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発見

将維は、今日も山に分け入って、歩いていた。

宮をそうそう開ける訳には行かないのだが、それでも母を探さずにはいられなかった…状況から見て、父上にその気はなかったとしても、そう思っても仕方がない。なぜに父上はあのようなことを、一時とは申せ思われたのか…。

将維は、ただ今維月がどんな気持ちでいるのかと思うと、心配で仕方がなかったのだ。

弟達は、しっかりやってくれている。今日は将維が出ているのでこちらへは来ていないが、あれらが探した所は歩かずに済むので助かっていた。

自分の、父そっくりの気が、この時ばかりは恨めしかった。母上に少しでも気取られたら、逃げてしまう…。

将維はそう思いながら、険しい道なき道を出て、開けた所へ辿り着いた。すっきりとして、背の低い木々が生えている…まさか、山の中腹にこのような所があるとは。

将維がそう思いながら、その背の低い木々に小さな赤い実がなっているのを見て、人が知ったらきっと、摘みに来るのだろうなと考えていた。母も喜びそうであるのに。見つかったら、ここへ連れて参ろう。

将維がそう思って岩場を回り込んだ時、そこで籠を手にした女が、その実を摘んでいた。目が合った瞬間、将維は思わず息を飲んだ。

「は、母上…」

維月はびっくりしたようで、しばらく凍りついたようになっていたが、慌てて駆け出した。

「きゃー!」

将維は急いで追い掛けた。

「母上!お待ちください、せめて話を…」

将維は慌てた。あのままではまた…。

思った通り、維月は着物の裾に引っかかって派手にひっくり返った。将維は飛んで、維月が地に激突するのを避けるために抱き留めた。

「母上、話をお聞きください!我は宮に知らせるようなことはしませぬゆえ!」

維月は恐る恐る、将維を見た。

「…本当に…?」

将維は頷いた。

「はい。我は約したことは違えませぬ。せめて母上が、今どこでどんな暮らしをなさっておるのか知りたいのでございます。」

維月は頷いた。

「では、こちらへ。でも、決して誰にも言わないでね?」

将維は頷いた。

「はい。必ず。」

維月は落とした籠を拾うと、将維と共に、今自分が住んでいる、小さな房へと案内して行った。

そこは、とても小さな房だった。

空き家だったらしいが、そこを掃除して、ちょうどいいので住んでいるとのことだった。回りは、小さな月の結界を張っている。確かにこれでは、変なものは入って来れないだろう。

中は、台所と、他に一部屋しかなく、本当に小ざっぱりとしていた。

「お風呂が無いのがつらいのよね。」維月は笑った。「だから、桶に水を汲んでそこで行水なの。夏だからいいけど、冬になったらつらいかも。」

そんなことを言いながら、母は特に困っていないようだった。だが、夜は下等な神の気配を感じて怖いのだという。将維は言った。

「では、今夜は我が宿居を。出来得る限り参ります。さすれば怖いこともありませぬでしょう。」

維月はびっくりして手を振った。

「まあ将維、あなたが外泊なんかしたら、妃だどうだと大騒ぎになるわ!良いのよ、ここには寝台も一つしかないし、それに一部屋だから。皇子のあなたが、こんな所で寝た事なんてないでしょう。」

将維は首を振った。

「西の砦に泊っておることにしてもらいまする。明維に申し付けまするので、ご安心を。それに、どこででも我は休めまする。部屋は布で仕切れば良いのです。寝台など、我が作ってしまいまするゆえ。」

将維は外へ出ると、手近な木を気で斬り倒し、器用に切って、そして釘もなくきれいに組んだ。維月は感心した。なんでも出来るのね、ほんとに。

「では、我は今夜ここに。ご安心を。」

維月は苦笑した。本当に心配性だこと。私は死なないから、少しぐらい放って置いても大丈夫なのに。


明維は、西の砦から、今夜も飛び立とうとして、不意に止まった。明人が明維を見る。

「…どうかなさったのですか?」

「し!」

晃維が指を口元に持って行った。明人はそんな仕草を神がすることに驚いた…そうか、元は人の母に育てられたからか。

明維が言った。

「しかし兄上、我も…」

明維は、何やら眉を寄せている。将維と念で話しているようだった。しばらくして、明維は頷いた。

「はい。仰せのとおりに、兄上。」

明維はしばらくそうして立っていたかと思うと、急にこちらを向いて言った。

「なぜに我には場所を知らせてくれぬ!いくら誰にも言わぬと約したとは言え、我だって探していたのに!」

晃維は察して言った。

「仕方がないではないか。母上は誰にも居場所を知られたくないと言っておられるのだろう。」

明維は不機嫌にそこを出て行った。晃維はそれを見送って、ため息を付いた。明人と嘉韻が、所在なさげに晃維を見る。晃維は笑った。

「すまぬの。兄上は母上がそれはお好きであるからの。」と遠い目をした。「事の始まりは、まだ将維兄上がたった6歳の時であった。明維兄上は5歳、我は4歳、弟の亮維は3歳での。将維兄上が、兄弟で居間に座っておる時に言ったのだ、母上は我が娶るゆえ、主らは諦めよ、とな。」

明人は驚いた。娶る云々よりも、その歳でその話になること自体が驚いたのだ。しかも、母を。

「…そんな幼い時に。」

嘉韻が言うと、晃維は頷いた。

「そうだ。我にはその時わからなんだが、明維兄上はそれで泣き出したのを覚えている。絶対に将維兄上に敵うはずがないことは、幼いうちから分かっておったからの。そしてここに来ることが決まった時も」と、砦を見回した。「明維兄上は母上から離れるのが嫌であったのよ。で、二人では絶対に父上と将維兄上が許してくれなんだので、宮での最後の夜に我と三人で、母と眠った。我らが母を挟んで、両脇にの。あのようなことは幼い時にあったきりであったし、我は気恥ずかしかったが、明維兄上は嬉しそうで、母上を向こう側の横から抱き寄せて離さなんだ…見ておるこっちが恥ずかしかったわ。」

明人は呆れた。確かに母親を好きなんだろうが、あれではマザコンが過ぎるのではないか…。

「母離れが出来ておらぬということでしょうか。」

晃維は困ったように笑った。

「いや、違うであろうよ。母以外を愛することが出来ぬのだ。まるで父のようにな。全ての基準が母であり、それ以下は受け付けぬ。だいたいあれ以上など居ると思うか?母は月なのだぞ。ほんに、もうそろそろ諦めねばの、兄上も。」

晃維は遠い目をして言った。きっと晃維も維月様を好きだったのだろう。だが、そこまで思い入れることでもなかったようだ。明人はその複雑さに眉を寄せた。嘉韻が、立ち上がった。

「では、休息の致しましたし、我らは夜の探索に参りまする。」

晃維は頷いた。

「まだ見つからぬか、明麗とやら。早よう見つかると良いの。」

明人は頷いて、嘉韻と共に飛び上がった。

そして、月を通じて王に念を送った…王、将維殿の動向をご注視ください…頻繁に通っておる所がございます…。


それを聞いた蒼は、月に居る十六夜を見上げた。

「十六夜!聞いたか?そこに、きっと母さんが居る。将維が見つけたんだ!」

しかし十六夜は複雑そうだった。

《しかし蒼…オレは拒絶されてるし…。》

蒼は言った。

「何言ってるんだよ!見つかったんだから、会いに行かないと!きちんと話して、それでも分かってくれなかったらその時はその時じゃないか。このままずっと、母さんと逢えなくてそれでいいのか?!」

十六夜はまだぐちぐち言っている。

《でも、まだオレからの力を遮断してるんだぞ?維月がオレを嫌がってるってのに、そんなこと…。》

蒼は苛々と言った。

「だったらいいじゃないか!もうこれ以上嫌われることなんてないんだし、何をしたってこれ以上悪い状況にはならないよ。何もしないで時を過ごすほうが、よっぽどもったいないじゃないか!」

十六夜はしばらく黙っていたが、やっと言った。

《そうだな。これ以上悪くはならねぇよな。わかった、会いに行く。状況見て、行くよ。》

蒼はホッとして頷いた。

「そうだよ!オレも明日、将維の行く場所を確認して来るから。」

《頼んだぞ。》

蒼は言って、未だ見つからない明麗の方が気になって仕方がなかった。とにかく、母は見つかったのだし、明麗に絞って軍神達に探させなければ!

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