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森と鋼のあいだ ー大往生 のち 恋をするー  作者: ヒトツキト樹


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第1章 名を呼ぶ声 2

 「うわぁぁぁ!!!」

 森側の列から影が飛び出した。 


 ーーーーーーーーーーーーーーー


短剣が、一直線にレンヴァルトへ向かう。

空気が裂ける。


セラヴィが動いた。


無駄のない動きで、刺客の腕を掴み、その勢いを殺して静かに地へねじ伏せる。

制圧は完璧だった。


同時に、ユリエルの身体も動いていた。

 

考えるより先に、レンヴァルトの前へ踏み出す。


鋼の兵は臨戦態勢をとりながら、ざわめいている。


レンヴァルトは剣に触れない。

ただ、自分を庇うように立つ、女エルフを見つめた。


 「……おい」


とっさに、振り向き仰いだユリエルを見つめる、レンヴァルト。

その漆黒の瞳の奥に、赤銅の光が一瞬滲んだ。


百合江の記憶が、堰を切ったように溢れ出す。

 

蓮は、戦うことを好まない青年だった。

 

鍬を握る手は強く、土を知っていて、争いよりも作ることを選びたがった。

けれど国が揺れ、村が揺れ、若者たちが徴兵される中で、

蓮もまた名を呼ばれた。

 

 「本当は、行きたくない」


そう言った夜がある。

月明かりの下、百合江の前で。

それでも彼は続けた。


 「でも、ここがなくなったら、百合江の笑う場所がなくなる」


守るために、戦うと決めた蓮を、百合江は止められなかった。

行かないで、と言えば彼の決意を折ることになると分かっていたから。

 

出征の朝、笑って送り出そうとしている百合江を、

蓮が一瞬だけ強く抱きしめた。


 「行ってくる」

 「…うん」

 

「必ず、帰ってきて」と本当の気持ちを言えなかった。

蓮も「待っててほしい」とは言わなかった。


だから手紙を書いた。


震える手で、「待ってる。帰ってきてほしい」と。

 

けれど、その手紙は、蓮の手には届かなかった。

戦死の知らせは、紙一枚だった。

間に合わなかった。


 「ユリィ!!!」

 

セラヴィの声がユリエルの思考を引き裂く。

 

はっとする。


刺客は地に押さえつけられ、鋼の兵は、いまだ臨戦態勢。

境界の風が強く吹き抜ける。

 

ユリエルは一歩下がり、息を整える。


 「……もっ…申し訳ありません!」


あっけにとられ、ただ立ち尽くしていた、森側の代表が慌てたように謝罪する。

だがユリエルは、レンヴァルトから目を逸らさない。

 

 「あなたには、必ず生きて帰ってほしい」

 

声は静かだが、震えていない。


レンヴァルトの瞳が、わずかに細くなる。

赤銅が、ほんのかすかに光る。


 「それは、命令か」

 低い問い。


 「いいえ」


言葉を紡ぐほどに、過去が崩れ落ちる気がした。

風が二人の間を通り抜ける。


やがてレンヴァルトは、ほんのわずかに顎を引いた。


 「覚えておこう」


それだけで、十分だった。

 

捕虜交換は再開され、形式通りに進む。

双方が距離を取り、それぞれの陣へ戻っていく。


森へ戻る道で、ユリエルは、ただ前を見つめていた。

振り返れば、過去に引きずられそうだった。

 

頭の上で、リュネが小さく囁く。


 「ユリィ ないてる?」

 「……ううん」

 「さぁ、森へ戻りましょう」


目の端が熱いのは、強い風のせいかもしれなかった。







「森と鋼のあいだ」を読んでいただきありがとうございます。作者のヒトツキト樹です。


ユリエルとレンヴァルトが出会い、物語が深まります。


ぜひ、ブックマークをして、続きを楽しみにしていただければ嬉しいです。

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