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聖女召喚に巻き込まれた就活中の一般人、具現化スキル『テント』で異世界を東奔西走!  作者: 藍銅 紅@『前向き令嬢と二度目の恋』2巻 電子2/10


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第59話 もうちょっと余韻というか

もうちょっと余韻というかなんというか、時間をくださいよ女神様!


こっちの文句が聞こえているのかいないのか。

女神は、すっと指を差す。


その指の先に見えたのは……フィッツジェラルド王国、王都の王城。

最初にわたしたちが召喚された場所。


わたしとカリンちゃんは、半透明の幽霊みたいになったまま、その城の真ん中を通って、どんどん落下していく。


途中で王様だとかブロニー・ベネットのおじいちゃんだとかキーファー第三王子だとかが、わたしたちを見たような気がするし、キーファー第三王子は「か、カリン⁉」とか叫んできたし。


でも、見えないエレベータに乗せられているみたいに、わたしとカリンちゃんはまっすぐに降りていく。


地面も通り越して、その下へ……。


そして、見えた。

倒れた男神。

それに取りついている真っ黒で、不溶性の老廃物というか……腐って濁ったスライムみたいな魔。

その濁りからポコポコと湧き出でてくる魔物たち。


うげ……。


「お、お姉様……あ、あんなの、どうしたらいいの……」


カリンちゃんがぼそっと言った。


歴代の勇者でも倒せなかった魔……なんだよね。


「念のため、できないのは承知で聞くけど。宝珠を修復したみたいに、カリンちゃんあれ、どうにかできるというのは……」


聖女様の浄化の光がぱああああっとあたりを照らして……なんて。


「あ、あたしは……宝珠を修復だけしか……」


カリンちゃんは自分の両手をじっと見ているけど、何にも起きない。浄化の光なんて出ない。


それは、そうだ。


物語の主人公だって何だって、いきなり訳の分からない力が湧き出て、敵を倒すとか世界を浄化するなんて、無理。

そんな力があるのなら、その力を発揮するための伏線だの道筋だのが必ずある。


カリンちゃんは宝珠を修復するための力しかない。

仮に、聖女としての他の力を有しているのだとしても、今、ここで、ご都合主義的に新しい力なんか湧いてこない。


わたしだって、そう。

いきなり勇者的な役割を与えられて。

あの不定形ゲル状態の魔をなんとか倒せなんて言われても。

勇者の力なんてないし。

聖剣とか勇者の剣とか聖なるアイテムとかなんて、持っていない。


聖女のサポートキャラ的に、テントなんてオカシナ具現化スキルを有いていたっていうだけ。


テントを畳んで、それで魔をぶん殴って浄化できるなら……って、無理だよね。いや、ありか?


歴代の勇者が出来なかったこと。

女神だってあの魔を浄化とか倒すことなんてできなくて、宝珠と他の神様たちのサポートで、ここに、魔を封じてきただけ。


そんなのをわたしがなんとかできるなんて……。


「あ、いや。できないと思ったら、何もできないわね……」


漫画が原作の、アニメの、有名なセリフ。


諦めたら、試合は、そこで、終わり……。


上を見る。


透けて見えるお城。女神も見える。三人の従者みたいな神様は原形をとどめているけど。曜日の神様たちは。


日曜日がスンダーク。月曜日がマンダーク。ティーシュダーク、オンスダーク、トーシュダーク、フレイダーク……で、土曜日がロールダーク。


誰が誰だか区別はつかないけど、七人の、大理石みたいにすべすべな体から、花びらが一枚一枚はがれていくみたいに……、落ちていく。減っていく。存在がなくなっていく……。


本当に、もう、力がないんだ。

この世界は……わたしが、ここで、なんとかしないと……本当に、数百年後には、きっと。


女神だって力をなくして、魔がこの世界を横行して……滅ぶ。


見上げる。

大理石でできた彫刻みたいに、女神の表情は動かない。


だけど、わたしを見てる。


じっと。


運命を、見てる……なんてね。


「カリンちゃん……」

「は、はい! アイリスお姉様」

「……今度から、わたしのこと、あやめって呼んで。白石あやめ。それがわたしのホントの名前だし」


念のためって、本名をずっと名乗ってこなかった。この世界に隷属されるとか、魔法使いに支配されるとか、ラノベのお約束を警戒して、名乗った嘘ではないけど嘘の名前。でも、もう、いいよね。


「あ、あやめお姉様……」


わたしはにこっと笑う。


「今から、あれ、倒してくるから。カリンちゃんの本名は、倒した後に教えてね」

「お、おねえ……さま?」

「絶対に、聞くから。聞いてみせるから。だから、祈って待っててっ!」


とんって、カリンちゃんの肩を軽く叩いて。


わたしは男神と魔の元に走る。


「やってやろうじゃないのっ!」


わたしの持っているスキルはテントだけ。


だったら、それを使う。


「出ろっ! レベル5!」


具現化させたテントの中から、簡易折り畳みベッドを取り出して、それを魔にぶん投げる。それからテントを畳んで、両手に持って、男神ごと魔をぶっ叩く!


「あやめお姉様! 叩いても無理っ! なんでそんな無謀な! ヤケなの⁉」


大丈夫、カリンちゃん、わたし、冷静。

ちゃんと、後で、カリンちゃんの本名を聞くから。


畳んで持ったテントを今度は開く。


男神を叩いたからなのか、魔物にも痛覚があったのか。


べちゃり……と言うか、ゆらりと言うか。魔が、動いて、わたしのほうを見た。

魔には目なんてないんだけど、睨まれたような、気が、した。


「こっち、来なさいよっ!」


触手のようなヘドロが、わたしに向かって伸びる。


うひいいい!


「女神様っ! 魔を、このテントの中に入れて! 出さないようにしてっ!」


先に頼んだわけじゃなかった。

女神がわたしの指示通りに動いてくれる保証もなかった。


だけどわたしの持っている武器というか、スキルはテントだけなのよ!

それに、このテントスキルって、どう考えても女神たちがわたしに授けたものでしょう? 違う? 違ってもいいや、とにかく、魔をテントの中に入れて!


わたしの気持ちや考えが通じたのかどうか。


女神はすうっと降りてくると、男神の遺体と思しき体を抱きあげて。そして、男神と女神の身体を小さくして。女神は男神ごとわたしのテントの中に入った。魔は、その男神を、女神から取り返そうとするかのように、テントの中に自ら入ってきた。


それから、三人の従者みたいな神様が、テントを抱きしめるようにして支える。

消えかかりそうだった、七人の神様たちも、テントの周りに寄っていく。


そうして、風が吹く。


わたしとカリンちゃんを、この場所から地上へ、城のほうへと押し出す。


「な、何なの……。お姉様、何をしたの……?」

「倒したわけじゃないよ。魔を、女神と男神ごとテントの中に入れたの。封じたと言ってもいいかもしれない」


ただそれだけ。


「て、テント……って」

「うん。レベル5のテントは状態の異常を回復するの。近視も治るし、頭痛も治る」

「へ?」

「魔が、たとえば、もともと人間だったら。そうしたら、いつか、魔の状態から単なる人間に戻るかなって。あ、神様かもしれないけど」

「え、えぇ⁉」


単なる想像。いや、空想。


男が一人に女の二人。

よくある三角関係。

ドラマとかにもよくあるじゃない。


男がいて、女二人とオツキアイをしていた。

で、男は片方を選んで。選ばれなかった女は、男を恨んで刃傷沙汰とか……、殺して自分のものにするとか……。


魔は、男神を女神に取られたくなくて、魔になってしまった情念……とかなのかなあって。勝手な妄想よ。


実際にはどうか知らないけど。

女神が男神を抱えてテントに入ったら、魔は追いかけてテントに自ら入ったし。


神様レベルだともっと高尚な、それこそ聖なる力と魔なる力の戦いがあったのかもしれないけど。


「数百年、封印の宝珠だった神様たちが、テントごと、女神と男神と魔を封じているだろうから。その間に魔っていう状態異常が、回復するといいね」


願う。

近視や頭痛を治すのとは違うかもしれないけど。


どうか、状態の異常を回復してください。

元に戻ってください。

魔ではなくて、元のあなたに戻ってください。


これで、世界が救われるのかどうかなんて、分からないけど。


わたしは、わたしにできることはした……。


わたしとカリンちゃんは、この場所から離れて、どんどんと高く、上に……。


下を見たら、三人の従者様みたいな神様たちが、わたしを見て、微笑んでいた。曜日の神様たちもだ。

だから、大丈夫だよね……。


そうして……。


「あ、あやめお姉様っ!」

「うわああああああああああ!」


台風とか竜巻とか。分からないけど、すごい力で、わたしとカリンちゃんは、どこかに吹っ飛ばされた……。女神筆頭に、あの神様たちは、わたしたち人間のサイズとかスケールとか、全く考慮しないのねえええええええええええええええ!






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






次回最終回です。

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