第31話 遊びたがりのオルキーヌス・オルカ
遊びたがりのオルキーヌス・オルカ。
だったら遊ぶしかないよね!
「小舟を貸してください。わたしが乗って、海に……というか、オルカの近くまで行きます」
「危険ですっ! オルカに小舟が突かれて、小舟は大破! アイリス様が海に投げ出されます」
「はい、ですから、白の魔法師のどなたかに船に同乗してもらいます。オルカに突かれても、舟が海に浮かび続けるように。あ、あとわたし、舟、こげないので、誰か漕ぎ手も……」
イグニス副団長は眉根を寄せたけど、真剣な顔でわたしの顔を見てくれていた。
「……アイリス様、小舟で海に乗り出して、何をなさるおつもりで?」
「オルカの前で、歌って踊ります」
「は?」
アイドル・オン・ステージ! というわけではないけれど。
大学の先輩たちに見せてもらった昔のアニメ。
文化のない宇宙人。その目の前で、とあるアイドルが歌って踊ったら。
宇宙人は文化に目覚めちゃって「デ・カルチャー」って叫んで世界は平和になりました……。
歌姫は世界を救うのよ……。多分。
「うまくいくかどうか分からないけど。やってみる価値はあると思うんです」
イグニス副団長はナイジェルさんと即座に相談。
わたし、イグニス副団長、ナイジェルさんの三人と、それぞれの船のこぎ手で。
三艘の小舟に乗って海に出ることにした。
もしもオルカ・アタックをされたら、ナイジェルさんの魔法でガード。
それ以外の不測の事態が起こったら、イグニス副団長が力技でなんとか……というか、剣でオルカを切って捨てるって……。
オルカを剣で切るのって……。つるっと滑りそうな脂肪ガード……。
たしか 海洋哺乳類の脂肪層って、密度が高かったはず。緻密に配列された結合組織の厚い層……。で、体脂肪率は五十パーセントを超えていたはず……。地球産の海洋類と、異世界の海洋性魔物の体が一緒なはずはないけど……、多分、剣では切りにくいよね……。
まあ、でも、いざという時は頼りにします。わたしが海に落ちた時も、きっと泳いでわたしを救出してくれるはず。
その時のために、イグニス副団長は鎧を脱いで、しかも泳ぎやすいようにとマントや上着も脱ぎだした。
わあ! 半裸! 昼間の太陽に照らされた細マッチョの肉体美っ! まぶしい!
なんてふざけている場合じゃないけど。
女は度胸! ですよ!
やりましょう!
小舟で海に漕ぎ出す。
するとオルカたちは「何? ナニ? 何が始まるの?」と、期待に満ちた目でわたしたちを見て……。小舟の周りをぐるぐる回る。
その様子は、散歩に行くよとリードを持った飼い主の回しを走りまわる犬のよう。
ある意味かわいいんだけど……。
そのぐるぐる回るオルカの数が……増えていく。
どんどん増えて、増えて……。
期待に満ちた、オルカたちの瞳。二十四の瞳どころかその十倍……。ここまで多いと数の暴力!
ええい!
わたしは思いっきり息を吸って。そして。マイク代わりの扇を握り締める。
「みんなーっ! 抱きしめてっ! この異世界の果てまで!」
とあるアニメの歌姫の、決め台詞アレンジバージョンを叫ぶ。
そして、歌う。
恥ずかしいとかは、言ってられない。
一曲、二曲と歌っていくと、オルカたちが手拍子……じゃないや、腹ヒレでぱちぱちと胴体を叩いてくれた……。
小舟が揺れるから激しいダンスは無理だけど。
アイドルチックな手振りをちょっとだけつけて、歌って。
そして、ピースサインを顔の横で構えて、ウインク。
ウインクと同時に「キラッ☆彡」とキメポーズ。
オルカたちから、やんややんやの喝さいをもらったわ……。
そして、代表のように、一頭のオルカがわたしたちの前に進み出てきた。
『娘よ……。素晴らしい歌とおもしろい振りをありがとう☆彡』
お、オルカが喋った!
びっくりしつつも、せっかく褒めてもらったのでお礼を言う。
「あ……、ありがとう! 楽しんでもらえて何よりだわ」
恥ずかしさを見ないふりして、全力でアイドル演じた甲斐があった!
『ふふふ……、これはお礼をしなければなりませんね……』
お礼がおかしなものだと困る!
わたしは即座に言う。
「あ、あのっ! お礼というのなら、わたしたち乗る小舟を、あの島まで運んでくれませんか⁉ わたしたち、全員、島に行きたいんです!」
全員と、カリンちゃんや青の騎士団のみんな、白の魔法師団のみんなを指で指し示す。
「あの者たちも小舟の乗るので。小舟を突いて、島まで運んでもらえると助かります!」
勝手にお礼をされる前に、こちらからの要望を告げる。
『ほほう……。鼻先で小舟を突いて運ぶ……。それもまた一興……』
オルカの皆さんが、きゅいきゅいと賛同の声を上げた。よしっ!
わたしは素早くイグニス副団長に目線を流す。
わたしの視線の意味を理解してくれたイグニス副団長は、
「全員急ぎ小舟に乗れっ!」
砂浜にいて、こちらを向いているカリンちゃんや青の騎士団の皆さん、白の魔法師団の皆さんに向かって怒鳴った。
「はっ!」
青の騎士団の皆さんが、即座に砂浜の上の小舟のを波打ち際に押していく。
カリンちゃんたちを乗せて、わたしたちのほうへと進む。
オルカたちが、みんなを乗せた小舟のほうへと向かう。
「では皆様! わたしの歌に合わせてっ! あの島までGO! ですよ!」
オルカたちが全員合わせたかのように同時に「キラッ☆彡」とウインクをキメてきた……。あははは……。




