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三,少女ガウラ

翌日、ウツギは檻の優しい男性を引っ張り出し出掛けるようです。

ウツギは言いました。

「明日には戻る!その間は店は休みだ。中の奴らの世話はまかせたぞ。食事はいつも通りだからな!余計な事をしたら許さん!あと、奥の部屋の鍵も渡しておく。丁寧に世話をしろ!いいな」


ノギクは頷きながら、優しい男性を見ました。男性は何も話さず静かです。ウツギが男性の手を紐で縛り、まるで動物を連れていくかのように立ち去りました。


ノギクは見えなくなるまで眺めていましたが、檻の住民が騒ぎ出したので仕事に戻りました。


ウツギも客も居ないと静かです。久々にゆっくりできました。ただ、住民達の世話があるので休んではいられません。急いで朝食を用意しました、奥の部屋の住民だけは特別な料理です。

住民達に食事を与え、後は奥の部屋のみ。

ノギクは少し緊張しました。わざわざ鍵をかけて隔離するほどの人物なのですから、きっと驚くような人物だと思ったからです。


息を吐き、呼吸を整え鍵をあけました。扉をゆっくりと開いていきます。

ノギクは下を向いたまま、見ないようにしました。


確かに誰かが居る気配はありますが、相手も静かにしています。ノギクは床を見ながら恐る恐る近づきました。

「クスクス…」


突然、女の子の笑い声がしたのでノギクは緊張しました。

「下を向いてたら、檻の鍵が開けられないわよ」


女の子の声は、とても綺麗で優しいのです。

「あなたがノギク?噂は聞いてるわ」


女の子は楽しそうに話し始めました。

「お口がきけないのよね。でも、お客様の評判は最高よ。私はガウラっていうの。よろしくね」


ノギクは緊張しながらも、ガウラが見たくなってきました。

「そんな、緊張することないわよ。ただ、私は足が人より多いだけ…。怖がらないで」


ノギクは勇気を出しガウラを見ました。

金色のクルクルした髪と、綺麗な青の瞳、真っ白い肌の少女が座っていました。

確かに足が多いだけで、普通の少女。いや、とても可愛らしい少女が座っています。ノギクは、こんなに可愛い女の子を見たことが無かったので思わず見つめてしまいました。

「そんなに珍しい?大丈夫よ、私は普通の人間なんだから」


ノギクは慌てて頷きました。ガウラは優雅に立ち上がりノギクに近づきます。

「檻の外か…、少し羨ましいわ。私は物心ついた頃から檻の中だったから」


ガウラは少し寂しそうに言いました。

「お父様がね、出してくださらないの。私で金儲けするだけ」


ノギクは更に驚きました。

ウツギに娘がいたのを初めて知ったからです。

「一度で良いから外に出てみたい…」


ガウラの寂しい願いを聞き、ノギクまで寂しい気持ちになりました。娘まで売り物にするウツギに腹も立ちました。

しかし、口がきけないノギクは反応できません。もどかしい気持ちでいっぱいです。とにかく、朝食が冷めないうちにと思い檻の鍵をあけ食事を渡しました。

「ありがとう。今日はお父様はお出かけね。なら、後二回はお話しできるわ」


ガウラは嬉しそうに話しました。ノギクも頷き嬉しい気持ちになりました。

「じゃあ、また後で」


ガウラは優雅にお礼をして椅子に戻りました。ノギクは何だか楽しくて仕方ない気持ちになりました。早く、昼食の時間が来てほしい!と強く思ったのです。

待ちに待った昼食の時間です。住民に昼食を配っている途中、一人の住民が汚い口調で罵りました。

「いい気になるなよ、くそガキ!普通じゃない!狂ってる!騙されないぞ!騙されないぞ!」


いつもの事なので、知らん顔をして檻を出ました。ここでは、相手の話しに耳を傾けてはいけません。全く訳の分からない事を叫び出したりするからです。とにかく、全員に食事を配り終え楽しみにしていたガウラとの会話の時間がきました。


鍵を開け、部屋に入っていくとガウラがニッコリと微笑んでいます。この空間だけは別世界のように感じるから不思議です。一つの部屋に隔離する理由も分からなくは無いと思いました。

ガウラは嬉しそうな声で話し掛けます。

「待ってたの!一人は暇だわ。ずっと、ここに居てほしいくらいだわ」


ノギクは照れた様子で笑顔を見せました。

「朝食美味しかったわ。本当、ノギクは何でもできるのね!皆がノギクを褒めてる理由が分かったわ!」


ノギクは褒められる事に馴れていないので焦ってしまいます。しかし、ガウラは気にも止めず続けます。

「だって、お父様ですらノギクを最高だって褒めるのよ!すごい事だわ!ノギクがお父様に、ガウラを外に出してあげてって伝えたら許可がおりるかもね」


ノギクは嬉しくてニヤけてしまいました。ガウラも嬉しそうに笑っています。

「私達って、友達ね!こんなに楽しくお喋りをしたのは久しぶりだもの」


ノギクは「友達」と言って貰えたことが嬉しくて仕方ありません。元気よく首を縦に振りました。それを見たガウラは笑いました。

「そんな思いっ切り首を振ったら痛いでしょ!ノギクって面白いわ」


ノギクも声は出ませんが笑っています。しかし、ガウラは少し落ち込んだ様子になりました。

「叶わない夢だけど、ノギクと一緒に外に出てみたいな…。ちょっとだけで良いの」


ノギクも同じ夢を持っていました。一緒に外の空気をすいたいと。しかし、どう考えても無理なのです。ガウラの部屋から外に向かう通路は住民達がいます。隠れる場所さえないのです。ましてや、協力をしてくれる人なんていません。

「ほんの少し、外に出たいだけ…」


ガウラは悲しそうな声で作り笑いをして言いました。ノギクはどうにかして、初めての友達の夢を叶えてあげたくなりました。

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