外国人労働者の問題を解決しようとしたら、なぜか山伏が国会に登場しました
本作はフィクションです。実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。
倭国は倭王を中心にすえた、議会制の島国だ。
「他民族との共存、まことに結構だと思います。ですが――」
議場では、凜々しい顔つきの、熱血漢の野党議員が演説している。
「この倭国に働きに来て、都合の悪いときだけ『ワタシ、ワコクゴワカラナイ』という人たちがいます。実に悲しいことです」
「それを暖かく見守るべきではないか」
外国からの労働力を積極的に受け入れている与党議員が、野次を叫ぶ。
「その理想は素晴らしいと思います。
ですが文化の違いによる軋轢が生じて、国際理解どころか、相互嫌悪が生まれている。
罪を犯した場合の責任能力・通訳・司法手続きの煩雑さから、容疑者はすぐに釈放される。
失踪後の追跡が困難なことで、倭国が犯罪天国と噂されていることをご存じですか?」
「ただの噂だろう。まだ犯罪を犯していない者まで、色眼鏡で見るとは嘆かわしい」
「はいぃ? 罪を犯しても、無罪放免にしてしまうことが問題なのですよ。教育もろくにせずに、人手が足りない民間に丸投げして、逃亡されている現状。
身に危険を感じて防犯スプレーを使用したら、こちらが傷害罪に問われる。
これにどう対策するのか、と訊いています」
「国民が一体となって、知恵を出し合うべきときだろう! 人手が足りなくて、現場が回らない。産業が、社会が崩壊する。それを防ぐために政治をしているんだ」
「はい、そこでですね。倭国公認山伏をお呼びしました!」
その議員は嬉々として、山伏を呼び入れた。
カコ、カコと下駄の音がする。
山伏はホラ貝をぼわぁ~と吹いてから、一礼した。
「あ~、この倭国で生まれた人間には、産土神のご加護がございます。それがついていない人間が『ワタシ、ワコクゴワカラナイ』と言ったときに、発動する術を編み出しました」
腹から出す太い声で、山伏は説明した。
その議員だけが、山伏に拍手を送った。
「人口が少なくなった地方の、廃業寸前のホテルや旅館を借り上げ、そこに転移させます。結界を張り、脱走はできないようにして、倭国語を学習させます。労働者たちもスマートボードは持っているわけですから、動画で簡単に学習できますね」
「それは、今でもやっている……」
「今の教材は、倭国で育った人間を前提に作られています。
必要なのは学力試験のための倭国語ではありません。ここで暮らし、働き、法を守るための倭国語です」
議員は、軽く咳払いをした。
「『こういうことをすると嫌われる』という点を教えたら、『逆に自分たちの文化を教えてやろう』と言い出す人もいるでしょう。そこで初めて、話し合うことができるのではないですか?」
一部の議員が「ほう」と感心するような声を上げ、また別の議員が「青二才が」と苦々しげに呟いた。
「とにかく、地方はその世話をするために活性化します。そこで外国人を雇ってもいいですね。
多国籍料理のレストランを開いて、地元住民と触れあうのも素敵です。
盗みの手口を聞き出すことで、防犯対策にも期待が持てます」
議員はそこで一度口を閉じ、手元の資料をめくった。
「百日ほど経っても、最低レベルがクリアできなかったら、我が国で生活するのは危険だと判断して、強制送還します」
そう言った瞬間、「横暴だ」と野次が飛んだ。
「いいですか。『立ち入り禁止』という文字さえ読めないなら、その人の命が危険に晒されるのですよ。無責任なのはどちらですか?」
堂々と言い返すと、野次を飛ばした人は口ごもる。
「倭国語で日常会話ができるか、判定する人も必要ですね。
その『我が国で働いていけそうか』というところは、その人たちと同じ国の出身で、すでに倭国に馴染んでいる人たちに判断してもらいます」
議員は、「これで平等でしょう?」と胸を張った。
「合格判定がもらえたら、外国人労働者を受け入れる提言をした政治家の事務所や団体で三か月以上、働くことを義務づけたい。
まずは好意的な優しい人たちと過ごして、我が国の印象を良くするのがよいでしょう。
受け入れ先と揉めたときに相談できる窓口があれば、受け入れる職場も安心です」
一部の人たちが、ざわめいた。
与党の政策に反対と喚くだけでなく、次々と案が提示されていく。
「それを考えるのは、与党である我々だ」
「ですが、この倭国の未来を考える者として、案を提示するのは許されるでしょう。大切なのは、どの党が提案したかではなく、どの案が国をより良くしていけるかでは?」
「ざ、財源は……」
「創設したはいいけれど、機能していない補助金や不正受給があるでしょう。それらを見直せば、宿泊に関する費用、学習教材の手直しの費用など賄えるはずです。
倭国で働く意思もなく、制度だけを利用する者。法を守る気もなく、他人の安全を脅かす者まで、無条件に受け入れる理由はありません」
議員はすっと姿勢を正し、ほんの少し緊張を滲ませた。
「言葉を選ばずに言うなら、人手不足は労働条件の悪さから来ている面があります。それを見直さずに、安い労働力として海外の人を使えばいいというのは、奴隷制と同じ発想です」
議員は拳を握った。
「それを『共生』と呼ぶのは、安っぽい理想論だと思います」
議場は水を打ったように静まりかえった。
議会は紛糾したまま、まとまることなく終わった。
「先生。ずいぶんと過激なことを言いましたね」
馴染みの記者が、すっと寄ってきた。
「ですが、合格判定を同じ国の人にやらせたら、ガバガバの判定になるんじゃないですか?」
「あ~、無法者を一番嫌っているのは、倭国が好きで定住してくれている人たちだよ。
自分たちが積み上げてきた信頼関係を、後から来た連中にぶち壊されているんだから。
この国の文化や風習が嫌いなら帰ればいい。好きだと言ってくれる人となら共生できる。
それだけの話だろ」
記者は「なるほど」とうなずいた。
「『ワコクゴワカラナイ』なんて、初めから責任逃れするつもりのロクデナシじゃなきゃ、監禁の対象にはならないさ」
この法案は、与党の反対で成立しなかった。
だが次の選挙で、この党は議席数を伸ばし、倭国は再び鎖国をするつもりかと海外メディアを賑わすことになった。
WHAT’S A “YAMABUSHI”!? NOT A NINJA, APPARENTLY!
「で? 実際にそんな術を編み出したんですか?」
記者にそう尋ねられて、その議員は肩をすくめた。
「さぁて、どうだろうね?」
「山師かよ」
記者は呆れたように突っ込んだ。




