第14段階 好きな人の嬉しい言葉
翌週こそ映画に行こうと言ってたのに、聖君のほうが、風邪でダウンをしてしまった。まさか、私の風邪うつしたかな。
>馬鹿は風邪引かないっていうけど、馬鹿でも引く風邪、あるんだね。でも、ごめんね、映画行けなくなった。
前日にそんなメールが来た。
>明日、お見舞いに行くね。
>いいよ、うつると悪い。
>私の風邪がうつったのかもしれないもん。
>多分、違う。熱出てるし、風邪の種類が違ってると思うよ。
そう言われたけど、私は、ヨーグルトのムースを作って、お見舞いに行った。すると、れいんどろっぷすのドアに「臨時休業」のふだが下がっていた。
店の窓から、私が見えたのか、聖君のお母さんがドアを開け、
「お見舞いにわざわざ、来てくれたの?」
と、優しい表情で聞いてきた。
「はい。あの、聖君は?」
「寝込んでるのよ。実は、主人も、パートの人まで風邪引いてるから、お店休みにしたの。私以外、みんなダウンしてるんだもの。あ、杏樹は元気に、部活しに行ってるけどね」
「そうなんですか…。寝込んでるって、熱?」
「もう下がってきてるから、大丈夫よ。でも、こんな時が1番うつる可能性が高いのよ。だから、会わないほうがいいわ」
そうか…。会えないのか。
「じゃ、これ…。ムースなんです。食べやすいかなって思ったんですけど」
「ありがとう!冷蔵庫に閉まってくるわ。ちょっと待ってて。時間あるでしょ?」
「はい」
聖君のお母さんは、店の奥のキッチンに行くとすぐに、戻ってきて、
「じゃ、お買い物付き合ってくれないかな」
と、私に言ってきた。
「はい」
私は、晩御飯の買い物か何かかなって思い、軽い気持ちで、はいって応えた。
でも、聖君のお母さんはしっかりとコートをはおり、
「じゃ、行きましょうか」
と、奇麗な鞄を持って、ブーツまで履き、すっかりよそ行きの格好をして、お店に鍵をかけた。
「どこに行くんですか?」
「藤沢あたりがいいかしら」
「え?」
そう言うと、江ノ島の駅まで颯爽と聖君のお母さんは、歩き出した。
聖君のお母さんは、お店にいる時も素敵な格好をしている。真っ黒なエプロンがとても似合っていて、優しく微笑む姿が、私は好きだった。
でも、今日みたいな、コートと、ブーツ姿も奇麗で女らしくて、素敵だ。とても美人だし、聖君は、本当にお母さん似だ。笑った仕草や、照れた仕草は、どことなくお父さんにも似てたけど…。あ、血はつながってないけど、やっぱり仕草は似てくるものなのかな。
藤沢に着くと、
「こっち、こっち」
と、お母さんは、洋服屋さんに入っていった。そこは、可愛いレースや、ひらひらのワンピースがたくさん売っていた。
「こんな感じの、桃子ちゃんに似合いそう!!!」
え…?!
「ピンクが似合うかしら。あ、でも白も似合う!」
え…?
「今日着てるピンクのカーディガンをはおったら、絶対に可愛いわよね。それで、ブーツとかも履いたりして。あ、ブーツはない?」
「持ってます」
「そう?!」
お母さんの目は、きらきらと輝いていた。
「女の子と、洋服買いに来るの、夢だったのよ」
「でも、杏樹ちゃん」
「あの子、洋服にまったく興味ないの。男の子が着るようなのしか、着ないからつまらなくって」
そう言うと、聖君のお母さんは、あれこれ、私に服を当て出して、
「やっぱり、これ!白のワンピース可愛いわね。冬に白っていうのもいいわね!」
と、私を試着室に連れて行き、
「着てみて」
と、手渡された。
い、いいのかな…。戸惑いながらも着てみると、本当に可愛いワンピースで…。
「ああ!やっぱり似合う。これ、これにしましょう」
「え?」
「そうね。早いけど、クリスマスプレゼントっていうことで。ね?」
「ええ?そんな、悪いです」
「いいのよ。気にしないで。私のわがままだから。ね?」
ええ…。いいんだろうか。でも、あまりにも目を輝かせているし、断る方が悪いような気がしてきた。
結局そのワンピースを買ってもらい、そのうえ、カフェで一緒にお茶までして、私は帰ってきた。
カフェでは、聖君のお父さんとの馴れ初めを聞いた。
驚いた。聖君のお母さんが、自殺をしようとしていただなんて。でも、それをまったく、辛かった思い出としてではなく、聖君のお父さんとの劇的な出会いとしてとらえてて、すごいなって私は、感動してしまった。
翌日の朝、聖君からメールが来た。
>昨日、来てくれたんだって?それで、母さんと買い物に行って、服を母さん買っちゃったって。
>そうなんだ。プレゼントしてくれたの。すごく嬉しかったけど、いいのかな?
>ごめん!母さん、前に、桃子ちゃんと洋服を買いに行きたいって言ってたけど、勝手なことするなって言っておいたんだ。なのに、連れ出したんだってね。ごめんね。
>そんな、私の方こそ、お見舞いに行ったのに、買い物に行っちゃって。
>あ、そうだ、ムース食べたよ。うまかった。ありがとう。
>風邪、もう平気?
>うん、熱下がったし、今はまだ、喉痛いけど。
>良かった。でも、ぶり返したら大変だし、無理はしないでね。
>うん。ありがとう。昨日も、わざわざ、ありがとう。ほんと言うと、会えなかったのは、ちょっと寂しい(;;)
え?ええ?!そんなことを、聖君が言ってくれるなんて…。(それもまた、可愛い顔文字つきだ!)ああ、どうしよう。どう返したらいいんだろう。う~~~ん。
>私も、会いたかったな…。
送信してからまた、ああ、恥ずかしいことを送ってしまったって思った。でも、
>早くに元気になるよ。来週は絶対に会おうね!
と、聖君は、すぐに返信をよこしてくれた。嬉しかった。
聖君からのメールは、全部保存してある。消えないようにして、時々読み返したりして…。文字からも、聖君の優しさや、あったかさが思い切り伝わってくる。
私、出会った時よりも、もっともっと、好きになってるな~…。
月曜、学校に行くと、蘭がなにやら怒っていた。どうも、基樹君と喧嘩をしたようだった。
「もう~~、別れる。あんなやつ~~」
いったい何が原因なの?と聞いても、
「話したくもない」
と、相当頭にきてるようだった。菜摘があとで、蘭がいない時にこっそりと、
「どうやら、メールするって言っておきながら、来なかったみたいだよ。たったの、そんなことで、あんなに怒らなくてもね~~」
と教えてくれた。
「メール?基樹君から?」
「そう。基樹君って、けっこう面倒くさがりみたいで、メールもまめにくれないみたい。葉君は、きちんとメールすると、返信してくれるけど…。あ、兄貴はどう?あの硬派で通ってる兄貴のことだから、面倒くさがって、くれないんじゃない?」
「え?そ、そうでもないかな」
さすがに、可愛い顔文字まで入ったメールをくれるよとは言えなかった。でも、
「そうだね。私がメールしても、けっこうすぐに返事してくれるし。まめなほうだよね」
と言われてしまい、ああ、そっか、私にだけまめにくれるわけじゃないんだなって、思ってしまった。
これ、私の悪い癖だ。いまだに、私は自分が特別だと思えないでいる。自分が聖君の彼女でいることが、どこかで信じられないでいるんだ。
聖君は、本当に優しい。なのに、どこかでまだ、片思いでいるような気持ちになる。メールもくれるし、毎週会ってるのにな…。
こんなことをもし、菜摘に言ったら、思い切り怒られそうな気もして、言えなかった。
翌日もまだ、蘭は怒っていた。基樹君と派手に喧嘩もしたらしい。喧嘩…。したことないけど、もし、聖君が怒っちゃったりしたら、私だったら怖くて、すぐに謝りそうだ。なにしろ、いまだに嫌われるのが怖い。
蘭は、どうやら、言いたいことを、本当にずばずばと基樹君に言ってるようだ。それは基樹君も同じみたいだった。菜摘はよく、似たもの通しだよねってそんな二人を見て言っていた。
3日たって、いきなり蘭が機嫌をよくして学校に来て、
「日曜、トリプルデートしない?」
と言ってきた。
「え?」
私も菜摘も驚いてしまったが、どうやら、仲直りをしたようだった。その提案にみんなが乗り、みんなで久しぶりに、カラオケに行くことになった。
日曜日、みんなで会って、ぞろぞろとカラオケボックスへ移動した。そう、前にも来た、あの店だ。
「派手に喧嘩したんだって?」
聖君が、蘭にそう言うと、
「ええ?なんで知ってんの?」
と、蘭がちょっと基樹君を睨んでいた。
「ああ。基樹じゃないよ。俺は、菜摘ちゃんに聞いたの」
「菜摘~~~!ばらしたの~~?」
「だって、あまりにも派手だったから、本当に別れちゃうのかなって思って、兄貴に基樹君の様子聞こうと思ってさ」
「なんで、聖君?葉君に聞けばいいじゃん」
蘭がそう言うと、
「葉君にも聞いたけど、葉君、クラス違うから、わからないって言うから」
菜摘が言い終わる前に、聖君が、
「いいじゃん。彼氏に相談もいいけどさ、兄貴にだって、相談したい時もあるよな?」
と、菜摘の方を向いてそう言った。
「え?うん」
菜摘も、聖君の方を見て、安心したように笑って答えた。それから、少し二人で、何か話していた。時々、菜摘が大笑いをして、聖君は、頭をこついていた。
それを横から、葉君が、優しい表情で見ていた。
私は複雑だった。葉君みたいに、あんなに優しく二人を見ることはできないなって、そんなことを思っていた。だって、菜摘に今でも、やきもちをやいている自分がいるんだもの。
私といる聖君と、菜摘といる聖君をどっかで、比べている。あんなふうに、笑ってるかな。嬉しそうでいるかな。
菜摘はきっと、嫌われることはないだろうな。だって、血のつながってる妹だもの。縁が切れるってことは、絶対にないんだ。
でも、私は…?
ああ、馬鹿だな。なんでこうもまた、暗いことを考えて、勝手に落ち込むんだろうか、私は。
カラオケボックスに着くと、すぐに聖君が歌を予約した。それから、葉君や、基樹君にも入れろってリモコンを渡して、すぐにマイクを持って、歌い出した。
すんごく上手だった。そりゃそうか。ステージでの聖君も、上手だったもんね。
前にみんなで来た時には、まだ、菜摘のことで悩んでいた時で、静かにしてたけど、今日は基樹君や蘭と、大騒ぎをし始め、ノリノリで歌いまくるわ、みんなが歌ってると盛り上げるわ…。
「そういえば、桃子ちゃん、歌ってないじゃん。ほら、リモコン、蘭、桃子ちゃんに渡して」
基樹君が突然、そう言った。でも、蘭は、
「桃子はいいのよ」
と、そう言ってくれた。
「なんで?桃子ちゃんにはなんで、歌わせないの?桃子ちゃんだって歌いたいよね?」
と基樹君が、今度は私に言ってきた。
「私は…」
歌、下手だし。って言うのを、聖君の前で言うのが、恥ずかしかった。だけど、下手な歌を聞かれる方が、もっと嫌だ。
「桃子は、歌うよりも、聞いてる方が好きなんだよね?」
菜摘がそう言ってくれた。
「特に、ほら、兄貴!桃子に兄貴のバラードでも聞かせてやってよ」
菜摘がそう言うと、
「バラード?んなの歌えるかよ」
と、聖君は、また菜摘の頭をこついた。
菜摘は、私の気持ちを汲み取ってくれて、あんなふうに言ってくれる。いつもだ。いつも、明るく冗談交じりに言ってくれる。それが菜摘の優しさだ。
それから、菜摘が歌を入れて、ノリノリで盛り上げて歌い出した。私はそれを黙って見ていた。
聖君を見ると、嬉しそうに手をたたきながら、菜摘が歌っているのを盛り上げていた。
ふと、またよぎる。私は、いったいどこを好きになってもらえたんだろうか。聖君は、可愛いと言ってくれた。どこをとっても可愛いんだって…。嬉しかったけど、でも、やっぱりよくわからない。
ただ、可愛いってだけなら、子供を見て可愛いと思うのと同じじゃないのかな。
2時間はあっという間に過ぎ、カラオケボックスを出て、ぶらぶらとみんなで歩き出した。
「さむ!今日の風も、冷たいね~~」
と、聖君が、両手をジャケットのポケットにつっこんで、そう言った。
「兄貴、風邪、もう大丈夫なの?」
菜摘が聖君に聞いていた。
「ああ。うん。もう大丈夫」
聖君が風邪引いてたのも、知ってるんだ。
「馬鹿でも引く風邪だったね」
と、葉君が静かにそう言うと、
「うるへ~~~。馬鹿じゃないから引いたんだよ!」
と、聖君が、足で葉君の足をこつきながら、言い返していた。
「どっかで、お茶する?」
蘭がそう言うと、
「うん、ちょっと休んだら、俺もう、バイト行かなきゃ」
と聖君が、そう言った。
ファーストフードの店に入った。そこで、それぞれが飲みたいもの、食べたいものを買い、席についた。基樹君が、蘭に何かを言って、二人で大笑いをしていると、その横で聖君もふざけて、3人でわいわいと話し出した。
菜摘はそこに入って、笑ってみたり、葉君に話しかけて、笑ってみたりしていた。
私は、なんとなく、その輪に入れず、ただ、みんなのことを眺めていた。
あれ?なんだか、夏に6人で会ってた時みたいだ。その時に時間が戻ったみたいだ。それとも、私が聖君の彼女になったのは、やっぱり夢か幻だったのかな…。
ぼ~ってしながら、みんなを見ていると、聖君が突然、
「あ!クリスマスには、れいんどろっぷすにみんな来てよ」
と言い出した。
「え?もしかして、クリスマス会?」
「俺の誕生日会」
「何それ?小学生じゃあるまいし」
「はは!いいじゃん。ま、メインはクリスマスでもいいや、誕生日ってのは、ついででも」
と、笑いながら、聖君は言う。
「でも、誕生日は、イブでしょ?兄貴。イブにパーティ開いた方がいいんじゃないの?」
と、菜摘が言うと、
「あ~~ほ!」
と言って、聖君は、菜摘の頭をまたこついた。
「え?」
菜摘が、不思議そうな顔をすると、
「聞くだけ、やぼ。そんなのさ、彼女と二人きりになりたいに決まってるじゃん」
と、基樹君がそう言った。
「あ、そっか。桃子とデートか!」
菜摘が納得したようにそう言うと、
「イブくらいは、カップルの邪魔はしないよ。菜摘ちゃんは葉一とデートしたいでしょ?」
と、聖君が菜摘にそう言った。
「え?そうじゃなくて、兄貴が桃子と二人で祝いたいんでしょ?」
菜摘がそう言うと、聖君は、
「うっさいよ。いいんだよ。別にそれは」
と、ちょっと面倒くさそうに菜摘に言っていた。
別に、どうでもいいことなのかな?
あ、いけない。イブは二人で過ごせるってことだよね。喜ぶところだよ、ここは…。
「じゃ、俺、そろそろ行くよ。みんなはゆっくりしてって」
聖君は、そう言うと、店を葉君と出て行った。葉君も夜は、バイトをしているらしい。
あ、聖君と今日、二人で話も出来なかったな…。
「私も、そろそろ帰るね」
私がそう言うと、菜摘も帰ると言い出し、結局蘭と基樹君だけ残し、みんなばらばらに帰っていった。
夜、お風呂から出ると、携帯に着信があるのに気がついた。聖君からだった。すぐに電話をしたけど、聖君は電話に出なかった。寝たのかな?それとも、お風呂かな。
ベッドに横になり、携帯を手に持ち、私は聖君からの電話を待った。
…私、彼女なんだよね?天井を見ながら、そんなことをつぶやいた。
なんとなくうつらうつらしていると、携帯が鳴った。
「あ!」
でも、メールだった。
>もう、寝ちゃった?
時間を見ると、11時過ぎていた。
>起きてるよ。
それだけを送った。
>今日の、白の服、母さんが買った服?
あ、聖君、わかってたんだ。
>うん。そう。変だった?
>可愛かった。似合ってたよ。母さんに言ったら、喜んでたよ。着てもらえて嬉しいってさ。
>こっちこそ、お母さんにありがとうって伝えて。
>うん。わかった。
それから、メールをしないでいたら、聖君からも、メールは来なかった。
「はあ…」
この漠然とした不安はなんだろう。天井を見ながら、もう1度つぶやいてみる。
「私、彼女だよね?」
ワンピースのことだって、気づいてくれた。そういうのも、ちゃんと見ててくれてたのに…。可愛いって言ってくれたのにな…。こんなふうにメールをくれることだけでも、以前に比べたら、すごいことなのにな…。
10分位して、また、携帯が鳴った。
>おやすみ。いい夢見てね。もう落ち込んだりする夢じゃなくてさ。
と、聖君からのメールだった。
あ、この前の、落ち込んでる夢を見るって、覚えてたんだな。
>ありがとう。もっと、幸せな夢を見るね。
>そうそう。俺とデートしてる夢ね!他のやつとじゃ絶対駄目だよ。
え…?
いきなり、こういうメールがきて、私はまた、どうやって返そうか悩んでしまった。たまに、聖君はこういう、ふざけた感じのメールをくれる。からかって、私の反応を見て、楽しんでいるのかもしれない。
>どんなデートの夢にしようかな。
どう返していいか、わからないから、そんなことを聞いてみた。
>どこに行きたい?
逆に聞かれた。
>ディズニーランドか、海か、また、水族館でもいい。やっぱり、どこでもいい。聖君となら。
思ったままを書き、また送信してしまった。あ…。またやった。
それから、またしばらく返信が来なかった。
5分位して、
>ね、そういうのってさ、書いてて、照れたりしない?
という、メール。
……!ええ?!これ、もしかして呆れてるの?それとも、嫌がられたりしてる?
なんだか、ショックで、何を書いて送っていいか、わからないでいた。しばらくすると、また聖君からメールが来た。
>すんごい変なこと、聞いてもいい?前から思ってた。桃子ちゃんは、すんごい素直で、思ったことをそのまま口にしたり、表現するんだって、思ってたけどさ。それ、ほんとのほんとの本心だよね?
え?ええ?ど、どういうこと?それに私って、そんなに素直?思ったことそのまま、出しちゃってる?
頭が真っ白で、聖君が何を聞きたいのかも、何を言いたいのかもわからなくて、返信できないでいた。なんだろう。聖君、どうしてそんなこと聞いてくるの?
なんて答えたいいの?でも、何か、何か返事をしなきゃ。
また、携帯が鳴った。
>でさ、もう一つ聞いてもいい?俺のこと、まじで好き?
ええ?!
>どこが好き?
ええ?!!!!!
この質問攻めは何?何~~~?
落ち着いて、返信することにした。よくわからないけど、聞かれてることにちゃんと、答えなくちゃ。
>本当に、聖君のことは、好きです。
まず、そう書いて送った。ドキドキした。何分かしても返事はなかった。
>聖君のどこが好きかって聞かれても、嫌いなところもないし、きっと会った時よりも、もっと好きになってると思うし、知れば知るほど、好きになってるし。
ああ、なんか変だ。うまく書けない。書き直そうとして、間違って送信を押した。
ああ~~!またやった!慌てて、中止を押そうとしたけど、もう送信されてしまった。
5分しても返事は来なかった。なんだか、心臓がばくばくして、汗まで掻いた。聖君は読んで何を思ってるの?どうしよう。
このまま、返事が来なかったらどうしよう。今頃読んで、呆れてたらどうしよう。嫌がられてたら、どうしよう。
携帯が鳴った。思わず、私は驚きで飛び上がった。開けて読むのが怖くなった。
なんて書いてある?聖君は、どう思ってるの?怖いけど、勇気を出して、読んでみた。
>やばいんですけど。
たった一言、そう書いてあった。え?え?え?何がやばいの?!
すぐにまた、携帯が鳴った。気になって、すぐに開いた。
>やべ~~!やばすぎるって!
え?え?え?え?
どうしよう。何がやばいの?って聞いてみようか。でも、聞くのすら怖い。でも、でも、勇気を持って…。
>何がやばいの?
と、書いてえいって、送信を押した。ドキドキ、バクバク。そうしたら、すぐに返事が来た。
>そりゃ、嬉しすぎて(><)
……え???!
>く~~~~~!!!!俺、今、部屋で暴れてます。嬉しすぎて。
ええ?!えええええ????!
>桃子ちゃん、あのさ、もう俺の本性というか、バカなところも、全部見せてると思うけど、それでもこんなあほなやつでも、好きでいてくれてるの?
えっ?!
>俺、かなりあほでしょ?カラオケでも見たと思うけど、はしゃぐ時はいつもあんなだよ。それに、桃子ちゃんの可愛いワンピース着てるの見て、にやけてたりするし、今日、鼻の下伸びてるって、何回も葉一に言われてた。俺、そんなにしまりのない顔してた?
えっ?!!!!ええ?そ、そんなの気づいていない。
>だから、ちょっと桃子ちゃん、呆れてないかなって思って、本当にまだ、俺のこと好きでいてくれてるかなってちょこっと、心配になって。でも、本心なんだよね?さっきのメール。
え~~~~~~~~!!!!!!!
>桃子ちゃん、さっきから返事ないけど、って俺がどんどこ送ってるからか。ごめん。返事ください。
きゃ~~~~~~~~。
きゃ~~~~~~~。何?さっきからの聖君からのメール。なんで、こんなに嬉しいことがいっぱい書いてあるの?
えっと、えっと…。ああ、どうしよう。送らないと…。でもなんて?
>本心だよ。
それだけ送った。送ってから、ぼたぼた携帯に涙が落ちた。聖君。嬉しいのは私の方。
>私も、不安だった。だって、やっぱり、聖君が私のどこを好きになってくれてるのか、わからなくて。本当に、私が彼女なのかなって、そんなことも思っちゃって。
泣きながら、そう書いて、また送信した。
聖君が、返事をくれた。
>桃子ちゃん、自信持っていいよ。もっともっと。
そのメールでも、涙が溢れた。そしてまた、すぐにメールが来た。
>こんなこと書くの、めちゃ照れるけどさ、もう、こうなったら白状するよ。俺、多分、桃子ちゃんが想像してるのをはるかに超えるくらい、桃子ちゃんのこと好きだから。
>聖君。ほんと?
>信じていいよ。これ、本心だから。
>ほんとに、ほんと?ほんとにほんとにほんと?
>あはは!そんな桃子ちゃんも、可愛いよね。めっちゃ好き!
え、え~~~~~!!!
>やばいくらい好き!
……。だ、駄目だ。涙で携帯の画面も見えない。私は思い切り、声をあげて泣いてしまった。
嬉しくて、嬉しくて、嬉しすぎて。
>ありがとう。
どうにか、それだけ打って、送信した。
>桃子ちゃんも、俺のこと好きになってくれてありがとう。
そのメールでまた、私は泣いてしまった。嬉しくっても、こんなに泣いちゃうんだね、初めて知ったよ。