第1章 知るために、外へ ②
セラヴィが前に出た。
声音は穏やかだが、はっきりしている。
「私は反対です」
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広間が静まる。
「妹は目覚めたばかりです。意識を失っていた時間も長い。敵の前に立たせるには、まだ早い」
強い言葉だが、怒りはない。
ただ、案じているのだと伝わる。
ユリエルはそっと息を吸って、兄を見る。
「セラヴィ」
「無茶はしないわ。今回は、ひとりで動かない」
「それはいつも聞いている」
柔らかいが、少しだけ皮肉が混じる。
広間の空気が、ほんのわずか緩む。
「……今回は、本当に」
「…陛下。我が妹の捕虜交換立ち合いに、倍の護衛と癒術官も同行させることをお許しください」
王へかしづき述べるセラヴィ。
「そこまで?」
「当然です」
当然のごとく、言い切った。
王がわずかに口元を緩めた。
「セラヴィ。過保護が過ぎる」
「否定はしません」
さらりと返す。
広間に、小さな笑いが落ちた。
妹を案じすぎる兄は、どうやら森でも有名らしい。
――あらあら、この人は本当に過保護なのね…
ユリィは肩を落とす。
「陛下。いかがでしょうか」
王は静かに頷く。
「よかろう。ユリエル、捕虜交換に同行せよ」
決定が降りた。
魔術至上派の一部が渋い顔をするが、王の言葉は覆らない。
軍議の後。回廊を歩く2人。
見目麗しいエルフの種族の中でも、秀でて目を引く兄妹が並んで歩く姿は絵画のようである。
「本気なんだね」
セラヴィの声は、先ほどより柔らかい。
「ええ」
「怖くはない?」
「もちろん、怖いわよ」
即答だった。
兄は少し目を細める。
「それならいい」
「いいの?」
「怖いと思えるなら、無茶は減る」
――こういう言い方が、やはり清一さんに似ているわ
リュネが頭の上で動く。
「ユリィいく?」
「行くわ」
「リュネも?」
「……あらあら、あなたも来るの?」
「いく」
即答。
セラヴィがちらりと見上げる。
「その子も連れて行くのかい?」
「だめ?」
ユリエルが首を傾げると、セラヴィは小さく息をついた。
「……君の髪から離れないなら、仕方ない」
半分あきらめの表情。
準備が始まる。勉強も足りない。
――エルフの森の外はどうなっているのかしら
――不謹慎…?でも…
――わくわくするわ
捕虜交換まで、時間は少ない。
そこでの出会いが、百年を生きた百合江の心をもう一度揺らすことになるとはーー
まだ、知る由もなかった。
「森と鋼のあいだ」を読んでいただきありがとうございます。作者のヒトツキト樹です。
ユリエルは捕虜交換の場へ向かうこととなりました。
果たして、どうなるのか…
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