第1章 王の間と、森の庭 2
❖ ここまでのあらすじ
百年を生き、大往生を迎えた百合江。
穏やかに人生を終えたはずの彼女は、
目を覚ますとエルフとして生まれ変わっていた。
王の間で彼女はエルフ王と対面する。
回廊の奥、開けた空間に出た。
ーー王の間だった。
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樹の内部をそのまま広間にした空間。中央に根のように広がる壇があり、その上に玉座が置かれている。装飾は過度ではない。だが森そのものが威厳を持っている。
玉座に座るのは、壮年の男。
白銀の髪、深い森色の瞳。静かな威圧。
転生したばかりの百合江でもわかる。
エルフ王。
ユリエルは自然と背筋を伸ばしていた。
「目覚めたか、ユリエル」
王の声は低く、落ち着いている。怒りも焦りもない。だが奥にあるのは、揺るぎない意思。
「はい……陛下」
口が自然に応え、身体が自然とカーテシーを行う。
知らないはずの作法が、身体に残っている。
王はセラヴィを一瞥し、軽く頷いた。
「よく守ったな」
その一言で、兄の肩がわずかに下がる。
守った。
魔力暴走の後、目覚めないユリエルを待ち、守り続けたという意味だろう。
広間に並ぶのは王家に連なる者たち。ユリエル、セラヴィのアルヴァリス家を筆頭とする五大貴族の代表たち。
その中には、冷ややかな視線もあった。
魔術至上派。
森を守るためには外を拒み、変化を拒む思想。
軍議が始まる。
「南の森が削られている」
「鋼の民の掘削が影響している」
「守りを強めるべきだ」
次々と言葉が重なる。
だが、ユリエルの思考には繋がらない。
ユリエルは黙って聞いていた。
王が視線を向ける。
「ユリエル。森の国随一の軍略と魔術を誇るアルヴァリス家の意見を聞きたい」
静寂。
ーーあらあら、困ったわ…
ユリエルは立ち上がった。
ーー正直が1番よね
「……分かりません」
広間がざわつく。
「言葉は理解できますが、思考が追いついていません」
王は怒らない。
「ふむ…まだ、目覚めたばかりか…」
「理解せぬまま頷くより、理解せぬと認める方がよい。学び、思考を取り戻し、次に来い」
期待が重くのしかかる。
軍議は続く。
ーーあらあら、まったくわからなかったわ
それでも、百合江には百年を生きた、したたかさがある。
ーーとにかく、この子はすごく期待されてるのね
王の間を出ると、頭の奥がじんとした。
「森と鋼のあいだ」を読んでいただきありがとうございます。作者のヒトツキト樹です。
なんだか、不穏な森の国。。。
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