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百代総理党、始動! 国内改革から世界へ

 本作は「もし歴代総理が現代に集結したら」という仮想政治小説です。教科書の中でしか会えなかった宰相たちが、時を超えて国民の前に現れたら、どんな議論をし、どんな改革を進めるのか――その姿を物語にしました。

 政治というテーマは難解に見えますが、描きたいのは「国民の暮らしがどう変わるのか」という一点です。難しい専門用語はできるだけ避け、国民目線で「わかりやすく」「胸が熱くなる」展開を意識しました。

 どうぞ肩の力を抜いて、歴史の総理たちと共に「国民第一の政治」の物語を楽しんでいただけたら幸いです。

プロローグ 降臨の議場

 永田町の議事堂は、いつになくざわめいていた。季節は秋、夕暮れの赤が窓硝子に差し込み、石造りの壁に長い影を落とす。突然、国会の中央広間に光の柱が立ち上がり、そこに歴代の総理大臣たちが次々と姿を現した。明治から令和に至るまでの百五十余名――時を超えた宰相たちが、重厚な議席を埋め尽くしたのである。

 傍聴席に詰めかけた国民は息をのんだ。歴史の教科書でしか見たことのない人物たちが、生きた姿で眼前に立っている。その威容は幻想とも幻覚ともつかず、しかし確かに鼓動を伴って広間を震わせた。誰もが言葉を失い、ただ未来に対する予感だけが胸を熱くした。

 中央に進み出たのは吉田茂だった。白い口髭を整え、落ち着いた声で告げる。

 「諸君。われわれは時代を超えて、再び国のために集った。名付けて――百代総理党。過去の経験と未来への知恵を結集し、この国を立て直すためである」

 その宣言に、議場は一瞬の静寂に包まれた。やがてざわめきが広がり、驚きと期待が入り混じった波が傍聴席を揺らす。老いた者は涙をぬぐい、若者は拳を握った。「本当に政治が変わるのではないか」と。長く続いた停滞と失望を打ち破る光が、いま目の前に灯ったからである。

 吉田の背後には、伊藤博文、犬養毅、田中角栄、小泉純一郎――各時代を象徴した総理たちが並び立つ。彼らの表情は不思議と柔らかく、しかし瞳には確固たる覚悟が宿っていた。

 「日本をもう一度、国民の手に取り戻す」。その無言の訴えが、重厚な議場の空気を一変させた。

 外の広場にもニュースが駆け巡り、人々が続々と集まり始める。誰もが目を輝かせ、立ち止まり、耳を澄ませた。国民は知っていた。これは単なる夢ではなく、新しい時代の扉が開く瞬間なのだと。

 こうして、百代にわたる宰相たちが結集した「百代総理党」が、歴史の舞台に降り立ったのである。国民の驚きはやがて熱狂へと変わり、政治への信頼を取り戻す歓声が夜空を震わせた。


第1章 旗揚げの時代

第1節「総理総裁を決めろ!」

 歴代総理がずらりと並んだ国会議事堂の広間は、まるで歴史そのものが形を持って立ち現れたかのようだった。六十余名の宰相たちが互いの顔を見回し、緊張と誇りが交錯する。彼らが最初に決めねばならぬのは、この新たに生まれた「百代総理党」を率いる総理総裁――つまり、党の旗印となる存在だった。

 「俺がやる!」

 真っ先に声を張り上げたのは田中角栄である。豪腕政治家らしい迫力で壇上に踏み出し、会場を見渡す。「金と人と土建、この三つを回せば国は伸びるんだ! 俺に任せろ!」その気迫に、思わず拍手を送る国民もいた。だが、隣に座る小泉純一郎が立ち上がり、挑むような目を角栄に向けた。

 「時代は変わった。古いやり方じゃ国民は納得しない。痛みに耐えてこそ改革だ。総理総裁は私が引き受ける!」

 広間がざわつく。角栄の実行力か、小泉の改革か――。国民席からも「どちらも頼もしい」とささやく声が上がった。

 その時、ゆっくりと立ち上がったのが吉田茂だった。白い口髭を揺らし、煙草を手にしたまま、淡々と口を開いた。

 「君たちの意気やよし。しかし国民が望んでいるのは、派手な競争ではなく、安心と信頼だ。政治の要諦は、国民に任せても大丈夫だと思わせることに尽きる」

 議場に重みのある沈黙が広がった。国民の目は自然と吉田に向かう。角栄の力強さも、小泉のカリスマ性も確かに魅力的だ。だが、混迷する時代に必要なのは、国民が落ち着いて眠れる夜を保証してくれる存在ではないのか――。

 「吉田さんだ」「やっぱり吉田しかいない」

 傍聴席のあちこちで声が漏れ始める。人々はいつの間にか頷き合い、拍手が波のように広がった。その拍手は議場を越え、外の広場に集まった群衆へと伝わり、やがて大合唱のように膨れ上がった。

 吉田は静かに会釈した。

 「では、僭越ながら私が総理総裁を務めさせていただこう。だがこれは独りの力ではない。我ら全員で、この国を導くのだ」

 その瞬間、議場は熱気に包まれた。国民の胸に「この人なら任せられる」という確かな安堵が宿り、百代総理党の旗は、吉田茂を総裁として掲げられることとなった。


第2節「党三役は誰だ」

 総理総裁の座が吉田茂に決まると、議場の空気は一気に落ち着きを取り戻した。しかし同時に、次なる難題が浮かび上がる。党を実際に動かす「三本の柱」――幹事長、政調会長、総務会長。総裁が旗印ならば、三役はその旗を支える骨組みである。誰を選ぶかで、この百代総理党の行方が左右されるのは明らかだった。

 「ここは私に任せてもらおう」

 静かに口を開いたのは犬養毅であった。深い皺を刻んだ顔に穏やかな笑みを浮かべながらも、その目は真剣だ。

 「私は『話せばわかる』と常々申してきた。党の中でも外でも、衆望を集め、衝突を和らげる役が要る。幹事長として、仲を取り持ち、国民とつなぐ仕事を果たしたい」

 会場からは拍手がわき起こった。犬養の人柄と信念を知る者に異論は少ない。やがて「幹事長は犬養で」と声が定まり、広間の空気がひとつにまとまった。

 続いて立ち上がったのは、背の高い大隈重信だった。独特の威勢ある語り口で、堂々と宣言する。

 「政の根本は教育にあり、経済にあり。政策を練り、形にするのは政調会長の務めじゃ。わしがこれを引き受け、未来を拓く法案を次々と生み出してみせよう」

 国民席からも「頼もしさがある」との声が上がった。教育の父とも称される大隈の姿は、多くの若者に希望を与えた。

 最後に桂太郎が口を開いた。明治を代表する宰相らしい落ち着きと風格で、淡々と語る。

 「総務会長は党全体を統制し、均衡を保つ要職。私は軍政も内政も歩んできた。組織をまとめる力は他の誰にも負けぬ。静かに、しかし確実に党を運営しよう」

 広間には安心感が漂った。国民は思った。「この三人ならば、確かに党の背骨は固まる」と。

 吉田は三人を壇上に呼び寄せ、短く言葉を添えた。

 「犬養君、大隈君、桂君――君たちに党の礎を託す。国民に信頼される党であらねばならん」

 三役が決まった瞬間、会場には大きな拍手が沸き起こり、外の広場にも歓声が伝わった。国民の胸には、「この国の舵取りが本格的に始まった」という確かな実感が芽生えていた。


第3節「夢の布陣、閣僚発表」

 総裁と党三役が定まると、議場の視線は次なる発表に注がれた。いよいよ閣僚の布陣――すなわち、百代総理党の実務を担う「オールスター内閣」の誕生である。

 吉田茂が壇上に立ち、ゆっくりと名を読み上げた。

 「外務大臣――伊藤博文」

 この瞬間、ざわめきが走った。日本最初の総理であり、近代外交の礎を築いた伊藤。その老練な交渉力が、現代の国際社会にどのような影響を与えるのか。国民は固唾をのんだ。

 「大蔵大臣――池田勇人」

 所得倍増計画で知られる経済通。人々は一斉に拍手を送り、「また暮らしが豊かになる」と希望を抱いた。

 「通商産業大臣――田中角栄」

 角栄が一歩前に出ると、場が揺れるほどの歓声が沸いた。豪腕と実行力を兼ね備えた彼の名に、多くの国民が胸を高鳴らせた。

 「厚生労働大臣――村山富市」

 柔らかな笑顔と国民の命を守るという姿勢が広く知られる村山の登場に、議場には温かい空気が広がった。

 「文部科学大臣――大隈重信」

 教育こそ国の礎という信念を持つ彼に、若者や学生たちは期待の眼差しを送った。

 「防衛大臣――中曽根康弘」

 冷戦時代に国際舞台で存在感を示した政治家の名に、場の緊張が走る。安全保障をどう導くのか、国民の関心は高かった。

 次々と発表される閣僚の名前は、まるで歴史書の一頁をめくるかのようだった。傍聴席にいた人々は、時代を超えて選び抜かれた人材が一堂に会したことに感嘆し、「これぞ本物の挙国一致内閣だ」と声を上げた。

 外の広場では、発表を伝える巨大スクリーンに人々が群がり、一つひとつの名前に歓声や拍手を送っていた。子どもが祖父母に「この人はどんなことをしたの?」と尋ねる姿もあり、歴史が生きて息づく瞬間を国民全体が共有していた。

 吉田は最後にこう締めくくった。

 「この布陣は、単なる過去の寄せ集めではない。百代の知恵を結集した未来への布陣である」

 その言葉に、議場は熱狂の拍手に包まれた。まさに夢の布陣が整い、新たな政治の扉が開かれたのであった。


第4節「国民への約束」

 閣僚の顔ぶれが出そろい、議場は歴史の重みと新しい期待で満ちていた。だが、国民が真に求めているのは「誰が」ではなく、「何をしてくれるのか」である。名前だけでは腹は膨れない。暮らしを変えるのは、実際の約束と行動だ。

 吉田茂が、再び壇上に立った。議場に漂う煙草の匂いを振り払いながら、ゆっくりと前を見渡す。その声は、落ち着きながらも確かな力を帯びていた。

 「国民の生活を第一に――これが、百代総理党の旗印である」

 その言葉が響くと、傍聴席からは思わず拍手が湧き上がった。人々の心に直接届く、重みのある一言だった。

 続いて、犬養毅が立ち上がる。

 「我らは国民の声を聞く。『話せばわかる』、この信念を党の根幹とし、どんな立場の人々も孤立させぬ政治をつくる」

 その言葉に、老若男女の目が潤んだ。政治が遠い存在ではなく、対話の場であると示された瞬間だった。

 田中角栄が拳を握って壇上に立つ。

 「給料を上げる! 雇用を増やす! 国民が胸を張って働ける日本をつくる! 俺が動けば道は開ける!」

 力強い宣言に、広場の群衆から「頼んだぞ!」という叫び声が飛んだ。

 大隈重信が続いて声を張る。

 「教育は国の未来じゃ! すべての子どもに学ぶ機会を! 学びは国を豊かにし、社会を強くする!」

 若い親たちは子どもの手を握りしめ、期待の目を送った。

 村山富市は、温和な表情で静かに言葉を重ねる。

 「国民の命を守るのが、政治の責任です。誰もが安心して病院にかかれ、老いても支え合える社会を築きましょう」

 その声に、看護師や医師、そして高齢者が深く頷いた。

 最後に小泉純一郎がマイクを握る。

 「古い仕組みを壊し、新しい未来を創る。政治は国民のためにある。そのことを忘れぬ限り、必ずこの国は変われる!」

 国民の胸に熱が宿った。壇上の一人ひとりが、言葉ではなく覚悟を示していたからだ。

 議場は拍手と歓声に包まれ、外の広場にもその熱は波のように広がった。人々は初めて、「政治が自分たちの生活に寄り添っている」と実感したのである。


第2章 未来をつくる法案

第1節「給料と雇用を増やせ」

 百代総理党の誕生から間もなく、最初に審議にかけられたのは「暮らしを立て直す」ための経済法案であった。国民にとって最も切実な願い――給料を上げ、雇用を安定させること。長引く不況や格差に疲れ切った庶民の声を、いち早く形にしようと立ち上がったのが田中角栄と池田勇人である。

 角栄は力強く壇上を踏み鳴らし、語気を強めた。

 「働く者が報われねえ国に未来はねえ! 賃金を引き上げ、財布を温めりゃ消費は回る。工場も商店街も息を吹き返すんだ!」

 その豪腕ぶりに議場が沸いた。だが、ただ勢いだけではない。隣に並んだ池田勇人が冷静な声で続ける。

 「所得倍増計画を思い出していただきたい。数字と制度で裏付けることで、国民の生活は確実に豊かになる。減税を行い、家計の負担を軽くし、企業の投資を後押しする。この両輪で雇用を創出するのだ」

 角栄の情熱と池田の理路整然とした説明――二人の言葉が絡み合い、議場の空気は熱を帯びながらも確実性を増していった。

 そこへ高橋是清が立ち上がる。財政の魔術師と呼ばれた彼は、にこやかに語りかけた。

 「金は天下の回りもの。国民に回さねば意味がない。私は財政面から全面的に支援する。国債を正しく活用し、必要な投資をためらわずに行おう。経済は必ず動き出す」

 国民席では、若者が顔を見合わせ、「これなら就職口が増える」と期待に笑みを浮かべた。商店街の店主は「やっと客足が戻るかもしれん」と胸をなで下ろした。主婦たちは「生活が少し楽になるかもしれない」と声を弾ませた。

 審議の最後に吉田茂が立ち、静かに言った。

 「政治の使命は、国民に明日の安心を渡すことだ。この法案はその第一歩にほかならぬ」

 法案可決の瞬間、議場は割れるような拍手に包まれた。その音は窓を突き抜け、外の広場へと広がり、集まった群衆の歓声と一体となった。

 国民は確かに感じた――自分たちの暮らしが、いま動き出したのだと。


第2節「子どもは国の宝」

 給料と雇用の法案が可決され、国民の胸に希望の火が灯った。その熱気が冷めやらぬうちに、次に議題となったのは「子どもと教育」である。国の未来を担う子どもたちに、等しく学びと成長の機会を保障すること――それは時代を超えた政治家たちの共通の願いだった。

 最初に立ち上がったのは、細川護熙であった。柔和な声で、しかし力強く語り始める。

 「子どもは国の宝です。家庭の経済力によって教育の機会が奪われてはならない。義務教育はもちろん、高校や大学までも無償化へと道を開きます。学ぶ意欲あるすべての若者に、門戸を広げねばならないのです」

 犬養毅がこれに続いた。

 「話せばわかる。子育てに悩む家庭の声を聞けば、必要なのは地域の支援だとすぐにわかる。子どもを地域ぐるみで育てる仕組みを、法律で整えようではないか」

 議場の空気は温かいものへと変わっていった。未来を語る政治家の声は、誰の心にも優しく響いた。

 ここで鳩山一郎が重々しく口を開いた。

 「教育は国家の礎である。私は『国民皆学』を掲げたい。すべての子どもに学ぶ権利を保障し、どんな境遇に生まれようとも夢を追える社会を築くのだ」

 その言葉に、傍聴席の保護者たちが涙ぐんだ。大学進学を諦めかけていた子を持つ母親は、手を強く握りしめていた。

 広場のスクリーンを見つめていた若者が声を上げる。

 「これなら、俺も大学に行けるかもしれない!」

 その声が波紋のように広がり、周囲からも拍手と歓声が沸き起こった。

 教育費の無償化と子育て支援――その法案は、経済政策に続いて国民の心を掴んだ。子どもたちの笑顔が未来を支える。その確信が、国民一人ひとりの胸に強く刻まれたのであった。


第3節「命を守る政治」

 経済、教育と続いた国会の熱気は、次に「医療と命」へと向けられた。豊かさも学びも大切だが、それらを享受するためには健康と命が守られていなければならない。国民にとって最も切実なテーマであり、議場全体が静まり返った。

 まず立ち上がったのは村山富市である。穏やかな表情で、しかし言葉には強い決意が込められていた。

 「国民の命を守るのは、政治の第一の責務です。輸入に頼るだけでなく、国産薬の研究開発を進め、災害や感染症に対応できる医療体制を築きたい。病院だけでなく、自宅で安心して療養できる在宅医療を強化する。老いも病も、社会全体で支え合う仕組みを整えることが急務です」

 その声に、医療従事者たちの目が輝いた。看護師の一人は「ようやく現場の声をわかってくれる政治家がいる」と胸を熱くした。

 そこへ、鳩山由紀夫が立ち上がる。独特の柔らかさを漂わせながら、こう語った。

 「私は友愛医療を提唱します。医療は単なる治療ではなく、人と人との絆を取り戻す営みです。すべての人が互いを思いやり、病を超えて支え合う社会を築くのです」

 一瞬、議場はざわめいた。抽象的で唐突に聞こえる提案に戸惑いも広がったが、同時に「人間らしい優しさを政治に取り込むべきだ」と頷く者も少なくなかった。

 国民席の高齢者がつぶやいた。

 「病院のベッドよりも、家で家族に囲まれて過ごしたい。それを支える政治なら……」

 その言葉に、隣の孫が手を握り返した。

 吉田茂が最後にまとめる。

 「命あっての政治だ。医療は国家の礎である。この法案をもって、国民に安心の未来を約束しよう」

 採決の結果、賛成の拍手が一斉に広がった。議場の天井を揺らすほどの音が鳴り響き、外の広場にも歓声が波となって伝わった。

 国民は実感した――「この党は、確かに命を守るために動き出した」と。


第4節「地方から立ち上がれ」

 経済、教育、医療と法案が相次いで成立し、議場は熱気に包まれていた。だが、その熱を最も必要としているのは、東京ではなく地方である。人口減少と産業の衰退に苦しむ地方から、国を変える息吹を起こさねばならない――この思いを胸に立ち上がったのは桂太郎と大隈重信であった。

 桂太郎が重々しい声で語り始める。

 「中央だけが栄えて地方が衰えれば、国は必ず歪む。地方大学を育て、人材を地元に根付かせることが不可欠だ。学びと働きの場を結びつけ、地方にこそ未来を見出す仕組みを整えたい」

 次いで大隈重信が豪快に声を響かせた。

 「農と工を結びつけるのじゃ! 農業が単なる一次産業にとどまる時代は終わった。工業と連携し、新たな産業を創り出す。地方からイノベーションを生み出せば、この国は必ず活気を取り戻す!」

 議場の若手議員たちはざわめき、傍聴席の地方出身者たちの目には光が宿った。大学進学のため都会に出た若者が、「これなら地元に帰れるかもしれない」と友人にささやく姿もあった。

 ここで東久邇宮稔彦王が静かに口を開いた。戦後の混乱を知るその言葉は、深い説得力を帯びていた。

 「かつて焼け野原から立ち上がった日本は、地方の力なくして復興はあり得なかった。いま再び、地方の底力を信じて国を立て直す時だ」

 その声は重く、しかし希望を抱かせる響きを持っていた。

 外の広場では、農家の男性が涙を浮かべてスクリーンを見つめていた。

 「都会ばかり優遇されてきたが……やっと、俺たちの声を聞いてくれる政治が始まるのかもしれない」

 国民の心に、「地方からこそ国は再生できる」という確信が芽生えていった。


第5節「環境で町を元気に」

 国民の暮らしと地方の再生を語り終えた議場に、新たな声が響いた。次に取り上げられたのは「環境とエネルギー」である。豊かさを追求するだけではなく、持続可能な社会を築かなければ未来は守れない。環境政策を町おこしと結びつけよう――その旗を掲げたのは、小泉純一郎であった。

 小泉は身振りを交えながら、独特の熱を帯びた声で語り始める。

 「改革なくして未来なし! 環境はただ守るものじゃない、町を元気にする資源そのものだ。太陽光も風力も、地域の誇りとなる産業にできる。再生可能エネルギーを使った町おこしを進めよう!」

 議場の空気が一気に引き締まり、外の広場からも歓声が湧いた。若者が「地元で新しい仕事ができる!」と叫び、子どもたちもスクリーンを見上げながら拍手した。

 ここで菅直人が立ち上がった。その声はやや低く、しかし重く響いた。

 「私は福島の事故を忘れてはいない。あの悲劇から学ばねばならないのは、危機管理と再生エネルギーの重要性だ。原子力に依存せずとも成長できる日本を、次の世代に手渡すべきだ」

 静まり返った議場に、その言葉は痛烈な現実感を与えた。国民は思い出した――原発事故の苦しみ、避難した人々の悲嘆、奪われた日常。しかし同時に「新しい道を歩めるかもしれない」という希望も芽生えた。

 農家の夫婦が広場の片隅で語り合った。

 「畑に太陽光を並べるだけじゃない。加工場や観光とつなげれば、町が生き返るぞ」

 「子や孫に誇れる町になるね」

 環境政策はただの理想論ではなく、町を立て直す現実的な力となりうる。議場の拍手は次第に熱を増し、やがて広場全体が一つの大きな歓声に包まれた。

 こうして「環境で町を元気にする法案」は、国民の期待を背負って可決されたのである。


第6節「孤独をなくす仕組み」

 経済、教育、医療、地方、環境――次々と希望を生む法案が成立するなか、なおも議場には重たい課題が残っていた。それは「孤独」である。給料が上がり、子どもが学び、医療や町が整っても、人が孤立すれば社会は冷たく崩れてしまう。国民の心を守る仕組みをどう築くのか。

 壇上に立ったのは犬養毅だった。白髪を撫でつけ、ゆったりとした声で語り始める。

 「人は誰かと語り合ってこそ、生きる力を得られる。私は全国に国民対話システムをつくりたい。役所や駅前に対話カウンターを置き、誰でも気軽に悩みを話せるようにするのだ。政治が直接耳を傾ける仕組みを整えれば、孤独は必ずや和らぐ」

 その言葉に、傍聴席からため息混じりの安堵が広がった。仕事を失った青年、家族を看取ったばかりの老女、都会で一人暮らしをする学生――彼らの顔に「自分の声を聞いてくれる場所ができる」という希望が宿った。

 続いて宮澤喜一が静かに立ち上がる。

 「経済も外交も大切だが、民主主義を支えるのは寛容です。異なる意見を排除せず、受け止め合う空間を政治が保障すること。これが孤独をなくす第一歩になります。人々が語り合える場を制度として残すことは、未来への最大の投資だと考えます」

 その慎重な語り口に、議場はしんと耳を澄ませた。政治の世界で長く培われた経験がにじみ出る言葉に、多くの国民が深く頷いた。

 外の広場でも、若者がつぶやいた。

 「就職が決まらず不安だけど……もし語れる場所があれば、もう少し頑張れる気がする」

 その声に隣の友人が笑って肩を叩いた。「お前だけじゃないさ」

 孤独をなくす法案は、静かでありながら確かな熱をもって可決された。大きな歓声ではなく、人々の胸にじんわりと広がる温かさが議場を包んだ。

 国民は悟った――社会とは経済や制度だけでなく、人と人の絆によって成り立つものだと。


第3章 国際社会との対峙

第1節「世界会議に挑む」

 百代総理党の法案が次々と成立し、日本国内にはかつてない活気が満ちていた。しかし、その動きは世界の大国にとって看過できるものではなかった。国際社会の秩序を揺るがす可能性を秘めていると警戒されたからだ。こうして、日本は世界会議に招かれることとなった。

 巨大な円卓の上に各国の国旗が並ぶ。米国、中国、欧州連合、そして新興国――各国の代表が険しい表情で着席する中、日本代表として立ち上がったのは伊藤博文、佐藤栄作、中曽根康弘の三人だった。歴史を超えて肩を並べたその姿に、会場全体がどよめいた。

 最初に口を開いたのは伊藤博文である。明治の開国を導いたその眼差しは、時を経てもなお鋭かった。

 「日本は過去、鎖国と開国の狭間で苦しんだ歴史を持つ。しかし今は、閉ざすのではなく、開いて世界と共に歩む覚悟を持っている。国家の独立を守りながら、世界平和に尽くす。その姿勢を、ここに改めて表明する」

 続いて佐藤栄作が手元の資料を掲げ、重厚な声で語る。

 「核兵器のない世界を目指すこと、これこそが日本の理念である。非核三原則を世界に広げ、平和の礎としよう。経済発展と安全保障を両立させ、国民が安心して暮らせる国際秩序を築きたい」

 その言葉に、会場の空気が一瞬和らぐ。しかしすぐに中曽根康弘が立ち、鋭い視線を周囲に投げかけた。

 「だが現実は理想だけでは動かない。冷戦をくぐり抜けた経験から言う。国防と同盟は避けて通れぬ課題だ。日本は積極的に世界の安定を担う用意がある。その代わりに、経済協力と技術で国際社会を支える覚悟だ」

 三者三様の発言は、理想と現実、そして未来への意志を兼ね備えたものだった。会場は静まり返り、各国の代表たちはそれぞれ真剣な眼差しを日本に向けた。

 外の広場では、国民がスクリーンに映し出される三人の姿を見つめていた。ある若者はつぶやいた。

 「日本が世界の中で堂々と意見を言ってる……胸が熱くなるな」

 老婦人は目を細めた。

 「昔は小さな島国だったのにね。時代は変わったものだよ」

 その瞬間、人々は実感した。日本はもはや「受け身の国」ではなく、理念と責任を掲げて世界と向き合う主体へと変わりつつあるのだと。


第2節「大国の圧力」

 日本が掲げた新しい理念は、会場を一瞬静寂で包んだ。しかしその後すぐに、大国からの厳しい反応が返ってきた。

 米国代表が眉をひそめ、鋭い声を投げかける。

 「日本の非核化提案は理想主義に過ぎない。我々の安全保障体制を弱体化させる危険がある」

 続いて中国代表が机を叩いた。

 「地域の安定を乱すのは日本の独自行動だ! 過去の侵略を忘れたのか。新しい理念を掲げる前に、歴史に対する誠意を示すべきだ」

 欧州代表も冷ややかに言葉を重ねた。

 「経済での協力を求めるならば、国際ルールに従うべきだ。独自の道を進むのは孤立を招く」

 制裁の示唆、孤立化の脅し――矢継ぎ早に浴びせられる言葉に、会場の空気は一気に険悪になった。外の広場でスクリーンを見守る国民たちの表情にも、不安の色が広がっていく。

 その緊張の只中で、不意に立ち上がったのは鳩山由紀夫だった。彼は柔らかい微笑を浮かべ、まるで別世界の空気をまとって語り出した。

 「皆さん、私には東アジア共同体という夢があります。国境を越え、互いの心を結びつければ、圧力も制裁も不要となるのです」

 唐突な提案に、会場は一瞬ざわめきに包まれた。大国の代表たちは顔を見合わせ、呆気にとられたような表情を浮かべる。理想に満ちた言葉は美しく響くが、現実の緊張を解きほぐすには遠すぎた。

 議場の片隅で、佐藤栄作が小声でつぶやいた。

 「今はまだ早いな……」

 中曽根康弘は腕を組み、深くうなずいた。

 外の広場でも、国民の間で反応は割れた。

 「いいじゃないか、夢を語れる政治家がいるのは希望だ」

 「いや、あまりに突拍子がなさすぎる。現実を見なければ」

 熱気と戸惑いが交錯し、日本は世界の大国から強い圧力を浴びながらも、自らの立場をどう築くかを問われていた。


第3節「小国との共鳴」

 大国からの圧力にさらされ、日本は孤立の危機に立たされていた。会場に重苦しい空気が漂うなか、思いがけない動きが起こる。発言を求めたのは、アジアやアフリカの小国、新興国の代表たちだった。

 あるアフリカの小国の代表が立ち上がり、真摯な声を響かせる。

 「日本が掲げた人間中心の政治の理念に、我々は共感する。我が国の人々も、教育と医療を求めている。大国が自らの利益を押し付ける中で、小さな国の声を聞こうとする日本の姿勢に希望を感じる」

 その言葉に続いて、東南アジアの代表も手を挙げる。

 「我々は資源や市場の小ささゆえに、常に大国の駆け引きに振り回されてきた。しかし日本の提案は、規模ではなく人の暮らしを基準にしている。それこそが世界の新しい秩序につながる」

 会場の空気が、わずかに変わった。大国の冷ややかな視線の中で、小国の代表たちが次々と声を上げ始めたのだ。彼らにとって日本は、力ではなく理念で語りかける数少ない存在に映っていた。

 その流れをさらに後押ししたのは田中角栄だった。豪快に立ち上がり、持ち前の現実感あふれる口調で言い放つ。

 「中国との交渉を、改めて見直すべきだ。大国に翻弄されるだけじゃなく、互いに利益を分かち合える道を探せばいい。小国と手を組み、新しいアジアの姿を形にするのだ!」

 この発言に会場はざわめいた。大国の代表たちは露骨に顔をしかめたが、小国の多くは熱い拍手を送った。角栄の実利主義的な提案は、理想論に傾きがちな会議に現実的な突破口をもたらしたからである。

 外の広場でも、人々は息をのんでスクリーンを見つめた。ある青年が仲間に語った。

 「日本は大国に頭を下げるだけじゃない。弱い立場の国と共に立とうとしているんだ」

 別の年配の男性が、しみじみとつぶやいた。

 「昔の日本にはなかった姿だな……だが、これが本当の国際貢献というものかもしれん」

 日本は大国の圧力に屈するどころか、小国との共鳴を力に変え始めていた。その波紋は、やがて国際社会の力学を揺るがすうねりとなる兆しを見せていた。


 ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

 第3章までで描いたのは、「国内改革」と「国際社会との対峙」。歴代総理たちは国民の生活を立て直すと同時に、大国の圧力に立ち向かい、小国との共鳴を通じて日本の姿勢を示しました。

 政治をテーマにしていますが、私が描きたいのはあくまで「国民がどう変わっていくか」です。街に笑顔が戻り、家庭に光が差し、若者が未来を語る。その変化を一緒に感じていただけたなら嬉しいです。

 この後も、改革は現場に根づき、日本の再生は国民の実感となっていきます。そして最後には、宰相たちがバトンを国民に手渡し、物語はクライマックスへ――ぜひお付き合いください。

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