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明智君という名の犬と見習い怪盗小娘と自惚れ初老新米怪盗の私  作者: バスバスキヨキヨ


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無期限でフランスに滞在できるだけのお金は、私には残されていないかもしれない

「皆さま、落ち着いて聞いてください。我がフランスで戒厳令が敷かれました。繰り返します。たった今、我がフランスで戒厳令が敷かれました。原因は、なんと、フランスで反社会活動をしている全てのギャング団が一斉に抗争を始めたことによるそうです。どことどこのギャング団とかではなく、言うなれば無差別の抗争です。フランスギャング団の戦国時代と言って差し支えないでしょう。事態は深刻で、陸海空の全軍隊が鎮静化に当たりますが、今のところは全く目処が立ってないそうです。国民だけでなく観光客の方も騒動に巻き込まれないように、許可がない限りは外出しないようにしてください。詳しくは、情報が入り次第順次報道していきます。戒厳令が……」

 う、嘘だろ……。あのバカ警備員、一体どんな果たし状を、それもこんな短時間で全てのギャング団に……。ものすごい文才と機動力の持ち主かもしれない。機会があれば我々怪盗団に……いや、お調子者の根性なしだからスカウトはやめておこう。そんな事よりも、戒厳令だ。収まるまでは出国できないかもしれない。まあいいか。警察だって、こんな時に美術館の騒動を捜査なんてしない。いや、美術館での騒動はなかったことにするだろう。どうせ美術館の正門近くでだべっていただけだもんな。

 でも、せっかく自由の身を保証されたというのに、ホテルに軟禁状態とは。と嘆くようなネガティブ人間ではない。観光はできないかもしれないが、ここフランスはグルメの国でもある。本場の料理を堪能するだけでもフランスに来たかいがあるというものだ。幸い、寝る前に食べたこのホテルの料理はとにかく美味しかった。

 ロビーに飾ってあったこれみよがしに飾ってあった大きな星は本物だったようだ。落書きしなくて良かった。明智君も鼻で笑うだけで、暴力を振るわなかったし。明智君が暴力を振るっていたなら、あのハリボテの星が欠けていただろう。そうなったら、きっと料理長はキレまくって、警察に捕まるほどにホテルで暴れまわっていたかもしれない。……。そう言えば、暴力は振るわなかったが、私があの大きな星を通り過ぎた後で、大爆音のくしゃみの音がした。私はその勢いでエレベーターまで飛ばされ、それから星を確認していない。鼻で笑うから、釣られてくしゃみが出たのだろう。どうせならおもいっきり笑えば、せいぜいツバが飛んだだけだったのに。

 星が壊れたかどうかは、まだ分からない。例え星が壊れていても、犯人が特定されていないように祈ろう。先手を打って、ラブラドール明智君に白と黒のマジックで落書きしておこうか。誰がどう見ても大きな三毛猫だと思うだろう。阿部君に説得してもらえば、明智君は二つ返事だからな。

 よし、戒厳令が解かれるまでは、このホテルでフランス料理を堪能すると決まった。後の問題は、お金だけだ。私は所持金を念入りに100回確かめた。……。うん、明智君に借りよう。もしくは、阿部君に。最悪、二人ともに。

「阿部君明智君、相談が……」

「そうですねー。どうせすぐにフランスを出られないのなら、ギャング団からお宝を奪いましょうか?」「ワンワーオー!」

 えっ! な、何を言ってるんだ。危険が多すぎる。ギャング団のアジトに侵入をして、そこの団員だけを相手にするなら、我々怪盗団なら奇跡を起こせるだろう。だけど、フランス中のギャング団が無差別に争いを開始した今となっては、あるギャング団のアジトでのミッション中に別のギャング団が襲撃に来るかもしれない。上手く行けば、漁夫の利があるだろう。だけど、私たちがどちらかの仲間もしくはまた別のギャング団だと勘違いされる可能性の方が断然高い。我々は単なる通りすがりの怪盗団だと言ったからって、ああそうですかと言って見逃してくれるはずがない。話すら聞いてくれないだろう。有無を言わさず、バンッだ。やらなければ、自分がやられるからな。

 ここは、是が非でも思いとどまらせるぞ。

「だめだっ!」

「えー。リーダー、ビビってるんですかー」「オンッワンワワンー」

「ああ」

 私は……阿部君と明智君とトラゾウの無惨な姿を想像してしまった。おそらく私も無惨な状態だろう。阿部君パパママに事情を説明する辛さに比べたら、私もみんなとともにあの世に行く方が気分的には楽なのだろうな。トラゾウを故郷に送れなかった後悔を一生引きずるのも生地獄だろうし。何より、明智君のいない人生なら……。

「だったら、私と明智君とトラゾウだけで……」

「絶対にだめだっ! そして、この話は終わりだ」

「わ、分かりましたよ。何もそんな恐い顔をして怒らなくても……」「……」「……」

 なんか今さらお金を貸してと言えなくなったな。うーん、とりあえずホテルの責任者に相談してみるか。宿泊代だけなら……何日缶詰めになるか分からないが、足りるような足りないような。平身低頭で「イエス」と言うまで動かなければ、非常事態だというのもあって追い出すようなことはしないだろう。スイートルームだろうが関係ない。非常事態の名のもとに居座ってやる。それでも力づくで追い出しそうな雰囲気を出したなら、その時は、阿部君と明智君とトラゾウをけしかけるか。本当はそんな無法者のような真似はしたくないが、追い出されるとなったら、阿部君は自主的に、明智君とトラゾウは阿部君の命令で進んでやってくれる。ホテル側が例え警察を呼んだところで、ギャング団の制圧のためにそれどころではないのだ。

 でもまあ、追い出すことはないに決まっている。この状況で、そんな非人道的なことをしたなら、このホテルは未来永劫語り継がれるからな。もちろん悪くだ。未来永劫と言っても、そんなホテルが潰れるのは時間の問題だけど。

 避難場所は確保できたが、問題は食の方だな。さすがにタダで提供してくれとは言えないな。あんなに美味しくて高そうな料理を。ダメ元で交渉してみるか。料理長の機嫌が良ければタダに、機嫌が悪くても9割引きにしてくれるような口八丁手八丁を発揮してやる。とりあえずは、私一人で行こう。わがまま娘とバカ犬と猛獣は、あまりに劇薬すぎるからな。交渉相手がいなくなってしまう。

 私は自分で自分を鼓舞しながら、料理長に会いにいった。「私ならできる」とずっと呟きながらだったので、全くのノープランだ。

「こここ、こんにちは。料理長さん、ほんの些細なお願いが……」

「ああ?」

 えっ! まだ何も言ってないのに、どうしてそんなに横柄な対応ができるんだ? まがりなりにもスイートルームのお客様だぞ。知らないのだろうけど。それでもだ。普通の大人として当たり前の事ができない奴相手に交渉なんて難しいかもしれない。と諦める私でないのは、そろそろ巷で有名かもな。そう、そんな非常識な奴には、こちらも非常識で臨むだけだ。簡単に言えば、私の部下たちを……。だめだ。料理長が謎の失踪をしてしまっては、本末転倒になってしまうんだった。

 私の凶暴な部下たちの出番は、この料理長が「イエス」と言う素振りが全くないと判明した時にしよう。それまでは不撓不屈の精神で頑張るか。「私ならできる」と……言っている暇はないようだ。そんな暇があるなら、敵情視察をしよう。

 料理長が横柄だと言ったのは、ほんの少し言葉足らずというか意味が違ったかもしれない。明らかに不機嫌さんだ。戒厳令と関係があるのだろうか。一生に一回あるかないかの戒厳令でそこまで機嫌が悪くなるはずないか。どちらかと言えば不安になるだけだ。この料理長が不機嫌なのは、もともとそういう人なのだ、うん。そして、そういう奴を組み伏せるのは案外簡単なのが世の常らしい。私の警察官時代の膨大な経験からも、警棒と拳銃と謎の凶器を見せれば、大体は大人しくなってくれた。ほんの一部のバカだけが、謎の凶器に興味津々で普通に仲良くなったので、結果として私は平和に貢献したのだ。

 よし、手は決まった。料理長がビビって逃げ惑わない程度にビビらせて、まずは先手を取る。すぐさま相手の気持ちに寄り添ってやるか。「お前がそうなったのは、お前のせいではない」とか言ってやれば、余裕で懐柔できるだろう。最後に「私はお前の仲間だぞ」でイチコロだな。これで、フランスにいる間は、美味しくて豪華なフランス料理が食べ放題だな。ヒヒッ。

 まずはビビらせるために、警棒と拳銃と謎の凶器……がない。私は丸腰で料理長の目を見……ることはできなかった。無意識に目線が下に行くと、料理長の両手が包帯のようなものでグルグル巻きだ。まさか、私を殴っても大事な手をケガしないために、バンテージを巻いていたのか。そ、そんな時間はなかったはず。私が挨拶してからいろいろ黙考していたが、実際にはそんな時間は経っていない。ということは、私が来る前にはバンテージを巻いていた。誰でもいいから殴るために巻いていたのか。なんてイカれた奴なんだ。いや、そんなわけないか。いくらなんでも、そんな奴がこんな素晴らしいホテルの料理長を務められるはずがないからな。まさか、表の顔がホテルの料理長で、裏の顔がイカれた暴力愛好家なのだろうか。いやいや、職場で裏の顔を見せるなんて、表も裏もあったものではないか。

 あるわけがないのに、なぜかあると思った警棒と拳銃と謎の凶器がなかったところに、グルグル巻きの包帯を見て先走ってしまったようだ。あれは、単なる包帯じゃないか。それで、料理長の機嫌が悪いのも説明できる。両手が使えないのでは、仕事ができないからな。ということは、私は……私たちは食べるものがないということに。チッ。私をビビらせたあげくに役に立たないとは。いや、待てよ。これはチャンスじゃないか。タダ飯を得るための。ヒヒヒヒヒ。

 まずは、同情してやるか。すぐさま寄り添ってあげて、協力を申し出れば、美味しくて豪華なフランス料理とはいかなくても、そこそこのフランス家庭料理なら。食材があれば、料理長の指導のもとに、簡単な料理なら私でもできるからな。

「料理長、ど、どうしたんですか、その手?」

「ああ、これか。教えてやる。ロビーに飾られている私の勲章の大きな星が、何者かに木っ端微塵に破壊されたんだ。私は頭が真っ白になってしまい、無意識にいろいろな物に八つ当たりしていたらしい。全く記憶がないがな。気づけば、このザマだったんだ」

「そ、そうですか……」

 明智君のくしゃみが原因だ。ロビーだから防犯カメラで撮られているだろう。もちろん私だって。でも、何も言ってこないなあ。あの時はお面は付けていなかったのだから、ごまかしようがないぞ。私の方から言うのを待っているのだろうか。とりあえず謝ろうか。いや、認めたらだめだ。タダなんてもってのほかで、お金を払っても食材を提供してくれなくなってしまう。しらばっくれてやる。少なくとも決定的な証拠を突きつけられ、あの手この手で白状するように説得もされたあげく、最後は同情するように寄り添われるまでは。

「警察を呼んだのに、戒厳令とかで忙しいから無理って言われて。そっちで勝手に対処してねー、という捜査拒否を堂々と表明しやがって」

「警察を?」

「ああ。だって木っ端微塵なんだから、爆弾か何かで破壊されたに決まってるじゃないか。戒厳令の騒動にかこつけて、私の星を妬んだ奴の仕業に違いない」

「ば、爆弾?」

 明智君のくしゃみが原因ではないのだろうか。それとも明智君のくしゃみは、それほどの威力が。あの星の材料がさほど硬いものではないのなら、犯人は明智君だと断言できる。ちょっと硬めの木材までなら、犯人は明智君だ。だけど、黙っておくのが、みんなの幸せだな。

「ああ。それも、たまたま横をワンちゃんが歩いてる時にだぞ。そのワンちゃんと後ろにいたワンちゃんは驚いて固まっていたが、その前を歩いていたバカ面の初老の日本人は……うん、あれって、お前じゃないのか? ビビったのか爆発の勢いで飛ばされたのか、エレベーターまで瞬間移動したのは」

 うーん、認めた方が、私も被害者の仲間に入れてくれるかもしれないぞ。そうなれば、確実に料理をゲットだ。きっと大丈夫だ。こいつは、明智君が犯人だなんて露ほども疑っていない。

「多分そうです。記憶が定かではないんですけど、何らかの見えない力に突き飛ばされたような気がするんです。音もすごかったし。言われてみれば、爆弾だったような」

「そうか。あのワンちゃんたちは大したものだな。それなのにお前は……ヒヒッ」

 急に態度が軟化してきたのは嬉しいが、なんで私をバカにするんだ。お前の中では、私は少なくとも被害者なんだぞ。背に腹は代えられないから我慢するがな。そして、もうくだらない交渉はしない。単刀直入でお願いしても、こいつは聞き入れてくれるはず。でないと、私の大したワンちゃんを呼んでくると言って脅してやる。とりあえず、ひ弱な感じで悲壮感を出しながらお願いしてみるか。

「あのー、お願いがありまして。食材を……ゴホンゴホン……無償で提供してもらえませんか? ついでに料理も教えてください」

 言ってやったぞ。さあ、どう出る、料理長よ。二つ返事なら言うことなし。理由を聞くのは、ぎりぎり及第点だ。同情を誘う嘘八百を並べ立てる準備はできている。準備だけだから、内容はこれから考えないといけないがな。だから、お願いだ、二つ返事をしておくれ。私は、戒厳令と爆風に巻き込まれた被害者なんだから。戒厳令も爆風も、我々怪盗団の仲間が原因だけどな。ヒヒッ。

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