第49話 その後、ナイジェルさんたち白の魔法師団のみんなとか
その後、ナイジェルさんたち白の魔法師団のみんなとか、イグニス副団長たち青のみんなとか、いろいろ検討した。
だけど、良い案はなく……。
白の魔法師団の皆さん。
風でスライムを吹き飛ばすとかはできるから、マグマを風で吹き飛ばすのはできますかって聞いたけど。
小さくて軽いものは風で飛ばすことはできても。
冷え固まりかけたマグマなんかを飛ばすのは結構厳しいって……。
うーん。それは、そうか。質量が違うものねぇ……。温度もねえ……。
軽いのができるのなら、宝珠は飛ばせる?
そう聞いたら、その程度なら多分可能というお返事。
うーん、カリンちゃんに、マグマごと宝珠を過去の状態に戻してもらって、で、風魔法で、宝珠を空中に吹き飛ばしてもらって、マグマと分離、宝珠を回収する……っていうのが、現状でできることかぁ……。
せめて頭痛が軽減できるように、わたしのテントスキルを上げておきたいんだけど……。
回復量(大)でも、わたしは十日、カリンちゃんは二日、苦しんだ。
更にレベルを上げて、回復量(超大)とかになるんならいいんだけど……。
小・中・大と来て、ここで終了かもしれないし。
超大何てないかもだし。
うーん……。
悩む……。
どのみち、マグマが冷え固まった山の斜面には、デカいテント設置不可能だよねえ……。この場所でレベル8は無理……。
やっぱり、前にやったみたいにお神輿の上にレベル1の小さいテントを乗っけて。
その中にカリンちゃんを放り込んで、山の五合目まで行って、その平らな場所でレベル8のテントを展開して、頭痛が治るまでゆっくり休養してもらうしかない……か……。
他に何かいい手段はないかなと考える。
時には思い付かない。
カリンちゃんは「大丈夫! 頭痛もお姉様のテントがあれば、すぐには無理でもいつか治るとわかってますから!」
いつか……。うん、いつかは、なおる。
でも、そのいつかに辿り着くまでが……すっごくしんどい。わたし、自分でも体験して、あの頭痛は……ものすごくつらかった。
うーん、まあ、現状の、最善を尽くすしかない……か。
一瞬で、頭痛が回復するような、そんな都合のいい魔法はないし。
ゴメンねカリンちゃん。つらい思いをさせてしまうけど。
せめて、そのつらさが最小限になるように。がんばって考える。
あと安全第一ね。
カリンちゃんだけではなく、イグニス副団長やナイジェルさん、それからジョナサン君もみんなね。青の騎士団の皆様と白の魔法師団の皆様、それから土木作業的な作業をしてもらっている赤の戦闘兵団の皆様たちにも、細かく報告・連絡・相談!
連携が、きっと大事!
打ち合わせに打ち合わせを重ねていく。
そして……。
いざ! 決行っ!
まず、事前準備として、南の結界島でやったみたいに、お神輿的なものを作って、それに一番小さいテントを乗せる。テントの中にはクッションも入れておく。
カリンちゃんが宝珠を直したら、このお神輿テントで山の五合目の拠点まで、可及的速やかにカリンちゃんを運ぶ。
本当はすぐにベッドに横にならせてあげたいんだけど、こんな固まりかけの溶岩がある山の斜面でなんて、休めない。
安心してゆっくり休める場所じゃないとね。ひどい頭痛の中、お神輿状態で運ばれるのはつらいけど、クッションにしがみついて、体を丸めて耐えるって……。
カリンちゃん無理しないで……! って言いたいけど、現状できる最善がこれしかない。わたしもカリンちゃんと一緒に五合目の拠点に行って、なるはやでベッド付きテントの中に入ってもらう。
お神輿テントはイグニス副団長が選び抜いた超有能部下の皆さんたち。お神輿を担いで山の斜面を高速移動。安全に駆け降りる練習も、繰り返し行ってもらったし、多分大丈夫。そこは信用して任す。
お神輿部隊は、カリンちゃんのすぐ後ろで待機。カリンちゃんが宝珠をなおしたら、すぐに頭痛で倒れるかもだから、カリンちゃんを支えて、抱えて、お神輿テントに運ぶ騎士の皆さんも、カリンちゃんの左右に待機。
白の魔法師団やジョナサン君、イグニス副団長も少し離れたところで待機。
わたしはお神輿テントの側で待つ。
ナイジェルさんが、カリンちゃんに耐熱魔法をかける。そのまま、カリンちゃんの肩に、手を置く。透視魔法というのか透過魔法というのか。
カリンちゃんは地面に手をついて、じっとその地面の下を見る。
「カリン様、宝珠が見えますか?」
「……はい。確認できました。じゃあ、始めます」
カリンちゃんの手から真っ白い光が溢れて出て。地面が白く光る。地面ごと、宝珠を修復しているのか……と思ったら、その地面がゆっくりと動き出した。
カリンちゃんが「戻れ……、戻れ……」って唱えている。カリンちゃんの額に汗が噴き出てきた。
「戻りなさい……っ!」
黒灰色の冷え固まりかけた溶岩流。
だんだんと、その溶岩が……どろりとしてきて……次第にオレンジ色の高温のマグマに戻っていく。
少しずつ、少しずつ。マグマが山の斜面を登っていく。
宝珠と、その宝珠の周辺だけ、時間が巻き戻っていくみたい。
予想した通り、カリンちゃんは宝珠を修復しているのではなく、周囲ごと、過去の状態に戻しているんだろう。
マグマの間から、宝珠が見えた。宝珠も、山の斜面を転がるのではなく、登っていく。
白の魔法師団の皆さんが、一斉に、一気に、宝珠に向かって風の魔法を当てる。
一点集中。
イメージは、スプーンで宝珠を救いあげる感じ。
ぶわっと、宝珠が宙に浮く。
そのまま、宝珠は放物線を描くようにして、飛ぶっていうか、跳ねて。
山の斜面をころころと転がっていく。
ジョナサン君や白の魔法師団の何人か、それからイグニス副団長も宝珠を追いかけていく。そっちは任せます!
「カリン様っ! もう大丈夫ですっ!」
ナイジェルさんの声。カリンちゃんが頭を抱えて倒れるのを、ナイジェルさんが抱きかかえて。そのまま、お神輿テントの中に、そっとカリンちゃんを運ぶ。
「青の騎士団! カリン様を運べ!」
「はいっ!」
お神輿を担いて、四人の青の騎士団の人たちが、すごい勢いで下山していく。
わ、わたしも、追いかけて五合目まで……、と思ったら。
「ぎゃあああああああああああああああっ!」
叫び声が。
え、え、え⁉
「馬鹿っ! 放せっ!」
振り返って見たら……、ジョナサン君が叫んでいる。
イグニス副団長は、剣を鞘から抜かず、鞘で……、ジョナサン君が掴んでいた何かを叩き落した。
な、何?
叫び続けているジョナサン君の手から、宝珠が落ちる。
「誰も触れるなっ!」
イグニス副団長が、叫びながら、ジョナサン君の体を抑える。
「あ、あああああああああっ! うああああああああああっ!」
痛みで、暴れるジョナサン君を、必死になって抑えるイグニス副団長。
ま、まさか、ジョナサン君、転がってきた宝珠を……手で掴んだの?
千度を超えるマグマに浸かっていたはずの宝珠。それを、素手で掴んだら……。
火傷、なんてレベルじゃない。
「ジョナサンっ! しっかりしろ!」
たとえば熱湯や蒸気。70度以上になると一瞬で火傷して、およそ1秒触れると皮膚の損傷が始まるらしい。
たとえば、溶鉱炉。
人が溶鉱炉に落ちたとすると、水に落ちたみたいにドボンとはならない。鉄の比重が重いのから、表面にめり込んでいって、そこで燃える……とか。
じゃあ、溶鉱炉と同じくらい高い温度の宝珠に触れたら。人間の手って、どうなるの……?
火傷で済むの?
掌の肉が溶ける?
水で冷やす……、ああ、それよりも、テントで……。
瞬間、何故、そんなことを思い付いたのか、わたし自身にも分からない。
「イグニス副団長っ! ジョナサン君をテントに入れてっ! 青の騎士団のみんなっ! テントが斜面から滑り落ちないように支えてっ!」
叫んで、出現させたのはレベル5のテント。
回復量は(小)ベットは二人分。
でも、それだけじゃない。
レベル5は、ナイジェルさんの近視を治した。状態異常回復機能があるっ!
イグニス副団長が、泣き叫んで暴れるジョナサン君を無理やり抱えて。
テントの中に突進する。
「うあああああああああああ……、あ、あ、あ……、あ?」
しばらく叫んでいたジョナサン君の声が。
「え……、あ……?」
不思議そうな声に変わった。
わたしはテントの中に入る。
「あの、ジョナサン君、大丈夫?」
聞いた。
「ボ、ボクの……手が……」
「見せて」
呆然としているジョナサン君の手を見る。
火傷の痕すらない、キレイな手。
「よかった……」
ほっとして、わたしはその場に力なく、座り込んだ。
「何をしたのですか、アイリス様……」
信じられない目で、イグニス副団長がわたしを見た。
「うん……。初めからわかっていたわけじゃないの、でも今、咄嗟に思い付いて……」




