空模様
夕暮れ。
ただ灼熱色の広い光を放つ陽が、地平線の先へと帰るとき。
海は煌々と照り続ける丸い光を空に返す。
私は、その大きな赤の前に、小さく佇むのみであった。
巨大な赤い丸のゆらめきが私の双眸の先にある。
彼に叫んでみる。
「おーい」
返事はない。
ただ水辺の赤と灼熱の光が、私を赤く照らし続けるだけであった。
夜。
底のない闇が、明日の光を待つとき。
小さく冷たい月は、この大きな海を覆う光を持たない。
私は、その大きな闇の中に、小さく佇むのみであった。
幾多ある光の点と、ひとつの柔らかい光が私の双眸の先にある。
彼らに叫んでみる。
「おーい」
返事は無い。
ただ黒い海と小さい光を包む空の闇が、私に黒く覆いかぶさるだけであった。
暁。
海は薄明に照らされ、東雲が淡く色づくとき。
明日を待った闇は西に消え、東は澄んだ陽の色をもって海を飛び越える。
私は、その悠然とした光の訪れの中に、小さく佇むのみであった。
海の先にある光の筋が私の双眸の先にある。
彼に叫んでみる。
「おーい」
返事はない。
ただ明い始まりの光が、私の全身に飛び込んでくるだけであった。
曇り空。
ただ薄白い煙が空の光を包み込み、強いあの光を和らげる。
海の青さは、あの光が雲の先にあることを知っている。
私は、その雲の向こうの見えない光を想い、小さく佇むのみであった。
あの光を隠す厚く重い白が、私の双眸の先にある。
彼にも叫んでみる。
「おーい」
返事はない。
ただ弱弱しい光が私の前で押し黙り、とどまるのみであった。
叫んでみる。
「おーい」
太陽と月、夜の闇や雲などに、私の呼びかけは届かない。
広大な彼らに対して、あまりに私は小さすぎる。
不思議な空模様、私は空に恋をして久しいが、彼はその恋を拒まないが、応えるということもしない。
光と闇が、ただ私の双眸を美しく彩る彼らは、私など気に留めることはない。
彼は気紛れな姿を見せ、毎日形を変えながら現れる。
そんな彼らのことが、私は好きだ。