最終話 ザザーン、ザザーン……と、波の音みたいなのが聞こえる
ザザーン、ザザーン……と、波の音みたいなのが聞こえる。
ザザーン、ザザーン……きゅいきゅい。
ん? きゅいきゅい?
閉じていた目を開けようとして……、眩しくてまた目を閉じる。
眩しいって、どういうことだ?
わたしはさっきまで、カリンちゃんと一緒に……お城の地面の下にいて、魔と……、そして、竜巻みたいな風に吹き飛ばされて……、で、どうしたっけ……?
目を擦って、もう一回目を開けてみる。
すると……。
『娘よ、何を遊んでいるのですか?』
オルカのドアップが!
「わ、わあああああ……!」
海の砂浜。わたしは波打ち際に倒れていた……みたい。波が足にかかって、それで……。右側と左側に、ずらーっとオルキーヌス・オルカたちが並んでいる!
な、何の冗談……。いや、オルカたちは遊びたがりだから、遊んでいるのかも……。しかも期待されているみたいな、わくわく顔で、みんな、わたしを見ている……。
こ、これは……。
わたしはすっくと立ちあがり、オルカたちを見る。
期待度が高まったのか、オルカたちがヒレで、その体をびちびちと叩く。
少し遊ばないと、オルカ・アタックとか、されちゃうかも……。
「オルカのみなさんこんにちは。この世界の神様たちに吹っ飛ばされて、この砂浜に寝転んでおりました。状況は、わたしも掴めておりませんが、せっかくですから一曲歌いましょう!」
半ばヤケになって、右の拳を空に向かって振り上げたら。
オルカたちの、やんややんやの喝采……ではなく、ヒレの音。
わたしはコホンと一つ咳をしてから、あーあーあーと発声練習。
……どれだけここで寝っ転がっていたのかなんて分からないけど、声は出る。不思議なことに喉も乾いていない。
海辺で寝っ転がっていたのにねえ……。ま、それは後ででいいか。
オルカたちがものすごい期待に満ちた目でわたしを見ているし……。
すっと息を吸って、有名なファンタジーアニメのエンディングの歌を歌う。
明るく青い空。白い雲。寄せ帰る波の音。その波に音に合わせるように。
静かに高らかに。
王城の地下深くにいるであろう、神様たちにも届けと。
海を越えて、遠くまで……と。
調子に乗って、歌っていたら、遠くから「あやめお姉様ああああああああ」っていうカリンちゃんの声と、それから「アイリス様!」って叫ぶイグニス副団長の声がした。
振り向いて見ると……、ジョナサン君やナイジェルさん、マグノリアさんやカメリアさん……騎士団や魔法師団のみんなとか、大勢が、わたしに向かって走って来ていた。
先頭を切るのがイグニス副団長で……。
息せき切って、わたしの元へとたどり着いた。
「お、お探し、いたしました……」
「え?」
「北の宝珠の祠から、お二人のお姿が消えて……、連絡を……、カリン様が、突然王城に現れ……、とにかく皆で王城に集まり、あちこちを……。それから、何故だか白の魔法師団の力も弱くなり……」
わたしとしては一瞬だったような気がしたんだけど。
結構な時間が経っている……?
首を傾げようとしたら、カリンちゃんがわたしに抱き着いてきた。
「お姉様ああああああ」
ああ、大泣きだ。
「カリンちゃん……、あれからどのくらい経っているの……?」
「あ、あたしは、お城に落とされたけど、お姉様が居なくて……、キーファー殿下の首根っこ、ひっつかまえて、蹴っ飛ばして、お姉様を探してって、東西南北、全部に騎士団とか魔法師団とか捜索に向かわせて……。一か月くらい、探した……」
「あらあらあら……」
そんなに経っているのか……。びっくりだ。よく生きていたなあ、わたし。神様のご加護かしら? 多分なんらかの加護をかけてくれたんだろうなあ……。じゃなきゃ死んでるわ……。
えぐえぐと泣いているカリンちゃんを抱き寄せて、頭を撫でる。
それから、イグニス副団長を見る。
「こちらに派遣した者たちが、オルカが何百頭も波打ち際に並んでいるとの報告を受けて、もしや……と」
あ、はははははは。報告が行っちゃうくらい、結構な時間、わたし、ここで、寝ていたのかも……。そういえば、顔が日焼けしたみたいにひりひりする……かも。
オルカたちは、目が覚めないわたしを、守ってくれていたのかなーなんて。
じっと見たら、オルカたちはわたしに向かって「キラッ☆彡」とウインクをしてきた。
ああ、よかったなあ。
この世界なんて知らないなんて言わないで。
わたしができることをやってみて、良かった……。
「ありがとーね、オルカたち」
お礼を言ったら、照れたのか、オルカたちは『また会おう!』とか言って、去って行った……。あははは。
さて、この状況をどうしよう。
カリンちゃんはまだ泣いているし。
イグニス副団長や他のみんなからもわたし、取り囲まれちゃっているし。
あ、そうだ。
「あのね、今まで言ってこなかったけどね」
「はい」
「わたしのことは、今後はあやめって呼んで」
「あやめ様……ですか?」
「うん。それがわたしのホントウの名前なの」
息を吸う。潮風が気持ちいい。
神様たちが、テントを守っている状態に全力をかけているのなら、きっとわたしとカリンちゃんが日本に帰るための手段はないだろう。
白の魔法師団のみんなに逆召喚とかさせて、日本へ帰せって言っても、きっと無理。
この世界のすべての魔法の力を使ってでも、神様たちは魔をなんとかするのだろう。
多分、その影響で、魔法の力も小さくなっていくんじゃないのかな……?
試しに、テント、出ろ! レベル1でもなんでもいいから出ろ……って、念じてみた。だけど、テントは具現化されない。
うん、やっぱり。わたしのテントの力も、神様たちが全部使っているんだろう。
レベル9まで行って、そのあと10、11……と続くかもしれなかったけど。
もう、終わり。
わたし、白石あやめは、特別な力なんかない、ただの一般人。
それでいい。
等身大のわたしで、この世界で、前を向いて生きていく……って、ことは……。
就職活動、49回の不採用。すっごくつらくて、もうこれ以上就活なんて嫌! って思ったけど。
わたしはきっとまだまだ行ける。どこにでも行けるし、何にでもなれる。
でもまあ、最初の一歩目は……。
「カリンちゃん、泣き止んだらカリンちゃんの本当の名前を聞かせて」
答えを待たずに、イグニス副団長を見る。
「それから、イグニス副団長」
「はい、アイリス……、いえ、あやめ様」
イグニス副団長の黄色みの強いハニーブロンドの髪が太陽の光を浴びてキラキラと輝く。
瞳の色とマントの色は空の青。
この世界の色だ。
そのイグニス副団長に向かって、言う。
「わたし、この世界で、この国で、生きて行こうと思うの。だから……」
にっこりと笑う。
「ここで生きて行けるように、自活できるように。わたしにお仕事斡旋してください!」
五十回目の就職活動だ。
イグニス副団長は、一瞬だけきょとんとした顔をして……、それから笑った。すごくいい笑顔だった。
「あやめ様でしたらどんな仕事でもお任せできそうですが、競争率が高くなる前にひとつご提案をしてもよろしいですか?」
「はい! わたし、がんばって働きます!」
できたらカリンちゃんと一緒の仕事がいいなーなんて、ほやーっと思っていたら。
「ぜひともに、この私の……片腕と言いますか、伴侶に、なってはいただけませんでしょうか……?」
顔を真っ赤にしたイグニス副団長が、ああやっぱりかっこかわいいななんて思ったりして。
「え、えと……」
返事をしないうちに、カリンちゃんが「駄目! あやめお姉様はあたしの‼」とか言って……。
あ、あははははは。わたし、モテモテだ!
就活、49回の失敗。
親ともお兄様とも離れて。
でも。
未来はどうなるか分からないけどきっと、多分、大丈夫。
だから、わたしは……イグニス副団長とカリンちゃんと、オルカたちと、みんなと……。
この世界で生きていこう!
終わり
お付き合いいただきましてありがとうございました。
後程毎度のごとく設定、登場人物、後書きなどを後程。
それから次回連載は『ゴリラ刑に処された令嬢の可憐なる仕返し』を予定しております。
こちらもどうぞよろしく。




