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森と鋼のあいだ ー大往生 のち 恋をするー  作者: ヒトツキト樹


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第2章  森が息を潜める朝

第1章 あらすじ

百年の生を終えた百合江は、エルフの少女ユリエルとして新たな世界に生まれ変わる。

森の魔力循環の乱れと、森の民と鋼の民が百年争い続ける戦争の現実。

捕虜交換の場で出会った鋼の王太子レンヴァルトの瞳は、かつての想いを呼び覚ました。

――今度こそ、間に合わせるために。


ーーーーーーーーーーーーーー


朝の光が白樹の隙間から差し込み、白い床に揺れる影を落としていた。

リュネはユリエルの肩で丸くなっている。まだ、完全に起きてはいないようだ。

外では風が葉を揺り動かしている。


――……静かね


葉のそよぐ音や鳥の声が聞こえてくるのに、ユリエルには、なぜかそう感じる。

けれど、その静けさの奥に、どこか張りつめたものがある。


胸の奥に残る、わずかなざらつき。


この世界で目覚めてからずっと続いている感覚。


――あらあら?


森の呼吸が、ほんの少しだけ浅い気がする。

だが理由は分からない。


「捕虜交換の件だ」          


玉座の上から、エルフ王が言った。

その声で、ユリエルは意識を今へと、戻した。


――いけない。軍議中だったわ


数日前。

森と鋼の国境で行われた捕虜交換。その場で、小さな衝突が起きた。


鋼の王太子へ向けられた刃。


すぐにセラヴィが取り押さえ、事態は収まった。

だが、その出来事は軍議に影を落としていた。


軍議に集まっているのは三者。

王家、五大貴族、そして評議会。

森の国の意思は、この三つの力で決まる。


貴族や評議会メンバーたちが次々と口を開く。


「王大使が襲われかけたというのに、鋼が沈黙しているのは不自然でしょう」   

「こうしている間にも、南の森は既に削られている」           

「掘削が進めば、森の循環は乱れる」


言葉が重なり、空気は熱を帯びていく。


――あらあら、やっぱりそうなるのね


ユリエルは静かにそれを聞いていた。

前世でも、こういう場面は何度も見てきた。


誰もが、守ろうとしている。    

ただ、それだけ。


――でも、見ている場所が違うのよねぇ


王の視線が動く。静かな声で呼ぶ。


「ユリエル」  

「はい、陛下」          

「アルヴァリスの意見を聞こう」


ユリエルは立ち上がる。


「鋼との交渉を提案します」


空気が揺れた。


「交渉?」             

「今さら?」


ユリエルは続ける。


「えぇ。戦が始まっていない今なら、話す余地があります」


軍議の場は沈黙に包まれた。 

葉の音と鳥のさえずりだけが聞こえてくる。

その沈黙を破ったのは、セラヴィだった。


「同意します」           

「衝突はあったが、戦を始める理由にはならない」


数人の視線がセラヴィへ向く。


ユリエルも、揺るぎのない翡翠色の瞳を王へと向けて立つ兄へ視線を送った。


――あぁ。やっぱり。       

――きっと、この人は、いつもそうなのね。


セラヴィも清一さんも守ろうとする。

盾になる。


王は沈黙している。


そのときだった。

扉が開き、衛兵の声が響く。


「急使です」


軍議の空気が変わる。

急使は息を切らし、玉座の前に飛び込み、床に膝をついた。


「森の監視隊より報告!」


「申せ」


急使の声はわずかに震えていた。


「南東の森で――」

一瞬、言葉を詰まらせる。


「異常な魔力反応が確認されました」


ざわめきが広がる。


「異常な魔力反応?」           

「森で?」


ユリエルの胸の奥が、小さく揺れた。


あの違和感。

名前を持たなかった感覚が、ほんの少しだけ輪郭を持つ。


――やっぱり。


けれど、まだ分からない。

何が起きているのか。それが何を意味するのか。


窓の外で風が吹いた。


葉が揺れる。


その音は、いつもより少しだけ鋭く聞こえた。

まるで、森からの呼びかけのように。


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