表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明智君という名の犬と見習い怪盗小娘と自惚れ初老新米怪盗の私  作者: バスバスキヨキヨ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

82/84

我々怪盗団は無事にフランスを発てるのだろうか

 私は、酔っ払った阿部君を甘く見ていた。どんなに最悪を想定しても、絶対的な失敗を犯した明智君に説教が集中するのは覆しようがなかったし。なので、奇跡のドッグフードを大量にゲットして説教のことなんて全く忘れていた明智君とそもそも阿部君の説教を知らないトラゾウと私は、ご機嫌さんでホテルに帰ってきた。

 阿部君はすでにできあがっていた。少し和ます感じで例えるなら、スーパー阿部君になっていた。しかし阿部君は和まない。実際に言ったわけではないし、言う根性が私にはなかったのだ。この時は、下手に何かを言ってとばっちりを食らうは避けたかったから。でもまさか否応なしに明智君の道連れとなるとは。トラゾウまでもが。

 明智君とトラゾウと私を、阿部君は無言で目だけを使いローテーブルの前に座らせた。言うまでもなく正座だ。かわいそうなことにトラゾウも。理不尽を嘆くよりも、3人の誰もが仲間外れにならなかったと、良い方に捉えるか。一番罪深い明智君はすっかり忘れていただろうけど、私は心のどこかでこうなると覚悟はできていたし。可能性としては、贔屓目に見ても1パーセントだったが。

 私だけでも許してくれよと無言で訴える私の視線に気づかず、阿部君の説教は始まった。いや、気づいていながら、阿部君は私を特別扱いしなかったのだ。当たり前か。阿部君だもんな。明智君とトラゾウに密告しなかっただけでも良しとしておいてあげよう。優しいな、阿部君は。と、心の中でおだてても変わらなかった。

 しかし、説教のネタが明智君以外にあるのだろうか。あったのだ。濡れ衣だろうが言いがかりだろうが、阿部君次第だったな。悩むだけ無駄だし、そんな時間もない。もう説教がはじまるのだ。はあー……。

「明智君、どうして私が立てた完璧な作戦を忠実に実行しなかったの?」

「ワッオー……」

「ああっ?」

「ワオンワオ」

「次、リーダー」

「はい」

「リーダーのあのふざけたお面、怪盗をなめてる?」

「あ、あれは……」

「ああっ?」

 日本で付けていたお面とさほど変わらないし、今回に限っては阿部君のもバカ丸出しだったぞ。と口答えしようものなら、私は生きて日本に帰れないかもしれない。せめてもの抵抗で元気よく謝ってやるか。阿部君はびっくりするぞ。ヒヒッ。

「ごめんなさいっ!」

 私の大声の謝罪に、阿部君は……ご満悦だ。驚かなかったのは癪だけど、喜んでくれたなら、それはそれで良いかもしれない。私だけは優しく説教されますように。明智君トラゾウ、真似るなよ。私のアドバンテージがなくなってしまう。

「次、トラゾウ」

「ガオ」

「ちょっとかわいいからって、いい気になってない?」

「ガッ?」

「確かにかわいいけど、私の次だからね」

「ガオ」

 トラゾウ、トラゾウの方が断然かわいいぞ。特に、心が。トラゾウの爪の垢を煎じて、なんとか阿部君に飲ませたいものだな。

「次、リーダー」

「えっ!」

 順番的には明智君じゃないのか。酔っ払っているからかもしれないが、まだ2週目だぞ。先が思いやられる。

「んんっ?」

「あっ、はい」

「リーダーのあのふざけたお面、怪盗をなめてる?」

「ご、ごめん」

「おいおいおい。元気がないぞー。いつものリーダーの謝り方と違うー!」

 あっ……そんな事は覚えているのか。まいったなあ。ささやかでくだらない抵抗なんてするんじゃなかった、と思っても遅いな。はあー。

「ごめんなさいっ!」

「ヒヒッ。次、明智君」

 同じ内容の説教が幾度となく繰り返され、私と明智君とトラゾウの呼び名が「お前」「あけち」「とらっ」になってすぐに、阿部君は気づいた。と同時に我々被害者も気づく。なんと、ローテーブルの上には美味しそうなフランス料理が所狭しと並べられている。いや、ローテーブルだけではない。部屋にいたる所に、料理を乗せたままの配膳カートが数え切れないくらいに置かれていた。

 といっても、説教中にホテルのボーイが持ってきてはいない。さすがに気づいたはず。それに、説教中に来ていたとしたら、ボーイも説教の対象になっていたに違いないのだ。阿部君が着ているセンスの悪いヒョウ柄のワンピースを褒めなかったとかで。

 料理は説教が始まる前にすでに用意されていたのだ。酔っ払った阿部君に目が行き気づかなかっただけなのだろう。ちなみに、阿部君は酔っ払って忘れていただけだ。全く手を付けていないことからも、阿部君は私と明智君とトラゾウが帰ってくるのを食べずに待ってくれていた。料理は。ワインなら別にいいだろと、飲んでしまったのが、このざまだな。冷めても美味しそうだし、文句を言えるような恐いもの知らずはここにはいない。

 阿部君は料理を睨みながら迷っていた。ずっと目の前にありながら、気づかなかったというか忘れていたのを、誰の責任にするかをだろう。だけど、それは単なる責任転嫁にしかならないと、酔っぱらいなりには理解している。

 おっ、阿部君が空を見つめた。都合の悪い事を忘れるつもりだな。うん、それが正解だ。阿部君、いいぞ。誰も責めないし、私たちのお腹は準備万端だ。

「よーし、何のお祝いか分からないけど、食べるぞー!」

「イエーイ!」「ワオーン!」「ガオーン!」

 確かに、何のお祝いなのだろうか。絵を無事に返した事は、返しただけで何の報酬もない。今回の戦利品は、人間用と犬用の呪いの甲冑だけだ。うーん……食べよう。

 とはいえ、私と明智君とトラゾウは痺れた足をほぐさなければならない。そして、3人の中で体への負担が一番少なかった人間の私が最初に動けるようになった。二人を置き去りにして料理を食べ……ない。後が恐いからとかではない。優しいだけだ。なので、まだ寝そべっている明智君とトラゾウの足をマッサージしてあげ、手にはナイフとフォークをマジックテープを使って付けてあげた。

 言うまでもないことだけど、この時点で阿部君は何皿かを食べ終わっていた。阿部君がえらいのは、空いたお皿を片付け配膳カートから料理を自ら持ってくることだ。私はいちいち褒めないが。嫌味に捉えられかねないからな。

 阿部君に遅れること30分、私と明智君とトラゾウも感動のフランス料理を堪能し始めた。美味しい。阿部君の説教によって蓄積された心と体のダメージが即座に癒やされる。悪魔に豹変していた阿部君ですら、優しく明智君とトラゾウに話しかけているし。なぜか私を料理運搬係に仰々しく任命したが。もちろん私は怒って暴れまわる……わけもなく、文句一つ言わず芝居がかってその栄誉ある役目を厳かに賜った。

 料理運搬係をしながら食べていた私が、手伝いもせずに食べ続けていた3人よりも早く満腹になるとは。さらに眠気まで襲ってくる。それでも料理運搬係を全うする責任感の塊の私は、立ち続けた。早く満腹になって早く眠りやがれと、心に思いながらも一切口に出さずに。呟くことも口真似だけでもしなかった。

 私が早く眠りたいのは、なにも眠いからだけではない。少しでも早く寝て少しでも早く起きて、少しでも早くフランスを発ちたいのだ。警察が踏み込んでくる可能性がなくもないから。武器を持った大勢の屈強な警察官に寝込みを襲われたなら、さすがの私でも逃げおおせるかどうかは半信半疑だ。一つ言えるのは、自分のことで精一杯なので、大食いトリオを援護している暇はない。うん? それはそれで、ありかも。お前たちのような『わがままーズ』とは永遠におさらばだ、という気持ちはおくびにも出さず私は笑顔で給仕を続けていた。そして、いつしか記憶が事切れた。

 気づけば私はソファの上で目が覚めた。明智君とトラゾウが掛け布団となっている。警察が逮捕に来なかったことを、まず安堵だ。それでも時間の問題かもしれないので早く出発したいところだな。だけど、なぜか疲労困憊だ。なぜかではないか。何気に動き回っていたし、悪魔による恐怖の説教の後に、理不尽な立ち仕事まであったのだからな。

 今、何時なんだ? ああー、チェックアウトの時間が過ぎている。仕方がない。延泊だ。せめて内線電話で言っておかないとな。いや、なんか、それすら面倒くさい。後で現金片手に謝りながら言えばいいだろう。今日の先約があるなら、とっくに起こしに来てるはずだし。よし、もう一眠りするぞー。警察、来るなら、来い。私だけは逃げてやる。

 と思ってすぐに、ドアが無造作に開けられる音がした。なにー! ホテルの人がチェックアウトを告げに来たのなら、まずノックをするはずだ。ほ、本当に警察が来たのか。まずいまずいまずい。に、逃げないと。阿部君明智君トラゾウ、さよならー。と言いたいところだけど、ここは最上階のスイートルーム。逃げるためには、ドアから強行突破しかない。

 常に冷静沈着な私は、警察の意表を突くために、寝ているふりをしながら薄めで部屋のドアに目を向けた。ドアは開いてないし、ドア付近に警察はおろか誰もいない。どういうことなのだろうか。ああ、空耳だったのだな。ほんのちょっとだけビビっていたのが誘発させたのだろう。

「リーダー、いつまで寝てるんですか。明智君もトラゾウも。警察が来る前に出発しますよー!」

 なるほど。聞こえたのは、部屋のドアではなく部屋の中のドアの音だったようだな。「警察くらいでビビってるんじゃねえ、この根性なしが」と言いたいところをグッと堪え、テレビをつけるように頼んだ。ちなみに、掛け布団は熟睡中だ。阿部君は罵詈雑言を吐きながらも、テレビをつけてくれた。

「どうだい?」

「このドラマ面白そうですよ」

「……。ニュースチャンネルを観たいなー」

 阿部君は無言でノールックでテレビのリモコンを私に向かって投げた。なかなかの速さで。普段の私だったら難なく避けられただろう。しかし、私は疲れている。観念して目をつぶり体に力を入れるのが精一杯だった。このスイートルームに救急箱があるようにも祈っておくか。

「ギャン!」

 ラブラドールレトリバー型掛け布団が身を挺して私を守ってくれた。私が意図的に盾に使ったわけではない。そんな事をしようものなら……だからな。ただ、基本的に明智君の寝起きは機嫌が悪い。まして、このような起こされ方だ。結局、救急箱の力を借りないといけないようだな。いや、明智君は何が起こったか分からないはず。私はすかさずリモコンを隠したし。夢の中で悪さをした結果、謎の紳士に成敗されていたなら……例えそれでも、私に八つ当たりするか。

 儚い希望を持ちながら、私は狸寝入りをしてみた。虚しくボディに鈍痛が走る。しかし、いつもの半分くらいの痛さだった。なんと、明智君は手加減をしれくれたのだ。理由は簡単だ。美術館から救出してくれたことではない。阿部君の説教で明智君も疲れていたわけでもない。フランスでしか買えない奇跡のドッグフードの『フランス万歳』と『凱旋門の夢』を、私が買ってあげたからだ。なのに、私にボディーブローをするなんて、なんて酷い恩知らずでバカなエセラブラドールなんだと非難しないでやってほしい。今さら説明不要だろうけど、これが明智君だ。私は、そんな明智君を愛してるのだ。

 明智君の二度寝を確認すると、私は肋の痛みに耐えながら、リモコンでテレビのチャンネルをニュースに変えた。ちなみに、一連の騒動中、トラゾウ型掛け布団はピクリともしなかった。トラゾウ、そんなんで野生で生きて行けるのか? 私がそばにいるから安心しきっているということにしておくか。まずは、目の前の心配事を解決しないとな。

 テレビのニュースでは、ちょうど美術館での騒ぎを報道していた。時間的には現場の映像は録画だ。やはりそれだけの大きな出来事だったのだ。ただ、キャスターはさほど深刻そうに話していない。むしろ、笑うのを堪えて……いや、笑っている。なになに?

「フランスに奇跡が舞い降りました。数年前に日本で強奪された名画が、なんと、美術館に返還されたのです。奇跡の使者は、かわいいバカ面のゴールデンレトリバーでした。これはフェイクニュースではありません。いつしか、このゴールデンレトリバーは消えてましたので、本当の天使だったのかもしれませんね。バカ面の天使がいても何の不思議ではありませんよ。かわいかったのは事実ですし。ちなみに、これが撮影されたかわいいバカ面のゴールデンレトリバーです。ヒヒヒヒヒハハハハハハハァー……。失礼しました。そして、その後に、新たな出入り口が開けられ不思議な銅像が残されていました。ハハハハハハハハヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒィー……。再び失礼しました。この名画の真贋をきっちりと鑑定した後に、晴れて美術館でお披露目となります。それと、この不思議な銅像は、一見ふざけた覆面が被されてますが、取ってみると素晴らしい芸術作品らしいのです。だけど、作者の意図と捉えましてふざけた覆面を被った状態で展示されるそうです。その際には、名画を鑑賞ついでに、みなさまも……。えっ! ここで緊急速報です……」

 ふうー、一安心だな。とりあえずは、私たちが指名手配されたとは言ってなかった。呪いの甲冑が約2組無くなった事や、警備員が精神的に追い込まれた事は報道されてないし、私たちが無罪放免なのはほぼ間違いないだろう。それでも念の為に今日一日ホテルでのんびり過ごしたら、観光なんてせずにフランスを発とう。

 でも、緊急速報って何だ? まさか、警備員が逆ギレをして、私の顔写真をテレビ局に持ち込んだのだろうか。あれだけビビらせたのだから、それはないと思うが。確認しておくか。

 いつしか起きて私と並んで座りながらニュース映像を観ている、バカ面ラブラドールと不思議な銅像の作者たちと、固唾を呑んでキャスターの次の言葉を待った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ