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消失

碧は自分の宮の臣下達を地下へと非難させて、自分は未だ見つかっていない明麗を探しに飛び立とうとしていた。克が碧にしがみ付いて言った。

「王!おやめくださいませ!こんな気の放流渦巻く中、月の結界が消失して月は力を失いつつあるのでございまするぞ!誰も助けられるものはおりませぬ!ただ、ここは蒼様や龍王様にお任せして、この状態が終息するのをお待ちになってくださいませ!」

「何を申す!」碧は甲冑姿で言った。「明麗はこんな中たった一人でさまよっておるのだぞ!」

克は下を向いた。

「…恐れながら、明麗様のこと、どこかの屋敷に囲われていらっしゃるかでご無事であるのでないかと思われまする。」

碧はハタと止まった。確かにそうだ…あやつは身を守るために、人の男すら利用して共に居た。この気の嵐の中、一人で居るとは考えらない…。

克は、さらに続けた。

「王がその御身を危険に晒して良いはずはございませぬ。まだ博也様に跡を継がせる教えもなされておられないというのに。そのような状態で、博也様を玉座へお付けになるつもりでございまするか?ご苦労なさるのは、目に見えておるのに…。」

碧は、ため息を付いた。明麗がどのような女であっても、博也は我の子。あれには跡を継いでもらわねばならぬ。確かに、何も知らぬ博也を放って置くことは出来ぬ…。

「…わかった。」碧は言った。「戻る。」

碧は言って、踵を返した。克はホッとして、王と共に地下へと降りて行った。


「王、全員の収容が終わりました。」

李関が膝を付いて報告する。

蒼は、結界の消失に伴って、結界内の全ての臣下、民達を一斉にコロシアムに集めて、回りを軍神達に囲ませて守らせた。

結界内とは言っても、もう結界はなく、月の宮は丸裸の状態であったからだ。気の放流で何が飛んで来るか分からない上、何が侵入して来るかもまたわからなかった。

ゆえに、軍神達が回りを囲んで一斉にコロシアムに結界を張り、中の民を守っている状態だった。しかし、それもどれだけ持つものか…。蒼はため息を付き、李関を見た。

「ご苦労だった。こっちは大丈夫だから、主も皆を守って欲しい。飛んで来るものが多いだろう。弾き返さねばならぬからの。」

李関は頷いて、頭を下げた。

「は!御用の際はお呼びを。」

李関はすぐに去って行った。蒼は領嘉を振り返った。

「さて、この仙術の巻物の山から、何か有益そうな情報は出て来るのかな。」

蒼は、仙人である領嘉と共に、その巻物を開いて中を改め始めたのだった。


一方明人は、晃維に従って嘉韻と共に必死に砦を抑えようと気を込めていた。

「明人、そちらぞ!縦方向に力を入れよ!」

明人は晃維の指示に従って、砦を抑えようと気を込めた。すると、浮き上がって剥がれ掛かっていたその箇所は、きれいにその場所に収まった。

「よし、次ぞ!」

晃維は必死に二人を先導して、激しく乱れる気の放流の中、砦の被害を最小限に抑えようと飛び回っていた。他の軍神達では、低空を飛ぶのがやっとだ。少しでも高くまで上がれるのは、晃維と明人、それに嘉韻だけだった。それも、気の放流を受けてふらふらとする…明人は、必死に自分の気を調整して飛んだ。

明維は、戻って来ていなかった。おそらく、出先でこの放流に巻き込まれて、どこかに留められているのだろう。ここはまだ、ほかと比べてましな方であるかもしれない。明人は、月の宮の方角を気にしながら、この地を守ることに全力を注いでいた。

「…よし。」晃維が、言った。「中へ戻れ!我が結界を張る!」

晃維は空へ向けて手を掲げた。見る間に砦全体を覆う結界が強力に張られ、中の気の放流がゆったりとしたものに収まった。

「いつまでもつか、分からぬがの。」晃維は言いながら、明人達の方へ戻って来た。「…明維兄上が居れば、もう少しマシな結界が張れるものを。」

それでも、明人から見て十分な力の結界だった。龍王の結界には及ばないものの、こんなに強力な結界を張れる軍神は見たことがない。やはり、龍王の血筋なのだ。

離れたほうの対から、安堵した侍女達が顔を覗かせている。一人が言った。

「…晃維様…収まりましてございまするか?」

晃維は首を振った。

「我が結界で守っておるだけのこと。しかしいつまで持つのかわからぬ。月が早く元に戻らねば…今はきっと、父上や蒼が必死に解決しようとしておるはず。それが成るまで、持ちこたえるよりないの。主らは中へ入っておれ。いつ何時この結界も破れるかわからぬゆえ。」

侍女達は震えあがって中へ入った。晃維は険しい顔で空を睨んだ…母上と、十六夜が死するか、戻るかであれは元に戻るだろう。荒れているのはまだその中間…月が二人を引き留めようと、死のうとするのを必死に引き留めているがゆえ。他を調整していた力を全て使って、二人のためだけに…。

晃維は、じっと空を見上げたまま、結界を維持することに力を注ぎ続けた。


一方、事態は解決に向けて流れていた。

月の宮で仙術を解く方法が発見され、それに向けて義心が動き、術者を討ったのだ。それは鳥の宮の生き残りの皇子とその部下達の仕業であった。

蒼は知らせを受けて、宮の守りを強化し、こちらへ向かっているという義心を待ちうけていた。

コロシアムのほうでは、未だ臣下達がじっと固唾を飲んで見守っている…月の色は相変わらずなまま、気の放流も収まらず、仙術はまだ解けていなかったからだ。

慎吾は、コロシアムの上空で気の放流を抑えながら必死に浮いていた。この中には、自分の子も妻もいる。どうしても、こんなものに負けるわけには行かなかった。

嘉韻と明人が西の砦へ行くと言った時、本当は慎吾も行きたかった。自分こそ、将来龍の宮へ戻る可能性が高い。だから修行が出来るなら、しておきたかった。なのに、妻や子を置いて行くことは出来まいと王に言われ、月の宮へ残されたのだ。

だが、今はそれでよかったと思っていた。こんなことが起きて、月の宮と西の砦に離れていたら、気が気でなかっただろう。今、こうして傍で守っていることが出来るのだから、やはり傍に居なければと慎吾は強く思っていた。

李関は、月の宮の結界がなくなった時、結界がないとかくも脆いものかと身に沁みていた。

月が居なくなることなどないと、たかをくくって時間はあるものとのんびりしていた己が不甲斐ない。やはり、皆の鍛錬を強化して、もっと宮を、結界が無くてもしっかりと守れる軍に育てなければ…。

李関は思って、ふと、何かの気配を宮の方角に感じた。

「…慎吾。」李関は、宮を見た。「あれはなんぞ?」

慎吾はちらりと宮を見た。確かに、いくつかの気が宮の中を移動して行く。しかし、知っている気ではないのではないか。

「義心殿と、軍神達では?」

李関は首を振った。

「義心殿の気ではあるまいが。もっと強いであろうが。」と振り返った。「信明!」

信明がこちらを見て飛んで来た。

「どうした、李関?」

「宮ぞ。」李関が言った。「あれは…」

信明が刀に手を置いた。

「鳥ぞ!」

慌てて飛んで行く。李関も続いた。

「慎吾!主はここを守れ!」

慎吾が頷こうとすると、物凄いスピードで飛び抜ける龍が居た。

「義心殿!」

慎吾が叫ぶと、信明と李関が振り返った。

「振り返るでない!宮へ急げ!残党ぞ!」

義心は叫んで飛びぬけて行く。

信明と李関もそれに従って飛んだ。



蒼は、何か近付いて来る気を感じた。複数だ…こんな気の放流の中、ここにたどり着いて宮の中を来れるのは、義心達ぐらいだろう。

蒼がそう思って待っていると、その気は居間の近くで止まった。

「義心か?」

蒼が立ち上がって言うと、少し間があってから居間の戸が、勢いよく開いた。

「…お覚悟!」

いきなり、蒼の知らない力が居間を横切って飛んで来た。蒼は咄嗟に華鈴と娘をかばった。背後で何かがぶつかる音がし、見ると、領嘉が手を上げてそれを防いでいた。

「…王!仙術です!お逃げください!」

仙術は領嘉の専門だ。だが、領嘉を一人置いて逃げる訳にはいかない。

「紫月、華鈴を連れて奥へ!」

紫月は頷くと、慌てて華鈴の手を引いてそこを出た。振り返ると、4人の軍神らしき神がこちらに向かっている。蒼は構えた。本来なら軽く封じてしまえるはずなのに。

領嘉はそれを見て行った。

「無理です、月は今こちらへは力を分けてくれませぬ!」

それでも蒼は構えた。相手の力がこちらへも向けられた。

…強い衝撃があった。

かろうじて受け止めているその攻撃の力は、まるで昔、沙依の神社で初めて闇の欠片と対峙した時のようだった。重い上に、今の自分には精一杯だ。

領嘉がそれを見て、空いた手を上げて攻撃の呪を唱える。元は半神の領嘉から出た力は、相手の一人をとらえて後ろへ弾き飛ばした。

蒼の負担が軽くなったのも束の間、また別の敵から蒼へと、今度は炎の力が飛んだ。これは鳥の専売特許。蒼はこれが鳥の残党だと確信した。

防ぐ蒼に、ジリジリと炎が迫る。蒼は押し返そうと、必死に月の力を呼んだ。

「王!」

領嘉がこちらを気遣い援護しようとした瞬間、気が弛んだのか領嘉は後ろへ吹き飛ばされた。

「領嘉!」

蒼に向かって、吹き飛ばされて起き上がった者も含め4人の軍神が炎の力の放流を向け始める。蒼は両手で月の守りを作り、耐えた。しかしこのままでは攻撃をすることも出来ない。敵は一気に方をつけようと、さらに力を上げた。

「くそ…!」

十六夜…。と蒼は思った。闇と対峙した時、いつも十六夜は見守って力を与えてくれた。今のオレの父親。しかし、その十六夜は今は居ない。

蒼は力の限り月の力を呼んだ。

急に、ドッと力が蒼に向けて流れ込んで来た。それはあまりに大きく大量の力だったので、激しい閃光が走り、宮はビリビリと震え、居間は光で何も見えない状態だった。蒼は驚いて月を見た。…色が戻って来ている。十六夜が戻った!だから月がこちらへ力を回したのだ!

蒼の力に吹き飛ばされていた鳥の軍神達は、必死に立ち上がってまた構えようとした。その時、義心と李関が飛び込んで来た。

「王!ご無事ですか!」

李関は叫びながら、向かって来る軍神を事も無げに斬り捨てた。その間に、義心は目に突かないぐらいの速さで残り二人を斬り捨てていた。

蒼はハッとした。

「領嘉は?!」

李関は、居間の奥に倒れている領嘉に歩み寄った。紫月が傍に心配そうに膝間付いている。

「…ご心配には及びませぬ。気を失っておるだけです。」

蒼はホッとして、自分に出来る限りの結界を宮の領地全体に張った。そして、倒れて既に息のない鳥の軍神達を見下ろした。

「…鳥の墓所に運んでやれ。」

李関は頭を下げ、傍の軍神に合図した。そして、4人の神達の遺体は運び出されて行った。

義心は蒼に頭を下げた。

「蒼様。どうやら月はお戻りのご様子。」

蒼は頷いた。

「つくづく、オレの力がどれだけ月にだけ頼っているのかわかったよ。月が力を送ってくれなければ、オレはなんの力もない。」とため息を付いた。「さっそく明日からでも、李関について武術を学ぶつもりだ。維心様も炎嘉様も軍神なのに、オレは何にも出来ないんだからな…これで王なんて。義心の強さは、他の宮の軍神の中で比べても、並ぶものが居ないって聞いたよ。」

蒼はまた、ため息をついた。義心は苦笑した。

「このようなことは稀でありましょう。ですので、そんなに悲観なさることはないかと。しかし、強くなれるのなら、それに越したことはございませぬな。我も、それで後悔するぐらいならと毎日精進しておったら、この地位におったのです。今では、王に立ち合っていただく機会がある時以外は、皆の練習相手ばかりさせられておりまする。本気で立ち合うことは、ついぞ無くなり申した。」

義心はなぜか寂しげだ。強くなると、そんな悩みもあるのだろうか。しかし、蒼は強くならねばならなかった。

「オレの練習相手もまたしてくれよ。母さんが里帰りの時にでも、お供に付いて来てくれたら出来るじゃないか。維心様に頼んでみるから。」

義心は驚いたような顔をして、心持ち赤くなったように見えた。蒼はどうしたんだろうと思ったが、義心は頷いた。

「…それはもちろん、蒼様のお頼みならば、我はお相手致しまする。維月様は…おそらく近々こちらへ戻られるだろうと思いまするし。」

蒼は首を傾げた。義心は王妃様とは呼ばずに、母を名で呼ぶ…じゃあ、聞いてた通り、義心も母さんを好きなんだろうか。それなら、維心様がうんと言うはずないような気がして来た…。ま、いいか。知らないふりをして言おう。

蒼は微笑んだ。

「ありがとう。では、こちらはもう大丈夫、オレの力が戻ったから。維心様に報告もあるだろう。龍の宮へ帰ってもらっても大丈夫だよ。母さんの様子を知らせてもらえるように、維心様にお願いしておいてくれ。」

義心は頷いて頭を下げた。

「それでは、失礼いたします。」

義心は立ち上がると、他の軍神達に合図した。軍神達は頭を下げて、義心に従って飛び上がって行く。

それを見ながら、神達の間で、ああやって戦っている神であるほど、母さんの気は影響力を持つのだと蒼は思っていた。母さんは、神達の癒しの気を持っているのかもしれない。まるで吸い寄せられるように、たくさんの王や軍神が母さんに寄って行く…。

維心様は迷惑しているようだが、維心様自体も同じなのだから仕方がない。蒼は他人事ながら、なんだか気の毒になった。ほんとの母さんは、すっごく怖いんだけどなあ…。


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