人間の本音
【一,出会い】
「俺は、このまま死ぬのか…?」
賑やかな町の更に賑やかな駅前に一人の少年が倒れています。見るからに弱々しくやせ細り、汚れた布の服を着ています。
通りすぎる人は、倒れている少年に目も向けません。そこに、何も無いかのように人々は忙しく歩き回っています。
この大きな町では、よくある光景だからです。小さい子供から年寄りまで、皆ボロボロになり倒れて死んでいくのです。
この少年も、その内の一人に過ぎないのです。
「…何で…俺が…」
少年は倒れたまま、ぼーっと遠くを見ています。
町の隅っこに奇妙な家が立っています。黒一色で統一され、窓が一つもない家です。
その家は有名で、この町だけでなく国全体から人々が訪れます。
皆は金を払い、家に入っていくのです。中も蝋燭の明かりだけで薄暗く奇妙な雰囲気が充満しています。
少し進むと、大きな檻がたくさん見えてきます。
その檻の中には、奇妙な人が座っていたり、泣き叫んでいたり、地面をはいずり回ったり…、人々は興味津々で見るのです。
更に奥には、扉があり再度お金を払えば中へ通してもらえます。
その扉の中には、また大きな檻が一つあります。
檻の中には、髪は金色でクルクルと巻かれ、青い瞳と長い睫毛、真っ白な肌の少女が静かに椅子に座っています。とても、可愛らしい少女ですが一つだけ違う所があります。
足が四本ある事です。
少女の名前はガウラと言います。ガウラはにっこり微笑み人々を見つめます。
好奇心の目で見られる事に馴れている様子です。
この家は、有名な見世物小屋です。
町の祭事にも、店を出しますが、それ以外は黒い家で商売をしているのです。
町の人々は勿論、海外からも見物に来るほどの人気な見世物小屋なのです。
特にガウラは人気で、客はガウラを見るために見世物小屋に足を運び続けるのです。
ガウラは、よく理解しており客に微笑みかけたり返事をしたり上手にあしらっています。
この屋敷の主人はガウラの父親です。名前はウツギと言います。
自分の娘を見世物にするような男ですから、彼も相当ないかれています。金に貪欲で、女癖も歩く酒も浴びるように飲みます。
そんなウツギに、母親は愛想をつかして逃げてしまいましたが、全く気にせず自分の欲だけのために動く男です。
ウツギは、この屋敷を一人で管理するのが面倒になったので一人の少年を安い金額で買いました。
少年の名前をノギクと決め、掃除や檻の住民の世話などをさせました。
どんな、汚い仕事でもノギクは文句一つ言わず働きました。
なぜなら、ノギクは産まれつき声が出ない障害を持っていたからです。
ノギクの障害が分かったら、両親はすぐに売り飛ばしました。
この町では、そんな事は当たり前です。見た目は普通なのに声が出ないだけなんて、金にもならないと両親は腹が立ったくらいです。
ノギクは、何も言わずに黙々と仕事をしました。
ウツギは「安い金で、いい物が買えた!」と下品な笑い声をあげます。
客の案内もノギクにまかせるようになりました。
しかし、奥の部屋にだけは入るなとノギクに言い聞かせました。
ノギクは言い付けを守り、毎日仕事をこなしました。
相変わらず、見世物小屋は大人気で客はひっきりなしにやってきます。ノギクは走り回って仕事をこなしますが、ウツギは煙草をふかしソファーに座ったままです。
ただ、奥の部屋に客を入れる時だけはウツギが出て来て案内をするのです。
ノギクは他の仕事をこなします。檻の住民はノギクを「能無し」と呼び、叫んでみたり檻を叩いてみたりしてノギクをからかうのです。
ただ一人、両目と鼻がない年寄りだけは違いました。
彼は事故にあい、障害をかかえるようになったのだそうです。ですから、罵られるノギクに同情を感じ優しく接しました。
ノギクもこの男性だけには心を開きなついていました。
それからも、毎日、毎日…途切れる事のない忙しい日々が過ぎていきます。
ノギクの仕事ぶりをウツギは褒め、客もノギクの愛想の良さを快く思っていました。
檻の中の住民達は、そんなノギクを妬みました。「なんで、お前が人気になるんだ」「裏方らしくしろ」と罵り、つばを吐きかけてくる者もいました。
ノギクは口が聞けないので、黙ったまま仕事を続けました。
あの親切な男性は、そんなノギクを慰めました。ノギクはこの男性がいるから気持ちが楽になるんだ、と考え親切な男性の檻の中は他の誰よりも丁寧に掃除をしました。
夜になっても、ノギクの仕事は終わりません。
夜中に暴れる住人がいるため、監視しないといけないのです。
冷たい床に座り、うとうとすると奇声が聞こえ目が覚めます。そして、薬をあたえ落ち着かせる…この繰り返しです。
それに、ノギクはずっとお腹がすいていました。
朝に固いパンとミルク。
昼はミルクだけ。
夜は固いパンと暖かいスープ。
これだけしか与えられていませんでした。
ウツギは隣で白いパンに肉料理、お酒にデザートまで食べるのです。しかも、余った食事は捨てます。
ノギクは、こっそり捨てられた料理を食べていましたが、それだけでは足りません。
一日中、走り回り夜も眠れず、疲労がたまっていくばかりでした。
少し眠ると、たくさんのご馳走の夢をみるのです。
「いっぱい食べたい」
ノギクは夢を見続けました。