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第17話 一、二、三……と、ステップを踏む

 一、二、三……と、ステップを踏む。


「アイリス様。初心者には思えないほどお上手ですね」

「ありがとう。イグニス副団長のリードが安心できるからですね」

「そ、そそそそそそうですかっ!」


 あら? 顔が赤いわ、イグニス副団長。照れてる? 褒められるのに、慣れていない感じ?


 イグニス副団長のリードがお上手で。

 気分が良くて、このまま何曲でも踊れそう……と思ってしまった。踊ってもいいかなー。あ、でも、ラノベのお約束……。ダンス、踊るのは……。


「あの、イグニス副団長?」


 踊りながら、聞く。


「何でしょう、アイリス様」

「フィッツジェラルド神聖王国では、夜会などで、二回以上続けてダンスを踊るのは婚約者か夫のみ……なんて、ルール、あります?」


 聞いてみたら、イグニス副団長は「おや?」みたいな顔をした。


「よくご存じですね。ええ、その通りです」


 あー、ラノベの世界ではよくあるんですよね。


 たとえば悪役令嬢物語的なお話があって。

 悪役令嬢の婚約者である王太子殿下が、平民上がりの男爵令嬢とパーティで続けて二回、三回とダンスを踊る。悪役令嬢は「婚約者はわたくしですわ」とか、激昂をして……なんてね。


「……わたしの世界の、とある国でも、似たようなルールがありまして」


 とある創作物の中の国、だけど。


「そうですか。どこの国も似たようなものですね。ですが、今は練習ですので」


 つまり、二度三度踊ってもオッケーね。

 でも、もう一つ、確認しよう。

 後で何かあったら困る。

 念のため。


「えーと、それから……、イグニス副隊長には婚約者のご令嬢か奥様とかいらっしゃいます?」


 曲の途中なのにイグニス副団長は、ものすごーい顔で、ぴたっと動きを止めた。

 んんん? 聞いてはいけないことだったのかな?


「……婚約者も妻も何もないです。その、見ればわかると思いますが、私は……、ゴツくてデカい上に、目つきが悪いものですから。ご令嬢の皆様には恐ろしがられております。おかげで二十四歳にもなって、浮いた話一つもない。思わずダンスの申し込みをしてしまいましたが、その……、アイリス様からも、怖がられて断られるかと……」


 苦笑っていうか、諦めみたいな顔。

 あ、それで、さっき、本当によろしければなんて、躊躇していたの?


「えー、イグニス副団長のどこを見て恐ろしいとか思うんですか? 端正なお顔としか思えませんが」


 不思議に思って首を傾げた。

 ごつい……のは、鎧を着ているからだと思うけど。脱いだらすごいんです、あら細マッチョ、素敵って感じだけど。

 目つきも、騎士様だから、周囲を警戒する目つきで当然だよね。


「えーと、こちらの世界の基準はわかりませんけど。イグニス副団長、わたしの世界だったら、絶対に人気は高いですよ。多くのご令嬢からの争奪戦が起こりそうなくらいに」

「は⁉」


 黄色みの強いハニーブロンドの髪に、青の瞳。剣を持って戦う騎士様。いつもは端正なシベリアンハスキー感があるのに、時折ゴールデンレトリバー系。気配りもできて空気も読める感じ。モテない要素がない。


 アニメとかマンガの、某魔法騎士というか、魔法剣士様。身長二メートル近くあるのに、昼寝と甘いものが好きで。でも無口、無表情なのにカッコよかったもの。主人公の熱血系魔法少女と最終的にはラブラブしてたけど、身長差五十センチくらいあって、魔法剣士様のデカさが一際エグかったキャラクター……。


 それに比べたら、全然爽やか系好男子ですよ、イグニス副団長は。清涼飲料水が良くお似合いです。なんかこう、プロのスポーツ選手みたいで。白い歯がきらっと輝く好青年。


 なんて、言ったら。


「女性から褒められるなど初めてですので。なんと言っていいのか……、恐縮です」


 なんて、顔を赤らめるし。


 あ、なんかきゅんきゅんするわ! 大学の先輩たちが言っていた「推し」に対する感情って、こんな感じなのかな⁉ 

 ちょっと心ときめく……。

 笑顔が尊い……。


 えっと、どうしよう。アイドルに対する推し活動を参考に、ファンサ、ありがとうございます! とか言うべき? 

 いや、わたしには、そんな専門用語を使うのは難しすぎる。

 ああ、大学の先輩たちがここにいたら。わたしのこのキュンキュンする気持ちを詳しく説明してくれると思うのになあ。


 しかし、いつまでも見ていられるわ、イグニス副団長のテレ顔……。



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