第10話 まあ、それはともかく。
まあ、それはともかく。
高校卒業まで続いたお嬢様的立ち居振る舞いは、もうわたしの血肉になっている……のかもしれない。
この世界で役に立っているなら、まあ、ラッキーとでも思おうか。
「ま、日本のお嬢様的立ち居振る舞いが、異世界の貴族社会で通用するなんてびっくりだけどね」
「ふるまいっていうか、そもそも姿勢や所作からして違うもん」
「そお?」
違うかな?
フツーだと思うけど。
「たとえば床に落としたハンカチを拾おうとするでしょ」
「うん?」
「あたしなんて、一応手でスカートは抑えるけど、そのままお辞儀するみたいな姿勢で、がばっと拾っちゃうけど。お姉様はちがうし」
「うん?」
「上体だけ曲げて、慌てて拾うんじゃなくて。背筋を伸ばしたまま、膝を曲げてさっと腰を落として拾うみたいな、エレガントさ。テレビで見る皇族の皆様並みとはではいわないけど。飛行機のキャビンアテンダントさんたちみたい。常に笑みをキープ、動作とか視線とかで思いやりと伝えます~的な」
「あ……」
そ、そうか……。
私立女子学園育ちだから……。学校で、立ち居振る舞いどころか、日舞とか茶道とか華道とか、いろいろしてきたものね……。くっ! 盲点! なんてね。
「なんかねー、アイリスお姉様、あたしとかみたいに一般人に擬態しているみたいだけど、ふっとしたときに上品さが醸し出るというか、あー、お育ちが良いんだなーって思うよ」
「一般人って……。カリンちゃん、芸能人じゃないの?」
モデルさんだし。
「んー、芸能事務所に所属はした。けど、初仕事でいきなり……だったから」
「あー……」
そ、そうか。ようやくゲットできた初仕事の時に、異世界に召喚なんて。
泣きわめいても仕方がない。
「もう、なんとか宝珠とやらを修復して、さっさと日本に帰って、事務所のマネージャーに謝るしかないけど。あたしより、アイリスお姉様のほうが大変じゃない?」
「え?」
「だって、お嬢様でしょう⁉ 警察沙汰とかになっていない?」
「あー……。家出だとは、思われているかも……」
失踪とかかも。
お父様やお母様はわたしを探すだろうけど。
優太お兄様は……。
「……どうせだから、わたしの事情を話しておきますか。あのね……」
わたしには、親が決めた婚約者が居るの。
で、わたしはその婚約者と結婚したくないの。できないの。
どうしても、わたしが就職して、家を離れたかった理由。
異世界とやらに召喚されても、慌てないで、寧ろラッキーとか思った理由。
それを、カリンちゃんたちに話すことにした。




