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行き場

蒼は頭を抱えた。なんてこった。

「何て事をしてくれたんだ。これでここにも置けないし、碧殿も愛想を尽かされるだろう。オレにその身の振り方なんか決められないぞ?十六夜が何とかしろよ!わざわざ結界内に送って来たんだから!」

十六夜の声はばつが悪そうに答えた。

《分かってるよ。だが、殺させる訳にもいかねぇだろうが。あの女は放心状態で今、どうしようもねぇが、帰って何とかする。維月はそんなわけでこれが収まらねぇ限り連れて帰れねぇ。とにかく、碧にだけは知らせておけ。目が覚めた維心が何をするかまだ分からねぇからよ。》

蒼は頭を抱えたまま頷いた。

「分かった。とにかく帰って来い、十六夜。」

十六夜はため息を付いた。

《分かったよ。》

蒼はそのまましばらく立ち直れなかった。


維心が、目を覚ました。

「…維月。」

横に維月が居る。月の宮に帰ったはず…いや、確か、昨夜…。

維心は、ガバッと起き上がった。

「…あやつ!」

維月が目を覚まして、慌てて維心を押さえた。

「維心様!維心様落ち着いてくださいませ!」

「…斬らねば!」

維心は手を翳した。刀を呼び出すつもりだ。維月はその手を掴んだ。普通の方法では維心の気を反らす事は出来ない。維月は言った。

「…なんということ…目が覚めて私の事ではなく、他の女を思うとは。人の世では、殺したいほどの愛情というものがあると聞いておりまする。まさか…」

維月が横を向くと、維心はハッとして維月を見た。

「そのような。維月、我が主以外を想うなど…。」

維月は維心をキッと見た。

「では、もう二度とあんな女のことをお口になさらないでくださいませ!不愉快ですわ!私以外の女がここへ入ったなど…しかもあのような姿で…思い出したくもありませぬ!」

維心は常にない維月の激しい様子に、戸惑いながら下を向いた。

「…すまぬ。もう、二度と申さぬゆえ。維月…機嫌を直さぬか。」

維心の怒りの気がみるみるしぼんで行く。維月は横を向いたまま、維心と目を合わせない。

「…忘れてしまわれると、約してくださいまするか?」

維心は頷いた。

「約す。維月…そのように怒るでない…。」

維心は維月をこちらに向けようと顔を覗き込む。維月は袖で口を押さえて反対方向を向いた。

「維心様は私のものでありまする。お休みになるお姿も、他の女になど見せたくはありませぬ。」

維心は頷いた。

「その通りよ。」維心は維月を抱き寄せた。「主の言うようにするゆえ。我を見ぬか。」

維月は維心を見上げた。維心は一生懸命言った。

「もう、あのような事は忘れる。なかった事と思う。二度と口にはせぬ…我は主のものよ。それで良いであろう?」

維月は、頷いた。

「これほどに愛しておりまするのに…維心様は酷うございます。」

維月は維心に飛び付くように口付けて、寝台へ押し倒した。維心は維月を抱き締めて必死に機嫌を直させようと維月を抱く。

維月は思った…これで昼までは何とかなる。十六夜、その間に何とかして。

その頃、十六夜は月の宮へ飛んでいた。


昼を過ぎ、二人揃って居間へ出て来たところで、義心が待っていて膝を付いた。

「王、昨夜の件の、処理についてご報告でございます。あの女は、十六夜が月の宮へ送り…」

維月がスッと眉を寄せて袖で口を押さえた。義心がびっくりしていると、維心が急いで言った。

「何の話か?我は急に戻った維月と過ごしておっただけであるぞ。」

義心はじっと維心を見た。

「王?しかし…」

「下がって良い。」維心は即座に言った。維月がますます眉を寄せたからだ。「我が妃と散策をする約束ぞ。」

義心は頭を下げて、仕方なく下がった。どうしたのだろう…。

維心は、立ち上がった。

「維月、しばし待っておれ。洪に、申し付ける事があっての。そのあと、散策しようぞ。」

維月は頷いた。維心は大股に居間を横切って出て行く。維月はため息を付いた。

「義心!」

維心が後を追って来る。義心は膝を付いた。

「王、散策は…?」

維心はため息を付いた。

「維月が思い出したくもないと常にない剣幕で怒るゆえ。なかった事と思うと約した。やっと機嫌を直したのだ。ゆえ、二度とあれの前であの話をしてはならぬ。」

義心は感心した。さすがは維月様…この王にこのように言わせしめるとは。

「申し訳ございませぬ。まさかあの維月様に限って、そのような事があるとは思いもしませず…。」

維心は肩を落として頷いた。

「我の寝顔も見せたくないと申す。まさかあれがあれほどに我に執着しておるとは思いもせず…あのような様は初めて見た。」

よほど怖かったのか、維心は小さく身震いした。義心は言葉が出なかった。王がこれほどに恐れるとは。出来れば我はそんな状況にはなりたくない。

「蒼が常、母さんは怖いと申しておったことが、今身に沁みる事よ。して、あの女は月の宮へ送ったのだな?」

義心は頷いた。

「はい。これより行き場を決める由。」

「ここでは絶対に受け入れぬと申せ。」維心は言った。「月の宮にも置くなと。維月が向こうで鉢合わせてまた思い出したらと思うと、恐ろしくてならぬわ。」

「維心様?」

回廊の向こうから、維月が呼ぶ。維心はビクッとして義心に小声で言った。

「何か別の話をせよ!早よう!」

義心は慌てて、頭を巡らせた。維月が近付いて来る。義心は言った。

「…では、会合の折には慎怜を付かせ、我は宮で待機ということでよろしいでしょうか。」

維心は頷いた。

「良い。そのように致せ。」

維月は不思議そうに言った。

「まあ、宮の守りを強化なさるのですね。」

維心は頷いた。

「それもあるが、次席も育てねばの。義心ばかりが有能でも仕方のないことよ。」と、維月の手を取った。「どうした?待っておれば良いのに…。」

維月は首を振った。

「少しでも離れとうございませぬ。」

離れてる間に斬るかもしれないし。維月は思っていたが、黙って維心を見上げた。維心は、困ったように笑った。

「ほんにもう、義心や臣下が居るというのに、主は…」と、維月の肩を抱いた。「我はどこにも行かぬぞ?さあ、我は政務がもう少しあるゆえ、居間で…」

維月は泣きそうな顔で維心を見た。

「維心様…。」

維心はいたたまれなくなった。なぜに泣く。

「分かった、共に参ろうぞ。の?そのような顔をするでない。」

維月は微笑んだ。

「はい、維心様。」

維心はほーっと息をつくと、そのまま維月を連れて歩いて行った。義心は感心していた…なんとすごい方なのだ。王を思うように動かされるとは…。


一方、十六夜は月の宮に到着して、蒼と話していた。

「で、碧殿には連絡しておいた。呆れてものも言えぬと。しかし博也は皇子として公表したいゆえ、時期を見て話しを付けに参るとな。」蒼はため息を付いた。「それから博也だけど、こっちにも話した。母親があの状態で帰って来て事情を説明しない訳にもいかなかったからな。博也も険しい顔で頷いていたけど、呆れていたよ。オレも言葉もない。」

十六夜は頷いた。

「オレだって驚いたんでぇ。人の世に居たせいもあるし、神の世で誰かに頼る性質はそのままってのもあるし、悪いとこばっか持ってる訳だな。どうしたらいいもんやら。」

蒼はまたため息を付いた。

「維心様からは龍の宮には絶対に受け入れないって布告させた。それに月の宮にも置くなって重々言われた。あれから母さんが維心様にべったりで浮気しないかじっと見てるんだってさ。維心様はそれがたまらないらしいよ。」

「それはちょっと違うな。浮気しないか見てるんじゃなくて、斬りに行かないか見てるんだ。維心にとっちゃ、取るに足らない命なんだろうが、オレは簡単に殺すなんて出来ねぇしな。維月だってそうなんだ。維心は、維月との障害になるものは全部排除するつもりでいるんでぇ。内心、殺しちまいたくて仕方がないんじゃねぇか?」

蒼は立ち上がって、外を見た。

「ここにも置けないなんて、どうしたらいいんだ。どこも引き受けてくれないぞ。オレだって嫌なのに。」

十六夜は頷いた。

「とにかく、侍女としてなら大丈夫だろう。緑青か輝重に頼んでみるか。あいつらなら、断れねぇしな。」

蒼は眉をしかめて十六夜を振り返った。

「なんか、弱味を握ってるから押し付けるって感じで、嫌だなあ。」

十六夜は大袈裟に肩を竦めて見せた。

「じゃあ、どうする?お前もここにもう置くのが嫌なんだろうが。」

蒼は空を見上げた。本当にもう、こんなことはこりごりなのに…。

「王!」博也が、飛び込んで来た。「母が!様子がおかしいのです!」

二人は眉を寄せた。もう勘弁してくれないか。

「…宮の治癒の龍を行かせる。」蒼は静かに言った。「案内してやってくれ、博也。」

博也は頭を下げた。本当に本当に王にはご迷惑をおかけしている…自分が何とかしなければ…。


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