海の果てへ
それは伝説上の生き物
8本の手足
つりながの目
激流の伝説だった
「かあさん、そっちはだいじょうぶ?」
「だいじょうぶよ」
ぼくは激流にいた
激流をくだっていた
たったひとりで くだっていた
「ぼくは だいじょうぶ」
「わたしも だいじょうぶよ」
「ぼくらは また めぐりあえるかな?」
「また めぐりあえるわよ」
ゴツゴツとした いわをこえ
ザラザラとした きりをこえ
キリキリとした よるをこえ
「かあさん、なんで ぼくらは ひとりなんだろ?」
「そうね…」
「なんで ひとりなんだろ?」
「海を めざしているからよ」
「海?」
「そうよ、激流のしたには 海があるの」
「そうなんだ」
「そう、わたしたちは ひとまわり大きくなって 海でであうのよ」
激しくのびた 水のさき
鋭くのびた 水のさき
穏やかにまつ 海の果て
「もうちょっと がんばらないと」
「そうよ、もうちょっとよ」
「やばい!?」
「だいじょうぶ!?」
激しくすすむ ぼくの舟
たちどまらない ぼくの舟
ふわっと浮いた ぼくの舟
「かあさーーーーん!!」
まっさかさまに 落ちていく
滝の底へと 落ちていく
みえない底へと 落ちていく
ザブーーーーーーん
ブクブク ブクブク
ブクブク ブクブク
ブクブク ブクブク
ブクブク ブクブク
底の底へと 落ちていく
みえない底へと 落ちていく
星の底へと 落ちていく
「これは…」
「ヒトデ?」
「ピンクのヒトデ?」
はんとうめいの 星の底
だれもいない 星の底
ピンクのヒトデが よんでいる
「もしもし?」
「えっ、しゃべった!?」
「もしもし?あなたはだれ?」
「えっ、ぼくはトム」
「わたしはルナ、そっちは だいじょうぶ?」
「うん、だいじょうぶ」
「よかった、まにあって…」
「どういうこと?」
「とりあえず そのヒトデに したがって」
星のうえへと グングンと
底のうえへと グングンと
ヒトデが舟を グングンと
グングン グングン
水のなか
グングン グングン
水面へと
グングン グングン
ヒトデがひっぱる ぼくの舟
ザブーーーーーーん
ザブザブ ザブザブ
ザブザブ ザブザブ
ザブザブ ザブザブ
プハーーーー
「ルナ、底から はいあがってきたよ」
「よかったー、とりあえず 舟にのって」
「わかった」
「また、激流をくだるよ」
「えっ、また くだるの?」
「そうよ、いっしょに くだるの!!」
「えっ、かあさんは?」
「かのじょにも パートナーがついてるから だいじょうぶ」
「よかったーー」
「トム、わたしは あなたのパートナー。あらためて よろしくね」
「よろしく、ルナ」
「これから めざすのは 海よ」
「やっぱり あるんだ…」
「どうしたの?」
「いや、かあさんが いってたんだ。海があるって」
「そうよ、海は たしかにそんざいする」
「なんか うれしいな」
「そうなの?」
「うん、激流のむこうに 海があるって」
「そうね」
「なんか すくわれる」
「わたしといっしょに 海を めざしましょう」
「うん」
ビュービューときた 風を裂き
ガラガラときた 陽を破り
ぼくの舟は突き進む
ヒトデとともに突き進む
「ルナ、あそこに なにかみえるよ」
「やっぱり ひとすじなわじゃ いかないわね」
ギュギュギュルと 渦を巻く
ギュギュギュルと 激流を巻きこむ
ギュギュギュルギュルギュギュと 闇を巻きこむ
「ルナ、こわいよ…」
「そんなこと いわないの」
「でも、やっぱり こわい」
「だいじょうぶよ」
「ぼくらは メチャメチャのグチャグチャに されちゃうよ」
「そんなこと いわないでって」
「だって、こわいんだもん」
「やっぱり ははおやのほうが よかったかしら」
「えっ、ルナ?」
「いや、君のははおやを えらんだほうが 海を 目指せたかとおもって」
「そんな…」
「怖がりの君よりもね」
「そんなこといわないでよ!!」
「だって、ほんとのことだもん!!にいさんが うらやましいよ」
「にいさん?」
「うん、わたしのにいさんは 君のははおやのパートナー」
「そうなんだ」
「あ~あ、にいさんが うらやましいよ」
「ルナ…」
ゴルゴゴルと 渦は大きく
ゴルゴゴルゴルと さらに大きく
ゴゴゴゴゴッと 闇を巻きこむ
「ルナ、渦が 大きくなってるよ」
「こっちも 大きくなってる」
「ルナも 激流を くだってるの?」
「もちろんよ」
「そうなんだ」
「トム、新しい渦が 増えてる!!」
「本当だ…小さい渦が いっぱい…」
ギュルルルと 渦は巻き
ゴルゴルルと 渦は大きく
ブルルルルと 渦は増え
「ルナ、やっぱり 怖いよ」
「怖がらないで!!やっぱり ははおやのほうが 楽だったかしら」
「楽なんて…」
「わたしは 怖がりがきらいなの!!」
「そんな…」
チカッ チカッ チカッ
ピカッ ピカッ ピカッ
チカッ チカッ チカッ
ピカッ ピカッ ピカッ
チカッ チカッ チカッ
「ピンクのヒトデ…」
チカッ チカッ チカッ
ピカッ ピカッ ピカッ
「なんて きれいなんだ…」
チカッ チカッ チカッ
ピカッ ピカッ ピカッ
「怖がってもいいんですよ」
「えっ!?」
チカッ チカッ チカッ
ピカッ ピカッ ピカッ
「恐れてもいいんですよ」
「ルナ?」
チカッ チカッ チカッ
ピカッ ピカッ ピカッ
「ルナを よろしくね」
「えっ…」
チカッ チカッ チカッ
ピカッ ピカッ ピカッ
チカッ チカッ チカッ
ピカッ ピカッ ピカッ
…………
ザブーーーーーーーーン
「こんどはなに!?」
8本の手足
つりながの目
それは伝説上の生き物
「あなたはだれですか?」
「…」
「ぼくはトム。あなたはだれですか?」
「あなたは 老いを恐れていますか?」
「えっ…」
「海へでることを 恐れていますか?」
「はいっ、怖いです。恐ろしいです」
「そうですか。もうひとつ ききます」
「はい」
「あなたは 羨ましいですか?」
「えっ…」
「ほかの人が羨ましいですか?」
「はいっ、羨ましいです」
「そうですか、わかりました」
ザブーーーーーーーン
ブクブクブクブク
ドーーーーーーーーン
そこは広い空
ぼくの舟は飛んでいる
タコが導いている
ぼくの舟は飛んでいる
ヒトデが導いている
ぼくの舟は飛んでいる
ルナのもとへ
「ここは…空?」
「トム、ここにいるよ」
「ルナ、どこにいるの?」
「わたしも空を飛んでいるの」
「どこにいるの?ルナ?」
「あなたは怖がりじゃなかった」
「ルナ?」
「あなたは 本物の戦士よ」
「ルナ?」
「大好き」
「会いたいよ」
「海で会いましょう」
「海?」
「待ってるわ、海の果てで」
ぼくの舟は落ちていく
タコに導かれながら
ぼくの舟は落ちていく
ヒトデに導かれながら
ぼくの舟は落ちていく
激流のもとへ
ザブーーーーン
「ハーーーー、なんだったんだ…いまのは…」
「トム?」
「かあさん?」
「トム、だいじょうぶ?ずっと つながらなかったから」
「うん、だいじょうぶ」
「よかった」
「かあさんにも パートナーはいたの?」
「パートナー?」
「うん、パートナー」
「なにいってんの、わたしのパートナーは とうさんよ」
「そうなんだけどさ」
「とうさん以外 いないわよ」
「べつのパートナー」
「べつのパートナー なんていないわよ」
「そうだよね」
「そりゃそうよ」
ゴツゴツとした 岩をこえ
ザラザラとした 霧をこえ
ギュルギュルとした 渦をこえ
「かあさん、海で会おうね」
「そうね、海で会いましょう」
「ぼくらはひとりだけど…」
「うん」
「ひとりじゃないから」
ぼくらの舟は突き進む
激流にのって突き進む
タコに導かれながら
ヒトデに導かれながら
ぼくらの舟は突き進む
激流にのって突き進む
激流のさきへ
海の果てへ
ルナのもとへ




