第6話 なーんて探っているのは、悟られないように
なーんて探っているのは、悟られないように、笑顔の大盤振る舞いをしておく。はい、にこにこにこーっ!
「聖女様が宝珠とやらを修復しに行く。簡単じゃあないんでしょ? 長旅なんでしょ? だからわたし、聖女様と一緒に召喚されたんですよ!」
最初に「なるほど……」と反応くれたのが、青いマントの騎士様っぽい人。確か、ええと……イグニスさんとか呼ばれていたかな。
「普通の感覚として、納得はできます。が、私は魔法使いではないので。白の魔法師団ブロニー・ベネット団長に、魔法師としての見解をお聞きしたい」
ブロニーおじいちゃんは頷いた。
わざわざ役職名とフルネームっぽい感じにお爺ちゃんを呼んでくれたのは……召喚されたばかりのわたしたちにもわかりやすいように……かな?
魔法団長じゃなくて、魔法師団の団長なのね。おけおけ。
背が高くて細マッチョ的で、圧迫感があるお体をしているのに、この気遣い。
うん、きっとできる男だね! このイグニス氏。ちょっと好感度アップ。
「うむ……。前の聖女様がお亡くなりになってから三百年。これほどに長き間、聖女様が現れなかったというのも異例。この世界にはもう聖女様がおられないのかもしれないと、異世界より聖女様の召喚を試みて、それが成功したのは初めてではないとはいえ……、前回と比較するのも容易ではない」
んー、つまり、異世界より聖女召喚をしたのは、少なくとも三百年とか四百年とかずいぶんと前のことなのね?
記録……残っているのかな?
ま、その辺はおいおい聞いてみようかな。
「ただ、聖女様以外の誰かが共に召喚された……という記録は……。残っていないだけかもしれんが……」
なるほど?
つまり、よくわからんと。
「しかし、推測としては、そちらのアイリス嬢の言ったことは正しいのかもしれない」
「根拠はないが、魔法師として納得がいくということでよろしいか?」
「儂の考えは、アイリス嬢の考えに賛同する……と、今は言っておこうかの」
ブロニーおじいちゃんが言えば、青いマントのイグニス氏は深く頷いた。
「了解した。では、聖女様は当然第一級警護対象。そちらのアイリス嬢は、聖女様の同行者として、第二級の警護対象とさせていただこう」
「ああ。それが妥当か……」
警護の対象に、第一級とか第二級とかがあるのね。
ふんふん。
具体的にどんな差があるかは分からないけど、聖女様が第一級。王族の皆様とかも第一かな。第二級はそれより当然落ちる……。でも、それなりに身分の高い人の扱いと同等……と、推測はできる。ある程度の安心はできそう。
聖女様のお部屋がどうこうとか。警備の配置がどうこうとか。
ブロニーおじいちゃんとイグニス氏の会話を聞くともなしに聞いておいて。
わたしはわたしで、美少女に向き直る。
「いろいろやらされるかもしれないけど。衣食住とか、身の安全とかはあの人たちが保障してくれそうだよ。とりあえず、安心しようか」
モデルのお仕事は……。ここで結界張りのお仕事を終えた後、元の時点に戻してくれるのならいいんだけど。
この世界と日本での時間の進み方が同じなら、一時間後のお仕事なんて、もうどうしようもない。
「そう……ね」
美少女は、頷いてくれたけど、悔し気に唇を噛んでいる。
せっかく獲得したモデルの仕事を捨てないといけないのは……嫌だよねえ。
でも、そこは、わたしにはどうしようもないから。
「とりあえず、わたしはアイリスって呼んで」
「……本名ですか、それ」
小さい声で聞かれた。きっとわたし以外には聞こえない声で。
わたしはにっこり笑う。
「……あなたのことは『どんな名前』で呼べばいいかな?」
ファンタジー世界でなくたって、日本でも。昔は「真の名を知る」イコール「相手を支配する」という呪術的な発想があったよね。頼朝様とか呼ばないで、鎌倉殿って呼ぶとか。昔話でも、魔物から名前を呼ばれて、うっかり返事をしたら、ひょうたんに閉じ込められた主人公もいた。
だから、本名は聞かない。
この美少女は、真名を知られると相手に支配されるとか、魔法の世界でおなじみの設定には詳しくないかもしれないけど。
この世界の人たちが大勢いる前で、本名を聞いて、後からなんかあったら大変。
その程度はきっと今のわたしの言いかたで、察してくれたと思う。
「カリン。その名前でモデルとして売り出しているの」
「オッケー、カリンちゃん。よろしく」
「よろしくお願いします、アイリスさん」
将来的に、どうなるかは分からない。
わたしも、今は、就職をなんとかしたいという思いと、親元へ帰りたくないという気持ちがあるけど……。
ファンタジックに魔物とかが出て、命の危険があったりしたら、日本に帰りたいとか思うかもしれないし。
先のことは、分からない。
今まで当たり前だと思っていた世界は、すぐにひっくり返ることもある。
わたしが十六歳の時。それまで信じていた世界がひっくり返った。
わたしが大学に入学した後、それまでの常識もガラガラと崩れた。
一寸先は闇……なんて程、真っ暗な人生ではないけれど。
異世界に転生とか転移とかじゃなくても、突然、世界が変わる……こともある。悪いほうにも、良いほうにも。
先のことは、分からないから、その時、その場で。
わたしは、自分の選択を信じて。
進むしかないと思うんだ……。




