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明智君という名の犬と見習い怪盗小娘と自惚れ初老新米怪盗の私  作者: バスバスキヨキヨ


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奇跡のドッグフードは明智君の口に入るようになっている

 さあ、そろそろショッピングをしようか。いよいよだぞ、明智君。現物は、ドッグフードとキャットフードがあるが、トラゾウはドッグフードも食べるし、予算というものは無限ではないのだ。本当にトラゾウが我がアジトに遊びに来てくれたなら、豪華な手料理を作りたいしな。なので、ドッグフードだけを買おう。

 現物があるといっても、最高級フォアグラ100パーセントを白トリュフで優しく味付けした『フランス万歳』と幻のエスカルゴをオーガニックバターで調理した『凱旋門の夢』という、説明がなかったなら、人間用だと勘違いしてしまうような2種類のドッグフードがそれぞれ1袋ずつ置いてあるだけだ。倉庫かバックヤードには山積みになっているのだろう。ここでは気持ちよく商談すればいいのだから、これでいいのだろうけど、山積みになった商品を前にあれやこれやと話すのも楽しかったかもしれない。そう思うのは私のようなプチ成金だけだろうか。いや、明智君もそう思ってくれているはずだ。コンシェルジュがなんとなく悲しげになっているからな。

 でもまあ、この状況を最大限に楽しもう。最高に気持ちよく取引をしような、明智君。

「明智君、『フランス万歳』と『凱旋門の夢』のどちらにするんだい?」

 明智君が両方というくらいは知っているが、一応聞くのがマナーだからな。コンシェルジュを喜ばせたいだろうし。そして、大方の予想通り、明智君は迷わず短い指を2本立てた。コンシェルジュが感動する。

「明智君、何袋ずつだい?」

 明智君は「ワンワオ」と言った。「あるだけ」と言ったことくらいは、私には分かる。仲良しの私でなくとも、通りすがりの見ず知らずの赤の他人でも分かっただろう。なので、心が通じているコンシェルジュが分かるのは当たり前だ。それでも確認をするのがマナーだろう。そして、このコンシェルジュがマナー違反を犯すわけがない。

 常に冷静沈着だったコンシェルジュが、明智君を喜ばせるためだけに大げさに喜びを表しながら「あるだけですね、明智君様?」と確認した。

「ワンッ!」と明智君は、当たり前だろという感じを醸しだしながらも、コンシェルジュに笑顔を向けた。

 ただ、明智君の『あるだけ』は、どこにあるだけを意味しているのだろうか。ここには2個しかないから、少なくとも、このお店の倉庫にたくさん在庫があるのを見越してのものだろう。だけど、欲深い明智君のことだ。もしかしたら、フランス全土のペット用品店にあるだけを意味していても、私は驚かない。まずは、このお店の在庫を確認しよう。その数で明智君が納得してくれれれば言うことなしだからな。明智君、私と明智君の貯金を足しても、フランス全土で売られている『フランス万歳』と『凱旋門の夢』を買い占めるのは不可能だぞ。ちなみに、価格が書かれていないので、このお店にある在庫を買い占めるのもできるかどうかだ。

 私が、明智君に『妥協』という言葉を早く覚えてくれるように願っていると、コンシェルジュが悲しげに話しけてきた。私にというよりは、明智君に。

「実は、これらのドッグフードは、年に100袋ずつしか生産できないんです。吟味に吟味を重ねた素材を使うので、こればかりはどうしようもありません。そしてその100袋のほとんどの行き先は10年前から決まっています。なので、ご用意できるのは、ここにある1つずつの計2袋だけなんです」

 あ、明智君、そんな落ち込むんじゃない。なんとなく想像はできていただろ。2袋でも確保できたことを喜ぶんだ。来年度分を予約してあげるから。

「ちなみに、向こう100年分はすでに予約でいっぱいです」

 あ、明智君……。ああ、そうだ、明智君には悪徳政治家宅から提供してもらった『神が与えしA5ランク和牛入りドッグフード』があるじゃないか。それだけで十分……ではないと明智君の顔に油性マジックで書かれている。誰に書いてもらったのか分からないが、そこまでするのかい、明智君? 仕方がない。コンシェルジュに賄賂を渡して、顧客情報を……。このコンシェルジュが言うわけないな。火炙りにされても、本文を全うする素晴らしいコンシェルジュだからな。でも、まだコンシェルジュの話には続きがあるようだぞ。ただ謝るだけではありませんように。

「なんですけど、今年の分を購入していただいたある反社会勢力のお得意様から、先程連絡がありまして……。詳しくは存じないんですけど、急遽、多額のお金が必要になったから、買い取ってくれと」

 反社会勢力って、ギャング団のことだな。なんとなくだけど、原因は……。大方、謎の怪盗団の襲撃に備えて武器を購入するのだろう。ギャング団が予告状を真剣に捉え、なおかつ戦力を増強するとは。あの警備員が出した予告状の文言が気になる。それに、こんなに早くギャング団が動くなんて、仕事が早いじゃないか。私との約束を果たすために頑張ったのだろうけど、それでもなかなか優秀なところもあるじゃないか。ただのビビリではなかったようだな。

 私のせいでチビったことなんて、露ほども恨んでいないようだし。いや、もしかして、我々怪盗団がギャング団に返り討ちにあうのを期待しているのだろうか。ありえる。恨む気持ちは実力以上の才能を発揮させることが多々あるからな。ギャング団を本気にさせ、なおかつ万全を期させるために、感動的な果たし状を出したに違いない。あのヤロー……。逆恨みか。失敬失敬。

 まあ、どちらにせよ、私たちは腕試しのような愚かなことはしない。今となっては、気まぐれの阿部君が思い直してくれて本当に良かった。予告状も果たし状も出さないでこっそりと忍び込むなら勝算はあるだろうけど、フランスでなかなかの幅を利かせているギャング団が武器を増量して待ち構えているところに、わざわざ行くなんて、はっきり言って自殺行為だからな。

 だけど、そのおかげで奇跡のドッグフードを手に入れられるチャンスが来たのだ。あの根性なし陰険逆恨み野郎のバカ警備員には感謝しないとな。阿部君の口癖で「感謝は態度や言葉だけでは完全に伝わらない」とかなんとか言ってたような気がする。オムツだけでは感謝が伝わらないかもしれない。何かないかな。ああー、良いのがあるじゃないか。

 私が心を込めて作った芸術的で機能的で金銭価値が計り知れない紙製のお面が、ポケットの中でぐちゃぐちゃになっている。二度と見たくもないかもしれないが、手元に置いておくことで、教訓を忘れないでいられるだろう。『話す前に考える』を。うん、あいつのためになる。「大事にしてるか時々確認しに来るから」とお面に添え書きをしておけば、捨てるに捨てられない。呪いの仮面になるかお守りになるかは、あいつ次第だけど。部屋に飾っていたら常に嫌な気持ちになるかもしれないし、勇気をもらえるかもしれない。あいつの性格からして……ヒヒッ。

 あっ、私は陰険ではないぞ。ちょっとスパルタなのは否めないが、私は時には都合よく不器用になるのだ。あいつに強くなって欲しいと心から……いや、心からは思ってないか。まあ、一般論として警備員は身も心も強くなければならないからな。生きてる人間相手でも、いわゆる幽霊相手でも、果敢に立ち向かわなければならない。警備員を選んだ以上は数々の修羅場がよりどりみどりなのだ。

 私のお面のおかげで、何十年後かには、あいつはフランスにこの人ありと言われるようなスーパー警備員になっていることだろう。人間不信になって、自宅で引きこもっているかもしれないが。いや、私の呪いのお面があるから、それはないな。ということは、あいつの居場所がなくなるのか。なんかちょっとかわいそうになってきた。添え書きに「どうしても辛かったら日本においで」と付け加えておくか。逆恨みされないための社交辞令だと理解してくれよ。来たら来たで、甲冑を着せた阿部君と明智君に対応してもらうか。

 阿部君はいない可能性はあっても、少なくとも明智君は常に私のそばにいてくれるから。けしかければ、金銭を要求した後で、暇つぶしに明智君主導で遊んでくれるだろう。明智君、頼んだぞ。

 あのバカ警備員が万が一日本に来た時の状況を想定して、私は何気なく明智君を見た。うん? 明智君が私を見つめている。私の妄想が以心伝心で伝わり、快く承諾してくれたのだな。いや、違う。何かを訴えているようだ。明智君が目が潤ますほどだから、真剣だ。ああ、そうか。コンシェルジュに確実に伝わるように、人間の私が正確に意見を言わないといけないのだな。任せておきなさい、明智君。そしてコンシェルジュよ、わざわざ確認するなよ。

「全部ください」

「ワッオーン!」

「かしこまりました」

 私は、トラゾウの衣装代及びおもちゃ代、そして明智君のドッグフード代を、即金で払い尚且チップもはずんだ。想像していたよりは安かったので、明智君はぎりぎり自腹を免れる。しかし私の残りのお金は風前の灯となった。インドネシアでの豪遊は担保できない。インドネシアの物価が安くあるように必死で神様にお願いしておくか。その前に、もう一つ無駄遣いがあったな。

「すみませんが、この風呂敷包みも一緒に日本に送ってもらえますか? もちろん送料は払うので」

「かしこまりました。ですが、明智君様とトラゾウ様に出会えた記念に、すべての送料はサービスとさせてもらいますね」

「ワオンオン」「ガオンゴン」「サンキューベリーマッチ」

 明智君トラゾウ、そんな悲しい目で私を見ないでくれよ。……。きちんとお礼を言うか。

「ありがとうございます。お礼と言ってはなんですけど、私たちの秘密を教えさせていただきます。実は、明智君はラブラドールではなくゴールデンレトリバーで、トラゾウは本物のトラなんです」

「かしこまっております。私にとっては、すべての生き物が大事なお客さまなので、いつでもお待ちしております。と言うだけです」

「ワオンオン」「ガオンゴン」「ありがとう」

 私たちが再度フランスに足を踏み入れられるかどうかはさておき、さらに買い物をするかもさておき、こちらのコンシェルジュには再び会いに来ようと決心して、ペット用品店を後にした。明智君の天国はここまでだろう。ホテルに帰ると、酔っ払った阿部君が待っているのだ。私は高みの見物だ。かばったところで、犠牲者が増えるだけだ。トラゾウも無駄な努力はするんじゃないぞ。インドネシアの大草原で走れなくなる体になる危険があるからな。レッツゴートゥーザッホテルー! イエーイ! ヒヒッ。

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