第39話 昨日、ラマ・グラーマに乗って
昨日、ラマ・グラーマに乗って、山の中腹……富士山で言うと五合目あたりの拠点で一泊した。
今日はその先、富士山でたとえると、七合目のあたりまで進むとのこと。
七合目には拠点その二が、既に設置してあるらしい。
ホント準備ありがとうございます!
「標高がありますからね。聖女様とアイリス様の体力を鑑みれば、いきなり山頂まで進むのは厳しいかと」
イグニス副団長の言葉通り。
ただラマ・グラーマに乗って、揺られているだけなのに、ゼイゼイハアハアと、荒い息を吐いてしまう。
あー、体力云々というよりも、高度に体が慣れていない感じ。高山病が心配になる。
ええと……、フィールドワークの授業の時に何かの本を読んだ記憶が……。
えっと、たしか高所順応には千メートル上げるごとに休養日を一日入れる……だったような。でも体調を鑑みて数日置いたほうがいいとかだったかな。
書物よりは、自分の体と相談……とした方がよいかも。
とにかく七合目の拠点その二で、テントを張って。
特に何をするわけでもなくただ過ごす。ごろごろとして、体を慣らすだけ……なのに。
でも、これが大変で。
……ご不浄に行きたいなーなんて、思っても、トイレを済ませられるような場所……、男性陣の視線から遮られる場所に行くのに半刻くらいかかるのよ……。
一日どころか三日か四日は休みたい。
テントの回復力をもってしても、そのくらいかかりそう。
一応次第に、横にというか、平行移動するならなるべくゆっくり歩けば大丈夫になってきた。
けれど、さらに高度に行けと言われると……。まだ無理。山頂なんて、とてもじゃないけど無理。しかも。
「ここからさらに上に行くには……、もうラマ・グラーマは使えないので、歩きになりますが……」
使えないということは、それだけ傾斜が厳しいってことで……。
七合目から山頂まで、ホントの登山!
申し訳なさそうなイグニス副団長。乗って移動じゃなくて、自分の足で登山!
山靴とか、ハーネスとか、何もないけど、とにかく登れって?
エベレスト登頂みたいな感じだったらどうしよう……。
い、命の危険は……。あ、ああ、白の魔法師団の皆様の魔法頼み?
うわあ……。
それよりも瞬間移動とかないの⁉ パッと行って、パッと帰ってくるような。
「ま、魔法でなんとかなりませんか……?」
縋るようにナイジェルさんを見ても「一時的に、体調を回復しても、さらに上に行けば、また具合が悪くなりますからね。結局、体を高度に慣らしていくしかないんですよ」とのご回答。
いや、そうじゃなくて、瞬間移動とか、そういう高度な魔法はないのかなーって。
召喚なんてのができるんだから、瞬間移動くらい……、できてたら、わざわざ馬車やラマに乗ったりはしないか……。
「う、ううう……カリンちゃん、行けそう……?」
「無理無理の無理……。騎士の皆さんだけで神殿に行って、宝珠をここまで持ってきてくださいませんか、ってお願いするレベル……」
カリンちゃんの案を採用ってわけじゃないけど。
山頂の神殿というか、さすがに山の上じゃ、神殿なんて大きなものじゃなくて、祠みたいなモノらしいけど。
その祠まで、先遣隊が向かうことになった。
「とりあえず、青の騎士と白の魔法師数名で、祠まで行ってみます。宝珠が、持ち運びできるようなら、聖女様に祠まで行っていただくのではなく、こちらにお持ちいたします」
「よ、よろしくお願いします……」
ナイジェルさんをリーダーにして、出発して約十日。
ようやくわたしもカリンちゃんも、この山で、比較的まともに動けるようになってきました……。
で、先遣隊として向かった人たちのうち、数名が帰ってきた。
「報告いたします。祠が……。あるはずの場所に行ってもなくなっておりまして……」
「え?」
どういうこと?
まさか、祠に手足が生えて、どこかに移動した……わけじゃないよね。
「溶岩が流れ、それと共に、祠も流されたのではないかというのが、ナイジェル氏の考えで」
えっと、山頂の火口から噴火した溶岩。その溶岩流に流されて、宝玉は祠と共に、流されていった……ということ?
「ナイジェル氏、他の団員たちは、祠を探しに行っております。聖女様ならびにイグニス副団長は、ここではなく、山の中腹のほうの拠点でお待ちいただけないかと」
「……そう、だな。少しでも下れば、アイリス様と聖女様のお体の負担も減る。では、そうしよう」
連絡に来た人たちは、少し休憩するとまた、ナイジェルさんのいる捜索隊のほうへ戻るとのこと。
とりあえず、あと十日ほど捜索をしたら、拠点その一に戻るということだった。
わたしたちはイグニス副団長の指示の下、キャンプを撤収。
山を下るにつれて、体というか呼吸が楽になる。
とりあえず、拠点その一、山の中腹、富士山で言うところの五合目で待つ。
このあたりなら、体調も大丈夫。
うーん、でも、また山の上のほうに上るのなら、体を慣らさないとなーというわけで、五合目から六合目のあたりを登ったり下りたりして、体を鍛えるっていうか、整える。
鍛えた後は、もちろん温泉!
このために生きている!
というほどじゃないけど、お風呂の入れるっていいわー!
そんなわけで、テントレベル6、五右衛門風呂付テント、常設でっす! しかも、二つ。
片方は、わたしとカリンちゃん、マグノリアさんカメリアさんの女子四人専用で使う女子テント。
もう片方が、騎士団の皆さんと魔法師団の皆さんで使ってもらう男子テント。
ふっふっふ。団員の皆さん順番に、お風呂に入ってもらうことにしたの。
最初はみんな「何だこれ⁉ でかい樽に湯が⁉」とかびっくりしていたけど。
一度二度、繰り返して入ってみると「あー……、風呂は良い……」と順番が来るのを首を長くして待つようになった。
指定の人数以上がお風呂に入ると、お湯は循環されなくなってしまうけど、消えてなくなるのではなく、その場に残るから。
残り湯で、お洗濯とかもしているらしい。
ま、男子テントは皆さんで好きに使って下さい。
毎日一回、出し入れしているから、残ったお湯は使いたい放題です。
男子テントはなんか休憩所みたいになっているわー。
探索に出ているナイジェルさんたちには申し訳ないけど。
拠点その一で待機しているわたしたちは、割と気楽に、風呂に浸かって、しっかり食事をとって……になっている。ご、ごめんね!
そして十日後。
もうすごく、ボロボロというか、ものすごく汚れたナイジェルさんたち、捜索隊の皆さんがやってきた。
ナイジェルさんなんか、色っぽいお兄さんはどこ行った的な浮浪者みたいになっている。髭は生えているし、ご面相はいかついし。
「と、とにかく、テントに入って! あ、順番でお風呂に入ってください!」
捜索隊の皆さんが順番にお風呂に入って。それで、お茶とかも飲んでもらって、一息ついてもらった。




