第20話 あー……。
あー……。
キーファー殿下には婚約者が居ますよね。婚約者が居るくせに、他の女性に求婚なんて、それって不貞ですよ。不実なキーファー殿下となんて結婚したくありませんとか。
そういう感じに話を持っていくはずだったんだけど……。
カリンちゃんの拒絶感がすごい。
猫が歯を剥いて「キシャアアアアア!」と威嚇している状態。
あーあ。
しつこく付きまとわれた上に、大勢の人の前で「俺様に相応しいのは」云々言われてキレたのね……。
ええと。婚約者のハリエットなんとかっていうご令嬢は、口を挟むこともできずにただ青い顔で突っ立ったまま。そちらもゴメン。でも、交流のないご令嬢だからちょっと放置させていただきます。
ご令嬢よりもこの場をなんとか……しないと。
わたしはすっと背を伸ばす。
そして、カリンちゃんの傍まで歩く。
流れるように、国王陛下に向かって、淑女の礼。
「僭越ながら、文化の相違、価値観の相違に関し、申し上げたき儀がございます。発言をお許し願いたいのですが」
カーテシーって、外国の所作だけど。一応習ったことはあるのよね。こっちの世界に来てからじゃなくて、お嬢様学校でだけど。
指先まで、美しく。凛として。
わたしはこの国の高位貴族の令嬢じゃないけど。
それと同等レベルの所作は身についているらしいから、多分、失礼には当たらない。
だけど。
「何だキサマはっ! この俺様と聖女カリンの婚姻を父王陛下に申し出たというのに! 邪魔するな!」
「……わたしは聖女カリンと同じ国に生まれ、同じ価値観を有し、同じ常識を有する者です」
「それがなんだっ!」
「ですから、フィッツジェラルド神聖王国の価値観しか持たない第三殿下が、聖女カリンに求婚をする、その愚かしさを伝えねばならないと義務感にかられたのですが」
「はあ⁉」
淡々と、謁見の間に響く声で言う。
そして、国王陛下のほうを向く。
「陛下並びにこの場にいるフィッツジェラルド神聖王国の皆様に申し上げます。わたしと聖女カリンの生まれた国の常識と、この国の常識は異なります。そして、それは男女の美醜に関しても同様です」
あくまで淡々と、激昂することなく単なる事実として述べますよという雰囲気は崩さない。
国王陛下が「続きを述べよ」と言ってくれたので、「ありがとうございます」と一礼をする。
「第三王子殿下のような女性的な顔立ちの男性は、わたしと聖女の国では、最低最悪のブサイクです」
謁見の間が、水を打ったように静まり返った。更に付けたしドン!
「個人に対する糾弾ではなく。文化、価値観の相違でございます」
嘘だけどね。
日本でも、キーファー第三殿下はイケメンの美少年でしょうよ。
でも、それは言わない。
ブサイクで、押し通す。
「こちらの世界では女性的な顔立ちが好まれるようですが、聖女の国では違います。男のくせに、女みたいになよなよしているのは気持ちが悪い……。聖女様独自の感想ではなく、その、わたくしも……、大変失礼ながら、その、キーファー第三王子殿下のお顔は……、吐き気を覚えるほど……」
さりげなくハンカチを取り出して、口元を押さえてみる演技。
「は、吐き気……。そ、そこまで申すか……」
「ええ。これほど醜いお顔を拝見したのは初めてでしたので……。わたしも聖女も、あまりの醜さに、醜いと言うことさえできず……。その、直視せずに、今の今まで口を閉ざしておりましたが……」
「そ、それは……本当のことなのか、聖女よ……」
国王陛下がカリンちゃんに問う。
「ブサイクって直接言えば、傷つくかなってこれまでは婉曲にお断りしてきたのに。こんな人前で勝手に求婚とか嫌すぎる!」
「外見だけではなく、性格も……わたしと聖女の国の常識からすると……」
さりげなくつけ加える。
「あり得ない傲慢さよね! だいたい一人称が『俺様』ってなによ! あたしたちの国じゃあ、『俺様』っていうのは『自分以外のコトは考えていない程の自己中な人間』を指して使う言葉なの! 『仕事がよほど出来るとかでない限り、社会性の欠落した非常識なヤツ』っていう嫌われ者よっ!」
陛下たちはあまりの違いにポカーンてなってけど。
さすが「俺様」キーファー殿下はめげなかった。
「そ、それではお前の国の美男とはいったいどんな男なのだっ!」
なんて、聞いてきた。キーファー殿下の言葉に、わたしとカリンちゃんは同時に答える。
「イグニス副団長ですね」
「イグニス副団長よっ!」
まるで合わせたように、ぴったりと声が重なった。
「背が高く、厚みのある筋肉」
「鋭い眼光。きゅっと結んだ口元」
「騎士団の皆様って、イケメン集団だよねー。みんなカッコイイ!」
「周囲を威圧できるほどの眼光で射貫かれたい……」
「横抱きに、抱き上げてもらって、そのままバージンロードとか歩いてもらえたらサイコー」
「ああ、女性を抱え上げて、すたすた歩ける筋力と体力は、美男の第一条件ですものねぇ」
「そーそー、風に吹かれたらよろけるような、そんな弱々しい男はごめんだわ!」
きゃっきゃと、女子高生のノリで、わたしとカリンちゃんは言いまくる。
「あーでも、性格も大事だよねー」
「そうそう。『俺様』なんて最悪ー」
「空気読んで発言しろって言いたくなるもんねー」
「そうよ、相手の気持ちを考慮しないで、自分の考えを押し付けてくる第三王子ってサイテー」
「その点、イグニス副団長は外見の男性美が完璧な上に、相手の意見もちゃんと聞いてくれるし」
「対応早いよね! 第三王子が嫌だから、お城から離れて、お姉様の離宮で寝泊まりしたいって、わたしが言ったら」
「すぐ動いてくれたし。有能すぎる」
「男前、性格よし、仕事ができる……なのに」
「イグニス副団長、この国ではモテないんですって! おかしいよね」
「わたしたちの国だったら、イグニス副団長って、モテてモテて、女性からの争奪戦が起こると思うのに」
「そのイグニス副団長がモテなくて、第三王子なんていう『俺様』がもてはやされているなんて」
「わたしたちとフィッツジェラルド神聖王国の皆様の価値観て」
「全然違うよねー!」
きゃいきゃいと、言いたい放題してみました。ふっ。
「ということで、キーファー第三王子殿下などという、顔が悪い上に、性格も悪い、しかも婚約者のご令嬢がいるくせに勝手にあたしに求婚するような、不貞男なんて、ゴミも同然。気持ち悪いから、今後あたしの目の前に現れないでください」
カリンちゃんによるトドメの一撃。
容赦ないなー……なんて。
まあ、でも、ストーカーチックな自意識過剰男を拒否するにはこのくらい言わないと駄目だよね。
キーファー殿下は「ゴミ……、こ、この俺様が……」とぶつぶつ言っているけど、無視だ。
「それよりも王様。あたしが四か所の宝珠を修復し終えたら、ちゃんとあたしたちを元の国に帰すって約束してください」
わたしはともかく、カリンちゃんは帰りたいんだよね。
わたしは……どうしよう……。




