第15段階 好きな人の誕生日を祝う
聖君の誕生日、私は二つプレゼントをバッグにつめて、待ち合わせ場所へ行った。それも5分以上も早くに着いてしまった。
待ち合わせ場所で、駅の改札口を見ながら、私は今までのことを思い返していた。
初めて会って、すぐに惹かれた。一目惚れだった。それから、みんなで江ノ島の海にまた行き、再会した。でも、聖君は、私のことなんて視界にも入っていなかった。
ああ、花火大会の日、浜辺で置いていかれて、一人っきりになったことがあったっけ。それから、海では、5人が泳いでるのを見て、寂しくなってたっけな。
聖君の笑顔が、私に向けられたらいいな…。とか、そんなことを思ってた。なのに、今は聖君の誕生日を二人だけで祝えるんだ。
あ~~~~~。信じられない!小さく手を、つねってみた。痛い。やっぱり現実だ。
待ち合わせ時間ぴったりに、聖君は現れた。思い切り可愛い笑顔で、走ってくる。
「待った?」
「ううん」
私はなんだか、照れてしまって、下を向いた。聖君の笑顔はいつも、まぶしいんだもん。
「今日は、夜のバイトもないから、夜までゆっくりしてられる。あ、でも桃子ちゃんのほうが、門限あるよね」
「うん。でも、電話したら、少し遅くまで大丈夫かも」
「ほんと?じゃ、夕飯も食べていける?」
「うん」
二人で、みなとみらいの駅からエスカレーターに乗り、大きなクリスマスツリーを見て喜び、そのまま、赤レンガのほうまで、ぶらぶらと歩いた。
聖君は、外に出ると、
「さむ!」
とまた、寒がって、それから片手をジャケットのポケットにつっこんだ。
「手」
と聖君はそう言って、もう一方の手を、私に差し出してきて、私が手をつなぐと、そのまま、ジャケットのポケットに私の手まで入れてしまった。
「あったかい?」
「え?うん…」
わ~~~~~。なんか、照れる!
それから、歩く早さを私に合わせて、聖君は話をし出した。
「あ、言ったっけ?犬を飼ったって」
「聞いてない」
「真っ黒な犬がうちに来たんだ。名前はクロっていうんだけどさ」
「クロ?」
「俺が小さな頃も犬飼ってた。ラブラドール。やっぱり黒くて、名前はクロ」
「そうなんだ」
「すげえ、可愛い。ほんとはさ、俺桃ちゃんって名前にしたかったんだけど」
「え?」
桃ちゃん?!
「だって、桃子ちゃんに目がそっくりなんだよ」
……。犬みたいって言いたいの?もしや…。
「でもさ、母さんが、桃子ちゃんと区別つかなくなるから、その名前はやめようって」
ど、どういう意味~~?
「今度遊びに来た時、見せるから」
「うん…」
そう言ってから、聖君は私の顔を覗きこんだ。
「何?!」
「やっぱ、そっくり~~!あはは…」
「……」
赤レンガ倉庫についてから、ご飯を食べた。
目の前のテーブルには、外人の親子が座ってて、子供が金髪で、ビー玉みたいな、ブルーの目をしていた。そして、時々こっちを見ては、にっこりと微笑む。
「あの子さ、あの男の子。きっと桃子ちゃんに気があるんだよ」
聖君が、小さな声でそう言った。
「え?ないよ~~。それにどう見てもまだ、3歳か4歳」
「うん。だからさ、きっとあの子、同じくらいの年なのかなって、桃子ちゃんのこと見て錯覚起こしてて…」
「それ、どういう意味?」
「あはは!うそうそ。ただね、誰から見ても、桃子ちゃんは可愛いってことだよ」
「……」
喜んでいいんだか、どうなんだか…。
私はどっちかって言うと、注文したものを持ってくる、可愛らしい店員さんが、聖君を見て、顔を赤くしてる方が、ずっと気になった。
「今の店員さん、聖君のこと見て、顔赤くなってたよ」
「ええ?ないない。それこそないって」
「そうかな~~。聖君、誕生日のプレゼントも、たくさんもらったんじゃないの?」
「もらってないよ」
「え?そうなの?学校一昨日までだったよね?最後の日にもらわなかったの?」
「……」
あれ?黙っちゃった。さては、もらった?
「受け取らなかった。一個も。いつもそうしてる」
あ!そっか。文化祭行った時も、そうしてたっけ。
「どうして、もらわないの?」
「…。悪いじゃん」
「え?なんで?」
「うん…。なんかさ、気を持たせちゃうみたいでさ…。それに、俺も、そのプレゼント、どうしていいかわかんなくなるしさ」
「え?」
「例えば、桃子ちゃんからのだったら、すげえ嬉しいし、使ったり、持ってたりしたいって思うし。でも、あまり知らない人だと、捨てるに捨てられないし、でも使うのにも気がひけるし」
「そっか…」
「それにさ、桃子ちゃんも嫌でしょ?」
「え?何が?」
「俺が他の人から、何かもらったりするの…。やじゃない?もし桃子ちゃんが他のやつから何かプレゼントされてたら、俺嫌だな」
「…。う、うん。嫌かも…」
そうか。そんなことまで、考えてくれてるんだ。あ、そうだ。プレゼント、今渡そうかな。
なんて思ってたら、聖君が、
「もう出ようか?」
と言って、席を立ってしまった。
それから、お店をぶらぶら見て、みなとみらいの町を、ゆっくりと歩きながら、ランドマークまで歩いてきて、タワーに上った。さすがにイブだけあって、カップルだらけだった。
もう、徐々に外は暗くなってきていた。そしてだんだんと、夜景に変わっていった。
「奇麗だね…」
私のすぐ横に並んで、聖君がそう言った。
「うん…」
幻想的で、ロマンチックだ。夜景を聖君と見ている、それだけでも、なんだか夢心地だ。
「桃子ちゃん、はい。これ…」
「え?」
ポケットから、小さな箱を聖君が取り出した。
「クリスマスプレゼント…」
「あ。ありがとう…。開けてもいい?」
「うん」
ドキドキしながら、私は箱を開けた。中には、すごく可愛いネックレスが入っていた。
「わ、可愛い」
これ、聖君が一人で買いに行ったのかな…。
箱から出して、窓ガラスに映しながら、ネックレスをつけようとすると、
「つけようか?」
と、聖君が、ネックレスをつけてくれた。
わ…。聖君の指が、首に当たる…。ドキって胸が高鳴った。
「あ、ありがとう」
つけてもらったネックレスを、窓ガラスに映して見た。
「可愛いね、これ」
「うん、すごくよく似合う。良かった、それにして」
「一人で買いに行ったの?」
「いや、父さんと」
「え?!」
「父さん、母さんにピアスあげるって言うから、俺も桃子ちゃんにプレゼント買いに行こうかなって、なんとなくそう言ったらさ、一緒に行くかって」
「そうなんだ」
「父さんも、これが桃子ちゃんに似合うって言ってたんだ」
「そうなの…?」
わあ。なんだか、嬉しい…。
あ、そうだ。私も今、プレゼント渡しちゃおう…、そう思って、鞄からプレゼントを取り出した。
「はい…。これ…」
「え?わ!サンキュー。何?何が入ってるの?」
「マフラーと、手袋」
「二つも?」
「うん。誕生日と、クリスマス」
「あ!そっか!」
聖君は、袋から手袋とマフラーを出すとすぐに、はめたり、巻いたりした。
「あったけ~~!」
すごく可愛い笑顔で、聖君が笑った。
「あれ?これは?」
袋の中にまだ、小さな袋があり、それを取り出しながら、聖君が聞いてきた。
「あ、クッキーなの。前に言ってた」
「ああ。作ってきてくれたの?」
「うん」
「やった!今、食べていい?」
「うん」
聖君は、袋を開けて、一つ取り出すと、そのままぱくって口にほおりこんだ。
「うめ!」
また、すっごく可愛い笑顔でそう言った。
ああ、なんだか、すごく幸せだ。聖君、おしゃれだから、手編みなんて嫌がったら、どうしようとか、思ってたんだ。
でも、目の前の聖君は、本当に嬉しそうだ。目を細めて、手にはめた手袋を見たり、マフラーに頬ずりしたりしている。
「桃子ちゃん、編んでくれたの?これ」
「うん」
「すげ~~。桃子ちゃんて器用だよね。それに、この前のムースとか、弁当も旨かった。今日のクッキーも。料理、上手だよね」
「上手じゃないよ。ただ、好きなだけで」
「上手だって!もう今すぐにでも、お嫁さんになれちゃうね」
「え?!」
ドキ!わ…。冗談で言っただけだよ。何、そんな言葉で私、動揺してるの…。
「絶対に桃子ちゃんと結婚するやつ、幸せ者じゃん」
「……」
あ…、あれ?
「そう思わない?」
「…。わ、わかんない。どうかな」
それ、聖君じゃないの?なんて言えない、聞けない…。
「幸せ者だよ。旨いご飯食えて、こんなふうに、マフラーとか編んでもらえてさ。それに、こんな可愛い…」
え…?
「……」
突然、聖君が黙った。それから、後ろを向いてしまった。
「やべ~~~~」
そう言うと、しばらく聖君は、窓の外を見ていた。窓ガラスに映った顔は、なんだかにやけていた。
「……」
何を考えてるのかな…。
「それ、俺だったらいいよな…」
突然、小さな声で聖君がつぶやいた。
「え?!」
その逆に、私は思わず大きな声で、聞き返してしまった。
「あ、なんでもない。単なる妄想」
「え?」
私は、もう一回聞き返した。
「夕飯、どうしようか?」
聖君は、こっちをくるりと向き、聞いてきた。
「なんでもいいよ」
「じゃ、早めに店、どっか入ろう。きっとイブだし、混んじゃうよ」
「そうだね」
私たちはタワーを下りて、レストランに入り、夕飯を食べ、そして駅に向かい、そこで別れた。
聖君は、家に着くとすぐにメールをくれた。
>外、寒かったけど、桃子ちゃんがくれたマフラーと手袋のおかげで、超あったかかった。サンキュ!
そんなことが書いてあった。
ああ…。めちゃめちゃ、嬉しい。しばらく、その言葉をかみしめ、それから返事を送った。
>ネックレス、お母さんとひまわりも似合うって言ってくれたよ。ありがとう。
聖君はしばらく、返信をしてこなかった。10分位してから、
>また、明日会えるね。
と、それだけ、メールに書いて送ってきた。
>うん、また明日ね。
そう送ると、すぐにおやすみってメールが来た。私もおやすみって送り返した。
翌日は、クリスマス。私は、菜摘や蘭と待ち合わせをして、それから、れいんどろっぷすに向かった。菜摘は、聖君にあげるプレゼントを持っていた。
「あれ?なんか身軽じゃない?小さなバックだけなの?桃子」
と、菜摘に聞かれた。
「うん、プレゼントは、昨日渡しちゃったし」
「あ。そっか…」
私は、昨日もらった、ネックレスをしていたけど、菜摘にも蘭にも、黙っていた。なんでかな?なんとなく、内緒にしておきたかった。
れいんどろっぷすにはもう、葉君も基樹君もいた。それに杏樹ちゃんと、そのお友達も数名。きゃっきゃって言いながら、聖君と話をしていた。
「いらっしゃい!」
私たちのことを、聖君のお母さんが元気良く、出迎えてくれた。
「桃子ちゃんだ~~~!」
杏樹ちゃんが、私のところにやってきて、
「お兄ちゃんの彼女なんだよ!」
と、お友達に紹介していた。
「え~~~!可愛い~~~!」
…。わあ…。中学1年の子達に、そんなことを言われてしまった。
そして、みんなで、お料理を食べたり、ケーキを食べたりして、楽しんだ。
8時になる前に、杏樹ちゃんのお友達のお母さんたちが迎えに来て、帰っていった。
「そろそろ、私たちも帰ろうか」
と、菜摘が言い出し、聖君、葉君、基樹君が、駅まで送ると言って、一緒にお店を出た。
「ちょっと、海沿いの道、歩いていかない?」
基樹君の言葉にみんな、うなづき、ぞろぞろと海岸に向かって歩き出した。
浜辺に着くと、北風が吹いていて、かなり寒かった。
「さむ~~~」
葉君と、基樹君が、背中をまるめた。
「あれ?いつも1番に寒いって言うくせに、今日は言わないんだ」
と、葉君が、聖君に聞いた。
「だって、ほら、これ!」
聖君は、私があげたマフラーと、手袋をしていた。
「それ、手編み?もしかして、桃子ちゃんが作った?」
「そう!」
葉君にそう返事をして、聖君が、
「ほ~~れ、いいだろ」
と、見せびらかしていた。
「桃子、さすが!そういうの得意だもんね」
蘭が私に、そう言ってくれた。
聖君は、基樹君や、葉君にひやかされていて、それを、うっせ~~ってけちらしていたら、そのうち3人で、浜辺を走り出し、追いかけっこまでしてしまっていた。
それを見ていた、蘭と菜摘は、
「一つ上とは思えないほど、幼稚だよね」
と、笑って言った。
私は、ただただ、笑ってる聖君が可愛くて、幸せだった。
聖君の、17歳の誕生日を、一緒に祝えた。
来年はどうなのかな…。隣にいられたらいいな…。
本当は、もっと先もずっと先も、こうやって一緒にいて、聖君のことを見ていたい。
私と聖君の物語は、まだまだ、始まったばかりかな。うん。きっと、そうだよね。これからも続くんだよね。
永遠に続いてくれたら、いいな…。浜辺を大笑いして走ってる聖君を見ながら、私はそんなことを思っていた。
ここまで、読んでくださって、ありがとうございます。この回で、永遠のラブストーリーは終わりますが、すぐに、第2部を書きたいと思っていますので、これからもよろしくお願いします。