第1段階 好きな人が出来る
私は椎野桃子。今、高校1年生。彼氏いない歴、15年。つまり、まだ誰とも付き合ったことがない。
好きな人はいた。中学3年の時に。でも、好きっていっても、近くの高校に通ってる人で、名前も何もわからなくって、駅で時々見かけるだけ。
バレンタインにチョコレートを渡そうとして、一歩が出ずに、渡せなかった。友達の蘭と、菜摘が、
「なんで渡さなかったの?」
って言ってきたけど、どうしても、勇気が出なくって…。
「どうせ、ふられちゃうから」
って言ったら、そこが桃子の悪い癖って蘭に言われた。それに、
「なんで、悪い方に考えちゃうの?うまくいくって思えないの?」
と、菜摘にも言われた。
蘭と菜摘なら、「うまくいく」って、そう思えるかもしれない。だって、二人とも可愛くて、明るくて、私が男の子なら、絶対に好きになるだろうなって、そんな女の子だから。
私は、その真逆。背も小さくて、いるかいないかわからないような、内気で、可愛くもないし、美人でもないし、運動も苦手だし。どこも、男の子から見て、魅力のあるところなんてない、そんなだから。
バレンタインが過ぎた頃から、ぱたりとその人を見かけなくなった。どうやら、高校3年生だったみたいで、もう、学校に行く機会もなくなったのかもしれない。
そして、春休み。彼氏のいない、蘭と菜摘と私で、高校に入ったら、彼氏を作ろうねと、硬く決心をした。
中学からエスカレーター式の女子高に通っていて、私たちはまったくと言っていいほど、出会いがなくて…。私ならわかるけど、蘭と菜摘に彼氏がいないのは、不思議なことだった。でも、出会いがないのだからしかたがない。
うちの高校は私立で、けっこうきびしくて、バイトも禁止。バイトなら出会いもあるかもと思ってたけど、それも無理。
春休みにそう誓ったのに、あっという間に、夏休みになっちゃってた。
夏休みといっても、バイトもできないし、どうしようかって3人で話してて、まさか、海に行って声かけられるのを待ったり、逆ナンなんて、できないよね~~って、そんなことも言っていた。
それに、私は海は苦手。泳げないし、やくとすぐに真っ赤になり、痛くなるし、そばかすはできるし…。
それなのに、妹のひまわりが、海に絶対に行きたいって言って、家族で海水浴に行くことになっちゃって…。
私は嫌だって言ったけど、だったら、ずっと海の家でもいたら?って母にも言われて、強引に連れて行かれた。
場所は、江ノ島。道が混むと大変だからって、父が朝早くから車を出し、私以外の3人はおお張り切り。私は、暇だと嫌だから、文庫本を2冊も持って、仕方なくついて行った。
水着にはなったけど、その上に長袖のパーカーをはおり、膝丈のパンツもはいて、まったく泳ぐ気もゼロで、海の家で文庫本を読んでいた。
でも、やっぱり暑くって、カキ氷を買いに行くと、そこでバイトをしている人が、
「シロップは何をかけますか?!」
って、すごく元気に聞いてきて…。
私は、
「イチゴ…」
って答えたんだけど、声が小さかったからか、
「え?何?」
って、聞き返されて、もう一回、
「イチゴ」
と少し大きめに言うと、私の方にかなり顔を近づけて、
「イチゴ?」
って聞いてきて…。
「はい。そうです」
と答えると、ニコ!その笑顔が、ものすごく素敵で…。日に焼けてて、笑うと真っ白な歯が見えて、汗いっぱいかいてて、それでも、ニコニコずっと笑いながら答えてくれて。
カキ氷を持って、テーブルに戻って食べながら、私はずっと、その人のことを目で追ってた。
お客さんには、すごい素敵な笑顔で接してて、バイトの仲間とは、たまに冗談言って、大笑いをしてて…。でも、まじめに、ちゃんと働いてて、ときどき真剣な表情も見せる。
汗が額から流れると、それを拭いながら、また、にこって微笑んでる。
もう、その人から目が離せなくなっていた。私は、カキ氷を食べ終わっても、文庫本を読むふりをして、その場で、ずっとその人のことを見ていた。
もしかして…。ううん。確実に私は、この人のこと、好きになっちゃってる…。
恋っていうのは、こんなに突然やってくるのかな。でも、江ノ島なんて来る事もないし、まさか、今、話しかけることもできないし、好きになっても、もう、会うこともできないかもしれないのに…。
ガク…。その人のことを目で追いながら、そんなことも考えてて、嬉しいような悲しいような、切ないような…。
もう一回会えたらいいな。名前、わかったらいいな。そんなことを思いながら、家路に着いた。
その日の夜、蘭と菜摘に、江ノ島で素敵な人を見たんだって、メールを送った。
>じゃ、また、会いに行かなくちゃ!
蘭からそんなメールが来た。
>3人で行こうよ!江ノ島!
菜摘からも、メールが来た。
>これは、チャンス到来!絶対にその恋は、逃がしちゃ駄目だよ。この前みたいに一歩も踏み出せず終わらせちゃ駄目だからね。
蘭から、そんなメール。
>恋じゃない。素敵な人だったってだけで…。また会えるかわからないし…。
>ほら。桃子の悪い癖。いい方に考えて、行動行動!よし!いつにする?早めに行こうよ!
蘭は、行動がいつも早くて、あっという間に、決めてしまう。菜摘もすぐに、のりのりで、盛り上げてくれる。
3日後に、江ノ島に行くことになり、その人にまた会えるのか、会ったらどうしたらいいのか、私はその間、夜もあまり眠れないほど、ドキドキしてた。
そして、朝早くに小田急線に乗り、3人で片瀬江ノ島まで行った。
天気が良くて、暑い日で、二人はノリノリ、おおはしゃぎ。私は朝から、ううん、昨日からずっと、緊張しっぱなし。
いるかな?会いたいな。でも、会ってもどうしたらいいのかな…?
浜辺に着くと、蘭はすぐにパラソルを借りに行き、菜摘は、シートを広げた。それから、
「さて…。どの海の家?」
って二人して同時に、聞いてきた。
「え?」
「ほら、早く。どこの海の家?そこで、着替えようよ」
「うん。えっと、確かあそこだったと思う」
そんな曖昧な答え方をしたけど、本当は浜辺に来た瞬間から、
「あそこだ」
ってわかってたし、海の家の中に、あの彼はいないかって、ちょっと探したりしていたんだけど…。
「よっしゃ~~。行くか~~」
菜摘がそう言うと、さっさと荷物を持って、進み出した。そのあとを、蘭もどんどん歩いていっちゃって、私は慌ててその後ろを、
「待って!」
と、追いかけた。
二人の方が先に、海の家に到着し、
「すみません。着替えたいんですけど」
と、声をかけていた。でも、そのバイトの人は、あの彼じゃなかった。
「あ。はい、どうぞ」
優しい、大人しい感じの人。
更衣室に入ってから、小声で蘭が、
「今の人?」
って聞いてきた。
「ううん、違う。なんか、いなかったみたい」
「ええ?そうなの?本当にここなの?」
菜摘が大きな声で言うので、私は慌ててしまった。
「し~~!声、大きいよ」
「あ、ごめん」
私たちは、水着に着替え、更衣室を出た。
海の家を、見回しても、この前の人はいなくて、ああ、今日は休みなのかもとか、それとも、もうやめちゃったのかなとか、がっかりしながら、私はシートをしいた場所に戻った。
「いなかった?」
「うん…」
「そっか~~。あ、でもほら、他に出会いがあるかもしれないし!それよりも、桃子、日焼け止めぬってあげるよ」
菜摘が、明るくそう言ってくれた。
「さっきの人は、あまり私、好みじゃないしな~」
蘭がそう言うと、
「ええ?何それ。桃子のために来たんじゃないの?」
と、菜摘が…。
「そうだけど。でも、私たちもこのチャンスを逃す手はないでしょう。彼氏をこの夏にゲットする!ね。菜摘!」
と、蘭は張り切っていた。
それから、3人でしばらくビーチボールで遊んで、そのうちに、二人は泳ぎに行った。私は荷物番。ビーチパラソルの影に入り、持ってきた文庫本を読む。
そのうちに、二人が戻ってきて、
「のど渇いたから、何か飲み物買ってくるよ。何がいい?」
って、蘭が言った。
「じゃ、私はコーラ」
菜摘がそう言って、
「私は、ポカリがいいな」
と、蘭に私も頼んだ。
「OK」
蘭は砂浜の砂もものともせず、海の家の方に走っていった。
でも、なかなか戻ってこなくて、
「何してるのかな?ちょっと見てくるね」
と、菜摘も行っちゃって…。
少しすると菜摘が戻ってきて、
「さっきの海の家、バイトが増えてる!もしかして、桃子の好きな人もいるかもよ。蘭が話をしているから、桃子もおいで!」
と…。
ドキ…。嘘…。もしかして、あの人?私は、ドキドキしながら、海の家に向かった。
「ほら。蘭が話してる二人。あのうちのどっちかじゃない?」
菜摘が小声で私に、聞いてきた。
「……!そ、そうだ…。あの人だ…」
「ええ?どっち?!」
「水色のTシャツ着てるほう」
「え~~。ちょっとちょっと、めちゃかっこいいじゃん!」
菜摘が私の腕を、つっついてきた。
「話をしに行こうよ」
「え?」
「ほら、行くよ!」
菜摘は私の腕をひっぱって、蘭のところに行き、
「蘭!私の頼んだコーラは?」
と聞いた。
「あ、ごめんごめん。まだ、頼んでないや」
蘭は、そう言うと、
「ポカリとコーラ」
と、あの彼に注文した。
「はい、ポカリとコーラね」
にこってあの笑顔を見せながら、その人は答えた。
ああ。あの人だ。また、会えた!!!嬉しいよ~~~。顔が思い切りにやけそうになって、私はずっと、下を向いていた。
ポカリと、コーラを菜摘が受け取り、私に渡してくれた。それを持って、席の方に移動しようとしたけど、菜摘も、蘭もその場を離れなかった。
周りを見ると、そんなにお客さんもいなくて、あの彼ともう一人のバイトの人は、菜摘と蘭とずっと話をしていた。
4人でやけに盛り上がり、私はどうしたらいいかわからず、ずっと二人の影にいた。
「新百合ヶ丘から来たの。電車乗って。二人は?このへんに住んでるの?」
蘭は、二人に聞いていた。
「うん、すぐ近く」
もう一人の人が、そう言った。
他のお客が来て、カキ氷を注文した。あの彼が、注文を受けて、カキ氷を作りだした。
「あのさ、2時間したら、俺ら休憩なんだ。45分だけなんだけど、そんとき話の続きしようよ」
もう一人のバイトの人が、そう蘭に言った。
「うん、いいよ。あ、私たちあのあたりにいる。見える?パラソルが立ってる」
「ああ、うん。わかるよ。じゃ、休憩になったら、ひじりと行くよ」
ひじり…。ひじりっていうのかな。あの人。年はいくつかな。年上っぽいな。ひじりってどんな漢字かな。聖かな?一文字かな?
私は、嬉しくて、ドキドキしてた。
シートに戻ると、蘭が、
「もしかして、あの二人のどっちか?」
と、聞いてきた。
「水色の方だって!」
と、菜摘が答えた。
「え~~。イケメン!面食いじゃん、桃子。そういえば、この前好きになった人も、イケメンだったっけ」
「そ、そんな面食いじゃないよ、私」
「そっか~~。ちょっとほっとしたりして~~」
蘭はそんなことを言った。
「ほっとしたって?」
そう聞くと、
「もう一人のオレンジのTシャツ着てた、元気な方。タイプかもって思って。もし、桃子が好きな人だったらどうしようって思ってたんだよね」
と、蘭が答えた。
「ああ、なんかたくましい感じの人だよね?オレンジの方は…。体育会系の…」
菜摘がそう言うと、
「うん。そういう人がタイプなんだ。顔よりも、肉体美」
と、蘭が嬉しそうに答えた。
「え?そうだったの?知らなかった!」
私が驚くと、菜摘は、
「私はなんとなく、知ってた~~」
と笑った。
「ああ、なんだ。二人してタイプの人見つけちゃって。私だけじゃん、いないの」
と、菜摘が言った。
「菜摘のタイプは?」
私が聞くと、
「タイプはないよ。でも、そうだな。楽しい面白い人がいいな。一緒にいて、楽しめる人」
と、菜摘は言った。
私は面食いというよりも、雰囲気で好きになるみたい。何か一生懸命さだったり、笑顔が素敵だったり…。ああ、そうだ。あの彼も、えっと、ひじり君も、笑顔が素敵って思ったんだよね。
ドキドキしながら、2時間を待った。二人はまた、海に泳ぎに行ってた。
菜摘と蘭が戻ってきて、3人でのんびりしていると、
「お待たせ」
って、バイトの人がやってきた。
見てみると、3人いた。朝、更衣室を借りに行った時にいた人も一緒だった。
「あれ?3人なの?」
私と蘭、菜摘を見て、ひじり君がそう言った。
「え?お前3人いたの気づかないでいたの?」
オレンジのTシャツを着た人が、そう言った。
「あ、ごめん、全然…」
私だ。私の存在にまったく気づいていなかったんだ。
ガク…。思いきり落ち込んでしまった。
シートの横に3人は座って、
「自己紹介をします!」
と、突然オレンジのTシャツの人が、手を挙げた。
「え~~、俺、植田基樹っていいます。植える田んぼ。基地の基っていう字に樹液の樹」
「何?その漢字の説明。へたくそ」
「うっせえよ。じゃ、次はお前な」
「俺は榎本聖。木ヘンに夏って書いて、ブックの本で、榎本。ひじりは、聖なる夜の聖ってかきま~~す」
ああ、やっぱり聖って一文字で、ひじりって読むんだ。
「ちなみに、聖なる夜生まれです!」
「聖なる夜?」
蘭が聞いた。
「そ、クリスマスイブなんだ。誕生日」
「え~。すごいね」
菜摘がそう言った。
「かわいそうだと思わね?誕生日プレゼントと、クリスマスが一緒なんだぜ」
「そうだよね~~」
基樹君と、蘭がそう言った。
「う~~ん、でもうちの家族、必ず二つずつくれるよ。プレゼント」
と、聖君が言うと、
「え?!まじ?うちなんて、もう、クリスマスも誕生日もプレゼントないよ」
って、基樹君が言った。
「あはは。基樹の方がかわいそうじゃん!」
蘭が、いきなり呼び捨てになってた。
「俺は、杉本葉一。杉って木の杉。ブックの本。ようは、葉っぱのよう。それから漢数字の一」
「基樹君と、聖君と、葉一君。よろしくね。私は、萩原菜摘。草冠に秋で、萩。原っぱの原。菜の花の菜に、摘むってかいて、菜摘」
「へ~~。可愛い名前だね」
聖君が言った。
「私は、橘川蘭。橘川はね、木ヘンのきつっていう字。わかんなかったら、辞書でもひいて。それに三本川の川。蘭は花の蘭と同じ字」
「あはは…。何そのアバウトな説明~~。おもしれ~~!」
聖君が大笑いをした。
そして、みんなで私を見た。あ、私の番だ。
「椎野桃子です。椎っていう字に、野原の野。桃子は桃に子供の子」
ああ、なんか説明になってない。また、聖君に笑われるかな?
「しいって、どんな字だっけ?」
葉一君に聞かれて、自分の手に書いて説明をしていると、
「俺ら、高2なんだけど、蘭ちゃんたちは何年生なの?」
って、聖君は、蘭に聞いていた。
そこでも、ちょっとショックだった。私の名前なんて、あまり興味ないのかな。だって、明らかに二人が名前を言った時と、リアクションが違ってるもの。
「私らは、高1だよ」
と、蘭が答えた。
「え?まじで?大人っぽくない?タメかって思った」
聖君は、そう言った。
それから、聖君は、蘭とたくさん話をし出した。なんか、意気投合しているようにも見えて、私はますます落ち込んでしまった。
「あ、ビーチボールあるじゃん。ビーチバレーやらねえ?」
基樹君が、提案した。
「ああ、いいね。2対2に別れて」
と、聖君は言った。
「じゃ、みんなで交代でやる?」
菜摘がそう言うから、
「私はいい。ここにいるよ」
と断った。
「俺もパス。なんか疲れたから、ゆっくりしてたい」
葉一君も、断った。
「じゃ、ちょうど4人でいいじゃん」
聖君はそう言うと、ビーチボールを基樹君から取り、ふざけながら、広い場所にと移動した。
「ごめん、桃子!」
菜摘が、少し申し訳なさそうに言った。
基樹君と蘭は、ふざけあいながら、聖君のあとを追っかけていった。
「……」
私は、また落ち込んだ。もう、地球の裏側に行っちゃうんじゃないかな。
「もしかして、あんまり日に焼けるの得意じゃない方?」
葉一君が、聞いてきた。
「あ、うん。肌弱くて…」
「色白いもんね。赤くなっちゃうんじゃない?気をつけないと」
「うん。ありがとう。でも、パーカー着てるし、平気だと思う」
「海、苦手なんじゃないの?」
「え?…うん」
「じゃ、なんで来たの?」
わあ。ストレートに聞いてくるんだな。葉一君は…。
「えっと…。でも、海を見てるのは好きだし…。本、読んだりするのも、好きだし…」
「本読みに来たんだ」
「……」
私は黙ってしまった。葉一君もしばらく黙ってたけど、
「あ、悪い。俺そろそろあがる時間だ。俺、早番だったんだよね」
と言って、海の家の方に、行ってしまった。
「は~~」
男の人と話すのは、緊張するからほっとした。
私は、一人で海を眺め、それから、遠くの方で、ビーチボールを楽しんでる4人を見た。すごく楽しそうだった。遠いけど、聖君の笑顔ははっきりと見える。
ああ、素敵な笑顔だな。でも、あの笑顔、私には今日、向けられてないや…。
だけど、落ち込みまくったから、これ以上落ち込まないってところまで、きたようだ。
「あの笑顔が、見れただけでもいいかな。もし、みんなで仲良くなれたら、また、会えるかもしれないし…」
開き直っていた。もともと、告白する気もないし、彼女になろうなんて、夢のまた夢だって思ってたし。好きな人ができた。それだけでも、私には、すごいことだったから。
しばらくすると、4人は戻ってきた。
「じゃ、仕事戻るよ。また、江ノ島遊びに来る?」
基樹君が聞いてきた。蘭が、
「う~~ん、来たいけど…」
と、私の方をちらっと見た。
「あ、じゃ、帰る前に海の家に寄ってって。メアド交換しとこうよ」
基樹君が、蘭にそう言った。
「うん。いいよ!」
蘭が、基樹君にそう答えた。
「あっち~~~~~~!」
聖君は、そう言って、さっさと海の家の方に向かって行ってしまった。
夕方になり、私たちはまた着替えに海の家に行き、そのあと、基樹君と、聖君のところに行った。
「じゃ、赤外線通信で…」
みんなで携帯を出した。私は、ぼ~~ってそれを眺めていると、
「何やってんの?桃子の携帯も出して!」
と、蘭に言われた。
「え?うん」
私のメアドなんて教えても、誰もメールよこさないだろうにな…。そんなことを考えながら、携帯を出した。
だけど、メールが来なくても、聖君のメアドを知れたのは、すごいことかもしれない。
「じゃ、今度会う日を決めようよ。あとで、メールすっから」
基樹君が、そう言った。
「あ、花火大会あるじゃん。もうすぐ」
と、聖君が言った。
「花火大会、来たい!」
菜摘が、喜んだ。それから、
「ね?桃子。浴衣とか着てさ、来たいよね?」
と、私にふってきた。
「え?うん…」
「浴衣?すっげえ」
聖君が、そう言って、
「じゃ、花火大会、決まりね!」
と笑った。
そうか。浴衣か…。
また、会えるのも嬉しかったし、聖君が、浴衣で反応したから、絶対浴衣を着てこようって、私は思っていた。