第11話 カリンちゃんの予想通り
「カリンちゃんの予想通り、わたし、結構裕福な家で育ったのよね。で、いつの時代の話だってカンジなんだけど、親が決めた婚約者が居るの。で、その相手っていうのが……」
カリンちゃんと、イグニス副団長、ローズとフローラ、護衛のみんな。
黙ったまま、わたしに注目。
「……その、婚約者っていうのは、正式に婚約したとかいうわけじゃないけど。お父様とお母様が望んでいるの」
「政略結婚とか?」
「ううん。なんて言ったらいいのか……。まずわたしの家族構成。お父様とお母様と優太お兄様とわたし。四人家族。わたしが十六歳の時までは、そう思っていたの……」
家族仲は良かった。多分、自慢できるくらいに。
「わたしが十六歳で、お兄様が十八歳の時にお父様とお母様から真剣な顔で言われたのよ」
「何を、言われたの……?」
「お兄様と思っていた人は、実は兄ではなくて従兄だったって」
「え?」
「優太お兄様は、お父様のお兄様の子。だからわたしの従兄」
「……お兄様とやらのご両親は?」
「わたしが生まれる前に事故でお亡くなり。だから、お父様が引き取って育てて……」
そんなこと、知らなかった。
物心ついた時からお兄様が居て。大好きなお兄様。家族。
……だったのに。
「嘘か冗談かと思ったの。なのに、戸籍抄本、役所から取って来て。お父様はお兄様とわたしに見せたの」
わたしもショックだったけど、お兄様も顔が真っ青だった。
戸籍って証拠も見せられたら、もう、何も言えなかった。
「お父様とお母様はわたしたちに言ったの」
「なんて……言われたの?」
「うん。わたしとお兄様に結婚してほしいって。本当の家族になりたいって。お兄様のことは、本当の息子のように愛しているからって」
「そ、それは……」
カリンちゃんは絶句していた。
「十六年間、兄と思っていた人が従兄ってだけでもちょっとショックだった。わたし、お兄様のことは大好きよ。だけど、その愛情は家族としての愛で。妹として兄が好き。だから結婚なんて」
「考えられないよね……」
「うん」
ああ、よかった。カリンちゃんはわかってくれた。
「わたしにしてみれば、近親ナントカな感じなのよね。兄と結婚なんて。でも、お父様とお母様の気持ちも分かるし……」
もう、どうしようかと思った。
わたしに、カレシとか、好きな相手とかいればよかったのかもしれない。
だけど、男の人と接点のない生活をしていたのよ。
学校は女の子だけ。通学の時も車で送り迎え。学校の男の先生は……いたけど。恋愛対象じゃないし。
「とにかくいきなりは無理って言って。猶予をもらった。さいわいお父様たちもしばらくは混乱するだろうって、猶予はくれた。でも、わたしが大学を卒業するまでに決めてほしいって」
「決めてって言われても……」
「うん、結婚するかしないかを決めて、じゃないんだよね。結婚する心を決めてってコト。兄から従兄だって意識を切り替えて、それで、ゆくゆくは夫としてみなさいっていう命令みたいなモノよ。だって、お父様、お兄様をご自分の会社に入社させて、跡取りだって公言しているし。娘の婚約者だとか言ったこともあったしね」
「うわ……」
決められた人生のルート。
狭い世界。大学卒業後はすぐに結婚しなさいってコト。
「アイリスお姉様のお兄様は抵抗しなかったの?」
お兄様は、お父様たちに育ててもらった恩があるから、自分からは断れない。そして、お父様の跡継ぎとなるべく、一生懸命仕事にまい進している。
令和の世代の若者とは思えないくらいに義理堅い。
すごく、イイヒト、素敵な兄ではあるんだけどね。
「うん……。わたしが、お兄様と結婚すると言えば、お兄様はイエスって答えちゃうんだよね……。だけど」
わたし的には無理。
兄妹で結婚なんて無理。
ずっと家族として育ってきたんだから。
「だから、わたし、お母様の母校の女子大じゃなくて、お父様の母校の共学に進んだの。お父様とお母様はその二択しか認めてくれなかったから。国立難関大学だけど、文系ならなんとか入試も突破できそうだったし。お父様が認めてくれるような、優秀な誰かを見つければ、お兄様と結婚しなくてもいいかなって」
大学の四年間で、なんとかお兄様との結婚ルートから外れたいって。
「で、いたの? 誰か」
ぐっ! と胸を押さえてテーブルに突っ伏した。
「いません。できません。わたし、モテないもん……」
「モテないんじゃなくて、アイリスお姉様、大学で浮いていたんじゃないの?」
「……なんでわかるの、カリンちゃん」
そう、浮いていた。確かに浮いていた。
「だって、お嬢様学校育ちのお嬢様なんて、絶滅危惧種みたいなものが、いきなり現れたら、そりゃあ皆さんびっくりするよ。国立難関大学って、つまりは頭がいいけど、生活環境なんてバラバラでしょ。そんなところに優雅な立ち居振る舞いのお嬢様が『ごきげんよう』なんて挨拶して来たら、ドン引きになるか、逆に、何だこの珍しい生き物は! って、興味津々にイジラレルか……じゃないの?」
まさにカリンちゃんの言う通り……でしたよ……。




