にはもう無理だ…手にしてしもうたからの。」

明維は、維月の去った方向を見上げた。確かにそうかもしれない。自分は離れているが、兄はずっと傍で父と母が寄り添っているのを見ている。父は傍目をはばからずに母を溺愛している…手にした幸福の裏で、毎日をそのように過ごして行かねばならぬとは、生きながら地獄のようではないか…。

「…潮時やも、しれぬ。」明維は、言った。「わかっていたのだ。心のどこかで、絶対に無理であることは。しかし、想うているほうが想い切るよりずっと楽であったゆえ…ここまで来てしもうただけのこと。兄上、我はもう、母上からは離れるように努め申す。きっと、いつかは、これを笑い話にすることも出来ようほどに…。」

明維は、ぼろぼろと涙を流した。将維はそれを見て、弟の肩に手を置いた。

「…そうか。喧嘩も無うなって、寂しくなるの。」

明維は無理に笑おうとして、出来なかった。そしてそのまま将維の前で、思い切り泣いた。

将維は、そんな弟を、いつまでも見守っていた。

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