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だいいちわ


 降りしきる雨の中、女の子はずぶぬれで顔の様子は分からないけれど、どこかこの空の表情のように悲しみを浮かべているような印象を俺は受けた、だからだろうか普段なら人とは必要以上に関わったりしない俺だけれど、気づいた時には声をかけていたのは。


「なぁ、余計なお節介だとは重々承知してるが、雨宿りくらいしたらどうだ? まぁそれだけ濡れてたら今さらなのかもしれないけど、体は冷やさない方がいいだろ。」


でも、もしかしたら俺は気づいていたのかもしれないな。なぜかは分からないけれど、何かがあることを。いや、何かが起こるかもしれないってことを。


「おーい、聞こえてるか。出来れば無視はやめて欲しいんだが。あ、変な勘違いをしないでくれよ。別にやましい気持ちとかから君に話しかけたわけではなくて、純粋な親切心というか、心配な気持からのものでだな……なんかしゃべればしゃべるほど怪しい奴みたいになってるじゃねーか」


「ふふっ。大丈夫。ちゃんと聞こえてますよ、お節介焼きで少し怪しい感じのおにーさん」


「そ、そうか。それはよかった…って何が良かったんだろう。むしろ良くない方向に向かってる気がするんだが。まぁいいか」


うーん。やっぱり慣れないことはするもんじゃないな。笑われちまったし。


「あはは、何が良かったんでしょうね。ところで何か御用ですか? おにーさん」


「ん?まぁさっきも言ったが、こんなどしゃ降りの中、傘もささず、いや急な雨だから傘は忘れたのかもしれんが、雨宿りもしないで雨に濡れてるから、何かあったのかと思ってな。俺のなけなしの良心がめずらしく働いたというわけだ。ひとまず嫌かもしれんが傘に入れ。」


ほんとにめずらしい。人付き合いは苦手な方だし、ましてや見知らぬ女の子に話しかける度胸なんてないと思ってたんだがな。まぁこんなこともあるか、うん。あるということにしておこう。


「お…に……さん 」


ん?


「おにーさん!」


「うぉ! びっくりした。」


「いや、びっくりしてるのはこっちなんですけど。いきなり話しかけてきたと思ったら、急に黙り込むし。かと思ったら、突然大声あげるし、おにーさんの方こそ大丈夫ですか?」


やばい、ちょっと考え込みすぎてたみたいだ、てか心配して声をかけたというのに逆に相手に心配されるとは。


「ああ、大丈夫だ。問題ない」


「どこかで聞いたような… ところで私が何をしてたってことでしたっけ?」


「まぁ何をしてたというか、大丈夫かなと思ってさ。雨に打たれてるのに全然動かないし、なんか泣いてるみたいな感じだったしさ、これは完全に俺のカンなんで勘違いだったらすまないとしかいいようがないんだけどな」


「ほほーう。では、おにーさんは何か泣いてる感じのする可愛い、そうとっても可愛い女の子がいるぞ、ぐへへ、こいつはチャンスだ、弱みに付け込んでいいところみせてあわよくば… いただき へぶっ」


あーなんか話しかけたことを今猛烈に反省している。もし数分前の俺に何かを伝えることができるとしたら、ぜひ話しかけずにさっさと家に帰って飯でも食べるべきだと伝えてあげたいとこだ。もうこれは、あれだな、大人な対応で会話を終わらせるしかない。


「いえ、どうやら。私の勘違いのようでしたね、貴方の貴重なお時間をとらせてしまい誠に申し訳ありませんでした。こちらから話しかけておいてなんですが、この辺で私は失礼させていただきます。あ、傘はどうぞ使ってください。返していただかなくて結構ですので」


会社の傘は…まぁ忘れ物の自由に持っていってもいい置き傘だしいいか。


「あ、ちょっと。まって、待ってくださいよ。可愛い女の子の冗談じゃないですか、それくらい大人の男性ならさらっと受け止められないと、もてませんよ?」


こいつ…ぐさっと人の気にしてること言ってきやがって。なぜ初対面でしかもめずらしく気にかけた相手に俺はこんなこと言われなきゃいけないんだ? 今日はあれだな、急に雨も降ってくるしついてないな。よし帰ろう、何があっても絶対帰る。


「……それでは」


「あ、待ってって言ってるじゃないですか。てか足早っ。…私をキズものにしておいてそのまま帰るつもりなの?」


結構全力で走ってるのに追いつくおまえもな、というか女の子に追いつかれる俺はやっぱりもうおっさんなのか?俺は息を切らしかけてるのに、女の子の方はかなり余裕そうな感じだしな


「こら、人聞きの悪いでまかせを往来で言うんじゃありません。キズものになんてしてないだろうが」


「え?さっきチョップしたじゃないですか、………まさかおにーさん いやん」


「はぁー。で、何だ? まだ何か言いたいことあるのか? 」


まじで帰りたくなってるんだが。しかし、この子確かに可愛いとは思うがほほに手をあてイヤンイヤンしながらくねくねしてるの見るとシュールだな。


「え? あれ? 私がおかしいのかな? 確か私が話しかけられたのになんか私が追いかけて、話聞いてほしいみたいになってる!?」


「世の中には理不尽なことが多々あるんだ。よかったな一つ賢くなれたぞ。で、結局何をしてたんだ?」


まぁ会話自体はなんか楽しいから話してるのはいいんだけどな。初対面なのになんか話しやすいし、俺と違ってこの子は社交性ありそうだよな。いつでも楽しそうにしてそうな印象だ。だとするとさっき俺が感じた悲しそうな印象ってのはやっぱり間違ってたんだろうな。まぁ俺にひとの感情の起伏なんて分かるわけもないか、ましてや相手は女の子なんだし。


「私は、ですね。きっと道に迷ってたんだと思います、いや、迷ってるって言った方がいいのかな? たぶんそれが今の状況を説明するのに一番な気がします。自分で言ってて理解できないだろうとは思いますが」


なんだか、内容は迷子みたいだけど、内容をそのままとるには違和感のある言い回しだ、それに今まではふざけた雰囲気だったのに最初に感じた空気に近い感じになってる。


「それは、あれか? 駅に連れて行ったり交番に連れて行っても、解決しないような問題だったりするのか?」


そうだとしたら、これ以上は踏み込まない方がいいのだろう。俺は人の踏み込んだところまでお節介を焼く気もないし、そもそも出来ないだろうから。


(コクリ)


「そうか」


それからしばらくの間お互いに何も話すことができなかった、どれくらい時間が経ったのか分からないが、雨が止んでいるくらいだからわりと時間が経ったんじゃないかと思う。


「あ、やだなぁ おにーさんがそんなに気にするようなことじゃないですよ、ほら、悩めよ若者みたいな感じで昔から言うじゃないですか。それにどこかのお節介焼きで面白い人と話してたら少し楽になりましたし…ぐすっ あ、これは雨ですから、涙とかそういったものじゃないですから、心配してくれてありがとうございます、私そろそろ行きますね」


俺は踏み込む気はないし、そんなこと出来ない。だからもう今日のことは突然起こった不思議な出来事として終わらせよう。


「あぁ」


だから、やめろって。お前はそんな柄じゃないだろ?  くそっ!なんであんな一瞬見た泣き顔がこんなにも繰り返し頭をよぎるんだ。


「おい、待て。迷子なんだろ? 一人で行ってどうにかなるのか? それにそんなに濡れたままじゃ風邪ひいちまう。こんな出会ったばっかの変な奴のとこでいいならせめて服を乾かして落ち着くまで寄って行け」


ああ、くそっ ほかっておけよ。


「で、でも おにーさんに迷惑かけるかもしれないし、いやきっと、絶対かけますよ?」


そうだ、今ならまだ間に合うぞ。やめておけよ。


「提案しているのはこっちだ。そっちが問題ないなら寄って行けばいい。大したもてなしもできないし、話し相手くらいしかなってやれんが」


でも、もう無理だろ? こんな泣きそうな顔してる女の子をほかって行くなんて、どう考えても普通に迷子ってわけじゃないだろうが、それでも関わっちまったんだから、俺の俺自身の意思で。


「あはは、ほんとーにお人よしですね。じゃあおにーさんから迷惑かけていいってもいいって言ったんですから責任持ってくださいよ?」


「うっ それはそうだが…お手柔らかに頼む」


「いやです(ニコッ)」


まぁ、これでよかったんじゃないかと今のところは思ってる、ほら やっぱり可愛い女の子には泣き顔よりも笑顔の方がよく似合うだろ? どうせ勢いからこうなったんだ、若さ故と思ってしまおう。いつのまにか雨はやんで、めちゃめちゃ晴れて太陽出てるし…結局天気予報あたってるじゃねーか。


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