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第11段階 好きな人の別の1面を知る

 11月になり、聖君、葉君、基樹君がうちの学校の文化祭に来た。私と菜摘がウエイトレスをしているときで、なんだか、ウエイトレス姿を見せるのが、恥ずかしかった。

 菜摘は普通にデニムのエプロンをしてたけど、私はひらひらの白のエプロンに、ひらひらの白のレースのカチューシャまでさせられていたから。


 その日なんだか、聖君はあまり、機嫌がよくなくて…。どうしたのかなって思っていたら、

「他のやつにそういう格好、あまり見せないで」

ってぽつりと、低い声で言った。あ!やきもちなのかな。他の男子にも声かけられていたから…。

「ごめんね」

と謝ったけど、内心、嬉しかった。


 休憩の時間が来て、菜摘、葉君、聖君と私で、回ることにした。なんか、菜摘は明るかったけど、無理をしているようにも見えた。

 私と聖君のことを、やたらとからかい、そのたびに聖君は、まるで杏樹ちゃんにこつくみたいに、菜摘の頭をこつんってしていた。

「杏樹ちゃんといるみたい」

 思わず、私はそう言ってしまった。でも、菜摘は、

「聖君のこと、兄貴って呼ぼうかな」

 そんなことを言い出した。


 そして、葉君と付き合ってるんだ、だから、二人で行動するねと言って、葉君と腕を組んで行ってしまった。

 葉君と付き合ってるのは、本当みたいだった。でも、やっぱりまだ、聖君の前では、無理をしているみたいだ。

 それからは聖君と二人で、文化祭を回った。焼きそばを食べたり、ジュースを飲んだり…。


 そして、今度は聖君の学校に行きたいって言ってみた。11月の終わりに文化祭があるんだそうだ。そうしたら、聖君は、そんなに楽しいものじゃないよと言った。

「クラスの出し物もないよ。俺らのクラス、やけにやる気のないやつが集まってるし。俺、部活もしてないし。ただ…」

「ただ?」

「ちょっと、体育館で、出し物する程度」


「え?何をするの?」

「……。すげえ下手くそだから」

「何?」

「俺、バンド組んでて、演奏する予定」

「え?!」

 バンド?知らなかった、それ。初耳!


「軽音に入ってる友達がいて、よく一緒にカラオケにいって、歌うたったりしてて。去年も頼まれたんだけど…。俺、文化祭だけ、借り出されるんだよね」

「何の楽器?」

「ああ、俺はボーカル」

「歌うの?!聞きたい!!!!」

「駄目!絶対、駄目!」


「なんで?聞きたいし、見たいよ。そのバンドには、葉君と基樹君いないの?」

「いないよ。俺だけが、飛び入り参加、みたいな感じ」

「見たいな~~」

「わかったよ。みんなで、来る?」

「うん!」

 すんごい楽しみ~~!!聖君の新たな部分、また見ることが出来る。学校にいる聖君は、どうなんだろう?わくわくする。


 校門で聖君と別れた。その時ちょうど、クラスメイトの子がいて、聖君を見て驚いていた。彼氏?かっこい~~って…。そうだよね。他の子が見ても、かっこいいと思うよね。

 なんだか、そういうことを言われると、本当に私、聖君の彼女なのかなって思ったりもする。

 聖君は、そんな友達の「きゃ~~」っていう声にも振り返らず、そのまま去っていった。

 多分、多分だけど、照れていたんだと思う。いつものように…。


 11月最後の週の土曜日、聖君の高校の文化祭の日がやってきた。私と蘭と、菜摘はその日を心待ちにしてて、わくわくしながら学校に向かった。行くまでの間も、聖君の歌、楽しみだねってずっと言っていた。

 学校に着くと、葉君が待っていた。基樹君は、文化祭実行委員会というのに、入っているらしく、あとで、合流すると言ってた。聖君のライブの時には、一緒に見れるって。


 葉君が私たち3人のことを、案内してくれた。私たちの学校とは、まったく違う雰囲気。男子がいると、こんなに活気が出るのか。

 葉君から少しでも遅れを取り、後ろから歩くと、

「ねえ、そこの彼女。俺らのクラスに来ない?」

とか、

「案内してあげるよ」

と声がかかる。腕までつかまれ、

「よ、葉君!」

と私は、助けを求めてしまった。


「桃子!」

「桃子ちゃん!」

 菜摘と、葉君に助けられた。

「桃子ちゃん、俺と、菜摘の間に歩きなね。変なのにつかまっちゃったら、俺があとで、聖に半殺しにあっちゃうよ…」

「ご、ごめんなさい」


「そういう聖君は、彼女ほっておいて、何してるの?」

 蘭がそう聞いた。

「リハーサルとか、バンドの準備してる。あと、30分もしたらライブ始まるからさ」

 葉君が、そう答えた。

「そうなんだ」

「人気あってさ。午前、午後の2回も出るらしいよ」

「バンド人気あるの?」

「うん、去年でてやたらと受けたから」

「へ~~。楽しみだね、桃子」

 菜摘がそう言った。

「うん…」


 楽しみだけど、それだけ女子に人気があるってことだよね。ちょっと複雑…。

「あ、言っとくけど、あいつ、男子に人気あるんだよ」

 私の不安を察知したのか、葉君がそんなことを言い出した。

「え?」

「なんか、男から見てもかっこいいみたいな。後輩にも人気あるしさ」

「へ~~~。いつもの聖君とは、違う感じ?」

 蘭が葉君に聞くと、

「うん。多分ね」

と、葉君は笑って答えた。

 どんななんだろう。そういえば、聖君もいつもの俺とは違うって言ってたっけ。


 体育館に着くと、すでに満員。私たちは、生徒の間をぬって、少しでも前に出ようって、出て行った。それでも、中間までいけないくらい、人がたくさんいた。

 椅子は横に何列か並んでて、そこには、先生や、父兄の人が座っていた。生徒はみんな、立っていて、今か今かと始まるのを、待っている様子だった。


 5分前、アナウンスが流れた。

「お待たせしました。軽音楽部のライブが、あと5分で始まります。みなさん、前の人を押したり、物を投げたりしないよう、また、先生方、父兄の皆様、椅子に乗らないよう、気をつけてください」

 先生が椅子に乗る~~?面白いことを言うなって思っていたら、

「去年、いたんだよね。ノリノリで椅子に乗っちゃったおっさん。どっかのお父さんみたい。それ見て、あやうく、聖のお父さんも乗りそうになって、隣にいた、聖のお母さんに止められてた」

って、葉君が教えてくれた。え~~、そんなにノリノリになっちゃうの?

 どんななの?まったく想像が付かない。


 5分が立ち、会場全体が暗くなった。そして、いきなりのドラムの音。それから、ギターの音が鳴り響き、ぱっとステージが明るくなった。

 マイクスタンドを持って、横を向きながら、静止している聖君が、ステージの中央にいて、スポットライトを浴びていた。

 それとともに、すごい黄色い声。

「きゃ~~~~~~!」

 ええ?ええ~~?

 私も菜摘も、蘭もびっくりしてしまった。


 そのあとに、女子からの、

「聖く~~~~ん!」

の声と、男子からの、

「聖~~!」

「聖せんぱ~~~~い!」

っていう声と…。とにかく、すごい声援が飛ぶ。


 そして、聖君は、歌い出した。制服のYシャツに、制服のパンツ。ネクタイはだらって垂れてて、Yシャツのボタンは、少し外れていた。

 それに、髪…。ところどころが、金色で、いつもサラサラなのに、何かで固めているみたいだった。

 歌い方も、すんごいさまになってて、声もすんごいかっこよくって、歌もすんごい上手で、どこが「下手」なのよって思った。


 私の周りを見ると、聖君をハートの目で見ている女子が何人もいて、以前もてないって言ってたけど、どこが?って思った。それに、男子にも人気があるみたいだけど、しっかりと、女子から黄色い声援があがっているじゃないか。

 とにかく、みんなノリノリ。隣で菜摘も、蘭も、

「聖く~~~ん、かっこいい~~~!!!」

と叫びながら、のっていた。


 ええ~~~~~~~~~・・・・・?


 葉君は、リズムに合わせてゆれながら聞いていた。

 私は初め、圧倒されてしまい、目が点。でも、聖君を見ている間に、どんどん引き込まれ、聖君しか見えなくなった。

 かっこいい。すんごい、かっこいい。かっこよすぎるよ…。

 いつもの、あんな可愛い顔文字のメールを送ってくるような、聖君とは別人だ。


「学校では、硬派で通ってて…」

て言ってたけど、ほんとだ。男子から人気があるのも、後輩から人気があるのも、わかる気がする。

 だって、絶対に男子から見てもかっこいいもの。


 3曲を歌い、

「ありがと~~~!」

って言って、聖君はさっさとステージから、去っていったけど、アンコールの声がやまず、もう一回バンドのメンバーが出てきた。

 そして、最後に聖君が出てくると、また、

「きゃ~~~~!」

の歓声。もう、芸能人並み。


「え~~、どうもありがとうございます。もう1曲歌いたいと思います。あ、午後もステージあるんで、そんときにも見に来てください。んじゃ、アンコールの歌は、『根性なし』!」

「きゃ~~~!」

と、また黄色い歓声。

 そして、またマイクを持って、聖君がノリノリで歌い出した。ものすごくかっこいい、ロック歌手みたいだ。


 終わって、また両手を振って、さっさとステージから去っていった。

「聖く~~~ん!」

 まだ、叫んでる女子がいたけど、みんなぞろぞろと、体育館を出て行った。


「は~~~~~~」

 私、菜摘、蘭の3人はため息をついた。そしてしばらくその場で、ぼ~~ってしてた。そこへ、

「あ!いたいた!やっと会えた」

と、基樹君がやってきた。

「基樹~~!どこにいたの?」

と、蘭が大声で言った。


「みんなどこにいるんだろうって、探したけど、ステージ始まったから向こうで観てたよ。あ、どうだった?桃子ちゃん、聖のやつ」

「え?」

 私は声にもならないくらいの感動をしてて、何も言えなかった。その代わり、菜摘と蘭が、興奮しながら、

「すごかった!かっこよかった!びっくりしたよ。いつもの聖君じゃないよ」

ってさわいだ。


 横のほうにまだ、何人かの女の子がいて、私たちを見た。

「基樹君、知り合い?」

と、一人が聞いてきた。

「ああ、うん、まあ。ちょっとね…」

 基樹君は、少し、困った感じでそう言った。いつもの基樹君なら、蘭のことを、

「俺の彼女」

とか、元気に言いそうなのにな。


「聖は?こっちに来るの?」

 葉君が、基樹君に聞いた。

「ああ…。来るんじゃね?」

 ちょうどその時、横にいた女の子が、

「あ!聖君…!」

と言った。その女の子が見ている方向を見たら、聖君が一人で、こっちに向かって歩いてきていた。さっきのまんまの格好で…。


「よ!聖!お疲れさん。今日もかっこよかったぜ」

と、基樹君が聖君と、ハイタッチをしていた。

「聖、すげえ、何この頭。どうしたの?」

 葉君が、笑いながら聖君に聞いた。

「これ?バンドの連中が勝手にいじってさ」

 聖君は、そう言ってから、額から流れる汗を手で拭いた。


「あっち~~~!なんか飲みたい。冷たいもん」

 聖君がそう言うと、

「聖君…。これ、ペットボトルまだ、開けてないのあるから、飲む?」

 隣にいた、女の子の一人が言ってきた。聖君は、その女の子の方を見て、

「ああ、いいや。水ならあるし」

と、片手に持っていた、水のペットボトルを聖君が見せた。あれ?ああいうの、ありがとうって受け取るかと思った…。


 聖君は、その女の子たちが、

「かっこよかったよ」

「その髪似合うね」

「午後も見に来るね」

と声をかけても、

「ああ」

「そう?」

「うん」

と、すんごい言葉数が少なくて、それも、ほとんど女の子の方も向かずに返事をしてて、すぐに基樹君と、葉君に話をし出した。


「もうどっか、回った?」

「まだ。俺、実行委員だよ。午後からじゃないと、時間取れない。お前のステージだけ、様子見ってことで、見に来れた。あ、蘭、悪いけど、午後から落ち合おう。それまで、こいつらと行動してて」

「うん、いいよ。お昼は?」

「昼は一緒に食える」

 そう言うと、基樹君は、体育館から出て行った。


 女の子たちはまだ、横にいて、

「え~?もしかして、基樹君の彼女?」

と小声で話をしていたが、丸聞こえだった。

「さて、どこ行く?それより、お前ずっと今日その頭?」

 葉君が、聖君に聞いた。

「うん、午後もあるから。メッシュって取れんの?これ」

と、聖君が言うと、

「髪洗えば、取れるんじゃない?」

と、菜摘が言った。


 すると、また横にいた、女の子たちが、ひそひそ話をした。

「まさか、聖君の彼女?」

 どうやら、菜摘のことを言ってるらしい。

「あ!違います!私は葉君の彼女です」

と、菜摘は明るくその子たちに言った。すると、その女の子たちは、

「あ」

と、こっちを見て、ちょっときまずそうな顔をした。でも、すぐにまた、小声で、

「違うじゃん。やっぱりいないんじゃないの?彼女。大丈夫だよ」

と言っていた。みんな、聖君のファンか、それとも、あの中に聖君のことが好きな子でもいるのか…。


 聖君を見ると、そんなのまったくおかまいなしで、水をぐびぐび飲んでいた。

「回るって言ってもな~~。そんなに面白いところ、ないよ」

と聖君は、口からこぼれそうになった水を手で拭ってから、そう言った。

「どっかのカフェでも入るか。木戸のクラス、やってなかったっけ?」

「ああ、木戸がそういえば、カフェやるから来いって言ってたっけ。行くか?」

 そして、5人で、ぞろぞろ歩き出した。


 体育館から出て、渡り廊下を歩いていると、

「あ、聖先輩、かっこよかったです」

と1年生らしい男子が、声をかけてくる。

「おお!午後も見に来いよ!」

と聖君が、声をかける。さっきの女の子に話すより、ずっと、にこやかだ。


「おお!聖!かっこよかったよ!」

 他の男子生徒も、声をかける。それに、

「サンキュー」

って笑顔で返す。どうやら、男子には答えて、女子には、無愛想みたいだった。


「ひ~じ~~り~~~!!!!」

って走って飛びついてきて、聖君の髪をぐしゃぐしゃにしている人がいた。聖君のお父さんだ。

「やめろって!父さん!」

 聖君が、そう言うと、

「この頭、最高な!これなら、いくらぐしゃぐしゃにしても、気になんないじゃん」

って聖君のお父さんは笑った。


 その横で、聖君のお母さんも、

「かっこよかったわよ。お店があるからもう戻るけど、午後も頑張ってね」

と、聖君に言っていた。

「うん。サンキュ」

 聖君は、小声でそう言った。


「あら、桃子ちゃんも見に来てたの?びっくりしたでしょう。この頭。私もびっくりよ」

「はい…」

 私が、返事に詰まっていると、菜摘が、

「こんにちは!」

と声をかけた。


「菜摘ちゃん!久しぶり。またお店に遊びに来てよ」

と聖君のお母さんが、声をかけた。

「はい。ぜひ今度、行きます。それと、父が、聖君にうちに来てもらえって言ってました」

「そうなの?聖、ぜひ今度、お邪魔させてもらったら?」

「ああ、うん」

 聖君は、小さくうなづいた。


「じゃあね、みんなゆっくりしてって」

 そう言うと、聖君のお母さんとお父さんは、学校をあとにした。

「あ~~、ただでさえ、ぐしゃぐしゃなのに、父さんは、もう~~~」

と聖君は、自分の髪を直していた。

「どうせ、ぐしゃぐしゃだから、いいんじゃないの?」

と、葉君が言った。


「だよな。鏡見てないし、どうなってんだか…」

「鏡見てないの?」

と私が聞くと、

「うん。ステージの裏で、いきなり、ディップで固められたから。どう?かなり変?」

 聖君が、聞いてきた。

「ううん、かっこいいよ。今も大丈夫」


「…え?」

 聖君が、耳を傾け、聞いてきた。あれ?声小さかったかな。私はもう一回、聖君に、

「かっこいいよ」

って言うと、また、

「え?」

って…。


「お前、しつこい、何度桃子ちゃんに言わせてんの?」

と、葉君が、聖君にそう言った。

「だって、さっきから、何の感想もないんだもん…」

「ごめん、かっこよかった。すごく…ね?菜摘。蘭」

「うん、いつもと全然違う。びっくりだよ。それに人気あるね、もてもてじゃん」

「う~~ん、そうなんだよね。なんか、男子生徒にもててるんだよね。俺」

と、聖君が言った。


 校舎に入るとさらに、いろんな人が、

「さっきのステージ良かったよ」

とか、

「聖君、かっこよかったです」

とか、言ってきた。


 先輩らしき人には、

「あざ~っす」

って頭を下げて、女子には、

「どうも」

って、一言だけ返す。


 それに、声をかけないで、遠巻きにしている女の子もいっぱいいて、

「あ、聖先輩だ。かっこいい」

って声が、耳によく入ってきた。

 それに加えて、

「あの一緒にいる子達、何?」

って声も…。


 階段を上ると、すぐの教室に聖君と葉君が、入っていったので、私たちもあとに続いた。

「おお!聖!来たか~~。ステージどうだった?」

 どうやら、さっき言ってた、木戸君って人らしい。

「おお。大成功」

と聖君が、ピースをした。


 周りにいた女の子が、

「見たよ。かっこよかった」

とか、

「見に行きたかったな」

とか、声をかけた。でも、やっぱり、

「ああ」

「うん」

くらいしか言わない。この男子に対してと、女子に対しての差は…何?


 テーブル席が、3人がけしかなく、私たち3人と、聖君、葉君と別れて座った。聖君の隣には、木戸君って人が座り、あれやこれや話をしていた。

 私たちは、それぞれ注文をした。そして、

「驚いたよね。なんか全然印象が違う」

と話をした。


「基樹が、俺らは硬派で通ってるからとか、バカなこと言ってるなって思ってたけど、ここまで、女子にクールだとは、思わなかったわ」

 蘭が言った。

「本当に、基樹君も、なんかさっき、違ってたね」

「ほんとよ。私のこと、彼女だって紹介もしなかったし」


 少し、聖君のところと離れているテーブル席で、私たちの話し声は多分、聞こえていなかったと思う。そこに、

「ね。3人で来てるの?案内しようか?」

と、隣の席に座った男子が言ってきた。向こうも3人だった。それも、勝手にテーブルをくっつけてくる。


「どこの高校?みんな可愛いね。知り合いでもいるの?」

と、一人が私に声をかけてきた。すると、

「ちょっと、わりい。俺らのつれだから、席変わってくんね?」

と、聖君がその男子に言った。

「え?うそ!聖先輩の?」

 どうやら、1年生だったようだ。

「はい、どうぞ」

とその子たちは、席を立ち、聖君と葉君に席を譲った。


「何やってんの~~?なんで、ナンパされてるんだよ?!」

 小声で聖君は、私に聞いてきた。

「え?」

 私は困ってしまった。すると菜摘が、

「じゃ、兄貴がちゃんと、桃子にひっついてあげてたらいいじゃない?」

とけっこう、大きな声で言った。すると、周りがいっせいにこっちを向いた。


「聖君の妹?」

と、周りがざわざわし出した。そのうち、

「なんだ、妹だったんだ」

とか、

「妹の友達とかかな」

とか、小声で話し出し…。ここにも、聖君のファンはたくさんいるんだ。

 聖君は、コーラを黙って飲んでいた。でも、少し機嫌が悪い感じだ。やきもち?それとも、何?


 しばらくは、その店にいた。12時近くになり、聖君の携帯がなり、どうやら、基樹君が今、いる場所を教えてっていう電話だったようだ。

 5分も立たないうちに、基樹君が現れて、テーブルにつき、基樹君、聖君とで、わいわいとさわいでいた。そこに、木戸君も入り、もう一人二人と男子が混じり、ゲラゲラ笑いながら、話をし出した。


「お昼行かない?そろそろ」

と葉君が言った。

「ああ。お腹空いたもんね」

 聖君も言った。そして、みんなで、移動した。


「料理部っていうのが、カレー屋やってるんだって。うまそうだからそこにしない?」

って基樹君が言って、みんなでそこに行くことにした。でも人気があり、少し教室の外で、待たされることになった。

 その間も、いろんな人が聖君に声をかけて行き、聖君は、また、男子にはにこやかに、女子にはクールに答えていた。

 すごい人気ものだ。でも、女の子には一貫して同じ態度だ。べらべら話をする女の子は、一人もいなかった。


 カレー屋さんは、6人で一つのテーブルに座れた。そこで、今日初めて私は聖君の隣になれた。

 聖君は、美味しそうにカレーをがっついた。たまに、声をかけてくる友達に、答えながらも。

「美味しい」

と言って、私も菜摘も、蘭も食べ出した。

 聖君は、さっさと食べ終わり、私たちが食べ終わるのを待った。その間は静かだった。隣にいる聖君は、いつもの優しい空気が漂っていた。


 カレーはけっこう辛くって、半分で私は断念。どうやら、本格的インドカレーらしい。

「もう、食べないの?」

と、聖君に聞かれた。

「うん。辛くって、もう駄目だ~~」

「辛いの苦手?」

「うん」

「じゃ、俺食っちゃっていい?」

「うん」

 そう言うと、私の分も聖君はぺろって食べた。


「ああ、満足。これで、ようやく腹いっぱいだ」

 聖君は、本当に良く食べる。そして、

「でも、桃子ちゃん、おなか空かない?なんか他に食いに行く?」

って聞いてくれた。

「ううん。大丈夫」

と答えると、

「ちゃんと食べないと、大きくなれまちぇんよ~~~」

と、頭をなでながら、またよちよちを聖君がした。


「もう!また子ども扱い…」

と、聖君に向かって言った時、私は動きが止まってしまった。

 隣でそれを聞いていた、蘭も、菜摘も、葉君も、基樹君も、まったく気にすることなく、カレーを食べたりしゃべっていたが、その周りにいた人たちが、いっせいに、私と聖君を見ていたのだ。


「え?聖…?」

と、隣のテーブルにいた、聖君の友達らしき人が、目を点にしていた。

「聖先輩、うっそ~」

 後ろのテーブルにいた、男子がそう言った。

「ええ?聖君…?」

 ちょっと離れたところから、こっちを見ている女の子は、なんだか、ひいていた。


「あ…。やべ!」

 小声で、聖君がそう言った。すると、

「あほ」

と、葉君が冷たく言い、

「ば~か、今さらおっせえよ」

と、基樹君も少しにやけながら、そう言った。


「聖の妹?」

 隣のテーブルにいた、男子が聞いてきた。聖君は、その男子に向かって、

「桃子ちゃんのこと?」

って、私のことを指差して聞いた。

「そう、今、お前が、赤ちゃん言葉を使い、頭をなでた…、その子…」

と、目を丸くしたまま、その男子が聞いた。


「……。俺の、彼女…」

 聖君がそう言うと、その教室にいたみんなが、いっせいに、

「え~~~~~~~~~~?!!!!」

と、声をあげた。耳をふさがないと、うるさいくらいの大声だった。


 隣の男子が、

「お前、彼女いたの?!っていうか、何?その不釣合いな、すんげえ可愛い子!」

と、大きな声で、聞いてきた。

「うっせ~~よ。関係ないだろ、お前には」

「関係ないってお前、仮にも1年時のダチだろ?紹介しろよ」

「うっせ~、うっせ~~。なんでお前なんかに」

「なんだよ、いいだろ?どこの高校?高校生だよね?」

「はい…」

 思わず私はそう、答えた。


「桃子ちゃんっていうの?ぴったりの可愛い名前だね」

 その男子がそう言うと、

「お前、勝手に話しかけてるなよ。いいから、そっちのテーブルでカレー食ってろ」

 聖君はそう言って、私にも、

「答えなくていいから、無視して。ああいうやつは」

って言ってきた。


 聖君に話しかけてくる人はいなくなったけど、小声で、みんながしゃべっているから、周りがざわざわうるさかった。

「あ~~。墓穴。学校にいるってこと一瞬、忘れてた」

と、聖君はうなだれて、

「もう、こうなったらあれか、開き直るしかないか」

と、ぶつくさ言っていた。


「そうそう。彼女にでれでれのお前、見せちゃえば?」

 小声で葉君が、そう言うと、

「うっせ~~。お前だって、でれでれじゃんかよ」

と、聖君は、葉君の足を蹴っていた。

「蹴るなよ、いてえ」

 葉君が、そう言っても、

「ふんだ」

って、聖君は機嫌が悪かった。



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