第16話 先生一名、生徒二名。一対二の指導。
先生一名、生徒二名。一対二の指導。
わたしが習っている間、カリンちゃんは私のダンスの様子を見て。
カリンちゃんがダンスをしている間は、わたしがカリンちゃんを見る。
見るのも勉強になるからね。
わたしは一番簡単な曲だったら踊れるようになったけど。
カリンちゃんは苦戦中。
「お姉様、覚えるの早いー」
カリンちゃんがヒイヒイ言いながら、男性パートナー役の人と踊る。わたしはゆっくり見学です。
「がんばれー。あとでテント出すからねー」
「絶対に! お願いぃぃ~!」
カリンちゃんの奮闘を座って見ていたらイグニス副団長がやってきた。
お忙しいのだろうに、こまめにわたしとかカリンちゃんの様子を見に来てくれるのよね。
宝珠修復の旅の、同行責任者がイグニス副団長だから、コミュニケーションを取ろうとしてくれているのかもしれない。さすができる男。
あ、同行責任者、最初はキーファー第三王子だったんだけど。
カリンちゃんが「あの男と一緒に行かなきゃならないのなら、聖女の仕事なんて拒否する!」って、激怒したからね。キーファー第三王子は排除となりました。
キーファー第三王子は「この俺様が行かずして誰が行くのだっ!」とか抵抗したらしいけど。
「だったら一人で行けば? あたしは絶対にあのクソ第三王子とは一緒には行かないから!」ってカリンちゃんが。
……聖女様が行かないのなら無意味だもんね。
で、キーファー第三王子は行かないようにって、国王陛下の御命令まで出たって……。
じゃあ、責任者は誰にするかってことになって。
聖女関連だから、本来、ブロニー・ベネット白髭のおじいちゃんが責任者にはなるんだけど。
ご老体連れての旅はちょっとねー。無理。
というわけで、イグニス副団長が選出されました。
青の騎士団の団長様は、陛下とか王妃様とかお城の警備も担っているから行くわけにはいかないからね。
白の魔法師団の人はたくさん同行するらしい。
ジョナサン君は準備班。馬とかの用意をして、後から合流するみたい。
で、白の魔法師団と青の騎士団の調整とかもあるし、いろいろお忙しいのに、毎日イグニス副団長は、状況報告に来てくれる。でも、長居はしない。用が済んだらすっと去る。もうちょっとお話、できたらいいなーとは思うんだけどねえ。
やっぱり、仕事のできる男はお忙しいよねー。残念。
と、イグニス副団長のことを考えていたら、ご本人様がいらっしゃった。今日もきりっとしたイケメン眼福です。なんてねー。
「アイリス様はご休憩中ですか?」
推定身長180センチ超えの大柄な人だから、やっぱり大型犬っぽい。黄色みの強いハニーブロンドの髪がゴールデンレトリバー感をアップ。
「わたしは一曲踊れるようになったから。カリンちゃんができるまでちょっとお休み中です」
「もう覚えられたのですか? アイリス様、さすがですね」
褒めてもらうとちょっと照れるのは、イグニス副団長がイケメンだからかな!
しかも細マッチョで長身の騎士様。ファンタジーオタクの大学の先輩たちがイグニス副団長を見たら、ヨダレ垂らすかも。
「復習がてら、もうちょっと踊りたい感じではあるんですけどね……。パートナー役の先生、お一人しかいないから」
すごく考えて、迷ってから。イグニス副団長は申し出てくれた。
「………………では、アイリス様、私がダンスの申し込みをしてもよろしいですか」
「わあ! 嬉しい! イグニス副団長、踊れるんですか?」
びっくりだ。
騎士様なのに。
剣舞とかじゃなくて、ソシアルっぽいダンスだよ⁉
「はい。一応伯爵家の者ですので。幼少の頃よりエスコートとダンスは叩き込まれておりますが……」
「わー、すごい」
「あの、その……、本当にアイリス様のお相手が……、私でも、よろしければ、なのですが……」
「はい、ありがたいです。よろしくお願いします!」
ホント、気の利くいい男だなーなんて。
どこぞの殿下とは大違いだ。
「では、鎧を脱ぎますので、少々お待ちを。着替えに戻るべきではあるのですが、そうすると時間が無くなりますので……」
ああ、ダンスのときは正装?
この辺の感覚が貴族なのかも。
でも、わたし、服は別に気になりません。
「こちらかお願いして踊っていただきたいくらいなのですから。お気になさらずに」
ありがとうございますと言って、イグニス副隊長は青いマントをまず外した。
いえ、ありがとうはこちらのセリフですが。
皮の胸当てと、腕に籠手っていうのかな? 拳と下腕を囲んで保護する硬い革の戦闘用手袋みたいなのを、流れるような滑らかさで外していく。
所作がキレイ。
思わずじっと見てしまう。……あら、白のシャツの上からでもわかる体格の良さ。やっぱり細マッチョ系。かっこいいわー。
しかも。
すっと背筋の伸ばしてわたしの前に立ち、両脚をそろえて、軽く一礼をしてくれた。姿勢が良すぎて凛々しい!
お顔も端正ね! 素敵!
「アイリス様。本当にこのような装いで申し訳ございませんが、一曲お願いいたします」
「はい、ありがとうございます」
気にしないでくださいねーと、瞳に力を込めてにっこりと笑ってみる。
イグニス副団長は、小さく頷いてから、すっと、わたしに右腕を差し出してくれた。ちょっとドキドキするわね。わたしはそこに自分の左腕を絡ませる。
そして、カリンちゃんと男性パートナーの先生にぶつからない位置に立つ。
イグニス副団長が左手でわたしの右手を持って、それから、左手をわたしの背中に添える。
わわわ……。背中に感じる大きな手の感触……。
曲に合わせてゆったりと踊る。
さすがイグニス副団長。体幹がしっかりしているし、動きに無駄がないと言うか。
シンプルでスッキリとした動きだけど、それがかえって踊りやすい。
正直に言うと、さっき、男性パートナー役の先生と踊った時よりも踊りやすい。
ああ……なんか、楽しいな。
楽しくって思わず頬がゆるんでしまった。




