さよなら少女壊滅戦争 GW特別編 ハロー銀河!暗黒少女ダークマター
「えいり!!どこにいるの??今すぐここに来なさい!」
君主不在の間、宍戸家に君臨する小さな女帝、伍代かぐやの声が、広い廊下に響きわたる。
ヴィクトリア調の意匠が施された壁に、街灯のようなランプが規則正しく並ぶなか、
滑らかな髪を七三分けにセットした、スポーツマン風のスーツ姿の青年が、カツカツと革靴の音を立てながら向こうから歩いてくる。
新進気鋭の弁護士、橘鋭利は、鍵のかかっていない扉を何枚か確かめながら、
「おーい、かぐやちゃん?どこ?」と、いつもは力強い眉毛をハの字に下げながら、自信なさげに声を出した。
「ここよ!ここ!えいり!早く来なさい!」
鋭利は、…ああ、ここか。と黒いオーク材の扉の前に立ち、
コンコン!と軽くノックをした。
「かぐやちゃん?入るよ?」「いいから早く入りなさい!」
鋭利が、やれやれと首を振りながら、半ば無意識にブルーのカフスボタンを触り、
「じゃあ入るよ。」と言った。
光沢のあるニスが塗られた扉を開くと、深緑の絨毯が敷かれた第四応接室の中央に、
白いレース付きブラウスと、芥子色のスカートを履いた少女が、カブリオールレッグの椅子に腰掛けて、足をぶらぶらさせている。
鋭利はギョッとした顔をして、少女の傍に駆け寄った。
「かぐやちゃん?!危ないよ!何をしているの?!」
彼は、大きな鉄製の鋏を持った少女の腕を素早く掴み、もう片方の手で、抵抗しようとする刃物を押さえつけた。
「何するのよ!放しなさい、えいり!」と、かぐやが叫ぶ。
「ちょっと待ってよ、かぐやちゃん??…ほら、いったん危ないからコレを放そうか?…て、ええ??!」と言って、鋭利は鋏を奪いながら、少女の後ろ姿を見て大声を上げた。
背もたれに寄りかかる、真っ直ぐな黒髪の小さな少女が「なによ?」と怪訝な顔をして、青年を見上げる。
「かぐやちゃん?!そ、それ、どうしたの??」
鋭利は手に持った鋏を近くの台の上に置き、
「か、髪の毛が……」と言った。
「ああ、これ?えいり、アナタを呼んだのは、他でもない。これをお願いするためよ。…自分だとうまく出来ないみたいだから……アナタに続きを切ってほしいの!」
「ちょ、ちょっと待って!な、なんで切っちゃったの?!後ろ髪……バッサリいっちゃってるじゃん!!ど、どーすんのコレ?!」と鋭利は言いながら、床に落ちた長い黒髪の束を見つめた。
「そんなに大声で騒がないでよ。…うるさいわね……。暑いし、鬱陶しいから切ることにしたのよ。あとは整えて!」と少女は言って、首から入った毛屑を痒そうにはたく。
「なんで?切ったの??長い髪は雪仁のお気に入りだっただろ?!……ヤバい……これ、怒られるのは僕の方じゃないか……かぐやちゃん……なんてことをしてくれたんだ……」
鋭利の言葉を聞いたかぐやは、一瞬たじろいだようにも見えたが、「か、髪なんてすぐ伸びるわよ!だいたいなんで、ゆきひとの思い通りにしなきゃならないのよ!私はゆきひとのお人形さんじゃないわ!!」と叫んだ。
「……と、とにかく……。このままじゃマズい。雪仁が帰ってくるまでに何とかしなきゃ。……君も僕も、この宍戸家に雇われているようなもんなんだからね?僕は、幼馴染み兼顧問弁護士見習い。君は遠い親戚兼許嫁見習い……そりゃ、僕らだって個人として自由はあるけどさ……雪仁を怒らせるのはマズいよ……友達としても申し訳ない……」
「何を言っているの、えいり?私は見習いではなく、確定の許嫁よ。準備が整ったらすぐにでもヨツギに取り組むことになっているんだからね?お母様がそう言っていたわ!」
「……」
「何よその顔は?知らないの?ゆきひとが言っていたわ。最近アメリカで、『ヨツベ』?『ヨウツギ』?とか言われるものが流行り始めているそうよ。ゆきひと曰く、童画を作ることでお金が貰えるらしいの。かぐやちゃんもやってみない?て言われているのよ。まあ私は、子供の気持ちになって絵を描くことが得意だけど、うまく出来るか今から心配だわ!」
「ヨ…、ツベ?ああ、Y○utubeのこと?あんなもの一時の流行りだよ。すぐに誰も見向きもしなくなる…。あれでお金が貰えるのなら、誰でもやるよ。馬鹿馬鹿しい……」
「えいり?今、私のことをバカと言った?許さないわよ?
ほら、早く私の髪を良い感じにしなさい!これは命令よ!どうせアナタも将来、私に仕える身になるんだから!」
「いや、かぐやちゃん……僕は召し使いじゃないから……」と、鋭利が足元に落ちている長い髪を拾おうとしゃがみこむと、かぐやが
「……あ、そういえば召し使いと言えば……」と言った。「あのイヤらしい冥土、いつもエロプンプンのエプロンから大きな二つの死亡を溢れ出させているあの女が、えいりのことを…確か何とか…って言ってたわよ」
「え?あの新人メイドさんが??え?え?僕のこと何て言ってた?」と鋭利が勢い良く立ち上がって聞き返してくる。
「なによその急な態度の変化は?…正直あの女は、えいりのことを狙っていると思うわよ?こういうの玉の輿って言うの?召し使いの分際でありながら、図々しいわよね。」
「いや、言い方……。で、彼女は僕のことを何て言っていたの?」
かぐやは、「それを教えてほしかったら、私の髪をいい感じに切りなさい。」と言った。
橘鋭利は、後ろを振り返り、腰の高さの台に置かれた鋏の方を確認したが、
「……いいや…僕は共犯にはなれないよ。かぐやちゃん……、君が髪を切ったことを雪仁に怒られたら、十中八九、僕のせいにするつもりだろ……。」と言って頭を振った。
「……意気地がないわね。私がそんなことするわけないでしょ?女の子の髪すら、ろくに切れない男は、何をやっても大成しないわよ。」とかぐやが言う。「あー、それにしても痒いわね……もうブラ薄を脱ごうかしら…」
「……いや、それは駄目だ……雪仁に殺される。」
「ハイハイ。もう分かったわ!」とかぐやは呆れて物も言えないわ、といった表情で手を振った。「もう、あっちへ行きなさい。で、代わりに港川をここへ呼んできなさい。」とかぐやは最後に付け加えた。
「港川さんを?またいったい何故、彼を?」と鋭利が言う。
「…港川はアナタよりハサミが上手でしょ?あれに私の髪を切らせるわ。」と丸襟のボタンを外し、首の後ろに手を突っ込んでパタパタとさせながら少女が言った。
「……いや、港川さんは庭師だから……。いつも使ってるやつは剪定鋏だよ。」と鋭利が唾を飲み込みながら言う。
「いいから呼んできなさい。」
「分かった分かったよ!僕が切ってあげるから!見てろよ、大正モダンなレトロガールっぽくしてやるから!……よく考えてみたら雪仁は、モガが好みなんじゃないかな??アイツもいっつも華族みたいな格好しているし……。年取ったら軍人みたいな髭でも生やすんじゃないかな」
「私はヒゲおじさんはイヤよ!」とかぐやがピシャリと言う。「御託はいいから早く切りなさい!でないと脱ぐわよ!」
「や、やめてくれ……」と鋭利は言いながら、手近にあった英字新聞を掴むと、
この小さな女帝の首に、エプロンのように巻き付けた。
そして覚悟を決めて、ロカイユ装飾を施した白いサイドテーブルに向かい、大きな鋏を取ってくる。
「…これも生け花用の鋏じゃないよな?」と鋭利が疑わしそうに言った。
「モガ、て……確かこんな感じだった……かな?」
鋭利は鋏をチョキチョキチョキ……と細かく動かし、かぐやの長い髪の毛を整え始めた。
「何やってるのよ、えいり?もっとバッサリといきなさいよ。そんなチマチマやっていたら日が暮れるわよ?ほら、ジョキッと!常軌を逸した上級者の長さにしてちょうだい!」
「……か、かぐやちゃんホントにいいの?後で怒ったり、泣きわめいたりしない?」
「なんで私が泣きわめくのよ?切らないと怒るわよ!」
「……わ、わかった。」☆除菌☆
はらり……と、大きな髪のフサが、静かに床に落ちていった。
「前髪も切って」とかぐやが言う。
☆茶巾☆「………」
バタム。
鋭利とかぐやが顔を上げると、目の前に扉を開けて立つ若いメイドの姿があった。
「……た、た、た、橘様……?そして、か、か、、かぐやお嬢様……?!こ、これはいったい?!な、何をされているのですか??」
鋏を持った鋭利と、新聞紙を被ってお膝に手を乗せて座るかぐやが、キョトンとメイドを見つめ返す。
かぐやの髪は、右と左の長さが違い、前髪は小指の第一関節ほどの長さにパッツンされ、
絨毯にはどっさりと黒々とした髪の毛の束が重なっていた。
「ぱ、ぱっつん………」と若いメイドの娘は震える指先で、小さな暴君の新しい髪型を指差した。
かぐやが、「えいり?アナタのお気に入りの召し使いが、ぱっんつ…とか言ってるわよ。ハレンチ極まりないわ…」と言った。
慌てた様子のメイドが、レース付きのエプロンから溢れ出す思慕うの塊を揺らしながら駆けてきて、
鋭利を押し退けると、お嬢様の背後に回り込んだ。
そして「ハ、ハゲてる………」と言って、和尚様の後頭部を指差しながら、鋭利を振り返る。
「橘様!これはいったいどういうことですか?!髪は女の子の命!雪仁様より断髪禁止令が出ているのをご存知ないんですか??私はここに雇われてから、一度も髪を切っていません。まあ、流石に揃えては貰ってますが……」
「そうなの?風船メイド?じゃあアンタら使用人達は、ワキあいあいでスネオ君の毛もボーボーのままなの?」とかぐやが言う。
「コ、コラ!かぐやちゃん、やめなさい!」と鋭利が真っ赤な顔をして大声を出す。
メイドも真っ赤な顔をして「……そ、そっちは当然処理しています……」と小さな声で言った。「トニカク!!!その頭は何とかしないといけません!雪仁様がかぐや様のそのお姿を見たらその場でお倒れになります!きょ、今日は私がかぐや様のお世話をする日でしたから……、私も処罰されてしまいます!」
「血叩きの刑ね……雪仁のクリケットの棒は痛いわよお……」とかぐやが楽しそうに言った。
「か、かぐやちゃん???ま、まさか、君は雪仁にクリケット棒で叩かれたことがあるのか!??」と鋭利が目を白黒させながら叫んだ。
かぐやが、パンダのようになった若き弁護士を振り返りながら「ゆきひとは、いつも私をお膝に乗せてペンペンするわよ?まあ、私がいつも悪戯したり、我が儘言ったりするのが悪いんだけどね?……でもその後、優しく軟膏を塗ってもらえるわよ?でもさ、あれ、気のせいかちょっとしみるのよね……」と言う。
「ゆ、ゆ、ゆきひと……お前……捕まるぞ……」と鋭利はパンダのような顔を、更にタヌキみたいに劣化させながら後退りをした。
「か、かちかち山……」と若いメイドも顔を青冷めさせながら言い、「わ、私は処罰はイヤです!」と叫んで、「ちょっとそのままお待ちください!」と、ぴゅー!と走り去っていった。
鋭利は、「……で、でも確かに…。ちょっと切り過ぎたかな……」と胸の前で腕を組みながら、新聞紙の前掛けをした少女の回りをグルッと回り……、ハゲを発見すると、…マズい……と考えていた。
……いっそ、もっと短くしたらどうだ……ツルツルに……かぐやちゃんはまだ子供だからツルツルでもいいだろ……許せ、雪仁……。と鋭利は鋏を、チョキ長期貯金……と動かした。
かぐやが、「ゆきひとが、私をお膝に乗せて御知りペチペチする時は、いつも語感がカチカチ山だなぁって思っていたわ。(意味深)」と言った。
オーク材の扉を小さく開け、身体の出っ張りをつかえさせながら、メイドが応接室に滑り込んでくると、
彼女は再び鋏を持ってかぐやの後ろに立っていた鋭利を見て
「ご、五分刈り……」と言った。
「鏡を見せて」と言うかぐやに、鋭利は「……こ、これは君を雪仁の毒牙から守る為だ……。髪の長い少女は雪仁にとって魅力的過ぎるから……。」と言って手鏡を2枚持ってくる。
かぐやは「………」と、合わせ鏡で頭を確認すると、「つるっぱげ……」と呟いた。
少女は椅子に座ったまま足を内股にすると爪先で立ち、英字新聞を首に巻いた姿でニッと笑いながら「剃毛、纏足、てルてルぼうず。あーした天気にな~れ!」と歌うように言った。
「持ってきたので……こ、これをお使いください……」とメイドがダークピンクのウィッグを差し出す。
「その色しかなかったの?」と鋭利が呆れたように呟いた。
「橘様が言えた立場でしょうか……」とメイドが申し訳なさそうに言う。
「ドレどれ……」とかぐやがノリノリで濃桃色のカツラを被る。そして立ち上がり鋭利の手からトワル・ド・ジュイの青い手鏡を奪うと、
人工毛をふわりと膨らませながらクルリと回り、「変死~ん♡」と唱えた。
英字新聞が視覚化された詠唱呪文のように宙に舞い上がり、
そのまま本物のアンティークの椅子の座面に飛び乗ったかぐやは、手鏡を振り回し、天井からぶら下がったミニシャンデリアすれすれに装飾部分をかすらせた。
「それ僕の給料より高いから気を付けて!」と鋭利が叫び、
メイドは、くるくると回るお嬢様の辛子色のスカートが傘のように開き、ゐ恥護のおパンツが見え隠れするのを見て悲鳴を上げた。
すぐに彼女は、ジャガード織りのソファから目の細かいレースカバーをひっ掴み、お嬢様の一期一会を橘鋭利の目から隠す為に走り寄ったのだった。
(おしまい♡)
『Farewell to the Girl's Annihilation War/Hello Galaxy!Dark Girl Dark Matter』
今回完結した『おやすみ少女ロボトミー・フェスティバル』への反響が、全くないので…、過去作の特別編を書いてみました。
またカレイドスコープ先生のお話を読みたいな、と思った方がいらっしゃいましたら
★★★★★をお願いいたします。先生なら息を吐くようにY談を量産出来ますから!
さようなら!そしておやすみなさい!
またどこかでお会いしましょう。




