第9話 あー……。アイリスお姉様のスキルって素晴らしすぎる
「あー……。アイリスお姉様のスキルって素晴らしすぎる……」
「そお? ありがとカリンちゃん」
テントで眠って、這い出てきて。
今はカリンちゃんとわたし、バルコニーでお茶をしています……。
椅子に座っているのはわたしとカリンちゃんだけ。
ローズとフローラ、護衛の皆さんが立っているのは当然としても。
……青の騎士団の副団長という地位にあり、しかも伯爵令息という肩書も有しているイグニス副団長を立たせっぱなしっていうのは……と思うんだけど。
椅子をすすめても座ってくれない。
「私は護衛ですから」
職務は護衛かもしれないけど、その護衛組織のナンバーツーでしょうに。
ま、無理強いはよくないか。
カリンちゃんは朝食も食べずに、教育係たちから逃げてきたというので、お茶とケーキではなく、軽食を用意してもらった。
グラタン皿に、薄切りにしたパンとリンゴジャムを交互に並べ、そこに卵と牛乳とお砂糖を混ぜ合わせたカスタード液をかけて、オーブンで焼いたプティング。
一口サイズのサクサクパイ生地に包まれたミートパイ。
それから熱々の紅茶。
すっごくおいしい!
めちゃめちゃ美味しい!
ネット小説の異世界転生系の物語では、ご飯がマズくて、和食チートで異世界台所事情を変える! とか、よくあるパターンだけど。
フィッツジェラルド神聖王国はご飯が美味しいです……。ありがたい……。
ご飯って、大事よね……っと、しみじみしてしまう。
不満なのは水かなあ……。
この国の水って、軟水じゃなくて、硬水みたいなんだよね……。肉料理とかコーヒー、紅茶の苦みや刻を強めてくれる感じで。それから、一度沸かさないで、そのまま生水を飲むとお腹を壊しますよって、ローズに言われた……。
口当たりが柔らかい生水が飲みたーい!
そんなことを言ったら、カリンちゃんに激しく賛同された。
「あたし、モデルだからってわけじゃないけど。水の種類にはうるさいんですよ。最近は霧島連山から汲み上げたミネラルウォーター、通販でお取り寄せしてます」
ああ、希少ミネラルが溶け込んでいるせいか、まろやかな舌触りでリッチなお水と評判の。お値段も結構高いけど。
いや、わたし、コンビニで売っている何とかの天然水でいいよ。
「そこで水道水でいいよとか言わないあたり、お姉様、実は結構イイトコのお嬢さんだよね?」
「ええ?」
「食べ方もキレイだし」
「そ、そうかな……?」
「うん。ミートパイのパイ生地。あたし、食べ方下手だから、パイ生地の食べこぼしで、テーブルとかお皿の上とか汚いでしょ」
汚くはないけど……、確かに食べこぼしのパイ生地のかけらが、テーブルクロスの上にまで落ちていた。
「アイリスお姉様のお皿。まるでペーパーナプキンとかで拭ったみたいにすっごくキレイ」
「い、いや、その……」
「お茶のカップとか、音もたてずにソーサーの上に戻すし。この国に来てから、あたしは、淑女教育とか受けて、マナーとか覚えさせられたけど。アイリスお姉様、マナーの授業、受けてないでしょ」
「ええとー。わたしは聖女様じゃないから免除されているんだよね?」
控えているローズに目線を投げたら。
「いいえ。アイリス様の立ち居振る舞いは、我が国の高位貴族でも通用いたします」
「うそっ!」
「敢えて雑にしているようでいらっしゃいますが。育ちというものは動作の端々に出るものでございます。アイリス様の場合、平民が高位貴族のマナーを身につけた……のではなく。元々高位貴族のマナーが身についていたけれど、敢えて平民を装っているような立ち居振る舞いとお言葉遣いでございますね」
「うっ!」
……ローズ、実は観察眼的スキルとか持っているのかなあ! それとも侍女だから、お付きの人のことはよく見ているってやつ⁉
ローズだけじゃなくて、イグニス氏までが頷いているし。みんな鋭い……。
「喋り方とかは、フツーなんだけど。お嬢様言葉とか、実はできるんじゃないの?」
……カリンちゃんも観察眼的スキルとか持っているんじゃないの⁉
「あー……、騙すつもりとかじゃあないんだよ? ただ……」
「うん」
「わたし、幼稚園から高校までは、エスカレータ式の私立女子学園に通っていて」
「やっぱりお嬢様!」
いや、本物の華族の人とかではないからね。
「父親がね、大企業ではないけど、地元では……まあ、それなりに有名な会社を経営していて。で、お嬢様幼稚園、お嬢様小学校、お嬢様中学校、お嬢様高校と進んで」
「わあ……!」
「大学で、初めて国公立に進んだのよ。男の子とおんなじ教室で勉学なんて初めてで」
わたし、同世代の殿方なんて、大学に入学するまでお兄様しか知らなかったもんね……。
ちなみに幼稚園の時から通学時は車です……。我が家は専属の運転手、雇っているのよ……。
「完全隔離の純粋培養お嬢様⁉」
「おかげで大学一年生の時はカルチャーショックの連続だった。だって、わたし、フツーに『ごきげんよう』って挨拶したら、大学の皆様、ドン引きで」
「そりゃあそうでしょう! フツーじゃないよ!」
カリンちゃんが呆れたように言った。
「ごきげんようなんてどこの世界の言葉よ!」
「いや、それがわたしのフツーだったのよ……」
今から思えば、とほほ……ですけどね。それで、周囲に溶け込もうと頑張ったのよね。何とかみんなのフツーに合わせたいって。
で、大学のみんな、優しいから。いろいろ教えてくれたの。
カラオケ、マンガ喫茶、飲み会に、合コン。それからコミケ。
最初はカルチャーショックだった。
でも、大学二年生、三年生と進む頃には、大学のみんなとの交流のほうが当たり前になって来て……、もう、元のお嬢様的生活には戻れないなーなんて。
戻れない理由は、それだけじゃなくて、もう一つあるんだけど。




