四,本音は?
ガウラは、中にノギクを残し檻から出て鍵をかけました。
「何だか嫌な気分だわ。ごめんなさい、ノギク。すぐ戻るから我慢してちょうだいね」
ガウラはノギクを残していく事に心を痛めている様子です。ノギクは笑顔で「平気だよ」と伝えるかのように笑顔で頷きました。
ガウラは「ありがとう」と言うと、黒い布を頭からすっぽり被り静かに部屋から出ていきました。
ノギクは緊張しました。住民達が汚い言葉で罵り、ガウラを傷付けないか心配になってきたのです。
静かな時間が過ぎました。
「よかった。上手くいったみたいだ」ノギクは安心しました。
それから、また静かな時間を過ごしました。
いつもは檻の外から見るばかりで、中からじっくりと外を見るのは初めてです。
不思議な気持ちになり「何だか生きている感じがしないな」と思いました。
「一日中、こんな感じなのか」
「つまらないな、息が詰まるな」
「普段は人に好奇の目で見られるんだよな」
「居心地悪いだろうな」
「毎日、毎日それが続くなんて考えただけで気が狂いそうだ」
ゆっくりとした時間の中で、ノギクは思いにふけました。ただ、走り回り騒々しい音に堪えなくて良いのは嬉しく思いました。
「疲れたな…、眠くなってきた…」
ノギクはウトウトとし始め、知らぬ間に眠りにおちていました。
ガウラと一緒に外で遊んで、美味しいお菓子や、面白いサーカスを見ています。
ガウラは嬉しそうに笑っていて、自分まで嬉しくなります。
綺麗な川で水遊びもして、二人でふざけあって、大笑いしてはしゃいでいます。
大きな黒い家があるので、二人で入ります。
中は、もっと真っ暗で奇妙な音が鳴り響きへんてこな人達がいっぱいいます。
ガウラは恐がっているので、安心させてあげます。
一番、奥の部屋は立派な扉で蓋がされていますが変な男に金を渡すと扉が開きます。
中には、綺麗な綺麗な女の子が目を閉じて椅子に座っています。
近くでみると、更に綺麗でお人形さんみたいです。
魅入っていると、女の子が目を開けました。
その目は、血のように赤く鋭い光が帯びています。
女の子は、バッと立ち上がり自分に向けて叫びます。
「消えろ!!!」
ハッとして、ノギクは目を覚ましました。嫌な夢を見ていたようで、寝汗をかいています。「疲れてるんだな。気味の悪い夢」とノギクは思いました。
どれくらい時間が経ったのか分かりません。窓一つないので、時間が止まっているかのようです。
まだガウラは戻ってきてないので、それほど時間は経っていないと分かりました。
「ガウラ、楽しんでるかな」ノギクは思いました。
また、静かに時間が過ぎていきます。ノギクはボンヤリと壁紙の柄をみていました。
すると、部屋の扉が突然開きました。
少し、驚きましたがガウラが帰ってきたのだと思い安心しました。「上手くいったみたいだな」ノギクは安堵感を感じました。
しかし、すぐに打ち砕かれます。なずなら、そこに立っていたのはガウラではなくウツギだったからです。
ウツギは怒りに満ちた表情とムチを持っていました。
ノギクは飛び上がりそうになりましたが、下を向いて顔を隠しました。
ウツギの鼻息は荒く、どんどん近付いてきます。真ん前で止まり言いました。
「ガウラ!起きろ!ノギクのガキが逃げやがった!」
どうやら、ウツギは気付いてない様子です。ウツギは続けます。
「恩を仇で返しやがって!良いガキだと褒めて可愛がってやったのが間違いだった!」
ノギクは目をギュッと閉じて聞いています。
「必ず、見つけ出してやる!ガウラ、そろそろ店を開けるぞ!早く起きろ!」
ウツギは、言いたい事だけを言い部屋から出ていきました。
ノギクは心臓が止まるかと思いました。まだ、息があがっています。それに、開店をするだなんて、どれ程の時間が経過したのか不安に思いました。ノギクは焦り出します。客が入ってきたら、ガウラではない事がバレるからです。
しかし、ガウラの檻にはタンスと三面鏡、そしてベッドと椅子しかありません。
後ろからも、左右からも、もちろん正面からも見れるようになっているのです。
ガウラは流れる汗を拭い、考えました。
「どうする?客はすぐに来るぞ。どうする!」
ノギクは焦りすぎて、真ともな考えが浮かびません。
「やり過ごす方法なんて無い」
ノギクが諦めかけた時、部屋の扉がゆっくり開きました。
ノギクは「ガウラか!?」と、期待を込めて目だけで入ってくる人を盗み見ました。
ノギクの期待は虚しく散り、入ってきたのはウツギと客でした。
「もう、駄目だ」
ノギクは覚悟を決め、椅子に整然と座り下を向きました。ウツギは、客を招き入れ自信満々に言います。
「さぁ!ご覧あれ!世にも奇妙な少女を!悪魔か天使か、それはお客様がお決め下さい!」
客は興味津々で見てきます。しかし、椅子に座っている子供は少しも動かないのです。諦めず、見続けますが動きません。ウツギは少し動揺し言いました。
「この少女の名はガウラです!一見、麗しい少女ですが…、足元をご覧あれ!」
客は言われた通り足元を見ました。
しかし、ドレスの裾しか見えず何も変わった所はありません。客は、ため息をつくと「ぼったくり」と文句を言い帰ってしまいました。
ウツギは怒った様子でガウラを睨みつけ「仕事しろ!」と怒鳴ると次の客の案内に行きました。
ノギクは何とか乗り越えられ事に安心しましたが、まだ多くの客が来ると分かっていたので余裕なんて全くありません。
「早く!ガウラ早く帰ってきて!」
ノギクは祈りました。しかし、こんな賑やかな屋敷内をガウラが誰にも気付かれないで帰ってこれるはずがありません。
「ばれるのも時間の問題だ」
ノギクはうなだれ諦めてしまいました。
その後も、ひっきり無しに客は訪れウツギが一生懸命に説明するのですが普通の子供が椅子に座っているだけです。客は文句を言い帰っていき、ウツギは「仕事をしろ!」と同じ台詞を繰り返し、待っている次の客の案内に走ります。
ノギクは色々な事を考えてました。
「夜には戻ってくるかな」
「でも、もう遅い。ウツギが帰ってきたから」
「ガウラは今何処にいるんだろ」
「外が楽しすぎて帰ってこないのかな」
「俺、どうなるんだ」
色々と考えるのですが、答えも何もなく時間はどんどん過ぎていきました。