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あっちもごたごた

蒼がこの、碧と明麗のことで頭を悩ませている最中に、今度はしばらく姿を見なかった十六夜が、憔悴しきって戻って来た。最近は母も、記憶がないままでも龍の宮で立派に王妃の責務をこなしていると聞いていた所で、噂では龍の宮の王妃の茶会なるものに招かれたいと、近隣の小さな宮まで大騒ぎであるのだという。

それほど精力的に活躍する母を、十六夜は嬉しそうに見ていて、今日も会って来たのではなかったか。

蒼は言った。

「どうしたんた十六夜?具合でも悪いのか。」

十六夜は、蒼の居間の椅子に崩れるように座った。

「蒼…ツクヨミを、覚えているか。」

蒼は記憶をたどった。確か、十六夜の声に最初に気付いた月の当主。オレ達の先祖…。

「ああ。話してくれたもんな。それがなんだ?」

十六夜は辛そうに言った。

「転生してたんだ。それでオレを想ってたと言われて…。」

蒼は驚いた。まさか、心変わり?

「…十六夜…ツクヨミを妃にするの?」

十六夜は弾かれたように立ち上がった。

「そんなはずねぇだろう!オレは、謝りたかっただけなんでぇ!なのに…オレは、つい同情しちまったんだ。あいつがオレに口付けて来て、それを拒まなかった。」

蒼は苦笑した。

「なんだ、それぐらいいいじゃないか。言わなきゃ分からないよ。」

「見られたんだ!」十六夜は叫んだ。「維月に…。あいつは泣いて維心に抱き締められてた。しかもオレに気配を悟られないように、陰の月の力で封じてる。オレには維月の気配も読めない。あいつは…もうオレなんか見捨てちまった。オレが愛してるのは、維月だけなのに…。」

十六夜は、頭を抱えた。蒼はどうしたらいいのか分からず黙っていると、十六夜はふらふらと月へと帰り、降りて来なくなった…。


あっちもこっちもこんなことになっている状態に、蒼は頭を悩ませていた。なぜ、自分はこんなことにばかり巻き込まれるのだろう。十六夜は相変わらず月に居て、下へ降りる様子は全くない。呼んでも来ることはなかった。

そんなある夜、十六夜はふいに月から蒼に話し掛けて来た。

《維月が、行方不明だ。》

蒼は驚いて月を見上げた。

「なんだって?誰かにさらわれたのか!」

《違う。》十六夜はぶっきら棒に言った。《自分から出て行ったんだ。維心がオレと同じように過去世話をしていた人の女が現れてな。貴子(きし)っていうんだが。そいつに同情しちまって、結界の中に房を与えて置いてやろうとした。》

蒼は顔色を変えた。王がそれをするって…。

「…それって、愛人ってことだよな。」

十六夜は驚いたような声で言った。

《お前、分かるのか?そうだ、維心はそんなつもりはなかったが、神の世の常識ではそうなるな。維月は身を退くから貴子を宮へ迎えろと言った。それで光に戻って、出て行っちまった。そのショックで、記憶は戻った。元の維月に戻ったが、居なくなっちまったんだ。オレには気配が読めねぇから、後を追うことも出来ない。オレ達ではお手上げだ。維心は後悔して落ち込んでとても立ち直れそうにないしよ。お前、探してくれ。》

蒼は憮然として言った。

「あのな十六夜。なんだっていつも手に負えなくなってからオレに振るんだよ!オレだって月の力以外に何も持ってないんだぞ?!全く…こっちだっていろいろ抱えて大変なんだからな。探すけど、母さんは死なないから急がなくても大丈夫だよ。月なんだし。」

十六夜は憤然として言った。

《お前は母親がどんな生活してるかと心配じゃないのか!だいたいな、他人の世話ばっか焼いてねぇで、もっと自分の親を心配しろ!》

蒼は怒鳴った。

「誰のせいで王やってると思ってるんだよ!だったらここへ来て王になれ!オレは親孝行してるからさ!」

蒼が怒って月に背を向けると、十六夜が困ったように言った。

《…怒るな。そんなつもりじゃねぇ。とにかく維月を探してくれ。放って置いたら、どこへ行くかわからねぇ…心配で仕方ねぇんだ。》

蒼はため息を付いた。

「…わかった。出来るだけやってみるよ。」

《頼んだぞ。》

十六夜の念の声は途切れた。蒼は頭がパンパンだった。こっちだってまだ解決してないのに。博は宮に自室を与えてそこで生活をして、そこから出勤しているし、明麗は妃と分かったからには使う訳にもいかず侍女のローテーションから外していて様子を見ることが無いし、博也は毎日仕事の進捗を報告に来るものの、落ち着いていて、まるで他人事のようだった。

そして碧は、己の宮に帰らない訳には行かず、後をとりあえず蒼に任せて戻っていた。またしばらくしたらこちらへ様子を伺いに来ると言っていたのに。

「あー誰もかれもオレにばっかり任せやがって!」

蒼は一人、居間で地団太を踏んだ。

誰にも見られなかった。


明人は、その命を西の砦で受けた。

「母上が!」

明維が血相変えてその書状を明人からひったくって読んだ。そして眉を寄せると、晃維を見た。

「母上が気配を隠していらっしゃるなら、我らには見つけることは叶わぬ。それで父上も捜索されぬのだろう。」

晃維は気遣わしげに書状を見た。

「しかし、おそらく父上を見限って行かれたようではないか?父上もそれで、探させることが出来ぬのだろう。それで蒼がこうやって探させようとしておるのだ。」

明維は頷いた。

「我らの母であるしの…。」

侍女が入って来て頭を下げた。

「将維様のお越しでございまする。」

皆が一斉に振り返る。将維が、そこに立っていた。

「蒼か。」将維は、その書状をちらりと見やって言った。「我は独自に探す。だが、我の責務は多いゆえ、なかなかに出て来れぬのだ。主らも探してはくれぬか。」

明維は頭を下げた。

「はい、兄上。兄上には、お心当たりはおありでしょうか。」

将維は頷いた。

「ある。」皆が驚いた顔をした。「目撃証言から人の世の噂まで聞いて来たのでの。月の宮で調べて、母上が飛ばれた方向も見当はついた。我はそこを歩いて探すつもりでおるのだ…母上に気取られたら、恐らくどこかへ行かれてしまうだろう。我一人で徒歩で山狩りは時間が掛かってならぬゆえ、主らにも手伝ってもらいたいのよ。」

明維は頷いた。

「はい、兄上。」

明人は感心して見ていた。あの明維が、将維には忠実に従っている。確かに次の王は将維。だからなのだろう。神の世は、本当に徹底していると今更ながらに明人は感心した。

将維は、懐から地図を出した。

「この辺りであるだろうと思う。」将維は、地図を指して言った。「母上の光の玉が、ここへ飛んで参ったと軌道から推測できるからだ。我も参る。主らもこの辺りを歩いて探して欲しい。気は抑えよ。」と、晃維を見た。「して、晃維。」

晃維が頭を下げた。

「はい、将維兄上。」

「主はここの任務をこなせ。皆が行ってしもうては、ここを守る将が不足する。それから、これは他言無用ぞ。母上を一番に考えよ。宮に知られでもしたら、またお姿を隠されるやもしれぬ。そうなると、我にも探し出せるか疑問ぞ。」

明維と晃維は頭を下げた。

「は!」

明人は困った。王から探して知らせよと命が来ているのに。見つかったら報告しなければならない。将維はその様子を見てフッと笑った。

「そうよの、主の王は蒼であるから。我の命従うことはない。だが、我が申したこと、重々頭に入れておくようにの。」

明人は頭を下げたが、複雑だった。それは、自分で考えろと言っていることになる。その代わり、状況を悪くしたら許さんぞと。

将維が出て行くのを見て、明人はため息を付いた。それにしても、維月様はよくどこかへ行かれるかただなあ…。


更に蒼を追い詰めるような知らせが来たのは、その日の夕方のことだった。

「王!」血相変えて走って来たのは、博也だった。「母が心配で家に戻りましたら、このような物が!」

蒼は慌ててその紙を手にした。それには、流れるような美しい文字で、誰をも不幸にしてしまったのだから、どこかで一人、生きて参りますので自分のことは忘れて欲しい、と書いてあった。

蒼は立ち上がった。

「李関!」

すぐに、李関が飛んで来た。

「御前に、王。」

「捜索隊を出せ。碧殿からお預かりしている、明麗殿がここを出た。書置きの気の残量から見て二日ほど前のことかと思う。広範囲に広がって探せ!」

「は!」

李関は、すぐにそこを出て行った。博也は蒼を見た。

「申し訳ありません…ご迷惑ばかりかけてしまって。」

蒼は頷いたが、ほんとにもう勘弁してほしいと思っていた。どいつもこいつも出て行けばいいと思って!

蒼は急いで追加で明人と嘉韻に書状を送った。明麗も探して欲しい。どちらかと言うと、母さんは死なないので、先に明麗に力を入れて探してほしい。


再び明人は書状を手に、嘉韻と顔を見合わせた。家出が流行っているのか?

明維が、憤然としてそれを覗き込んだ。

「母上を後回しとは、蒼は何を考えておるのか!」ぷんぷん怒っている。「母であるぞ。死なないからいいとはなんだ。お辛い思いをなさっていたらどうするのだ!」

明人は困った。これは王のお言葉であるのに。それに自分で出て行った維月様が、お辛い思いとはなんだろう。きっと、あの維月様のことだから、どこでもそれなりに快適にしておられるに違いないのに。

晃維が明維をなだめた。

「これは蒼の言葉ぞ。これらの王は蒼であるのだから、仕方があるまいが。兄上は将維兄上の命に従えば良いではないか。」

明維は踵を返した。

「ふん、良いわ!我は出る!」

明維は怒ったまま、維月捜索の為に出て行った。明人と嘉韻はホッとして顔を見合わせると、明麗を探すために飛び立って行ったのだった。


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