誰しも暗い過去はある(7日目)
7日目
今日、私は意を決してライカ先輩に自分たち二人のことを話した。
弟に話してもいいかと聞いたところ、弟も近いうちに誰かに話すつもりでいたらしい。私はそのことに安心してライカ先輩の部屋を訪ねた。
ライカ先輩は嫌な顔一つせず私の話を聞いてくれた。
私たち二人がいた世界は私が生まれたときから荒廃していて、私たちの国も災害に次ぐ災害でどんどんぼろぼろになっていった。
それはどの国も同じで、人々が安心して暮らせる場所はほとんどなかった。
そんな時誰かの声がして、私は瞬間移動の能力を、弟は人を安楽死させられる能力を得た。
能力だけ与えられてそれをどう使えばいいか教えられなかった私たちは、しばらく途方に暮れた。
けれどもある日苦しむくらいならいっそ死にたいと言ってる人を見かけて、私たちはその人を安楽死させた。その人はとても安らかに死んでいった。
それからは私の能力で各地を巡り、弟の能力で苦しむ人たちを次々と殺していった。私たちは国中で噂になり『死の天使』と呼ばれた。沢山の人々が安楽死を望んだ。
でも荒廃した国で私たちもまた治らぬ疫病にかかった。全てを諦めた私たちは弟の能力で心中した。
ここにきて英雄が集まる屋敷へ案内されたとき、私たちが英雄と呼ばれていたということを簡単には信じられなかった。だって沢山の人を殺したんだもの。
それにここにいる英雄はみんな世界を脅威から救ったり、人々の生活を豊かにした人たちばかりだ。生きることを諦め人々の命を奪った私たちとは違う。
そのことをライカ先輩に話すとライカ先輩はまっすぐ私の目を見てこう言った。
「セイラ、ものは言いようなんだよ。セイラは沢山の人の命を奪ったと言った。それだけだと確かに悪いことのように聞こえる。でも今の話じゃ二人が殺した人は皆死ぬことを望んでいたんでしょ?」
「はい。私たちは苦しんで死ぬくらいなら、今ここで死にたいと言った人たちを手にかけました。でも……」
「セイラの様子から察するに、セイラは沢山の人の命を奪った自分たちに英雄の座はふさわしくないって思ってるんでしょう?」
「はい……自分たちがやったことは本当にいいことだったのかなと」
「でもね、セイラがここにいるってことはいろんな人から英雄だと言われている証拠。多くの人が二人に感謝してるってことなのよ。それに世界を救った勇者だって、語られないだけで沢山のものを犠牲にしてるし」
「えっそうなんですか?」
「そうよ。知りたいなら話してあげるけど……大切なのはここには英雄と称えられる分、沢山の暗い過去や苦しい重圧を背負っていた人たちが集まる屋敷でもあるの。そんな私たちが基本的には何もかも忘れて遊びつつ時には励ましあう、そういう場所なのよ」
ライカ先輩の話を聞いて私の心の暗雲はみるみる晴れていった。ここにいてもいいんだという自信が少しずつ湧いてきた。
読んでくださりありがとうございます。
次回最終話ですが、内容の大幅変更を予定していますので、更新は少し後になりそうです。