第1章 知るために、外へ ①
❖ ここまでのあらすじ
百年を生き、大往生を迎えた百合江。
穏やかに人生を終えたはずの彼女は、
目を覚ますとエルフとして生まれ変わっていた。
ユリエルはこの世界について、学び、2回目の軍議に向かいます。
それから数日、ユリエルは書庫に通った。
白樹の幹をくり抜いた書庫は、昼と夜で光の色が変わる。昼はやわらかく、夜は青く澄む。文字は魔術で刻まれ、指先でなぞると、わずかに温度を持っていた。
リュネは、ユリエルより先に書庫にいた。
「むずかしい?」
頭の上から声が降る。
「ええ、とても」
「ねむい?」
「少しね」
すると、もふ、と頬に体を押しつけてくる。
慰めているつもりらしい。
ユリエルは笑う。
百年戦争は、なぜ始まり、なぜ終わらないのか。
鋼の民は地下を掘削する。
魔力は森を循環している。
ーーうーん…やっぱりむずかしいわね
思わず、天井をあおぐと外から差し込む美しい光に少しホッとする。
――分からないままにしたくないの。
「魔力は、森を流れているようね」
リュネに話すように、口に出して整理する。
「ながれ?」
「ええ。だから森が弱れば魔力も弱まるし、その逆も起こる」
元のユリエルが倒れた理由は、記録として残っている。だが、その時の決意や焦りは、百合江には分からない。
分かるのは結果だけ。
だから、決めつけない。
ただ、繰り返さないと心に置く。
次の軍議。
王の間の空気は、前よりもわずかに張りつめている。
ユリエルは軍議の開始と同時に立ち上がった。
「陛下。発言をお許しください」
「許可する」
王は目を細める。
ーー前回の軍議では精彩を欠いていたが、 さて、 今回は…
「前回はご期待に沿えず申し訳ございませんでした。」
「今いちど、森と鋼がぶつかる“場所”の調査を進言いたします」
ざわり、と視線が集まる。
「押し返すか、防ぐかの前に、相手を知ることが必要です。いきなり掘削を止めさせることはできません。けれど、近く行われる捕虜交換は、戦場ではない場所で相手を見る機会になります」
王は静かに問う。
「何を見る」
「姿勢と、目的です。掘削が資源のためか、戦略のためか。言葉の端に、手がかりがあるはずです」
反対の声が上がる。
「危険だ!」
「敵の前に出るなど…」
そのとき。
「……陛下」
セラヴィが前に出た。
声音は穏やかだが、はっきりしている。
「私は反対です」
「森と鋼のあいだ」を読んでいただきありがとうございます。作者のヒトツキト樹です。
戦いありきでは無いユリエルは、きっと軍議では異端なのでしょう…でも、争いだけが解決では無い。百合江おばあちゃん、がんばってほしいです。
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