第56話 日も暮れて
日も暮れて。ナイジェルさんたちが用意してくれたご飯が出来て。イグニス副団長たちも、ある程度の氷は砕いたけど、続きは明日……って感じで、今日はもう休憩です。お疲れさまでした。
日の落ちた雪原は寒い。極寒です。マイナス三十度の世界です。いやもっと寒いかも。
いい感じで湯気を上げている露天温泉には入りたいけど……。うん、無理。
というか、マイナス三十度の世界で、お湯が凍らずに適温を保っているって、どういう仕組みだ……って、わたしのスキルなんだけどねぇ。
スキルっていうか神様のご加護なのかしら……?
うーん、分からない。
イグニス副団長と青の騎士さんたちは、テントの付属品(?)のサウナを堪能しております。
サウナ上がりにエールが欲しい……っと、ボソッとこぼしておりました。
ふふふ。任務中だから、アルコールは取らないってお決めのようですけど。思わず本音はこぼれると。ふふふ。いつも職務に真面目な有能イグニス副団長のプライベートというか、推しの意外な一面を垣間見たカンジでちょっと悶えそうになりました。えへへ。たとえですよ。へへへ。
で、テントなんだけど。
やっぱり男性陣は聖女たるカリンちゃんと同室は遠慮ーってなって。
リビングのほうに毛布を敷いて寝るとのこと。
お犬様の数匹もリビングで寝ているので、一緒に寝れば温かい。
なので、寝室の、すんごいふっカフカのベッドありのテントが女性部屋になりまして。
四人プラスお犬様四匹と共に就寝です。もふもふのワンコとおねむです。しあわせはここにあった……!
テントの外は、ごうごうと、すんごい音の風が……吹雪いておりますが。
でもテントの中は天国です。
すやーっと眠りに落ちました。
朝起きて。
今日も快晴。
イグニス副団長たちは、昨日と同じくツルハシで氷を砕きます。
女性陣はだらごろ。
あー、いや、マグノリアさんとカメリアさんは、カリンちゃんの護衛だから、カリンちゃんの近くで直立不動で見守りだけどね。
いや、申し訳ないと思うんだけど。ツルハシで氷を砕くなんて、わたしとかカリンちゃんが手を出す方が邪魔だよね。
ナイジェルさんたちは、天候が悪くなったり魔法が必要になったりという時のために待機……ではなく、ご飯の準備に後片付け、次のご飯の準備をさっくさく行ってくれています。手だし無用とのこと……、う、うう……。
ちなみに今日のお昼ご飯は肉を焼くそうです。香辛料と塩につけて、凍らしておいたというか、自然に凍っていたお肉を解凍して、それをなんとかっていう料理に使う葉っぱでくるんで、焚火の中に入れておくのだそうです。
肉と聞いて、イグニス副団長たちの頬が緩んでおりました。あはは。肉体労働の皆様にはお肉が必要……。
でも、そのお待ちかねのお肉を喜んで食するのかと思えば……、すんごい渋い顔。
あれ? どうしたんだろう……? 何か考えている……?
「ドア周辺の氷はツルハシで砕きましたが……」
うん、昨日からすごい勢いでかんばってくれたものね。
「これ以上、ツルハシを使えば、氷だけではなく、ドア自体も壊しかねないのですが」
壊しても、わたしたちは中に入ることはできる。
問題ないのでは?
と思ったのに。
イグニス副団長は首を横に振る。
「我々はともかく。また数百年後に宝珠が壊れたとき。その時に修復をしてくださる聖女様のために、ドアを破損させるわけにはいきません」
あ、あああああ!
言われて気がついた。
ドアの中というか、屋敷の中は凍っていないよね、きっと、今は。
でも、ドアを壊して、そのままにしたら。
カリンちゃんの次の聖女様が修復するときは……屋敷の中、ぜーんぶ凍るかも。
ドアを壊して、修復できればいいんだけど。
この氷の氷原には木材とか石材とかないし。
氷でドア作る?
いや、それよりも、壊さないで、次代に繋がないと……。
「ドア自体、凍結してしまっているようで開きません」
ツルハシで砕くのは駄目。
壊すのも駄目。
でも、凍結しているからドアは開かない……。
う、ううう……。
わたしのテントスキルの、状態異常回復で、ドアが直ればいいんだけど……。無理だよね。テントの中にこのお屋敷、入るはずもないし。
そもそも、人間の回復はできても、物質の回復はできないだろうし……。できるかな? 少なくとも宝珠の回復は聖女様パワーじゃないと修復できないよね。
じゃあ、どうしたら、このお屋敷の中に入って、宝珠を修復できるのだろうか……?
考えながら、お肉をもきゅもきゅと食します。
美味しいです。
あったかいローストビーフのよう。香辛料が効いているからケバブかな?
この美味しいお肉を、考えごとしながらいただくのは申し訳ない。
真剣に食べよう。
食べてから、考えよう……。もきゅもきゅ。
考えつつ食べていたら、食べ終わるまでに時間がかかってしまった。
カリンちゃんなんかはいち早く食べ終わって、もうお犬様と遊んで……。走り回って疲れたのか。
「えいっ!」
氷を温泉に投げ入れた。
もちろんすぐに溶ける氷。
あははは。カリンちゃん、子どもみたいね。
そういえば、昔、大雪のとき。優太お兄様と雪だるま作ったり、バケツに入れた雪を、家の中……というか、お風呂場に持ち込んだりしたなあ。
お風呂に浸かって、そこに雪を入れたりとかして。
雪を入れればもちろんお湯の温度は下がる。
さむーい! とか言いながら、お風呂のお湯を追い炊きしたり……。
懐かしい思い出……って、あ、あああああああっ!
閃いた!
「すみません、一回このテント、収納します!」
「はい? アイリスお姉様どうしたの?」
「ありがとうカリンちゃん。おかげで、あのお屋敷の凍ったドア、溶かすアイデア閃いた!」
「えええー!」
一回収納して、そして、もう一度、レベル9のテントというかグランピング施設を具現化する。
ただし、さっきと配置を変えて。
もっとお屋敷の近くに。
そう! シャワーブースがある位置を、祠のドアに最接近させる!
シャワーの温度を確かめる。うん、ちゃんとあったかいお湯。そのお湯をドアにぶっかけます!
しゃわしゃわしゃわ~っと、お湯がかけられたドア周辺の氷は……だんだんと溶けていく。
「わあ、お姉様すごーい!」
「もうちょっと溶かしたら、ドア開けます! そしたら中に入れる!」
シャワーをかけ続けて、完全にドア周辺の氷を溶かして。
いったん、シャワーを止めて、ドアを開ける!
急いで開けないと、また凍ってしまうからね!
「さあ皆さん、急いで入って!」
全員が中に入った時には、もう、ドアは再び凍り付きかかっていた。
しばらくはこのまま……というか、わたしたちが出るときまではこのまま凍り付かせておいて、出た後、また同じようにシャワーのお湯で氷を溶かしてドアを閉めればいい。
祠の中も、キンキンに冷えています。寒いです。
遊園地なんかにはアイスワールドとか銘打って、人工的なマイナス何度かの世界を作っているけど……、それとは比較的にならない、本気で体の芯まで凍える寒さ。
わんこに乗っていても寒い。というか、凍える。
これは、さっさとカリンちゃんに宝珠を治してもらって、レベル5のテントに入ってもらって頭痛を治して、頭痛が収まり次第撤収だなーなんて。
楽勝モードでいたのに。
カリンちゃんが宝珠を修復した後、どうしてだか、わたしとカリンちゃんの視界は……真っ白になった。




