第1章 王の間と、森の庭 1
❖ ここまでのあらすじ
百年を生き、大往生を迎えた百合江。
穏やかに人生を終えたはずの彼女は、
目を覚ますとエルフとして生まれ変わっていた。
兄セラヴィに連れられ、
彼女は王の間へ向かうことになる。
森は、静かだった。
まろやかな陽の光を白銀の髪に反射させながら、颯爽と王の間へ向かうセラヴィの背を追い、ユリィは森の王宮を歩く。
巨大な白樹が絡み合うように立ち、その幹の内側をくり抜いた回廊が幾重にも続いている。光は天からではなく、幹の奥から滲み出るように淡く満ちていた。
呼吸する都。
だが、その呼吸のどこかに、わずかな淀みがある。
胸の奥が、ざわりとする。
ーーなんだか、息苦しい。
――魔力循環の乱れ。
セラヴィの言葉が蘇る。
森が息を止めかけている。その異変を察知し、ユリエルは単独で修復術式を試み、倒れた。
“君らしい無茶だった”と、兄は言った。
百合江の記憶の奥で、苦笑が浮かぶ。
止められてもする。守ると決めたら曲げない。
それは確かに、百合江にもあった。
「……落ち着いてるね」
前を歩くセラヴィが、ふと振り返る。
声は低いが、やわらかい。
「目覚めたばかりとは思えない」
ユリエルは一瞬、答えに詰まる。
実は転生して、百年分の人生を終えているからだとは言えない。
「……あらあら?混乱してるわよ?」
「でも、セラヴィがいるから、私は大丈夫」
少し肩をすくめて言うと、セラヴィは目を細めた。
「そうか。無茶が得意な、おれの妹君は本当にたくましい」
言い方はやわらかいが普段から妹に振り回されている様子がうかがえる。
ーーあらあら。エルフの世界も兄と妹ってこうなのね
清一との間に誕生した子どもたちの顔がよぎり、少し胸がしめつけられる。
ユリエルが立ち止まるとセラヴィは振り返り、ユリエルの頭に手を置いた。
その温度に、胸の奥がほどける。
回廊の奥、開けた空間に出た。
そこが王の間だった。
「森と鋼のあいだ」を読んでいただきありがとうございます。作者のヒトツキト樹です。
第2章はじまります。物語がうごきはじめます。楽しみにしていてください
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