第57話 覚えのある白さ。
覚えのある白さ。そう……前に見た、白い巨人。七人の神様たちに、わたしとカリンちゃんは囲まれていた。
それから、その七人がすっと後ろに下がる。
どこからともなく歩み出てきたのが……よくあるファンタジーアニメの女神様みたいな人。
人?
あからさまに一番偉い神様っぽい。
その女神の後ろに三人の従者的な感じ。
七と一と三。合計十一人。ああ、神様だと十一柱とかって言わないといけないか。
なんて、わたしはぼんやりと白い神様たちを見ていたんだけど……。
「な、ナニこれナニこれナニこれえええええ!」
パニック状態のカリンちゃんが。
あー……。そうか。
わたしは夢で、この神様たちを見たことがあるから、あれかーみたいな感じだけど。
いきなり十一柱ののっぺりとした白い巨人に囲まれたら……うん、動揺するね。
しかも、わたしたち、宙に浮いているし。
上も見えないし、下も見えない。
真っ白。
えーと、じゃあ、カリンちゃんの手でも握ろうか。
ぎゅっと掴むと「お、お姉様あああああああ」って、半泣きで抱きついてきた。よしよし、大丈夫だからね、多分。
『宝ジュのシュウフク、御クロウであった……』
女神っぽい人が私とカリンちゃんに言う。
キーンと、耳鳴りがするけど、なんとか言葉の意味は分かる。
チューニングのあっていない楽器の高音と低音を、同時に無理やり大音響で聞かされているみたい。
「もっと出力を落として喋って。耳が痛いし頭まで痛くなる!」
出力って言いかたがあっているのかどうか分からないけど。このまま神様たちの声を聞かされたら、また盛大な頭痛が起こるに違いない。
だったら、相手の出方を待つよりも、言いたいことを言ってしまおう。
「四つの宝珠は修復したわ! これでわたしたちは元の世界に帰れるんだよね⁉」
この世界にわたしたちを呼び寄せたのは、白の魔法師団の皆さんかもしれないけど。
彼らがわたしたちを呼んだのは、宝珠が壊れたからでしょう。
この世界の曜日の名になるくらいに浸透している七人の神様。
四つの宝珠を修復した途端に、この女神と三人の従者みたいな神様が現れた。
七人が、すっと後ろに下がって、この四人を前に出したってことは……、神様の格としては四人のほうが上……だよね、多分。
一番偉そうな女神みたいな神様もいるし。
推測。四つの宝珠イコール女神様と三人の従者。ただし、宝珠は何百年か経つと壊れる。壊れるから、七人の神様が修復しようと聖女を呼びだすって構造。
何で壊れるのかっていったら……経年劣化とかじゃなくて、前に夢に見たことが正解なら。
女神様の旦那さんである男神が魔的なものに侵されている。
で、それを四人……四つの宝珠で封じている。
でも、宝珠はいつか壊れるから、その請われたときの修復にとセーフティガード的な神様が七人いるんだろう。
多分。
『勇者と聖女に告ぐ。我が夫たる男神を侵したる魔を払え』
……音声出力は控えてもらえたようだけど、いきなり命令? ムカムカする。
怒りって、頭が真っ白になるけど。
妙に冷静になるときもある。
今のわたしは後者だった。
「何百年ごとなのか……とか知らないけど、宝珠が壊れるたびに、どっかから聖女なり勇者なりを呼びだして、修復させて、魔を払わせようとして。でも、繰り返しているってことは、つまり、聖女は宝珠を治せても、勇者は魔を払えず、また数百年ごとに同じことの繰り返しってことよね」
女神を睨んだら、女神はゆっくりと頷いた。
「つまり、魔は払えない。代々の勇者はどうなったの?」
答えない。
死んだか、魔に取り込まれたのか。分からないけど、ろくな結果じゃないよね。
「付き合えない。わたしには元の日本に戻って、父と母と兄に伝えないといけない言葉がある。宝珠の修復まではやったんだから、元の世界に帰してもらってもいいじゃないの!」
迷った。こちらの世界で就職が出来ればいいやって、そのためにもわたし、ここで役に立とうと思った。
でも……、せっかく勇気をためたの。
イグニス副団長がわたしの話を聞いてくれた。
白の魔法師の人が差し出してくれたあったかいスープ。
出会ったカリンちゃん。
わたしは、わたしの思う通りの人生を選びたい。
だから、お父様とお母様の希望通り、優太お兄様と婚姻を結ぶなんてできない。
でも、優太お兄様にはちゃんとしあわせになってほしい。
カリンちゃんのいる関東圏でもどこでもいいから、もう一度ちゃんと就職活動をして、職を得て、自立する。
自分の足で立って、生きる。
神様なんかに付き合っていられない。
ここまでは、してあげたんだから、後は数百年は大丈夫なんでしょ! そしてその後はまた聖女を呼ぶんでしょ!
どのみち繰り返しになるのに、魔に対峙なんて、できません! 元の世界に帰してよ!
『……我らの力も有限だ。次に、宝珠が壊れたら、もう修復はできない』
「は?」
後ろに控えている七人の神様。その神様が、たとえばお花だとしたら、その花弁が一枚一枚、剥がれ落ちていくみたいな感じで、ほろほろと、はらはらと、少しずつ形が崩れ落ちていく……。
「な、なにあれ……」
カリンちゃんが、わたしの腕をぎゅっと強く掴む。その痛みが、今、わたしが見ているもの、声が、夢じゃないと知らせてくれるみたいだった。
『我らが、魔に侵された男神を押さえていられるのもあと数百年……。その後のこの世界は……あの魔に侵され……』
このフィッツジェラルド王国の場所で、魔的なものに侵された神様の旦那様のご遺体を苗床に、魔物がポコポコと生まれてきて。
この世界を魔で満たす……ってこと?
今じゃない。数百年の後の話。その頃には……フィッツジェラルド王国で知り合った人たち……イグニス副団長、ナイジェルさん、ジョナサン君、ブロニー・ベネットお爺ちゃん、マグノリアさん、カメリアさん、それから騎士団のみんなとか魔法師団のみんなとか……ついでにキーファー第三王子もみんなとっくに死んでいる。
そんな子孫の子孫の子孫の……、もっと先の世代で、この世界がどうなるともわたしには関係ない。
知り合いが生きている間は、多分無事。カリンちゃんはちゃんと四つの宝珠を修復した。だから、数百年はこの世界は魔を押さえていられるはずだ。
だけど……、あのかわいいオルカたちは……、どうなんだろう?
あの子たちは魔物だから、何千年も生きるのかもしれないし……。
だいたい、わたしが頑張って魔を倒そうとしても……、歴代の勇者だって魔に負けていたんでしょう? だから、宝珠が壊れて、修復して……を繰り返しているんでしょう?
わたし、これから、自立して、自活して、自分の人生を歩いていこうって決めたばかりなんだよ?
自分のじゃない、他人の、知らない……とは言えないけど、異世界のために、命を懸けるなんて、そんな勇者なんてやってやれるか!
わたしは無関係だ。さっさと元の世界に戻せ。
……そう言ってやりたかった。
やりたかったのに……。
きゅいきゅいと楽しそうに、きらっ☆彡、なんてウインクをかますオルカたちや、もふもふのわんこたちの顔が浮かぶのよ……。




