第1章 王の間と、森の庭 3
王の間を出ると、頭の奥がじんとした。
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ユリエルは小さく息を吐く。
一度は命が終わり、目を開けるとエルフに転生。考えを整理する間もなく、次々と押し寄せる情報。
自然と足が止まる。
「......少し、外の空気が吸いたいわ」
なるべく、平静を保った声で言ったつもりだったが、セラヴィにはユリエルの戸惑いが伝わっていることだろう。
「王宮庭園に行ったらどうだ」
ーー王宮庭園…
胸の奥がわずかに揺れる。
ふわふわとした髪の小さなエルフの女の子が、まるで森のような庭園で考えごとをしている情景が脳裏に浮かんだ。
ーーユリエルのお気に入りの場所なのね
「場所はわかるか?一緒に行こうか?」
セラヴィはユリエルの顔を覗き込みながら、優しく問いかける。
「あらあら、心配性ね。もちろん一人で行けるわ」
ふわりと微笑むと、ユリエルは王宮庭園への回廊へと向かっていった。
回廊を抜けると、王宮の奥に続く庭園がある。
庭園といっても整えられた花壇ではない。森の一角をそのまま活かした空間だ。細い水路が流れ、苔が淡く光り、風が葉を撫でている。
静かだ。
ユリィは腰を下ろした。
「やれやれ、つかれたわぁ…」
「それに…なんだか難しそうなことが起きてるのね」
ぽつりと漏らす。
その瞬間。
ふわり、と何かが降りた。
頭に、軽い重み。
「……あら?」
白い、丸い、もふもふ。
手のひらほどの小さな何かが、ユリィのふわふわとした髪に顔をうずめている。
「あら、どなたかしら……?」
「ふわ……」
小さな声。
ユリエルと同じ藤色の瞳が、きらりと光る。
毛並みは雪のように白く、羽のように軽い。
髪を、もふもふと掴む。
「あらあら。気に入ったの?」
「ふわ、すき」
はっきりとは言えない。
だが意味は分かる。
「あなた、一人なの?」
もふもふはユリエルの手の中に舞い降りて、首を傾げる。
「リュネ」
自分を指すように胸を叩いた。
「リュネ?」
「うん。リュネ」
小さなこどものような話し方。
ーーあらあら、こどもたちの小さい時を思い出しちゃうわ
ユリィは少し笑って、リュネを撫でた。
「一緒に来る?」
冗談半分で聞く。
リュネは真剣な顔で、こくんと頷いた。
「いく」
即答。
「……そう」
リュネは舞い上がり、ユリエルの頭の上に、ぴたりと収まる。
白銀のウェーブに絡まり、満足そうに目を細める。
「あらあら、よろしくね。私はユリエルよ」
「うん。ユリエル」
少し誇らしげ。
森の風が、やわらかく揺れる。
頭の上が、あたたかい。
軍議の重さが、少しだけ軽くなった。




