第1話 誠に残念ながら今回はご期待に添えない結果となり
「『誠に残念ながら今回はご期待に添えない結果となりましたことをお知らせ申し上げます』って、また不採用っ!」
大学四年生の秋で、企業様からの不採用通知も四十九通目。
「あ、あああああっ! もうっ! 就職活動、イヤーっ! 内定プリーズ‼」
思わず頭をガリガリ掻いたら、髪の毛を後ろで束ねていたシリコン製の髪ゴムがぶちっと切れた。胸までの長さの髪がばさりと広がる。溜息を吐きながら、腰をすっと落として髪ゴムを拾う。
「……今度からはスプリングタイプの髪ゴムにしよう。あー、でも就活で使っても大丈夫かな」
就職活動において見た目は重要。身だしなみをきちんと整えないと、どんなに素晴らしいエントリーシートを書いても、面接で良い受け答えをしても、確実にマイナス!
それが女子の就活!
だから、ネットの就活サイトなんかでも、髪色、髪形、服装、メイク方法エトセトラ、すごく詳しく説明されている。
確実に自由な髪色オッケーの企業以外は、髪色は黒が無難。
眉毛が見えることで、顔がすっきりし、明るく元気な印象になる。
お辞儀をしても崩れない髪型にする。面接試験などでお辞儀をする機会が多い。その都度髪の毛を直すのは見苦しい印象。
毛先が跳ねると寝ぐせと受け取られるからダメ。しっかりセットする必要がある。
もっともオーソドックスなのが、後ろで一つ結びにすること。
肩につく程度の長さの髪をハーフアップにするのは女性らしさや上品さをアピールできる。だけど、結んでいる部分だけがしっかりとしていても、下のほうの結んでいない毛が広がっていると、ぼさぼさの髪に見えてしまうので注意。
メイクはきちんと見えるナチュラルメイク。
白いワイシャツに黒無地のスーツ限定。
外見的にはわたし、完璧なる就活女子スタイルなのにっ!
だったら、中身か⁉ 中身が駄目なのか⁉
立ち居振る舞いとか礼儀作法とか、ドアの開け方とかお辞儀のしかたとか!
高校まで通っていた私立女子学園には礼儀作法の授業があって、その授業でみっちり仕込まれたから、マナーには自信ある!
言葉遣いだって、尊敬語に謙譲語に丁寧語も完璧だよ! あんまりに完璧に過ぎると、大学では浮いたから、逆にフツーの言葉遣いを勉強したくらいよ! 今じゃ、そっちの言葉遣いのほうが楽になってきたけどね!
わたし、大学一年の時のあだ名は「お嬢様」だった。
今ではもうフツーに名前で呼んでもらえているけどね!
大学の成績だって悪くない。オールA評価とは言わないけど、それなりに優秀だと思う。
エントリーシートも提出した。
筆記試験に面接試験。受けて、受けて、受けまくった!
就活本もたくさん読んだ!
大学の就職課の職員さんにもアドバイスを貰って、その通りにがんばった!
なのに全滅! 不採用通知、四十九通目!
落ちる理由が分からない!
「やっぱり美人じゃないと駄目なのかなあ……」
決して不美人じゃない……と思うけど。まあ、日本人的なのっぺりとした顔であることは否めない。瞼は一重だし、鼻は高くないし。
いやいや、人間顔じゃないよ……とは思うけど。
不採用も四十九回目だと、正直へこむ。
夏休み中に内々定をもらえれば、十月の内定式に向けての準備ができたのに……。
いつもお世話になっている大学の皆様、ゼミの同期の皆様たちと、一緒に卒業旅行の相談とか、キャッキャ言いながら楽しんでいるはずだったのに……。
「どこでもいいから採用されたい! このままでは就職浪人! お父様の言うとおり、大学卒業後、結婚なんて嫌っていうか、無理! 助けてお兄様……は、駄目だ……」
お父様とお母様のお気持ちはわかるけど、無理ですよぉおおおお!
だから、就職して、自活して、お父様やお母様や……優太お兄様と離れようと思ったのに……っ!
叫んだら。急に目の前が真っ暗になった。
「え……?」
余りのショックに貧血でも起こしたのか……と思ったけど。
違う。
いつのまにか、わたし、ものすごく広い部屋にいた。
天井にはシャンデリア。
壁には金箔張りレリーフ。
暖炉の上は鏡張りになっていて、大きい部屋がさらに大きく見える。
首相会談とか調印式とかにも使えそうなほど豪華。
迎賓館とかヨーロッパのお城とか……?
しかも床にはマンガやアニメでおなじみの魔法陣や錬成陣みたいな、円と訳の分からない言語なんかを組み合わせた図形が描かれている。
そして、その図形の周囲には、白い色のローブを着た、いかにも魔法使いですって感じの人たちが、力を使い果たしたかのように、床にへたり込んでいる。
壁際には騎士か兵士かは分からないけど、青いマントを着て、腰に剣を下げた人たちも大勢いるし。
極めつけは、金髪碧目で王子様っぽい美少年!
白で色が基調で金の糸で重厚な刺繍がバリバリされているお召し物。しかもマントも! 金と紫の組み合わせで、えぐーい! ダサーい! すんごい美少年だからいいけど、これ、恰幅のいい中年男性が身に纏っていたら、完全に成金のオジサマ……。
いや、失礼しました。
これ……、ゼミの先輩たちから教えてもらった、アニメとかライトノベルでおなじみの「異世界召喚」かしら……。
アニメとか、マンガとか、ライトノベルとか。先輩たちからお勧めをたくさんお借りしたの。
フツーの会話とか、話す言葉とかって、こんな感じだよーって。参考資料だったんだけど……、おもしろかった。
それまでわたし、小説って言ったら、世界の名作や日本の古典文学しか知らなかったから。
魔法とか、異世界転生とか、悪役令嬢とか。
まあ、なんて、荒唐無稽且つ心惹かれるお話なのでしょうか!
ドキドキわくわくして読んだライトノベルでよくある通り、もしもわたしが「聖女」とか「勇者」としてこの異世界に召喚されたのなら。
「就職活動、終わり……」
つまり、就職先、ゲット!
もう、エントリーシートを書かなくていい!
筆記試験も受けなくていい!
面接試験に行かなくてもいい!
ハラショ~って、コサックダンスを踊るのはちょっと恥ずかしいから。そうね、『藤娘』でも踊ろうかしら。日舞の。なーんてね。
そのくらい、喜んだ。
就職先が決まるのなら、魔王討伐の旅に出てもいい!
企業様の採用面接なんて、魔界のダンジョンよりも多分つらい!
と、思ったのに……。
金色と紫の組み合わせの、キラキラっていうか、ぎらぎら衣装の王子様的な少年が近づいてきて……、わたしを見て……。
そして、わたしの横を見た。
「なぜ二人いる? どっちが聖女だ?」
「え?」
二人?
「見た目からすると、こちらが聖女に見えるが……」
こちらと言いつつ、わたしの横を見る王子様っぽい美少年。
わたしもつられて横を見る。
なんと! すっごい美少女が、わたしのとなりにいた。




