第8段階 好きな人の気持ち
次の日、家にずっといた。蘭が朝メールをくれて、菜摘のお母さんが菜摘が心配だから来てくれないかって言ってきた。だから、家に行ってくるねって、そう書いてあった。
そんなに、菜摘は傷ついているのか。
心配になった。でも、私には何もできなかった。でも、またいつ電話やメールが来てもいいように、なんだかその日は外に出る気になれず、家にいた。
その日の午後、聖君からメールが来た。
>来週、水曜の夕方、学校終わってから会えるかな?
…なんだろう?菜摘のことだよね。
>うん、空いてる。
>さっき、菜摘ちゃんの両親がうちに来た。
>え?ほんとに?
>うん。それで、まあ、いろいろと話してさ…。水曜に話すよ。
それでか…。どっかで私はほっとしていた。いや、聖君がきっと悩んでいるのだから、ほっとなんてしちゃいけないんだろうけど。
別れ話かなってそう思った。あ、付き合ってもいないんだから、別れ話ってことはないか…。でも、もう、会うのはやめようとか、今までありがとうとか、そういう話かなって。
だって、こんなあらたまって、二人で会おうって言ってくるの変だもん。
>わかった。水曜ね。4時なら大丈夫だと思う。
>じゃ、4時、駅の改札口ね。
>うん。水曜にまたね。
私はそう送って、携帯を机に置いた。それから、何も手に付かなかったけど、本でも読もうかなってベッドに横になり、本を広げた。すると、また、携帯が鳴った。
見ると、聖君からだった。
>水曜、学校帰りだよね?制服で来るの?
>ううん。うちの学校、制服でどっかに寄るの禁止されてるから、一回家に帰るよ。
>大変じゃないの?それから、駅に来るの。
>駅から歩けるところに家があるから、大丈夫。聖君は制服で来るの?
>うん。学校から直で行くよ。
>制服見るの、初めてだね。
>ああ、そうだね。惚れ直したりしないでね。かっこいいから。
ええ?ええ~~?私はどぎまぎした。そっか、私服っていっても、Tシャツとジーンズだもんね。それが、制服なら、Yシャツとか、パンツとか、ジャケットとか…。かっこいいかも。似合うかも。ううん、Tシャツもかっこいいけど…。
>そうだよね。きっと、似合うよね。聖君。
そう返すと、しばらくしてから、
>冗談だって、本気にしないで!ぼけてるんだから、つっこんでください!
って、返って来た。ええ?ボケ…?つっこみ…?でも、どうやって…。
しばらく悩んじゃって、返事が返せなかったけど、
>ごめんね。つっこみってできないかも…。いつもぼけてる方だから。
と、精一杯のことを書いた。
>あはははははははは。そうかもね!
ものすごく、笑われてる…私。
でも、こんなふうにメールをできることが、めちゃくちゃ嬉しかった。
聖君はそのあとも、
>俺、最近、映画観てないな。なんか映画館行って観た?
とか、
>桃子ちゃんって、やっぱり、果物では桃が好きなの?
とか、そんなことを聞いてきた。
>桃も好きだけど、イチゴが好き。
>ああ!そんな感じあるね。
>聖君は?
>俺は、やっぱり果物ならスイカ。豪快に食べれるじゃん。
>そんな感じするよね。
>果物以外なら食べ物で、何が好き?
>ドリアとか、グラタンとか。
>熱いものばかりだね。俺は、肉!断然、肉!がっつけるのが好きだな。
>そんな感じするよね。
>じゃ、好きな動物は?
>猫。猫うちで飼ってるの。
>犬じゃないの?あ、犬じゃ仲間になっちゃうね。
>なんで~~?
>だって、桃子ちゃん、そっくりじゃん。チワワ、マルチーズ。
>犬じゃないよ、私。
>あはははははははははは!
また、思い切り笑われた…。
でも、聖君のメールを見てると、聖君は、落ち込んでる様子もなくって、良かったって思った。
きっと、菜摘のご両親が来て、また、大変な思いをしたに違いないから…。私のメールは少しでも、聖君のことを元気付けられたんだろうか。
>そろそろ、店、手伝わなくっちゃ。また、水曜日ね。
>うん、頑張ってね。
それきり、メールは来なかった。お店に出たのかな。
聖君がバイトしてるところ、見てみたいな。
海の家の時みたいに、素敵な笑顔で接客してるんだろうな。ああ、そうか。お店手伝っているから、ああいう笑顔が自然に出てきてたのか…。
携帯を開いて、聖君からのメール全部を保存した。それから、読み返した。聖君て、可愛いなって思った。今までの印象とまた、違った気がする。また一つ聖君のことが知れて、嬉しくなった。
でも、心のどこかには、菜摘に悪いなって気持ちがあって、心の底から喜ぶことが出来なかった。
水曜日が来た。今日に限ってHRが長い。
「バイバイ!」
と、教室を出ようとすると、先生に声をかけられ、この前の提出物の話をしだすし、やっと終わったと昇降口に行くと、今度は、委員会の先輩に会い、次の委員会のことを話され、やっとこ靴を履き替え、校門に行くと、クラスメイトから、
「最近、どうしたの?蘭や菜摘と喧嘩した?」
と聞かれ…。
「ご、ごめん。喧嘩はしてないんだけどね。あ、ちょっと今日急いでて、またね」
「え?なんか用なの?一緒に帰らない?」
「ごめん、急いでて」
もう、大ダッシュで、家に帰った。
どうしよう…。時間間に合うかな?あ、でも今、出ればどうにか…。
昨日考えてた、服の組み合わせを着た。もう秋だから、茶系のブラウスに、ジーンズ、こげ茶のパンプスをはいた。
そして、駅に向かってダッシュした。でも、ちょっとヒールがある靴で、早くに走れない。そのうえ、そうだった。私って走るの、遅かったんだ。
気づいた時には、すでに遅し。走りながら、携帯を出して時計を見たら、なんと4時5分だった。
「あ~~~~~!た、大変」
慌てて電話をした。すぐに聖君は電話に出た。
「あ、桃子ちゃん?」
「ごめんね。聖君。今、駅に向かってる」
「いいよ、ゆっくり来なよ」
「ごめんね!!!」
電話を切った。聖君、優しい。ほんとうにいつも、優しい。怒ることってあるのかなって思うほど、優しい。
駅に近づくと、聖君が私に気がつき、聖君の方も、走ってきてくれた。
「ひ、聖君…。ごめん…」
息があがって、言葉が続かない。
「そんなに、走ってこなくても良かったのに」
聖君が優しく言ってくれる…。そんな…、私遅刻したのに。
「ご…、ごめんね。学校、出るのが遅くなっちゃって…」
そこで、もう一回、呼吸を整えてから、私は続けた。
「HR長いんだもん。もっと早くにメールしたら良かった。でも、走ったら間に合うかなって思って…。でも、全然駄目だった。私、走るの遅いんだったって、途中で気づいて…」
「え?ぶぷ!」
「…え?」
今、笑われた?え?なんで?
「あ、ごめん…、笑っちゃって。あはは。桃子ちゃん、走るの遅いんだ?」
「…。うん…」
遅いから笑われた?あ、呆れられた?とか…?
「走ってきたから、のど渇いたでしょ?どっか入る?」
「うん」
「俺、ちょこっと小腹減ってるんだよね~~。どっか、ファーストフードの店あったっけ?」
「うん。あるよ、こっち」
私がお店の方に向かって歩き出すと、ずっと聖君は私のあとをついてきた。
横を歩くわけでもなく、後ろからずっと。
いつもは、私の方が、少し後ろからちょこちょことついていくのにな。なんでかな?私は、不思議になって、止まった。
「わ…。何?」
聖君が、私が止まったから驚いて私に聞いた。
「なんで…、後ろ?」
って、私は聞いてみた。
「え?」
「ずっと、後ろにいるから…聖君」
「ああ、桃子ちゃんの知ってる店だから、後ろからついていったらいいのかなって。それで、後ろ歩いてたけど」
それだけ?
「え?何?どうかしたの?」
「なんか、怒ってるのかと思った」
「誰が?」
「聖君、黙ってたし」
「え?ああ、ごめん。でも、怒ってないよ?」
「そうだよね、さっき、怒ってる感じじゃなかったし」
遅刻して怒ってたわけじゃ、ないよね?
「お店、あそこなんだけど…」
と、私は斜め前のビルを指差した。
「ああ、うん。じゃ、行こう」
今度は聖君が先に、歩き出した。私はいつものごとく、そのあとを、ちょこちょこって、ついていった。
店に入って、聖君は、チーズバーガーと、ポテトと、コーラを頼んだ。それから席に座り、
「いただきます!」
と、聖君は、嬉しそうに食べ始めた。いつもながら、豪快にばくばく食べるよな~。
「聖君、元気そうで良かった」
「え?」
チーズバーガーにかみついたまま、聖君が聞き返した。
「菜摘のことで、落ち込んでたりしないかなって思って…」
「ああ…」
バーガーを食べ、コーラを飲んでから、聖君は話を始めた。
「日曜、メールでは、あんまりその辺のこと、触れなかったっけ」
「うん、だから、落ち込んでるのかなって気になって」
「落ち込んでないよ。菜摘ちゃんの方が、かなり落ち込んでるんじゃない?学校は来てる?」
「うん、ちゃんと月曜から。でも元気ないみたい。ずっと蘭がついててあげてる」
「そうなんだ」
「私は、そばにいないほうがいいって、蘭とも話したんだ。菜摘も、まだ、私と話すのはちょっと辛いから、離れてるって言ってたって」
「じゃ、桃子ちゃん、学校で、一人?」
「…大丈夫。一人だけど、菜摘の方が今は、辛いと思うし…」
「…他に、友達は?」
「蘭がね、他の子と一緒にいてもいいよって言ってくれたんだけど、なんだか、気が引けて…」
「……」
「菜摘ね、今は辛いけど、そのうちに、また私と蘭と一緒に、仲良くやっていきたいからって、だからもうちょっと待っていてねって、そう言ってたよって、蘭が教えてくれたの」
「そうなんだ」
「うん…。二人とは、中3の時も一緒のクラスだったの。あ、私たち、今の高校の中等部にいたんだ。それで、今年も一緒のクラスになって…」
「うん」
「蘭とも、菜摘とも、まったく違う性格なのに、なんで仲がいいの?って他の友達に聞かれたことあるんだけど…。優しいからかな~~」
「え?」
「中学3年の時に、私、なかなか友達が出来なくて…。仲が良かった子とは、みんな違うクラスになっちゃって…。5月に修学旅行があって、どの班にもいれてもらえなくて困ってたら、二人が一緒の班になろうよって言ってくれたの。私、初めは、私と全然違うタイプだし、どうしようかなって思ってて、なかなか二人にもなじめなくて…」
「…うん」
「だけど、二人ともいつも元気で、明るくて、一緒にいると楽しくて…」
「そうだね。そういえば、初めて俺らがバイトしてる海の家に来た時も、二人ともはじけちゃってたもんね。で、俺らも、けっこうはしゃぐから、意気投合したんだよね?」
「私は、あまり、しゃべらなかったけど…」
「え?ああ、うん。そうだっけ…」
「聖君は、蘭と仲良かったよね。蘭と、基樹君と3人でよくバカやってた」
「バカ…?」
「仲良かったから、聖君も基樹君も、蘭のことが好きなのかもって、菜摘と話してたんだ」
「そうなんだ…」
「私とも、菜摘とも、あまり話さなかったから」
「え…、ああ。うん」
聖君は、少し考えてから、言葉を続けた。
「あの頃は、その…。菜摘ちゃんのことを意識してたんだけど、何を話していいかもわからなくって。それで、結局1番話しやすい、バカやれる蘭ちゃんと基樹と、一緒にバカやってたんだと思うよ」
「そうなんだ。菜摘のこと、好きで意識しちゃってたんだ…」
「うん…。なんか、なんて言うの?俺、あまり女の子と付き合ったこともないし…。あ、中学の頃一回あったけど、すぐに駄目になったし…。好きになっても、どうしていいかわからないっていうかさ…」
なんか、意外だな。女の子と平気で、話せるかと思ったのにな…。それとも、そんなに菜摘のことが好きだったのかな。
「…そんなに菜摘のこと?」
って、聞いてみると、
「え?いや。うん、どうだろ?とにかく、緊張はしてたよ。毎回何か話そうって思ってて、ああ、今日もまた、話せなかった…みたいな」
「…そうだったんだ」
そんなに好きだったのに、妹だって知って、どんなにショックだったんだろうか。
しばらく、聖君は黙ってしまった。そして、ちょっと、元気なさそうにポテトをつまんだ。
「あ!そうだ。聞きたいことがあったんだ」
いきなり、聖君が言ってきて、びっくりした。
「え?何?」
「桃子ちゃんって、俺のこといつから、好きなの?」
「え?!!!!」
い、いきなり、そういう質問?わ~~~~。
私は、戸惑ってしまった。でも、素直に答えることにした。
「さ、最初から…」
「最初って?6人で会った時から?」
「ううん」
「?」
聖君が不思議そうな顔で、私を見た。
「私、みんなで会う前に、江ノ島の海に家族と来てたんだ」
「え?」
「その時にも、聖君のバイトしてた海の家、行ったの。そこで、聖君見て…」
「…え?」
「なんか、すごく元気で、にこにこしながらお客さんと会話してて…。汗かきながら、一生懸命に仕事もしてて。それがすごく印象的で…」
「……」
「私が注文した時にも、すごく明るく笑顔で答えてくれて、それがなんか、まぶしくて…。もう一回会えたらいいなって思って、蘭にその話をしたの」
「うん…」
「そうしたら、3人で江ノ島に行って、また、その海の家に行こうって…」
「……」
聖君は、目を丸くして黙っていた。
「蘭も、菜摘も、応戦してくれてたけど、私、どうしていいかわからなくて…。それに、会うだけで、嬉しかったし」
聖君は、下を向いてうんうんってうなづいてた。
そうだ。あの頃から、菜摘、応援しててくれてたんだっけ…。
「菜摘…、いつから聖君のこと、好きになったのかな…。もしかして、会った時からかな」
「…え?」
「……」
しばらく二人とも、沈黙が続いた。
「昨日さ、菜摘ちゃんのご両親が来てさ…。いつか、菜摘ちゃんが俺のこと、兄貴って思えるくらいになったら、家に遊びに来ないかってさ」
「え?」
「俺、妹いるじゃん。杏樹って…。会ったことないか…。今中1で、けっこう可愛い妹なんだ。自分で言うのもなんだけど、けっこう可愛がってるんだよね」
「……」
「でさ、菜摘ちゃんのことも、杏樹みたいに、思える日が来るんじゃないかって、俺、そう思ってて…。そしたら、今度もし、なんか、菜摘ちゃんが悩んだり困ってる時、相談に乗ったり、励ましたりするそんな役目、俺できるかもしれないでしょ?」
「うん…」
「そんな日が来たら、いいなって思ってるし、俺の本当の…、あ、いや、血のつながってるって言った方がいいかな?父親、菜摘ちゃんのお父さんもさ、息子として会いたいからって言ってくれてさ」
「息子…として?」
「俺、父親、二人もできちゃったよ。あはは…」
え?なんで笑ってるの?もう、平気なの?立ち直っているの?
「…なんか、強いね、聖君」
「え?強くはないよ。でも、まあ、父さんとか、母さんとか、基樹や葉一がいてくれてるから、そんなに落ち込んだりしないですむかな」
「そうなんだ…」
「だから、菜摘ちゃんも大丈夫だと思うよ。だって、両親もいるし、蘭ちゃんもいるし、葉一もよく、電話したり、メールしたりしてるみたいだし…」
「うん。そうだよね…」
「うん…」
「ちょっと、羨ましいな」
「え?何が?」
「杏樹ちゃんや、菜摘」
「なんで?」
「だって、聖君に、大事に思われてるし」
「へ?」
「基樹君や、葉君にも、嫉妬しちゃう」
「え?!なんで?」
「だって、聖君の力になってて…。私なんか、全然…」
聖君の役に立つよりも、足を引っ張っている気すらする…。
「く~~~~!」
聖君が、いきなり、目をぎゅってつむって、足をばたばたさせた。
「え?どうしたの?」
なんで?なんか、怒ってる?それとも?
「私、何か変なこと言ってる?」
「いや…」
バタバタするのをやめて、聖君はちょっと黙って、それから、
「あ、あのさ」
「え?」
「だから、あのさ」
「…?」
「そんなに、落ち込むことないし、羨ましがることないし」
って言った。
「そうだよね」
「え?!」
「私、自分勝手だよね。だって、菜摘は今、傷ついてるし…。妹になんかなりたくなかったかもしれないし。それに私、勝手に聖君の役に立てたらって思ってたけど、そんなの自分勝手なことだよね」
「え?え?」
「私、聖君と、菜摘が兄妹だって知って、それを私しか知らなくて、だから、聖君のために自分が出来ることしなくちゃって思ってて」
「……」
聖君は、黙って聞いてた。
「だって、その時には、私しか、聖君は相談する相手も、助ける人もいないからって…。私、役に立ててることが嬉しくて…。でも、今は私がいなくっても、もう大丈夫なんだよね?」
だって、私足手まといなくらいだし、いてもいなくても、いいくらいかもしれないし…。それに…。それに、聖君…。
「いなくっても…って?」
「だから、その…。もう、私は必要ないかなって…。一回乗りかかった船だけど、もう降りる頃なのかな?私」
「…え?何それ?」
「今日、会おうって言ったのは、それを言いにきたんじゃないの…?」
「それ…って?」
聖君は、ちょっと困惑しているみたいだったけど、私は続けた。
「初めはね、菜摘のことで、悩んでて、相談か何かかなって思ってたんだ。でも、話聞いてたら、もうとっくに解決してるって言うか、聖君、立ち直れているし…。だから…」
「…うん。だから?」
「だから…。別れ話しに来たのかなって」
「ええ?!」
「あ。別れ話じゃないよね。だって、付き合ってるわけでもないし…。えっと、だから、私はもう、必要なくって、だからこれから会うこともなくなって…、とか」
「…………」
聖君は、しばらく呆然としていた。
「えっと…」
少ししたら、聖君は、話し出した。私は聖君の顔をまともに見れなくって、下を向いた。それに、泣きそうになっていた。
「桃子ちゃんさ、じゃ、俺がもう必要ないよって言ったら、俺の前から去っていっちゃうわけ?」
「え?」
聖君の言葉に、びっくりしてまた、私は顔を上げた。
「そんな簡単に、去って行けるくらいの、簡単なもんだったの?俺への、気持ち」
そんな、そんな簡単な思いだなんて…。そんなことない。そのまったく逆だ。
「違う…」
そうじゃない…。
「違う…。でも、私のこと、必要なくなって、会わなくてもいいって思ってるのに、しつこく会ってなんて言えない」
「え?」
「……。迷惑かけたくない」
「俺に?」
「嫌われたくない…」
「え?俺に?」
「……」
駄目だ…。涙が出てきた。泣いたりしたらもっと、困らせるのわかってるのに…。
「ごめん…」
聖君が、謝った。
「泣かせて、ごめん…」
もう、一回謝ってきた。
「まじで、ごめん!」
顔を見たら、本当に申し訳なさそうな顔をしている。
「いいよ。あやまんないで。大丈夫…」
私がそう言うと、ずっと下を向いてた聖君は、顔をあげた。
「大丈夫…。今までありがとう。楽しかったよ」
私はもう泣かないで、笑顔を作ろうと思った。
「そのうち、多分、思い出になって、ほ…、他に好きな人でも出来て…。聖君のことも、蘭や菜摘とも、話せるようになって…」
必死で笑顔で言ったけど、きっとひきつってる。でも、聖君の方がもっと、顔がひきつった。
「えっ?!何それっ?!!!!」
「…え?」
それに、聖君はものすごく驚いてて、目をまん丸にした。
「別れ話?ってか、俺と会わないつもりでいる?」
「え?だって」
「俺そんなこと、一言も言ってないし。なんでそうなんの?なんで勝手に、話作るかな?!」
「でも、聖君も、ごめんって今…」
「泣かせて、ごめんってことだよ。だいたい、なんで俺が今日、別れ話しに来なくちゃならないわけ?なんでそうなるの?」
「だって…、なんで会いに来たのかが、わからなくって」
「へ?!!!」
聖君は、なんだか、イライラしてる…。怒った口調になってる。いつも優しいのに。
「こ、この前、俺、みなとみらいの帰りにさ、言ったよね?」
「何を?」
「………」
今度は、拍子抜けしたような顔をしている。
「これからも、付き合おうよって、言ったよね?俺」
「…うん」
「それに、桃子ちゃんのこと好きになってるって、言ったよね?俺」
「……」
それ…。
「そう言われて、あとでいろいろと考えて…」
「考えたって、何を?」
「友達としてこれからも、付き合うってことかなとか…」
「へ?」
「好きって言うのも、友だちとして…って感じかなとか…」
「はあ?!」
聖君は、今度は呆れ顔だ。
「手…、なんてつないで、帰らなかったっけ?俺ら…」
「うん…」
「俺さ、もう、てっきりわかってくれてるもんだって…」
「…え?」
「だから、あれでもう、俺ら、これからもちゃんと付き合っていくんだと思ってたし、俺の気持ちもわかってもらえたんだよなって、そう思ってて」
「…え?」
ど、どういうこと…?!
「だから…。だから、今日は…、デートのつもりで、いや、つもりも何も、デートなんだよ。わかってる?」
デート?私と、聖君が?!
「ううん…」
私は、思い切り、首を横に振った。
「ええ?わかってないの?」
聖君は、ずるって椅子からのけぞった。
「でも、日曜日、メールいっぱいしあったよね?」
「え?うん…」
「じゃ、あのメールはなんだったのかな?」
聖君は、脱力した感じで、聞いてきた。
「あれは、だって…。菜摘のことで、落ち込んでいると思っていたから、楽しくメールしたら、聖君、少しは元気出るかなって…」
「へ?」
また、呆れ顔になった。
それから、聖君は、がっくりと肩を落とし、椅子にもたれかかり、うなだれた。ああ、相当私、ショックなことを言ってるんだろうか…。